第13話
「――アカデミー都市から出ようとする空木君を追いかけていたの」
「もしかして、一人で村雨さんの居場所を探ろうとしていたんですか?」
「ごめんなさい……やっぱり、どうしても黙っていられなくて。いつも無茶をしている麗華を注意しているけど、私も他人のことは言えないわね」
「でも仕方がありませんよ。私も同じ立場になったら同じ真似をしますから」
助手席にいるセラに車で登場した理由を巴は助手席にいるセラに車で登場した理由を話しながら、法定速度を軽くオーバーする速度で車を走らせていた。
一人で勝手な真似をしていた巴に呆れながらも、気持ちはわかるセラはこれ以上何も言わなかった。
「車を追えばきっと宗太君の居場所がわかると思っていたんだけど、急に車はアカデミー都市に戻ってイーストエリアに向かったの。同時にイーストエリアで幸太郎君たちが騒ぎに巻き込まれていることを美咲からの連絡で聞いて、もしかしたらと思ったの」
「今回の騒動で空木家はアルトマンたちと手を組んでいるようですね」
「まだ断定はできないけど、そうかもしわれないわね。失敗したわ。宗太君の人質騒ぎと大和の婚約騒動に注意を向いていたせいで、七瀬君のことを考えていなかったわ……ごめんなさい、セラさん。彼を守ろうと誓っている君に迷惑をかけてしまって」
「幸太郎君が勝手な真似をしたせいもあるんですから、巴さんに責任はありません」
「それでも、七瀬君を守ろうとしている君やティアや久住君に顔が立たないわ」
「い、今はとにかく連れ去られた幸太郎君を追いましょう」
運転に集中しながらも心からの謝罪をしてくる巴の罪悪感に苛まれた表情を見ていたら、セラは巴以上に罪悪感を抱いてしまった。
咄嗟にセラは目的を巴に再確認させて、罪悪感に苛まれている巴の気合を入れさせる。
セラの言葉を受けて、アクセルを踏む足の力が強くなる巴。
アカデミー都市内の地理を把握している巴は近道や裏道を使って幸太郎が乗る車を追いかけ、あっという間に幸太郎が乗っている車に近づいた。
「巴さん! 運転任せました!」
ある程度幸太郎が乗る車と距離が近づくと、セラは窓から猛スピードで走る車のルーフに乗り、全身に強い風を受けながらもバランスを保っているセラはチェーンにつながれた自身の輝石を武輝である剣に変化させた。
タイミングを見計らって幸太郎が乗る車へと飛び移ろうとするが――
そんなセラの行動を阻むように、宙に浮かんだ光から鎖がセラに向けて飛びかかってきた。
突然の攻撃に飛び移るのを中断し、逆手に持ち替えた武輝を振るって飛びかかる鎖を弾いた。
しかし、今度は四方八方から矢継ぎ早に鎖がセラめがけて飛んでくる。
高速で走る車の上であるのに躍るような動きで飛んでくる鎖を回避し、武輝で弾いた。
運転している巴もセラが襲撃されていることに気づいており、できるだけ速度を保ちつつ、セラのバランスを崩さないように攻撃を避けるために蛇行しながら運転していた。
巴の運転技術のおかげで幸太郎が乗っている車との距離は保ったままであり、突然の襲撃を回避・防御しつつ飛び移ろうとするセラだが――
「うっ……な、なんだ、これは……」
突然、全身に力が入らなくなってしまい、膝をついてしまうセラ。
同時に自分の全身に緑白色の光が纏っていることに気づき、そんなセラに向けて一気に鎖が襲いかかる。
脱力しながらもなけなしの力を振り絞って回避と防御を続けるが――動きが鈍くなったセラの動きを捉えるのは容易であり、鎖は彼女を拘束して投げ捨てた。
投げ捨てられたセラは年度も地面をバウンドして転がっていた。
そんなセラの様子をバックミラーで心配そうに確認しつつも、セラなら無事であると信じており、彼女なら自分に構わず幸太郎を追えと言うと思い、巴は車を止めることなく車を追った。
相手の方が運転技術は上だが、車の性能ではこちらの方が勝っているため、タイミングさえ掴めば一気に速度を上げて前方に回り込むことができると巴は判断した。
