第33話
嬉々とした笑い声を上げて右腕の兵輝を剣に変化させたヤマダは大きく一歩を踏み込んでセラとの間合いを一気に詰め、鋭い突きを放つが――容易にセラは半身になって回避。
同時に武輝である剣を薙ぎ払って反撃するが、セラの反撃に瞬時に反応したヤマダは咄嗟に飛び退いて回避して、彼女との間合いを取った。
しかし、回避されると同時に攻撃の手を中断したセラは一気にヤマダとの間合いを詰める。
素早く、流れるような動作でセラは上段に構えた武輝を勢いよく振り下ろし、舞うような動きで大きく身体を捻って薙ぎ払い、思い切り踏み込んで突きを放り、最後は逆手に持ち替えた武輝を軽く跳躍して勢いをつけて大きく振り上げた。
流麗なセラの連撃を受け、後ろのめりに倒れるヤマダだが、すぐに嬉々とした笑みを浮かべて立ち上がった。
アンプリファイアの力の影響を受けていても、相手を戦闘不能にする勢いで放った攻撃だというのに、分析的な目でねっとりと自分を見つめながら平然と笑っていられるヤマダからセラは不気味な気配を感じていた。
気圧されているセラに向かって再びヤマダは飛びかかり、今度は体術を織り交ぜた連撃を開始する。
荒々しい動きでありながらも、無駄のない実戦慣れした動きで次々とセラに攻撃を仕掛けるが――そのすべてをセラは見切り、回避する度にしっかり反撃を決めていた。
反撃で放ったセラの刺突が鳩尾にめり込んでヤマダは苦悶の表情を浮かべるが――すぐに得心したように頷き、大きく飛び退いて間合いを取った。
「なるほど、君に接近戦は無理のようだ――なら、やっぱりこれかな?」
間髪入れずに飛びかかってくるセラを分析的な目で眺めながらそう告げると同時に、彼女に向けて剣から元の右手に兵輝を変化させたヤマダは、右手をセラにかざして光弾を放つ。
迫る光弾を武輝で弾き飛ばし、大きく一歩を踏み込んでヤマダに向かって飛びかかるが――セラが光弾の対処をしている隙に、ヤマダは右手の兵輝をガトリングガンに変化させていた。
ガトリングガンが火を噴き、光弾が乱射される。
光弾の嵐の中でもセラはいっさい怯まずに回避し、武輝を振るって弾き飛ばしながら、徐々にヤマダに接近していたが――近づくにつれて勢いが増して激しくなる光弾の嵐に避けることも、武輝で防ぐこともできず、咄嗟に自身の周囲に輝石の力でバリアを張るが、そのバリアも嵐のような光弾を受けてすぐに破られそうになった。
バリアで防ぐことも無理だと早々に判断したセラは、後方に向けて大きく身を翻して一旦ヤマダとの間合いを取った。
その間もガトリングガンから光弾をセラに向けて乱射しているヤマダだが、宙を舞うような動きで回避、武輝で弾き飛ばして防ぎながら、セラも光を纏った武輝から複数の光弾を放つが、すぐにヤマダが乱射している光弾によってかき消されてしまう。
何度か後方に身を翻し、三叉路になっている廊下の突き当りまで向かうと、すぐさまセラは壁に身を隠して休むことなく乱射し続ける光弾の嵐をやり過ごした。
――厄介だ。あれじゃあ全然近寄れない。
光弾の嵐をかいくぐれず、まったく近寄れなくなって歯噛みしているセラの気持ちを察して、神経を逆撫でする耳障りな笑い声を上げるヤマダ、
「近距離から中距離主体の君ではさすがにこの攻撃の中では分が悪いようだね――なるほど、力の使い方に慣れたら後は流れに逆らうことなくそれに身を委ねて、相手に合わせた戦法を取るだけみたいだ。そうすれば、兵輝は持ち主の思い通りに動いてくれるみたいだ。力の調整をすれば、素人でも扱えるようになれるな」
兵輝の扱い方にだいぶ慣れてきたヤマダは、ウットリとした様子で自身に強大な力を与えてくれる兵輝である右腕を観察しながら客観的に分析していた。
そんな中、セラは武輝で壁を切って穴を開けて隣の部屋に向かい、さらにその部屋の壁も切って隣の部屋に向かい、ちょうどヤマダの立っている位置の背後にある部屋まで向かい、不意打ちを仕掛けようとするが――そんなセラの魂胆を読んでいたヤマダは、笑いながらセラのいる部屋に向けてガトリングガンを乱射する。
咄嗟に床に突っ伏して壁を貫通して襲いかかってくる光弾をやり過ごすセラ。
