第16話
アカデミー都市から二つ県を跨いだ先にある田舎町と通り過ぎ、鬱蒼とした木々に囲まれた舗装のされていない道を進んだ先に見える広大な面積の土地に立っている洋館が空木家の屋敷だった。
到着する頃には、アカデミー都市を出る時はまだ明るかった空はすっかり茜色に染まって今にも日が沈みそうになっていた。
長い間車の中で過ごしていた大和だったが、飽きることなくずっと婚約者である武尊と話し込んでおり、昨日初対面で会ったのにもかかわらずだいぶ婚約者のことを理解していた。
屋敷に到着してすぐに空木家の人間と従者に出迎えられた大和を武尊は私室までに案内した。
派手な衣装を好んでナルシシズム溢れる武尊に相応しいほど、白と基調として金や銀に煌く調度品が揃えられた武尊の私室も豪勢であり、壁には特大サイズの自画像がかけられて写真縦に入っている写真も自分が写っているものばかりだった。
そんな武尊らしい趣味が光る部屋の中で一際目立つのは、部屋の隅に置いてある一人眠るには十分なほどの広さを持つ天蓋付きのキングサイズのベッドだった。
「長旅ご苦労様。さあ、ハニー座って落ち着こうよ」
「それじゃあ、失礼しまーす。んー、ソファがフカフカだぁ」
そう言って長い間車の中にいて凝り固まった身体を伸ばしながら武尊は中央に置いてあるソファに座り、大和も後に続いて武尊の隣に深々と腰かけた。
「ハニー、ここが私と君の愛の巣になる予定なんだけど、どうかな?」
「とっても豪勢な部屋だね。それに、ベッドもすごく大きくてフカフカそうだし」
「フフ、お目が高いなぁ。あれは君との新婚生活を想像して特注で作ったベッドで、まるで羽毛で空の上を飛んでいるかのように身体を心地良く包み込む柔らかさを持ったものさ」
「わざわざベッドを特注するなんて……もー! エッチだぞ、ダーリン♥」
「もちろん、君のために用意した部屋にも同じ材質のベッドを用意しているよ」
「僕のために部屋を用意してくれているなんて嬉しいなぁ。僕、結婚生活を送るなら寝室は別にしてほしいなぁって思ってたんだ」
「誰にだって一人になりたい時があるからそれは当然だよ! でも、コウノトリさんは一緒に出迎えてもらうよ? ――なんてね! HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
「本当にエッチだなぁ、ダーリンは! でも、最初の時は……優しくしてよね? 後学のために本を読んでちゃんと勉強していたけど、はじめての時は緊張するからさ」
「当然だとも! 女性の扱いには人一倍慣れているこの私に任せてくれ! HAHAHAHAHAHAHA! ああ、少々誤解のする言い方だったが、経験豊富という意味ではないからね! ちゃんと本を読んで勉強しているという意味だ!」
車内であれだけ会話をしたというのに、部屋に到着して落ち着くことなく新婚バカップルの胃にもたれるような会話を繰り広げる武尊と大和。
甘ったるい話を繰り広げながら不意に大和は立ち上がって婚約者から離れ、ベッドに近づいて勢いよく座って柔らかさを確かめながら、「それにしても――」と甘かった声音を変化させて探るような目を婚約者に向けた。
「ダーリンがアルトマン博士に関わっているとは思わなかったかな?」
「それについては黙っていて申し訳なかったと思うよ。ごめんね?」
「それじゃあ、正直に全部話してよ――ね? お願いダーリン。結婚するのに秘密はなしにしようよ」
「まあ、未来の夫婦になるのに秘密にしておくのはダメだよね。いいよ、話すよ」
甘ったるい話を急に変えてきた大和に、わざとらしく戸惑った表情を浮かべ、仰々しく頭を下げて謝り、やれやれと言わんばかりにため息を漏らして今回の計画について話しはじめる。
「先代の夢だった空木家再興のためには必要なのは君だけで十分だったんだけどね。アルトマンから賢者の石の話を聞いて、それも利用したくなったんだ。そして、私は利害が一致した彼の協力者である
「なるほど……事件の裏にはアルトマンだけじゃなくて、北崎さんも関わっていたんだね」
