第28話

 義手の右腕を振り上げながら、克也に向かって飛びかかるヤマダ。


 そんなヤマダに向けて克也は自身の武輝である銃を連射させた。


 銃口から放たれる光弾をヤマダは回避しつつも、休みなく発射される光弾によけきれずに直撃してしまう。


 強烈な一撃に怯むヤマダに向けて、容赦なく引き金を引いて追撃する克也。


 怯んだヤマダの顔面に光弾が直撃し、後ろのめりに倒れるが――即座に立ち上がって再び克也に向かって飛びかかる。


 今度は明らかに先程よりもヤマダのスピードが上がっていた。


 しかし、克也の柄の悪い鋭い双眸はヤマダの動きを捉えており、体重を加えたヤマダの右ストレートを最小限の動きで回避、同時に彼の鳩尾に膝をめり込ませた。


 苦悶の声を上げて怯むヤマダの顔面に、手にした銃で乱雑に克也は何度も殴りつける。


 そして、トドメと言わんばかりにゼロ距離から克也は引き金を引いて光弾を発射する。


 激突した壁に大きなヒビが入るほど勢いよく吹き飛び、壁に激突したヤマダ。


 お互い戦闘経験豊富だが、克也の荒々しくも洗練された動きにヤマダはついてこれなかった。


 しかし――武輝である鍔のない刀身が幅広の剣を手にして、暴走するガードロボットの相手をしているクロノは、二人の戦いを眺めていていくつかの疑問を抱いていた。


 ……やはり、何かがおかしい。

 昨日と同じで戦いの中で明らかに成長している。


 昨日と同様に、克也に圧倒されながらも着実にヤマダは力をつけており、彼の持つ異常なまでの成長速度に疑問を抱いていた。


 クロノだけではなく、ガードロボットを相手にしているノエルとセラも――そして、ヤマダと交戦している克也自身も疑問を抱いていた。


 しかし、その疑問を解決するよりも決着をつけることを選んだ克也は、壁に激突したまま動かないヤマダに向けて武輝である銃の引き金を引く。


 トドメのつもりで放った光弾はさっきまでの光弾と比べて巨大であり、強い力を放っていたが――そんな光弾に向けて、ヤマダは凶暴な笑みを浮かべて右腕をかざす。


 瞬間、右腕の義手の形状が大きな銃口に変化した。


 そして、そこから克也が放ったものよりも大きな光弾を撃ち出す。


 僅かな拮抗の後、克也の放った光弾をかき消し、勢いが衰えるなく克也に迫る。


 咄嗟に横に飛んで回避する克也だが、ヤマダは再び上がったスピードで一気に接近して『銃口』から再び『右手』に変化させて殴りかかってくる。


 再び上昇したヤマダの力に驚きながらも冷静に攻撃を回避し、武輝を乱雑に振るって反撃を仕掛ける――が、克也の反撃に反応したヤマダは回避と同時に右掌から光弾を発射した。


 避けきれないと判断して、即座に全身に纏っている輝石の力を防御に集中させる克也だが、光弾が直撃した衝撃で吹き飛び、固い床に叩きつけられた。


 防御が紙一重で間に合ったためダメージがなくすぐに起き上がる克也だったが、凄まじい勢いで上昇しているヤマダの力に動揺を隠せなかった。


「まったく……どうなってやがんだ。お前の力は」


「素晴らしいでしょう、この右腕の力――これをした北崎さんは素晴らしいよ! まだまだ強くなれる! 使いこなせば君たち輝石使いなど一網打尽だ!」


「また力が上がりやがったか……一体、どんな手品を使ってやがんだ」


 嬉々とした声を上げてヤマダは輝石の力を纏った義手の右腕をワキワキと動かす。


 気分が高ぶっているヤマダに同調するように、右腕に纏っている輝石の力がさらに上がったを見て、克也はやれやれと言わんばかりに深々とため息を漏らした。


 そんな二人の様子をクロノはガードロボットを一通り片付け終えたクロノは、ありえないと言った様子で眺めていた。


 ……まただ、またヤマダの力が上がった……

 いや、ヤツではなく、ヤツの右腕を中心にして輝石の力が上がった……

 ヤツの力の正体は、まさか……

 だが、そんなことはありえない……

 しかし、輝石の扱い方に慣れなかったのことに納得できる……

 しかし――

 いや、ありえるかもしれない。

 現に、オレやノエルのような存在がいるんだからな……


 義手である右腕を中心として輝石の力が高まっているが、ヤマダからはまったく輝石の力を感じられないことに気づいたクロノは、ようやくヤマダの力の正体を理解したような気がした。