光弾の乱射が止まった瞬間穴だらけの扉が勢いよく吹き飛び、右手をガトリングガンから刀身に光を纏わせた剣に替えたヤマダは、床に突っ伏すセラに向けて光を纏った斬撃を放つ。
横に転がって斬撃を回避したセラは即座に立ち上がり、自分を煽るような愉快そうな笑みを浮かべているヤマダと向き合ったまま相手の出方を伺っていた。
持ち主の意のままに様々な形状に変化する『兵輝』――複数の武輝を扱うのに加え、何を考えているのかわからないヤマダの性格にセラは翻弄されつつあった。
「苦し紛れの不意打ちも無意味に終わったねぇ。――さあ次はどうするのかな? まだ一人で頑張るのかな? それとも誰かお友達を呼ぶのかな? さあ、さあ、次はどうするんだい?」
「そうか……その兵輝の力の実験がお前の、いや、北崎さんの目的だな」
まるで様々な戦い方を見せてくれと言っているようなヤマダの発言と、自分を分析的な目でねっとりと見つめてくる視線で彼が右腕の兵輝の性能を確かめるために戦っていると理解した。
自分と北崎の魂胆を読んだセラに、ヤマダは「その通りだよ」と称賛の拍手を送る。
「武尊君のおかげで実戦で使えるほどのレベルに達した『兵輝』だけど、まだまだデータが足りなくて完成レベルではないんだ。輝石を扱えない一般人の僕がアンプリファイアの力で無理矢理輝石を使っているのだから、きっと何かアフターリスクが存在しているだろうしね」
「それを理解しているのなら、どうして力を使うんだ。北崎さんに利用されているだけなのに」
「北崎さんも僕もそれも十分お互いに承知の上だよ。だけど、これは『未来』のためなんだ。そのための犠牲になれるなんて僕はとても光栄に思うよ」
北崎に利用されていることも、自分の扱っている兵輝が扱うには危険が伴うのを十分に理解していながらも別に構わないと言い放つヤマダを、不審そうにセラは見つめていた。
未来のためなら自分を犠牲にできるときれいごとを並べながらも、ヤマダからはきれいごとで隠しても隠し切れないほどの憎悪の念が溢れ出ていたからだ。
「年々輝石使いが増え続けている現状で、将来輝石を扱えない人間の方が珍しくなるに違いない。そんな彼らの自衛手段のための武器としてこの『兵輝』は必要なんだ。だからこそ、僕は未来のための犠牲になることは別に構わないよ」
「きれいごとを言うのはやめろ。下衆な本性が見えているお前にはそんな言葉は似合わない」
耳障りなヤマダの言葉を遮り、セラは本心を尋ねると――「それじゃあ、そうしようかな?」と軽い調子でヤマダは隠していた憎悪の念を一気に開放して笑いはじめた。
「君のような実力のある輝石使いと対等に立ち向かえるほどの力を持つ、大きな可能性を秘めているこの『兵輝』を僕はどんどん成長させたいんだ――僕の右腕を奪った君たち輝石使いを痛めつけるためにね」
「未来のためと言いながら結局は私怨のためか」
「だって、それなりに優秀な傭兵だったんだよ? 口にできないことは何でもやったし、厳しい仕事でも文句を言わないでこなして結構評判だったんだ。輝石使いがたくさん現れる前は結構お金も稼げたのに、輝石使いが現れたら僕たち輝石の扱えない一般人は用なし。そんな中でもそれなりに優秀だった僕は活躍していたけど、その活躍を問題視した輝石使いに右腕を切られてまともに仕事もできなくなっちゃったんだ。そんなことをされたなら、いくら温厚篤実な僕でも輝石使いを恨んじゃうよね?」
「好き勝手していたんだ。自業自得だ」
「そう言われると何も反論はできないんだけどさぁ……あー、やっぱり輝石使いは嫌いだよ。右腕を奪って僕に屈辱を味わわせた輝石使いは、全員滅べばいいんだよ」
自分をそれなりに優秀だと自賛するヤマダからはプライドの高さを感じられ、活躍していた自分を思い出して悦に浸っていたが、右腕が切り落とされた思い出も蘇って忌々しそうに顔を歪めた。
ヤマダにとって、輝石使いに右腕を切り落とされたことに激しい恨みと憎悪を抱いており、それらはすべての輝石使いに向けられていた。
全身から溢れ出す黒い感情に同調するように、兵輝から放たれる力も強くなった。