「今僕に協力しているヤマダ君は元々北崎君の優秀な協力者だったんだけど、北崎君は脱獄犯で思うように動けないから、そんな彼の代わりにヤマダ君に動いてもらっているんだ」
北崎雄一――風紀委員が設立するきっかけを作った犯罪を行った人物であり、アルトマンの助けでアルバート・ブライトとともに輝石使いや輝石に関わる事件を起こした犯罪者を収容する施設・特区から脱走した男だった。
「大半の生徒が課外学習でいない絶好のタイミングを見計らって行動したのかい?」
「我々空木家は多くの企業との繋がりもあって、彼らから課外学習の情報も事前に掴んでいたからそれを利用させてもらったよ。まさに絶好のタイミングだったね。おかげで運良く賢者の石の力を持つ七瀬幸太郎君を手に入れることができたんだから。ああ、手荒な真似をしていないから安心してくれ? 輝石をまともに扱えない彼に物騒な真似はできないからね」
「さっき車から降りて豪華な屋敷に見惚れている幸太郎君を見たからそれは知ってるよ。まあ、幸太郎君のことだから自分から無茶な真似をして捕まえられたってところかな?」
「まさにその通り。ヤマダ君が言っていたけど、逃げたのにもかかわらず、助けを呼んだからと言って無茶だというのにお友達の加勢をしに戻ってきたんだってさ。想定外だったってヤマダ君は驚いていたよ。これぞ本当に飛んで火にいる夏の虫だね」
「幸太郎君はいつも想定外な行動を取るし、自分の決めたことには頑固なほど忠実で、どんな危険な状況でもそれに従って行動するお人好しだからね。きっとダーリンも他人の思い通りに動かない幸太郎君のことを色々な意味で気に入ると思うよ?」
友達を助けるためにヤマダに捕らえられた愚かな幸太郎の話を武尊から聞いて、大和は呆れながらも幸太郎らしさを感じて愉快そうに微笑んでいた。
幸太郎について良く理解している婚約者をむくれた表情で見つめる武尊。
「七瀬君のことを良く知っているみたいだけど、何だか嫉妬しちゃうなぁ!」
「ダーリンはかわいいなぁ。大丈夫、幸太郎君のことは気に入っているけどダーリン以外に目移りしないから安心してよ」
「そう言ってもらって安心したよ。私もどうやら君と同じで結構独占欲が強いようだね! HAHAHAHAHA! それにしてもハニーにそこまで気に入られる七瀬君と話す時が来るのが楽しみになってきたよ! 後でゆっくり話す時間を楽しみにしようかな!」
「もしかして、幸太郎君はこの屋敷にいるの?」
「もちろんさ。七瀬君も御柴さんも村雨君もこの屋敷の客室にいるよ」
「ああ、そういえば巴さんも捕まえたんだっけ」
「その通り。彼女は村雨君以上に人質としての価値はあるからね。これで鳳グループも我々の言うことに素直に従わざる負えなくなるということだよ! HAHAHAHAHAHAHA!」
巴を捕らえて勝ち誇ったような高笑いを上げる武尊を見て、「どうだろうねぇ」といたずらっぽく、それでいて意味深に笑う大和。
「正直、巴さんを人質に使うのは悪手だと思うよ」
「それはどうしてだろう。彼女は私の計画を実行する上で潤滑油になる存在に違いないと思っているのだけどね」
「鳳グループを本気にさせるのには十分なことをしてるからね。完全に敵に回すよ?」
「そうだとしても問題ないよ。私の目的は争うことじゃないんだからね」
「それならいいんだけど、順調すぎて目的を悟られる可能性だって大いにあるし、何事も不測の事態はつきもの。幸太郎君以外にも突飛な行動をする口喧しい猪突猛進な人が鳳グループにいるんだからね」
「なるほど、肝に銘じておくことにするよ! HAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
豪快に笑いながら大和の忠告を受け入れる武尊。
勝利を確信して明らかに他人のアドバイスを聞いていない――そんな風に大和は見えた。
―――――――――――
――身体が怠い、頭も重い。
目を開けるのも億劫だ……だいぶ疲れてるみたい。
昨日、色々あって眠れなくなってしまって夜遅くまで本を読んでたからだ……
もうちょっと寝よう……
「御柴さん、起きる?」
……この声……!
