第21話
「――というわけなので、セラさん、ノエルさん、クロノさん! 明日はお願いしますわ!」
セラが暮らしている部屋のリビングで明日の結婚式の護衛や計画についての説明を終えた麗華は、部屋の主であるセラ、麗華が呼び出したクロノとノエルに頭を下げた。
明日の結婚式についての説明を受けてから、セラ、ノエル、クロノの三人は静かに闘志を漲らせて、まだ結婚式がはじまってもいないのに臨戦態勢を整えていた。
そんな三人を見て、満足そうに麗華は微笑んでいた。
「気合十分なのは結構ですが――空木武尊は身体にアンプリファイアの力を宿し、その力をいつでも解放できる稀有な力の持ち主。輝石から生まれたイミテーションであり、アンプリファイアのように極端に輝石の力を増減させるに弱いあなたたちでは相性が悪い相手ですわね。空木さんと交戦する場合は他の人に任せた方が得策ですわ。エレナ様の護衛に集中してもらった方がいいのかもしれませんわね」
「近くにはエレナ様や七瀬さんもいるので問題ありません。ですので、私は七瀬さんの救出に向かわせてもらいます」
「オレもだ」
麗華の言う通りイミテーションである自分たちはアンプリファイアの力に弱く、その力を身体に残留させて自在に引き出すことのできる武尊とはかなり相性が悪いとノエルとクロノは判断していたが、それでも、すべての輝石の母のような存在であるティアストーンを操り、触れずとも輝石を反応させることができるエレナ、そして、二度も自分を助けた幸太郎がいるので何も問題はないと判断して、幸太郎を助けるつもりだったが、セラは納得していなかった。
「私たちの不穏な動きに気づいた空木さんたちが屋敷の敷地全体にアンプリファイアの影響与えるかもしれません。そうなった場合、一気に二人は戦闘不能になってしまう。だから、麗華の言う通り大人しく幸太郎君を追うのは私に任せた方がいいと思います。それに、アンプリファイアの力だけではなく、おそらく空木さんは輝石使いとしてもかなりの力を持っています。それに呉羽さんだって相当な力を持っていますし、ヤマダさんもいます」
「だからこそ、私たちという戦力が必要なのでは? 限られた戦力の中三人を相手にするのは厳しいはずです」
「確かにそうですが、アンプリファイアの力で弱体化したあなたたちよりはまともに戦えます。それに、上手く巴さんや村雨さんを先に助け出すことができれば、心強い味方になります」
「希望的観測です。事態はそう上手くはいきません。だったら、私たちを捨て駒として利用してもらった方が、確実に七瀬さんたちを救出することが可能です」
「この間アンプリファイアの力で消滅しかけたことを忘れたんですか? あの時は偶々幸太郎君の力が発動したからよかったけど次はどうなるかわかりません。それを理解しているのに、あなたたちに無茶はさせられない」
「七瀬さんに救われた命です。だったら、私は七瀬さんのために使う」
「そんなこと、幸太郎君が望んでいると思いますか?」
自分たちを捨て駒にしろと淡々と軽々しく言い放つノエルをセラは許さない。
現実的に考えればノエルたちを利用した方が人質に救出が確実になるかもしれないが――それでも、セラは許さない。そんなセラの迫力に圧倒されながらも、ノエルは一歩も退かない。
お互い一歩も退かないまま無言で睨み合うノエルとセラを傍目に、クロノは「麗華」と話しかける。
「空木武尊以上に無窮の勾玉を操れる大和なら、アンプリファイアの影響を無効化することができるのではないか? それなら、状況を打破する鍵は大和に――」
「フン! 甘いですわ、クロノさん。あのアンポンタンに期待するだけ無駄ですわ」
クロノが大和に対して抱いている淡い期待を、麗華はすぐさま粉々に打ち砕いた。
「今回の騒動は大和に――加耶にとって鳳に復讐する絶好の機会ですわ。そんな状況で期待を抱いても、無駄になるだけですわ」
「……麗華、もしかして空木さんの言ったことを気にしているの?」
大和に対して何の期待を抱いていない麗華の突き放すような言葉を聞いて、昼休みに武尊が突きつけてきた鳳が天宮を裏切り、大和――天宮加耶の人生を滅茶苦茶にしたという現実と、加耶の居場所がない言い放った言葉がセラの頭に過った。