チャンスは直線が続くアカデミー都市の出入り口――そこで一気に速度を上げようと巴は考えていた。
高速で走る車はイーストエリアから、あっという間に直線が続くアカデミー都市の出入り口に到着し、アカデミー都市の外に出た。
ここで一気に速度を上げて、幸太郎が乗る車の前方へと回り込もうとした瞬間――
前方から自身の身長の倍以上もある槍を振り上げた女性――空木武尊のボディガードである呉羽が飛びかかってきた。
咄嗟に避けるためにハンドルを切るが、遅かった。振り下ろされた呉羽の武輝は巴が乗る車をちょうど運転席と助手席が半分になるように、縦一文字に切断した。
コントロールを失った猛スピードで走る車から、ブローチに埋め込まれた自身の輝石を握り締めながら飛び降りる巴は輝石の力を身に纏い、身体能力を向上させて華麗に着地した。着地と同時に車はガードレールに衝突して爆発、炎上した。
巴は輝石を武輝である十文字槍に変化させ、自身の前に立つ車を両断した呉羽に視線を向ける。離れる車を追いたかったが、呉羽から感じる圧倒的な力の気配と静かな闘志に、彼女をどうにかしなければ車を追えないと巴は判断していた。
「そこを退きなさい、呉羽さん」
「申し訳ないが、それはできない」
謝罪をしながらも呉羽は巴の前から退くつもりはいっさいなかったが、そんな彼女から僅かだが迷いのような揺らぎを感じた巴。しかし、それでも戦闘は避けられないと判断していた。
「――行くぞ」
短い言葉とともに呉羽は自身の槍である長い槍を振るって巴に襲いかかる。
そんな呉羽に向けて巴は静かに一歩を踏み込み、迎え撃とうとするが――力なく崩れ落ちた。
膝をついた巴を見て、呉羽は攻撃を中断して武輝を輝石に戻した。
「これは――……あ、アンプリファイアの力……ど、どうして……」
身体が緑白色に発光していることに気づくとともに、感じたことのある脱力感にアンプリファイアの力が流し込まれている気づいた巴。
「大丈夫かい、呉羽」
「武尊……助かった、ありがとう」
軽薄そうな声とともに現れるのは、空木武尊だった。
感謝の言葉を心底不承不承といった様子で口にして、自分の登場にあからさまに嫌そうな顔をする呉羽の気持ちを察して、「ごめんごめん」と適当に謝った。
「卑怯な横槍を入れてしまったことは申し訳ないと思うけど、ティアリナさんと戦った後でかなり消耗してると思ったから感謝してほしいんだけどな? ――でも、そんなに消耗してないようだね。ティアリナさんに苦戦しなかったのかな」
「運が良かっただけ。負けてもおかしくなかった」
「謙遜しなくてもいいのに。さすがは私のボディガードだ!」
アカデミー内外でも有名なほどの実力者であるティアと交戦しても傷一つついていない呉羽だが、ティアとの勝利を運が良かったと済ませる自慢のボディガードを心底武尊は誇らしく思っていた。
そして、武尊は上機嫌の顔を、大量のアンプリファイアの力を流し込んだのにもかかわらず、繊維を失わずに武輝を支えにして何とか立ち上がろうとする巴に向けた。
「無理して立ち上がらない方がいいよ? 巴さんには気を失うほどアンプリファイアの力を流し込んだんだからね」
「まだ……まだ、終わってない」
勝利を確信して余裕そうに微笑む武尊を、消耗しきっているというのに力強く鋭い目で睨む巴。しかし、気丈にふるまっているのは明らかであり、すぐに武輝が輝石に戻って地面に突っ伏してしまう。
「さて――呉羽、巴さんを車に乗せてくれないかな?」
「彼女は関係ない」
「鳳大悟の右腕である御柴克也の娘の巴さんを人質にすれば、いよいよ鳳グループは我々に従わざる負えなくなる」
「……了解した」
不承不承ながらも主の命令に従い、巴を抱える呉羽。
体内に渦巻くアンプリファイアの力のせいで意識が失う寸前――巴の耳に届いたのは、「ごめんなさい」という呉羽の謝罪の言葉だった。
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