目覚めたばかりでぼんやりとしていた巴の頭に、妙に呑気な声が響き渡った。
目覚めが悪くてまだ眠ろうとしていた巴だったが、その声が頭に届いた瞬間一気に覚醒する。
「七瀬君! 大丈夫?」
「大丈夫です」
「そう、よかった……」
「御柴さんこそ無事でよかったです。ずっと眠っていましたから。寝顔、かわいかったです」
「え、あ、うん……あ、ありがとう」
ベッドの上で寝かされていた巴は勢いよく上体を起こして、連れ去らわれていた幸太郎に声をかけると、ベッドの上にいる巴を横でじっと見つめていた幸太郎は頷いた。
相変わらず呑気な幸太郎の一言に戸惑いつつも、彼が無事であることを知って安堵した巴は、自分が今いる場所を見回す。
シャンデリアが吊られた豪勢な広々とした一室には、自分が眠っているふかふかのベッド、本革のソファが置かれており、化粧室と浴室に通じる扉があった。
「……ここはどこなのかしら」
「大和君の婚約者の家らしいです。外で見たけどすごい大きくて豪華でした」
「空木家の本家というわけね……どうやら、私たちは捕まってしまったようね」
目覚めたばかりでまだハッキリしていない頭でも大体予想と覚悟はできていたが、それでも敵の本拠地にいる事実に巴は疲れたようにため息を漏らす。そんな彼女の気持ちなど知る由もない幸太郎は呑気な笑みを浮かべて「そうみたいですね」と頷いた。
とにかく何か行動しなければならないと思い、ベッドから起き上がって立ち上がろうとする巴だが――身体の中を支配する気怠さで上手く立ち上がることができなかった。
後ろのめりに倒れそうになった巴を「大丈夫ですか?」と幸太郎が受け止め、そっと巴の身体をベッドの上に寝かせた。
……な、七瀬君の身体が……
七瀬君って、ちょっと良いにおいがする……
自分を抱えるために密着した幸太郎に、異性に密着された経験など皆無の巴は思わず頬を僅かに赤らめてしまったが、すぐに「オホン!」とわざとらしく咳払いをして我に返る。
「どうやらアンプリファイアの力が身体に残ってるから動けないわ」
「それなら無理しちゃダメですよ、御柴さん」
「こんな状況で悠長に休んでいられないわ。すぐにでも脱出したいところだけど――」
そう言ってアンプリファイアのせいで思うように動かない身体を無理矢理動かして、着ている服のポケットの中などを確認するが、案の定輝石や携帯は奪われてしまい、所持品は何もなかった。僅かな期待を込めて「七瀬君は何か持っている?」と巴は幸太郎に尋ねるが――
「僕もショックガンと輝石を取り上げられました。携帯も取られて御柴さんの寝顔を隠し撮りできませんでした」
予想通りの答えを聞いて、現状では何もできないことを悟る巴は深々と嘆息する。
しかし、それでも何か行動しなければならないと思って再び無理して立ち上がろうとするが、再び後ろのめりに倒れそうになり、幸太郎に受け止められてベッドの上にそっと寝かされた。
再び異性と密着して顔を赤らめる巴だが、そんな気持ちなどすぐに忘れて再び起き上がろうとする。今度は起き上がれる自信があったが――幸太郎に制された。
「だからダメですよ御柴さん、無茶したら」
「それでも悠長に休んでなんかいられないわ!」
「それでもダメです」
「私なら大丈夫です」
「ダメです」
「私を信じてください」
「信じていますけど、ダメです」
……どうしてこんなに七瀬君は頑固なんだ。
私のことを信じているならどうして邪魔をするんだ。
今の状況を打破するためには行動することが何よりも重要なのに。
信じているなら私の身体のことなんて心配しなくてもいいのに……
こんなこと……今まででなかったのに……
睨み合ったまま、幸太郎と巴はお互い一歩も引かなかった。
