第18話
鳳グループと教皇庁との駆け引きを終えた瞬間、ソファの上に大きくため息を漏らしながら武尊は腰かけると同時に、無言で呉羽は温かい紅茶を主に差し出した。
疲れている自分に労う気遣いを感じ、「ありがとう」と呉羽に感謝する武尊。
「それにしても、七瀬幸太郎君には参ったね。彼の空気の読めなさはある意味才能だ」
「同感ね」
「これから彼の検査を行うと思うと憂鬱だ。少し休憩させてもらおうかな」
……珍しい。
武尊がここまでペースを乱されるなんて。
軽薄な笑みを浮かべて紅茶を優雅に飲みながら、乱された心を平静に戻している武尊を意外そうに、そして、少し面白そうに見つめる呉羽。
七瀬幸太郎――……輝石使いでありながらも輝石を武輝に変化させることのできないアカデミーはじまって以来の落ちこぼれでありながらも、賢者の石をその身に宿すとされている少年。
学力も最低で周囲には見下されており、性格も能天気で空気を読まない性格と言動のせいで友人は少ない――でも、多分悪い子じゃないと思う。
七瀬幸太郎と実際会ってみて、呉羽は彼を穢れの知らない純粋無垢な少年だと感じていた。
「あの二人を村雨君の部屋まで送る時、君も七瀬君に乱されたんじゃないの?」
「他の人に頼んだから」
「大丈夫なの? 村雨君みたいに巴さんも抵抗するんじゃないの」
「御柴巴も体力がまだ戻っていないし、あの少年という足枷がいるから下手な真似はできない。だから、他の人に頼んで運んでもらった……それに、あなたと話したいことがあるから、余計な時間を費やしたくなかった」
「私と話したいこと? 突然どうしたんだい。ああ、今回の計画について何か気に入らないことでもあるのかな? 君、昨日からずっと暗い表情を浮かべて乗り気じゃないみたいだからね」
煽るような笑みを浮かべる武尊の指摘に、「そうね」と呉羽は素直に認め、話をはじめる。
「正直、鳳グループと教皇庁を挑発し過ぎている。確かに色々あって体制を大きく変えたばかりの二つの組織は弱体化しているけど、それは今だけ。協力関係を築いた二つの組織は短い間で急成長を遂げて、比べ物にならないほどの力を得る。空木の力を強大にするための最終目的は『無窮の勾玉』を手に入れること。それなのに、ああやって挑発すれば、いくら天宮の力を得て空木の力を強大にしても、二つの組織に勝てる見込みはない」
「HAHAHAHAHAHA! 問題ないよ! こっちには加耶という歴代最高峰の御子の力と、上手く行けば賢者の石の力も得られるかもしれないんだし、明日の結婚式で鳳大悟と教皇エレナを人質として捕えれば、無窮の勾玉を簡単に得られるかもしれない! もしかしたら、教皇庁の持つティアストーンも手に入れることができるかもしれないんだ!」
「そんなものはただの机上の空論。上手く行く保証はいっさいない」
上手く行くかどうかもわからないのに問題ないと言ってのける主を正直に非難する呉羽だが、武尊は意に介していない様子で「HAHAHAHAHAHA!」とバカみたいに笑っていた。
油断も隙もある笑っている武尊に「真面目に聞きなさい」と呉羽は一喝すると、「はいはい」と武尊は親に叱られた子供のように一応は素直に聞く態度を見せる。
「先日教皇庁と鳳グループが共同で行った身体検査であの少年に眠るとされている賢者の石の反応は何も出なかった。そう考えると、あの少年に本当に賢者の石の力が宿っているとは思えない。だから、当てにするものじゃない」
「確かに賢者の石の存在は信じていないさ。でも、数年前の事件で亡くなったアルトマン・リートレイド博士が賢者の石の力で実際生きていて、七瀬君が自分と同じ力を持っていると太鼓判を押したんだ。だから間違いなく七瀬君には賢者の石の力が宿っている思うね。そうじゃなくとも、それに似た力を持っているとは思うよ」
「そのアルトマンも、アルトマンが紹介した北崎雄一、そして北崎の協力者であるヤマダタロウも私は信じていない」
今回の計画を実行に移す発端となったアルトマンと北崎を呉羽は信用していなかった。
ある日突然現れたアルトマンと北崎は、空木のことを『敗北してばかりの一族』と言って空木の一族に眠る復讐心を煽った。
自分を見捨てた者たちすべてに復讐するのに協力する代わりに、自分たちに協力してほしいと頼んできた二人を、武尊は喜んで協力関係を結んだ。
その一部始終を見ていた呉羽は、一族再興のためとはいえ得体のしれない連中と手を組む武尊が理解できなかった。