「クロノ君の言う通り、大和君を信じる価値はあるよ」
「私は伊波大和とという人間と長年付き合って、誰よりも大和がどんな人間なのかをよーく知っていますわ! その上で断言します! 信用できないと! 何を考えているのかわからない腹黒女を信じることなど不可能ですわ!」
「同感ですね」
「同感だ」
確かにそうだけど……
でも、それでも一応大和君は信じられるとは思うけど……
自分の言葉を躊躇いなくキッパリと即答で否定する麗華に同意するノエルとクロノ。
自分も心の中で同意しながらも、自分と違って口に出して大和への不信を口にする三人の正直過ぎる態度にセラは幸先が不安な状況に深々と憂鬱そうにため息を漏らした。
「大体、私に相談一つしないで勝手な真似をするバカ大和なんて信用できませんわ! 会ったらコテンパンに叩きのめしてやりますわ!」
――もしかして……
勝手な真似をする大和に対して怒りを抱いている麗華の様子を見て、彼女の心の内を何となく理解してしまったセラは、思ったことを口にしようとすると――「それでは――」と、それよりも早くノエルが麗華に話しかけた。
「伊波さんが敵対した場合は遠慮しないということでよろしいですね?」
「遠慮なんて必要ありませんわ! 私を怒らせたことを後悔させてあげましょう!」
私怨がたっぷり込められた麗華の指示に「わかりました」と素直に頷くノエル。
大和への怒りと恨みで暴走しかけている麗華を「ま、まあまあ」とセラは諫める。
「一度ちゃんと大和君と話し合って本心をぶつけた方がいいよ」
「肉体言語で語り合えば何の問題もありませんわ!」
「なるほど、殴り合うことによって本心をぶつけることができるのか」
暴走する気満々の麗華と、勘違いしているクロノにセラは呆れていると――不意に、「セラさん」とボーっとしながらも真剣な光を宿した目をしたノエルが話しかけてきた。
「本心でぶつかれば何か変わるのでしょうか」
「自己満足で終わるかもしれませんが、それでも本心を告げずに後悔するよりはマシです」
突拍子のないノエルの質問に戸惑いながらも、かつて久しぶりに会ったのにもかかわらず自分を拒絶したティアとぶつかり合ったことを思い出しながら、セラは答えた。
セラの答えを聞いて「わかりました」と頷きながらも理解できていない様子のノエルだったが、無表情ながらも僅かに満足そうにしていた。
「とにかく! 誰であろうと何であろうと、私たちの道を阻む者は敵ですわ! 完膚なきまで叩きのめすのですわ! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」
常に冷静沈着で無表情のクロノとノエルでさえも顔を僅かにしかめるほど豪快に笑い声を上げながら気合を入れる麗華に、セラは力強く頷く。
――必ず助けるから。
……だから、待っていて、幸太郎君!
「――そういえば美咲さんは何をしていますの? 彼女はかなりの戦力になると思うのですが」
「美咲は私たちがアカデミーを留守にしている間、アカデミー都市を守ってもらっています」
銀城美咲――一時的に今の制輝軍を束ねている、ティアや美咲と同レベルのアカデミーでもトップクラスの輝石使いだが、アカデミーを守るために留守番だとノエルから聞いて、麗華は残念そうに、それ以上に呆れ果てた様子でため息を漏らした。
「仕方がないとはいえ、アリスさんの代わりに制輝軍を束ねる立場でありながらも、その立場を忘れて指示が遅れたせいで放課後の騒動で制輝軍の出動が遅れるわ、明日の結婚式にも行けないわ、あの人は自分の立場に自覚を持っていますの?」
「持っている――……と思います」
「ノエル、下手なフォローはしなくてもいいと思う」
「そうですか、それなら持っていないと思います」
せっかく気合を入れたというのに、呑気な会話をする麗華たち三人に、全身に入れていた力を脱力させてセラは憂鬱なため息を漏らした。
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