真っ直ぐと揺らぐことない意志を宿した目で見つめてくる幸太郎に巴は歯痒く思うと同時に、今までこうして面と向かって自分を必死で引き留める人間がいなかったことを思い出してどう反応していいのかわからない巴。
御柴巴――アカデミーでもトップクラスの実力者、学生連合という組織を束ねたカリスマ、学生連合で鳳グループを一度潰しかけたカリスマ性の持ち主など、良い意味でも悪い意味でも巴の名前はアカデミー都市内外に轟いていた。
多くの人間は巴の実力を知っており、どんな状況に陥っても巴なら大丈夫だと信じられていたからこそ、人から心配されるのは不慣れであり、麺と向かって自分を心配だという幸太郎にどう反応していいのかわからなかった。
戸惑う巴をよそに、幸太郎は部屋に備えつけられたお菓子の入ったお盆を持ってきて、棒状のスナック菓子を巴に「どうぞ」と差し出すと、差し出されるままに巴は手に取る。
「御柴さん、少しは周りに甘えてください」
「もう十分に甘えさせてもらっているわ」
アカデミーを変えようと設立した学生連合の暴走を率いていた身でありながらも、組織の暴走を止められず、永久追放になりかけた自分の代わりに父が責任を取り、そんなことがあって一時期は自暴自棄になりかけていた自分を友人たちが救ってくれた――それらがあったからこそ、もう巴は十分に周囲に甘えていると思っていた。
「それじゃあ僕に甘えてください」
「もちろん、君にも十分に甘えさせてもらっているわ」
お菓子を食べながら、頼りなそうなくらい華奢な胸を張る幸太郎を巴は不安に、それ以上に微笑ましく思いながらも、周囲が不安になるくらいの向こう見ずな彼の行動力と、優しい言葉に救われて、甘えてきたことを思い出し、これ以上彼に甘えられないと思っていた。
「もっと甘えてください」
「君は大和の一件でだいぶお世話になったし、甘えさせてもらったわ。今度は私がそのお礼をする番で、君を守るために行動しなければならないの。だから甘えていられないわ。それよりも、君こそ誰かに甘えているの?」
「クロノ君とかサラサちゃんとか――あ、リクト君には特に甘えさせてもらっています。リクト君の膝枕気持ちいいんですよ。頭も撫でてくれますし、リクト君はもう完全に
「……そういう意味じゃないんだけど」
自分が思っている『甘える』とはだいぶ違った意味の幸太郎に、嘆息する巴。
話が噛み合っていないようなのでこれで話を終わりにしようとするが――
「最近、御柴さんは誰かに甘えていますか?」
不意に放たれた幸太郎の問いに、巴は何も言えなくなってしまう。
そういえば……確かに、最近誰かに甘えていなかったような気がする。
ずっと甘えさせてもらっていたから、そのお礼をと考えるばかりだった……
でも、甘えさせてもらっていたんだから、今は甘えることは考えないようにしよう。
「十分に甘えさせてもらっていたから、別にいいのよ」
「僕は別に構いませんよ」
「君にも甘えさせてもらってから別にいいの」
「ドンと任せてください。御柴さんは友達ですから」
……まったく、どうして七瀬君はいつも……でも――
――って、違う違う! こんな状況で何を考えようとしているんだ、私は。
人の話を聞かない強引でしつこい幸太郎に呆れながらも――巴は僅かに彼に甘えたいという欲求が生まれてしまったが、慌てて頭を振ってそれを否定する巴。
そんな巴に幸太郎はチョコレートを「あーん」と差し出すと――差し出されたチョコレートを巴はおずおずといった様子で口に含んだ。
必死に抑えていた誰かに甘えたいという欲求が、幸太郎の言葉によって剥き出しにされてほぼ無意識に差し出されたチョコレートを口に含んでしまい、自分の無意識の行動に気づいた巴は顔を真っ赤に染めてしまう。