そして、その後脱獄囚である北崎の手足となって動くヤマダタロウと明らかな偽名を名乗る、特筆すべき点がない顔という『仮面』を被った、黒い感情を隠し持った人物に武尊は自分と同じくらいに信用していることが呉羽には納得できなかった。
それ以上にヤマダタロウを武尊に近づけさせてはならないと呉羽の勘が告げていた。
「確かにアルトマン博士と北崎君はあまり信用できないけど、ヤマダ君は信用してもいいと思うよ? 彼の持つ執念と憎悪は評価に値すべきだ」
「随分ヤマダを買っているようね。彼は我々を利用しているだけよ」
「君はヤマダ君に随分当たりが強いなぁ。もしかして、自分より信頼されて妬いているのかい?」
「茶化さないで真面目に聞きなさい」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ヤマダ君が危険な人間であることは十分に理解している、私は呉羽以上に信頼している人間はいないからね」
軽薄な態度を取りながらも一応はヤマダに警戒心を抱いている武尊に、不満が残るがそれでも多少の安堵感は得られ、呉羽は心の中で小さく安堵の息を漏らした。
「それと――天宮加耶を信用していない。彼女は何を考えているのかわからない」
「なんだか呉羽、口うるさい姑みたいになってきたなぁ。嫁姑問題待ったなし?」
「真面目に聞きなさいと何度も言っているでしょう」
「わかってるって。それも大丈夫だよ。こっちには人質もいるんだし、それに、加耶は随分と七瀬君を気にしているみたいだからね。彼を上手く扱えば、もしもの時の切り札になるんじゃないかな? まあ、そんなことは起きてほしくないけどね」
「あなたの判断は昔から間違いがなかったから今まで我慢して何も言わなかったけど――……正直な話、今のあなたの判断に疑いを持っているわ」
「ひどいなぁ、長い付き合いなのに呉羽は私を信用できないっていうのかい?」
「信頼はしているけど、今のあなたは信頼できない」
正直に自分への不信感を露にする呉羽に、「ホント呉羽は正直だなぁ」と苦笑を浮かべて武尊は何も反論できず、ただただ深々とため息を漏らすだけだった。
「――ねー呉羽、隣に来てよ」
突拍子な武尊の指示に呉羽は黙って従うと、不意に呉羽の膝の上に武尊は自身の頭を乗せた。
自身の膝を枕にして子供のように甘える武尊を呉羽は何も言わずに受け入れた。
「正直……呉羽は一族再興なんてどうでもいいと思ってるんでしょ」
武尊の問いに「ええ」と迷いなく正直に答える呉羽。
呉羽にとって空木家再興なんてどうでもよかった。
先代の悲願であった一族を再興しなくとも、安定して暮らせていたからだ。
アルトマンたちさえ現れなければ、いつもの日常を過ごすことができたからだ。
そんな正直な呉羽に、武尊はいつものように軽薄そうでありながらも、どことなく寂しさを感じる笑みを浮かべた。
「それなら、呉羽は別に私に協力しないでもいいんだよ?」
「それはできない……私の使命はあなたを守ること」
……そうだ。
私はずっとこの子の傍にいる役目がある。
だから――離れることなんてありえない。
もう、絶対にそんなことはしない。
本来は呉羽を思っての一言だが、代々当主の護衛を務めていた自分の一族の役割を思い出させるのには十分な武尊の一言に萎んでいた心が一喝されて気合が入る呉羽。
自分の味方でいてくれる呉羽に、深々と安堵の息を漏らして武尊は「ありがとう」と心からの感謝の言葉を述べた。
「それじゃあ、私はもうちょっと呉羽の膝の感触を堪能することにするよ」
「……これから、七瀬さんの元へと向かうのでは?」
「それは後。今はちょっと休むよ――んー、相変わらず呉羽の膝枕は気持ちいいね! あ、このことは加耶には内緒だよ? 君に膝枕をしてもらうのが日常だなんて知られたら結婚生活に支障がきたす恐れがあるからね! HAHAHAHAHAHAHAHA!」
武尊の豪快な笑い声を聞きながら、母性溢れる表情の呉羽は黙って主に膝枕をしていた。
――ただ、黙って呉羽は主に従っていた。
いまだに胸の中には不信と不安がこびりついたままだが、それでも従者である呉羽はそれらを見て見ぬふりをして、ただ黙って主に従っていた。
―――――――――
――何かがおかしい。
一時間ほど前から屋敷の中が慌ただしくなったような気がする。
何か状況が変わったのか?