「この力があれば君たち小賢しい輝石使いを僕たち一般人の力だけでも倒せるようになれる。何て楽しい未来が待っているんだ♪ そのためにもセラさん、君はどんどん僕と戦って、実戦データを積ませてよ。そうすればもっと兵輝は強くなれるんだからね。まあ、君と戦わなくても『賢者の石』さえ手に入れば、さらに強くなれるかもしれないか。そう考えると君よりも七瀬君を狙った方が良かったかな? 賢者の石よりも、兵輝のデータ収集を北崎さんに頼まれたから詳しく調べていないけど、今度は彼の身体の隅々、中までしっかり調べれば確実に何かが出てくると思うんだよね」
「お前たちの魂胆に乗りたくはないが――幸太郎君には手は出させない」
狂喜を宿した笑みを浮かべるヤマダの口から幸太郎の名前が出た瞬間――セラの雰囲気が一変した。
輝石使いを圧倒するほどの力を得たことに狂喜しているヤマダの笑みが、静かな怒りと殺気をぶつけてくるセラに圧倒されて凍りつき、息を呑んだ。
しかし、すぐにやる気に漲っているセラを見て、貴重な実戦データを集められると思ったヤマダは嬉々とした表情を浮かべる。
「やる気満々だね! それなら、早くかかってきてよ。多くの武器を使い分ける兵輝にどう対応するのか、僕に見せてくれよ! そして、兵輝を成長させてくれよ」
「――何もお前だけじゃない。複数の武輝を使い分けている人は」
思い出すんだ――あの時の日々を。
そうだ――目の前にいる相手はあの人と同じだ。
静かな口調でヤマダに、そして自分に言い聞かせ、複数の武輝を使いこなしている相手への戸惑いを消すと同時にセラは軽く一歩を踏み込んだ。
その瞬間、セラはすでにヤマダとの間合いを詰め、右腕である兵輝めがけて武輝を振るう。
右腕の兵輝を切断するつもりで放った一撃だが、輝石とアンプリファイアの力で守られている兵輝は甲高い金属音を立てるだけで切断することはできなかった。
簡単には切断できないと判断したセラは即座に屈んで、水面蹴りでヤマダの足を払った。
バランスを崩して仰向けに倒れそうになるヤマダの右腕に向けて再び武輝を振り下ろすが――まだ切断できない。
セラの一撃を食らって勢いよく仰向けに倒れたヤマダは、嬉々とした笑みを浮かべてお返しと言わんばかりに兵輝を剣から普通の右手に変化させ、掌から衝撃波を放つ――だが、すぐに反応したセラは後方に向けて身を翻して回避。
回避しながら数発の光弾を武輝から撃ち出し、真っ直ぐとヤマダの右腕に向かって衝突する。
しかし、ヤマダは右腕を盾状に変化させて光弾を防ぎ、兵輝には傷一つついていなかった。
「右腕を狙ってくるとは思っていたけど、まだまだデータを集めたいんだ! だから、まだ右腕を切断するのは勘弁してくれよ!」
早々に決着をつけようとするセラにやれやれと言わんばかりにため息を漏らしながら、今度は砲口に変化させ、そこから巨大な光弾がセラめがけて放たれた。
光弾を撃ち出した反動でヤマダは廊下の通路めがけて大きく吹き飛んだ。
スローペースでこちらに向かってくる巨大な光弾を見て、武輝で光弾を両断したり、弾き飛ばしたり、避けて一気にヤマダから間合いを詰めることもしないで、咄嗟にセラは先程切り開いた壁から隣の部屋に飛び込んだ。
その瞬間、爆発音とともに巨大な光弾が炸裂した。
先程までいた部屋の中は光弾から放たれた爆発的なエネルギーでボロボロになっており、部屋に置かれていた家具はすべて粉砕されていた。
「素晴らしい判断だね。触れると同時に爆発する仕掛けを作ってあげたのに。もしかして、初見じゃなかったかな? ――それじゃあ、今度はやっぱりこれだよ!」
嬉々とした声を上げて今度は右手をガトリングガンに替え、セラが逃げ込んだ部屋めがけて乱射する。
今度は身を隠すことなく、両手で持った光を纏った武輝を力強く薙ぎ払ってことで生まれた爆発的な風圧で乱射されたすべての光弾をかき消した。
部屋から廊下に飛び出したセラは、不敵な笑みを浮かべてガトリングガンの銃口を自分に向けているヤマダと対峙する。
――これで決着をつける。
この男は力を得るためならなんだってする。
ここで逃がせばアルトマンたちとともに幸太郎君をつけ狙う――
だから、ここで絶対に決着をつける。
……幸太郎君は私が絶対に守るんだ!