「美味しい?」
「こ、これは、その……糖分は消耗した身体に大切だからであって、その……」
「御柴さん、かわいい」
「うぅ……からかわないで、七瀬君……年下なのに……」
邪気のない素直な感想を述べる年下にいいようにされて狼狽えて気恥ずかしさで瞳を潤ませる巴に、さらに幸太郎は「あーん」とお菓子を差し出し、再び無意識に差し出されたお菓子を巴は口に運ぼうとすると――
「――いやぁ、どうなってるかなって思ったけど中々熱々だね、二人とも」
「こ、これはその……ち、違うわ! お、お菓子を食べさせてもらっているだけだから!」
「うん、一目瞭然だね」
突然の来訪者に素っ頓狂な声を上げながらも、アンプリファイアの影響で脱力していた身体を無理矢理動かして、巴は幸太郎の前に庇うようにして立った。
部屋に入ってきたのは勝ち誇ったような笑みを浮かべている空木武尊と、巴と幸太郎の様子を無表情ながらも興味深そうにまじまじと見つめている呉羽、そして幸太郎を連れ去った張本人であるヤマダタロウだった。
誤解されるシーンを見られていると思った巴は慌てた様子で弁解するが、意味はなかった。
慌てふためいている巴を微笑ましく思いながらも、武尊は彼女から幸太郎に視線を移し、値踏みするような目で見つめた。
「君が七瀬幸太郎君だね。はじめまして、私は空木武尊。彼女は私のボディガードの呉羽。御柴さんは知らないから紹介しておくけど、彼はヤマダ君だよ。君のことは婚約者の加耶とアルトマンたちからよく聞いているよ」
「もしかして大和君の婚約者の人ですか? はじめまして」
嫌味な笑みを浮かべて自己紹介をする武尊に、わざわざ自分を守るために前に立っている巴の前まで移動して、自分の譲許うくぉ理解していない幸太郎は呑気に挨拶をする。
そんな幸太郎に巴は「下がって!」と叱って自分の後ろに下がらせ、一方の武尊は想定外の幸太郎の行動に虚を突かれながらも、すぐに我に返って愉快そうに笑っていた。
「加耶の言った通り、中々七瀬君は面白そうな子だ。しかし、至って普通に見える君が賢者の石の力を得ているとは正直思えないなぁ。ヤマダ君はどう思う?」
「正直、僕もそうは思えないけど……まあ、詳しく身体を調査すれば解明できるよ」
話を振られたヤマダは、フレンドリーでありながらもどこか狂気を感じさせる笑みを浮かべてそう答えた。
「身体を調査……何だか照れます」
「大丈夫、オジサンが優しく、じっくりとねっとりと調べてあげるから」
「ヤマダさん、ちょっとエッチな感じがするので、武尊さんか呉羽さんにお願いしたいです」
「はっきりそう言われると何だか傷つくなぁ」
「それじゃあ……イヤらしい感じがします」
「それはそれでイヤだな」
空気を読まずに呑気な会話を繰り広げる幸太郎とヤマダ。
緩んだ空気が室内を支配しているが、幸太郎の前に守るようにして立つ巴はアンプリファイアで消耗しているというのに全身から溢れんばかりの闘志を漲らせていた。
「七瀬君に手を出したら許さない」
「大丈夫、ヤマダ君の言った通り無茶なことはしないよ。彼は賢者の石を宿しているという稀有な存在だからね。壊したら意味がないだろう? だからお客様として丁重におもてなしをするよ。今すぐにでも調べたいところだけど――その前にやることがあるから、それを終わらせてからにしようか」
どんなに強がっても今の巴は輝石を持っていないことはもちろん、まともに動くことができない無力であることを知っている武尊は不敵な笑みを浮かべていた。
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