第25話

 幸太郎たちを助けるために動いているセラ、ノエル、クロノ、克也は、広い屋敷内で多くの部屋があるというのに迷いのない足取りで『目的地』へと向かっていた。


 目的地は聞かされていた――だから、後は真っ直ぐとその場に向かうだけだった。


 結婚式の会場とは無関係な場所を歩いているので、道中ほとんど人気がなくなっており、順調に目的地まで辿り着けそうだった。


 警備は結婚式の会場に集中していると思っていたが――その淡い期待はすぐに霧散し、立ち止まっていつでも武輝に変化させられるように自分たちの輝石を握り締めて周囲を警戒する。


「言われたと思うが、戦闘はできるだけ避けろ。式場には大勢の一般人がいるんだ」


「できるだけ、ですね?」


「……本当にわかってるんだろうな」


 自分の忠告に、無表情ながらも戦闘する気満々のノエルが静かに頷くのを見て、克也は諦めたように小さく嘆息する。


 大勢の気配が自分たちの取り囲んでおり、逃げ道はなかった――だからこそ、『戦闘はできるだけ避ける』という指示は無理だということは克也でも良く理解していた。


「いやぁ、今日はいい天気だねぇ。結婚式を開くには素晴らしい日だ。そうは思わないかい?」


「……ヤマダだな」


「やあ、クロノ君。昨日の怪我は治ったのかい?」


 妙に晴れ晴れとしたフレンドリーな声とともに行く手を阻むように前方に現れるのは、スーツを着たサラリーマン風――を装った男・ヤマダタロウだった。


 同時にヤマダの後方と、セラたちの後方からも退路を断つように大勢の空木家と天宮家の人間、ガードロボットが現れた。


 無表情ながらも静かな怒りを含んだ目で睨んでいるクロノの視線の先にいるヤマダを、セラと克也は激しい敵意が込められた目で睨んだ。


「君たちなら確実に土壇場になって行動すると武尊君が言っていたけど、その通りだったね」


「幸太郎君たちを返してもらう」


「問答無用ってわけか――いやぁ、噂通りのカッコよさと美しさだね、セラさん。でも、残念ながら七瀬君は渡せない。実験はまだ終わってないからね」


「幸太郎君はお前たちの玩具じゃない!」


 囲まれている状況に怯むことなく、ドスの利いた声で自分の目的を短く告げると同時にチェーンにつながれた自身の輝石を武輝である剣に変化させると、ヤマダは愉快そうでいて忌々しそうに、不気味なほどのフレンドリーな笑みを浮かべた。


 今にもヤマダに飛びかかりそうなセラを克也は黙って手で制し、一歩前に出てヤマダと周囲にいる空木家と天宮家の人間に視線を向ける。


「セラたちの噂を知っているのなら大人しくそこを退いてもらおう。お互い、痛い目にあいたくはないだろう? それに、ここで迂闊に争えば結婚式は台無しになるぞ。我々は無駄な争いをしに来たわけじゃないんだ」


 軽い脅しを織り交ぜた克也の説得に、空木家と天宮家の人間が一瞬怯む――が、そんな中、ヤマダはクスクスと挑発的にいやらしく笑いはじめた。


「本性を隠すのって大変だね。克也君? どんなに平静を装っても僕たちを潰したいって獰猛な品のない君の本性がひしひしと伝わってくるよ」


「それはこっちも同じだ。テメェからも下衆な本性が伝わってきてるぞ」


「ああ、ごめんごめん……君たち輝石使いを見てるとどうもね? 滅茶苦茶にしてやりたいって思っちゃうんだ」


 フレンドリーな笑みから凶暴な笑みを浮かべるヤマダ。


 徐々に本性が明らかになると同時に義手の右腕が光を放ち、ヤマダは全身に輝石の力を纏った。


「さあ、はじめようか! 混沌とした結婚式をね!」


 力強くヤマダはそう宣言すると同時に一斉にガードロボットが襲いかかった――味方であるはずの天宮家と空木家の人間に。


 突然の事態にガードロボットになすがままにされる天宮家と空木家の人間を、戸惑った様子でセラたちは眺めることしかできなかった。


 同時に、屋敷内から叫び声と破壊音が響いてくる。


 ガードロボットがここだけではなく、別の場所でも暴れているとセラたちは容易に想像できた。


 気に混沌と化した状況の中、一人ヤマダは狂気的な笑い声を高らかに上げた。


 その笑い声で一気に目が覚めたセラ、ノエル、クロノは人を襲いはじめたガードロボットたちの対処をはじめる。


「テメェ、何のつもりだ!」


 ボロボロの巾着袋に入った輝石を武輝である銃に変化させた克也は、笑い続けているヤマダに銃口を向けながら問い詰めると、ヤマダは笑いを堪えながら勝ち誇ったような得意気な顔を克也に向けた。


「君たちは失敗したんだ。そして――舐め過ぎたんだよ」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべながらそう言い終えると、ヤマダは克也に向かって飛びかかった。


 様々な疑問が残る中、襲いかかってくるヤマダを克也は迎え撃つ。

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