幸太郎のためにここで必ずヤマダを倒すと覚悟を決めるセラは、武輝から極限まで絞り出した輝石の力を、武輝を持っていない手に集中させる。
武輝に変化させた輝石の力は、武輝を持っていない手に集中して集まる。
そして、集まった輝石の力をもう一つの武輝の武輝を頭の中でイメージしながら形作る。
アンプリファイアの力の影響を受けているせいで、何度か集めた力が消えそうになってしまうが、それを何とか食い止め――
セラは輝石の力でもう一本の武輝である剣を作り出した。
「そう、それだよセラさん! そういうのが見たかったんだよ! 素晴らしいよ!」
輝石の力で武輝を大量に複製するのとは違う、高密度の輝石の力が凝縮された武輝と同じエネルギー量を持つセラが生み出した剣を、ヤマダは鼻息荒くして興味深そうに眺めた。
興奮しているヤマダを無視して、セラは力強い一歩を踏み込んで疾走する。
決着をつけるべく間合いを詰めてきたセラに向けて、ガトリングガンを乱射するヤマダ。
セラは両手に持った武輝で迫る光弾を防御しながら、勢いを止めずにヤマダに接近した。
間合いに入った瞬間、セラは左手に持った剣をガトリングガンに向けて振り上げ、銃口を上にそらした。
そして、もう一方の手に持った剣で、兵輝をヤマダの身体の根元から切り離すべく、右肩に向けて振り下ろす。
ようやく刃が右肩にめり込んで兵輝に傷がつくが、それでもまだヤマダから切り離すことはできなかった。
更なる追撃を仕掛けようとするが、めり込んだ刃が離れずにセラは身動きが取れない。
そんなセラに向けて、嬉々とした笑みを浮かべてヤマダはガトリングガンから砲口に変化させて先程部屋を破壊し尽くした巨大な光弾を撃ち出そうとするが――その瞬間、右肩にめり込んだ刃が光を放ちはじめる。
それに気づいたヤマダは攻撃を中断して咄嗟にセラから離れるが、遅かった。
セラはもう一方の手に持った剣を、肩にめり込んだ光を纏った剣に向けて向けて叩きつけた。
一瞬の抵抗の後、右肩から繋がっていた兵輝が切り落とされた。
「ぼ、僕の腕が……僕の力がぁぁあああああああ!」
「兵輝はもう使えない……お前を拘束する」
「ふ、ふざけるな! 僕はまだ戦える! 戦えるんだ! ほ、ほら、セラさん。まだデータを取り終えていない! さ、さあ、その右腕を僕に渡してくれ」
神経につながれた兵輝を切り落とされて、昔右腕を切り落とされた苦い思い出がよみがえると同時に、一般人に戻されたことによって得た自尊心も壊され、怨嗟と痛みに満ちた絶叫を上げて倒れる無様なヤマダを冷たく見下ろしながら、武輝を輝石に戻した。
兵輝を切り落とされて無力化されながらも虫のように這いつくばって、切り落とされている兵輝に向かおうとする諦めの悪いヤマダを見て、プラスチックの紐上の手錠で彼の両足を拘束しようと彼に近づくセラだが――突然の爆発音とともに建物が大きく揺れ、尻もちをついてしまった。
「こ、これは一体……」
「どうやら、武尊君の復讐がはじまったようだ! そして、僕はなんて運がいいんだ!」
突然の事態に戸惑うセラの隙をついて、嬉々とした声を上げたヤマダは全身に広がる焼けつくような痛みを堪えて落ちていた兵輝に飛びかかり、口に咥えた。
口に咥えた兵輝は再び輝石から放たれる白い光を放ちはじめ、兵輝は剣に変化した。
すぐに輝石を武輝に変化させて、自分に向かって飛びかかってくるヤマダの対処をしようとするセラだが、輝石を武輝に変化させた時には、ヤマダが口に咥えている剣に形を変えた兵輝の切先が目前に迫っていた。