もしかして、俺を助けにアカデミーが? ――いや、鳳グループと教皇庁が協力したばかりだというのに、世間の信頼を失うような大々的に派手な真似はできない。
それに、空木家には天宮家とも繋がりがあるんだ。
鳳グループは天宮家との和解を求めているのに、無茶な真似はしないだろう。
……だとしたら、一体何が……
数日前から空木家の屋敷の中にある豪勢な客室に監禁されている村雨は、屋敷の中の雰囲気が一気に変わったように感じていた。
窓の外や鍵が開いている出入り口の扉を開けて屋敷の外と中の様子を観察するが、肌で感じる以外の異変は感じられなかった。
自分を助けにアカデミーから誰か来たのではないかと予想するが、今のアカデミーの状況を考えてありえないと判断した。
考えても答えが浮かばなくなるが、それでも何らかの動きがあることを確信していた。
――このまま考えても仕方がない。
ここは一気に行動する時だ!
何度も脱出を試みてその都度失敗したが、事態が動いている機を狙って再び逃げ出そうと考えていると――部屋の外からこちらに近づく複数の足音と、声が聞こえてきた。
足音は部屋の前で止まり、扉が開く。
咄嗟に村雨は部屋の隅に隠れて、誰かが入ってきた瞬間に入ってきた人を人質にとって逃げようと考えていたが――
「だから大人しくしろと言ったでしょう、七瀬君!」
「ごめんなさい」
「まあ、でも……あれで私たちの無事をみんなが確認できたと考えることにするわ」
「それにしても、人質にされていたなんて知りませんでした」
「もう少し緊張感を持ちなさい! ここは敵の本拠地なのよ」
も、もしかして――巴さんに、七瀬君?
久しぶりに聞く呑気な少年の声と、聞き慣れた凛とした美しい女性の声に、すぐに声の主に気づいた村雨は「ど、どうも……」とおずおずといった様子で隠していた身を露にする。
「村雨さん、お久しぶりです」
「やあ、幸太郎君。少し見ない間に逞しくなったね」
「そうですか? 体重と身長、全然変わっていないんですけど」
「そういう意味で逞しいと言ったわけじゃないんだけどな……」
久しぶりの再会なのにブランクを感じさせない態度で、自分の状況を全く理解していない様子で能天気に挨拶をする幸太郎だが、巴は会話を繰り広げる村雨を見つめたまま動かなかった。
そんな巴の視線に気づいた村雨は軽く深呼吸してから今でも尊敬し、かつては淡い感情を抱いていた相手に視線を向けた。
「あの……巴さん、お久しぶりです」
「……うん。久しぶり。無事でよかった、宗太君」
と、巴さん――?
や、柔らかい――って、そうじゃなくて!