 しかし、自分で出したというのにクロノはその答えがありえないと思ってしまって信じられなった。


 だが、イミテーションという輝石から生まれた存在である自分の正体を思い出し、すぐにありえないと思ってしまった固定概念を捨て去った。


「オマエ……輝石使いではないな」


「ご名答だよクロノ君! その通り、私は輝石を扱うことのできない人間だ。北崎雄一という天才が作り出した、機械と輝石が完全に融合したこの右腕で戦っているだけの、ただの一般人なんだよ」


 クロノの言葉を聞いて、驚く克也とノエルとセラを放って、自慢げに笑いながら着ていたスーツの右腕の袖を引きちぎり、輝石と機械が融合したという義手を見せた。


 失われた右腕の付け根から装着されている銀色に煌く義手の拳の部分には光を放つ輝石が埋め込まれており、腕の部分には緑白色に光るアンプリファイアが埋め込まれていた。


 本来、輝石と機械は水と油の関係で組み合わせることはできないとされており、先代鳳グループトップの鳳将嗣が輝石と機械を融合させようとして巨額な資金を投じて多くの実験を繰り返してきたが、結局輝石と機械は融合させることができなかった。


 アルバート・ブライトが開発した武輝を扱うガードロボット・輝械人形はある意味機械と輝石を融合させた成果であるが、動かすのに煌石を扱える人間がいなければ武輝を扱えないただのガードロボットなので、完全に機械と輝石が融合したわけではなかったのだが――


 輝石を使えないただの一般人であるヤマダタロウという男が扱っている義手は、一般人に力を与えるほど完全に輝石と機械が融合しており、アンプリファイアの力も安定して引き出しており、その力を存分に振るっていた。


 それを見ていたからこそ、クロノの言葉を聞いてセラたちは驚き、戸惑っていたが、輝石の力に振り回されているヤマダの様子を思い返し、納得しているようでもあった。


「この右腕――北崎さんは『兵輝へいき』と呼んでいるこれは、一般人でも輝石が扱えるようにさせた新たな技術なんだ」


「北崎の野郎。あぶねぇーもん作りやがって……」


「危ない? それは違いますよ、克也さん。これは世界に革新をもたらす新技術! まだ調整が必要だが、これを完成させれば輝石使いと一般人の差はなくなり、本当の意味での平等の世界が訪れると僕は思っているよ」


「そんなわけねぇだろうが……絶対にそんなわけねぇよ」


 一般人でも扱える武輝・『兵輝』である右腕をこれ見よがしに見せて、新たな技術の誕生に喜びの声を上げるヤマダだが、暗雲立ち込める未来を想像して克也の表情は暗かった。


「……アンプリファイアの力を応用して作られたようですね」


「その通り。この新技術を作り出すのに、北崎さんは多くの協力者に助言をもらったようだよ? 原理は僕もちゃんと理解していないけど、この技術を完成させるにはアンプリファイアの力を身体に宿しているという空木武尊君の協力が必要だったんだ。輝石を反応させるにはアンプリファイアが必要不可欠だったらしいからね。それで、武尊君の身体を詳しく調べさせてもらう代わりに、武尊君の目的に協力するっていう条件で僕たちはここにいるんだ」


 ヤマダの腕を無表情でジッと見つめて観察しているノエルの言葉に反応したヤマダは、新たな技術が完成した過程を嬉々として語った。


「武尊君のおかげで一気に兵輝は完成に近づいたんだ。――ああ、そういえば、アルバート君と共同で開発した雛型は前にアカデミーで披露したって北崎さんが言っていたな。確か、前にバカな枢機卿にそれを貸し出したそうだけど、知っているかい?」


「セイウス・オルレリアル――確かに、輝石使いとして実力不足だったあの男はアンプリファイアの力をある程度制御していた。あの技術は北崎のものだったのか」


 ヤマダの言葉で、以前発生した時期教皇最有力候補であるプリメイラ・ルーベリアが誘拐された事件で、実行犯であった元枢機卿セイウス・オルレリアルのことを思い出すクロノ。


「……そんな危険なものを作って北崎は何が目的だ」


「さあ、僕は彼が何をしようとしているのかは知らないよ。ただ――この力で世界を変えようとしているのは明らかだ。後は賢者の石の力さえ解明できれば必ず世界は変えることができる」


 不安そうな表情を浮かべた克也の質問に、ヤマダは気分良さそうな笑みを浮かべながらそう答えた。


「この力さえあれば、未来は、世界は大きく変わる――君たち輝石使いたちに好き勝手に動かされていた世界が大きく変わるんだ。僕はそのためなら……自分を犠牲にする覚悟はある!」


 右手を固く握りしめて自分の覚悟を口にした瞬間――再びヤマダが纏っている力が跳ね上がり、先程とは別人のような圧倒的な力を身に纏った。


 北崎が作り出した『兵輝』という兵器から放たれる圧倒的な力の気配に、思わず気圧されてしまう克也たちだが――セラだけは違った。


 機械と輝石が融合した兵輝という存在に驚愕したセラだが、それでも彼女の意思は何も変わらず、兵輝から放たれる圧倒的な力を感じても怯むことなく一歩前に出た。


「何を使おうが関係ありません……お前たちが幸太郎君を狙うのなら、倒す。それだけだ」


「……同感です」


「オレもだ」


 いっさいの迷いのない言葉と同時に、鋭い視線を気分良さそうな笑みを浮かべているヤマダに向けるセラ。


 セラの意見に喝を入れられたノエルとクロノは、その意見に同意を示す。


 そんな三人の迷いのない様子を見せつけられ、三人から希望が見えたような気がした克也は、暗い表情を力強いものに変えて、ヤマダを睨んだ。


 余裕な笑みを浮かべていたヤマダは四人の鋭い眼光に一瞬怯んでしまうが、それを誤魔化すようにして高らかに笑いはじめた。


「シンプルでいいねぇ。でも――そう簡単にいくかな?」


 その言葉と同時に緑白色の光が屋敷内を一瞬包み込んだ。


 ――これは、アンプリファイア……

 こんな時に……


 アンプリファイアの力が屋敷内に影響を与えていることに気づいた瞬間、クロノの全身に脱力感に襲われて膝をついてしまい、同時にノエルも膝をついた。


 アンプリファイアの影響を受け、輝石から生まれたイミテーションであるノエルとクロノは一気に戦闘不能になってしまう。


「ノエルさん、クロノ君――くっ、こんな時にアンプリファイアの力が……」


「どうやら、大和の方も面倒ごとに巻き込まれちまったみたいだな」


「さあ! 呑気に休んでいる暇はないよ! ここからが本番なんだからね!」


 そんな二人と比べてセラと克也は多少の脱力感に襲われても、平然としていられたが――それでも、突然襲いかかってきた脱力感に顔をしかめていた。


 しかし、ヤマダだけは平然としており、脱力感に襲われている四人の隙をついて兵輝の右手を巨大な銃口に変化させ、巨大な光弾を彼らに向けて発射した。


 身体が脱力している状況で、迫る光弾の対応を咄嗟にできないセラたちだが――


 突然彼女たちの前に現れた人物――空木武尊のボディガードを務めている呉羽が、武輝である身の丈を超える槍を薙ぎ払って光弾をかき消した。


 突然現れるや否や、自分に対して激しい敵対心をぶつけてくる呉羽に、ヤマダは仰々しくため息を漏らし、肩をすくめた。


「おやおや、どうしたんだい呉羽さん。もしかして、僕の加勢に来てくれたのかな? それにしてもアンプリファイアの影響があるっていうのに良く動けるね」


 敵意をぶつけられてもおどけた態度を崩さないヤマダだが、「無駄話はいい」と冷たく呉羽は突き放した。


「この状況はどういうことだ。お前が操っていたガードロボットが急に暴走をはじめてから次々と屋敷内に配置されたガードロボットが暴走したと報告を受けた」


「暴走はしていないよ。彼らはあらかじめ決められた行動に従っているだけさ。そして、僕は決められたタイミングで彼らを動かした、それだけだよ」


「勝手な真似をするな」


「勝手? 僕はちゃんと指示に従っただけだよ。君のご主人様のね」


「……ありえない」


「そう思うのは勝手さ。でも、こうして僕たちが話している間に、彼女たちが先へ進んでいるけど、黙って見逃してもいいの? それこそまさに君のご主人様の意に反するんじゃないの?」


「今はお前の方が危険だ」


「今は仲間内で争っている場合じゃないんだけどなぁ、ああ、ほら、もう行っちゃったよ」


 話し込んでいる隙を見計らい、セラたちは黙ったまま目配せをして短い意志疎通を図り、先へ向かおうとしていた。


 それを警告するヤマダだが、今の呉羽にとってセラたちよりも目の前にいる凶悪な本性を隠し持っているヤマダの方が危険人物だと判断していた。


 離れ行くセラたちの背中を見て、ヤマダは深々と嘆息を漏らして肩を落とした。


 セラたちを取り逃して落胆に満ちたヤマダの言葉などいっさい気にも留めていない呉羽、ただ彼に対しての敵意と警戒心を高めるだけだった。


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