避けることも防ぐこともできず、憎悪の念が込められたヤマダの一撃をただ黙って受けることしかできないセラだが――
「セラさん、危ない!」
妙に格好つけたその声とともに現れた貴原はセラに飛びかかり、セラとともに地面に突っ伏してヤマダの一撃を回避した。
反撃の絶好の機会だったというのに、それを邪魔され、口に兵輝を咥えているせいで何を言っているのかわからない、意味不明なくぐもった叫ぶ声を上げるヤマダ。
「た、貴原君? どうしてここに――」
「説明は後で! 刈谷さん、お願いします!」
突然現れた貴原に驚くセラを無視して、貴原は声を張り上げて刈谷の名を呼ぶ。
「昨日の借りは返すぜ、オッサン――それじゃあな」
その声とともに現れた刈谷は、意味不明な叫び声をあげて地面に突っ伏しているセラと貴原に攻撃を仕掛けようとするヤマダに、ド派手に金色に光るショックガンの銃口を向けていた。
躊躇いなく引き金を引くと、ショックガンから電流を纏った衝撃波が放たれ、ヤマダに襲いかかった。
避けることもできず、衝撃波を食らって大きく吹き飛んだヤマダは数十メートル先にある壁に激突した。
意識を失ったのか、口に咥えていた兵輝を離して項垂れたまま動かなくなった。
突然現れた貴原と刈谷がヤマダを倒した光景を、尻餅ををついたまま呆然と見ていたセラに、「大丈夫ですか、セラさん」と爽やかな笑みを浮かべて手を差し伸べる貴原。
差し伸べられた手を「ど、どうも」とセラは掴んで立ち上がった。
「悪かったな、セラ。いいとこ取りしちまって。コケにされたままじゃ嫌だったからよ。お前とあのオッサンが戦ってそうな音がするところに来ちまったんだ」
「別に気にしないでください。それよりも危ないところを助けていただいてありがとうございます。ヤマダさんの執念を見くびっていました」
「いーんだよ。俺は俺で久しぶりに大暴れできたし、好き勝手にしてたオッサンを倒してスッキリさせてもらったからな。あー、ホント、スッキリした」
再び爆発音が響いて建物内が大きく揺れているというのに、そんなことをいっさい気にしていない、清々しい笑みを刈谷は浮かべていた。
そんな刈谷から、感謝の言葉を得意気に胸を張って待っている貴原にセラは視線を向けた。
「貴原君も、助けてくれてありがとうございます」
憧れのセラに感謝されるためだけという邪な気持ちだけで刈谷についてきた貴原だが――自分に向けられる普段の凛々しいセラからは考えられないほど、年相応の邪気のない笑みを見て、すべてが吹き飛んでしまう。
歓喜の雄叫びを上げることもなく、頭の中に強く焼き付いたセラの笑みを何度も反芻して、頬を紅潮させてボーっとしている貴原を放って、セラは再び刈谷に視線を向けた。
「突然爆発しましたが、一体何が起きているんでしょう。ヤマダさんは空木さんに何か関係していると言っていましたが……」
「こっちもわからねぇ。まあ、空木のことは大和たちに任せて俺たちは残っている奴らがいねぇか屋敷内をくまなく探すぞ。俺の勘だが爆発はまだ続くはずだ。貴原、お前はヤマダを拘束して旦那のところまで連れ出せ」
刈谷の言葉にセラは力強く頷き、再び響いてきた爆発音に現実に引き戻された貴原も数瞬遅れて「りょ、了解です」と頷いた。
再び響いてきた爆発音に屋敷が大きく揺れる中、屋敷に残っている人間を探すためにセラと刈谷は別れて屋敷内を探索し、残った貴原は気絶しているヤマダをセラが持っていたプラスチックの紐上の手錠で両足を拘束して外まで運んだ。
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