人質に取られていた村雨と対面して、弟も同然に思っている彼の無事を心から喜んで瞳を潤ませ、安堵のあまり巴は抱きしめた。
突然憧れの人物に抱きしめられて戸惑い、巴から伝わる体温と柔らかさに軽くパニックになる村雨。一方の幸太郎はそんな村雨の気持ちなど露も知らない様子で「いいな」と、巴に抱きしめられている村雨を羨ましそうに眺めていた。
「本当に無事でよかったわ! 君に何かあったと思ってずっと心配していたの」
「――……え、ええ、ご心配かけたようですみませんでした」
抱きしめていた村雨を解放して、改めて彼の無事を喜ぶ巴。
巴に抱きしめられた女性特有の柔らかい感触に放心状態になっていた村雨は、一拍子遅れて巴の言葉に反応し、現実に戻る。
「そ、それよりも、どうして巴さんたちがここに? 七瀬君がいるということは、空木家は天宮家だけではなくアルトマンと繋がっていたんですか? そうだ! 涼子さんと光陽さんは無事なんですか?」
「これから順を追って説明するわ。事態は最悪な方向へと動いているの」
人質に取られている間何も情報が入ってこなかった村雨は矢継ぎ早に質問すると、巴は状況を教える。その間幸太郎は部屋に備えつけられたお菓子を食べていた。
村雨と行動をしていた水月涼子と銀城光陽は先に解放されたこと、傷はなかったが大事を取って現在入院中であること、アカデミーに武尊が訪れて大和に求婚して、大和はそれを受け入れて明日に控えた結婚式のために今この屋敷にいること、アルトマンの協力者である北崎雄一の仲間であるヤマダタロウという男が武尊に関わっていること、そんなヤマダに主人公が連れ去らわれたこと、そして、自分も油断して捕らわれたことを話し、明日の結婚式に大悟とエレナがここに訪れることを話した。
……そんなことになっていたなんて。
状況は巴さんの言う通り、現状は空木武尊の思い通りに動いていて最悪だ。
こんなことになったのも全部――……
巴の状況説明を聞いた村雨は憂鬱なため息を深々と漏らし、罪悪感と責任感で肩を落とした。
「すみません、巴さん。俺が人質にならなければスムーズに事態を運べたのに、ややこしくしてしまって。七瀬君もすまない。君のことは大悟さんたちから聞いていたのに何もできなくて」
「別に気にしないでください。村雨さんが無事で何よりです」
「七瀬君の言う通り、君に何も責任はないわ。悪いのは君に無茶な仕事を任せた私の父と、今回の騒動を引き起こした空木家なんだから」
「それでも、天宮の人間を集めて何かを企んでいると知った時、涼子さんたちの言うことを聞いてすぐにでも報告すればよかったのに欲が出てもっと情報を得ようと深追いをしてしまいました。その結果涼子さんたちだけではなく、アカデミーに多大な迷惑をかけてしまいました――次に巴さんたちに会う時は自分を変えようと思っていたのに、これじゃあ前にアカデミーに迷惑をかけた時とまったく変わっていませんね」
「……君が何も変わっていないようで安心したわ」
去年、鳳グループ本社で騒動を起こした時と何も変わっていない自分に自嘲を浮かべる村雨を見て、巴は弟のようにかわいがっていた存在が何も変わっていなくて安堵の笑みを浮かべた。
何も変わっていない自分を受けてくれる巴を見て、村雨も憧れの人物が何も変わっていないことを思い知るとともに、罪悪感と責任感で重くなっていた胸の中が軽くなるような気がした。
「今は後悔するよりも、現状を切り抜ける方法を考えましょう」
――巴さんの言う通りだ、今は後悔するよりも先へ進もう。
力強い表情で先へ進もうとする巴を見て、村雨も自分に喝を入れた。
「輝石を扱えない我々が簡単に抜け出せることができないと確信しているのか、この部屋の扉には鍵がかかっていません。だから、脱出しようと思えばいつでもできるのです」
「余裕? ――いいえ、慢心というものかしら?」
「それもあるでしょうが、何度も脱出を試みましたがその都度空木家の人間に制されて失敗しました。運よく彼らを退けることができたとしても、呉羽さんという最大の難関がいます」
「呉羽さん――空木君のボディガードを務めている人ね。戦ってはいないけど、対峙しただけで相当の実力者であると理解できたわ」
「ええ。かなりの実力者です。掴んだ情報をアカデミーに伝えようとした僕たちの前に現れ、涼子さんと光陽さんの三人がかりで相手にしましたがまったく歯が立ちませんでした。涼子さんや光陽さんたちが鍛錬に付き合ってくれたおかげでだいぶ力をつけたと自負していましたが、それでもまったく敵いませんでした」
「君がそれほど言うのなら、輝石のない状況に加えて七瀬君がいる状況で派手な真似はできないわね。でも、何とかして七瀬君に手を出される前に脱出しないと」
能天気にもお菓子を食べている幸太郎を見て、冷静に巴は状況を分析すると――「僕なら大丈夫ですよ」とお菓子を食べ終えた幸太郎は会話に入ってきた。
無茶をする気満々の幸太郎に巴は嘆息する。
「ダメよ。ただでさえ君は足手纏いなだけでなく、無茶をするんだから」
「ぐうの音は出ませんけど、無茶をするのは巴さんも同じです」
「失礼なことを言わないで。私は身の丈に合った行動をしているだけなの」
「でも、さっき無茶をしようとしていたじゃないですか」
「そ、それは……状況をどうにかしようとしていただけなの!」
「村雨さん、聞いてください。巴さん、さっき立ち上がるのもやっとなほど消耗していたのに、無茶していたんです。今だってきっと無茶してます。村雨さん、何とか言ってあげてください」
「あ、あれは君のためを思ってやったことなの! 宗太君ならわかってくれるわよね?」
ふ、二人ともここで俺に話を振るのか?
な、何と言えばいいんだろう……
――いや、それよりも……巴さんが感情的になるなんて珍しい……
……七瀬君のように巴さんと対等の目線で話すのが俺にはできなかったんだろうな。
突然話を振られて戸惑う村雨だが――同時に羨ましく思っていた。
御柴巴に心酔していたからこそ、村雨は幸太郎のように対等の目線で話すことができず、会話をしていてもどこか気後れしてしまうところがあった。
そのことに気づいた時にはもう遅く、淡い気持ちを抱いていた巴に『弟』のような存在としてしか見られていなかった。
だから、巴と対等の目線で喋っている幸太郎が羨ましく思うとともに、身内以外に打ち解ける相手ができて嬉しいと思う気持ちもあった。
そんな気持ちを抑えながら、村雨は「それよりも――」と止まっていた話を進める。
「空木武尊の持つ力のせいで迂闊に動くことができません。あの力は――」
「HAHAHAHAHAHAHAHA! 楽しそうな会話の最中失礼するよ!」
武尊の持つ力について説明しようとした瞬間、豪快な笑い声とともに扉が開いて呉羽を連れた武尊が現れると、咄嗟に巴と村雨は幸太郎の前に庇うようにして立った。
「そろそろそこにいる七瀬君を貸してもらいたいんだけどいいかな?」
「言ったはずよ。七瀬君には手を出させないと」
「さすがは御柴巴さん。アンプリファイアの力をかなり流し込んだというのにもう体力が回復してきているとは恐れ入ったよ! だが――輝石を持たない君は脅威ではないんだ」
余裕な笑みを浮かべて今にも飛びかかりそうな巴に向けて武尊は手をかざした瞬間――武尊と巴の身体に緑白色の光が纏い、巴は苦悶の表情を浮かべて膝をついた。
膝をつく巴に真っ先に幸太郎は駆け寄ろうとするが、呉羽に腕を掴まれて動けなくなる。
咄嗟に呉羽に向けて突進する村雨だが、容易に回避されて床に突っ伏す。
そんな村雨に向けて巴の時と同じように武尊は手をかざすと、村雨の身体にも緑白色の光が包んで苦悶の声を上げた。
「二人とも、大丈夫ですか?」
一瞬で武尊に制された巴と村雨を心配そうでありながらもどこか呑気そうな幸太郎に、「心配しなくとも大丈夫だよ」と武尊は得意気な笑みを浮かべる。
「私の中に宿るアンプリファイアの力で二人を一時的に無力化しただけだから、すぐに起き上がるよ。さあ、今の内に我々は別室へ移動しようか――それとも、君も抵抗するのかな?」
「痛いのは嫌なので遠慮します」
「HAHAHAHAHAHAHA! 賢明な判断だ!」
挑発的な視線をぶつけてくる武尊の言葉に素直に従い、幸太郎は二人とともに部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます