第12話
「おいクロノ! この騒ぎでまだ制輝軍の連中は来ねぇのかよ!」
「普段なら来るはずだが、今制輝軍をまとめているのはアリスではなく美咲だ」
「そりゃまだ来ねぇだろうな……つーか、どうして銀城がまとめてるんだよ! もっとまとめるのにマシなのがいるはずだろうが!」
「美咲はそれなりに人望はあるぞ」
「サボるだろうが! 他人のこと言えないけどよ」
「……確かに」
先程までとは別人に感じるほどの力を放つヤマダと大量のガードロボットを相手にしてから数分経っているにもかかわらず、アカデミー都市内の治安を守っているはずの制輝軍が出動しないことに不平不満を垂れる刈谷。
苛立ちはじめている刈谷の気を静めようとするクロノだが、無駄に終わった。
そんな刈谷に飛びかかって不意打ちを仕掛けるヤマダ。
「不意打ちとは卑怯だっての!」
ヤマダの不意打ちを横に飛んで回避しながら、不意打ちを仕掛けてきたことを非難する刈谷。
そんな刈谷に「ごめんごめん」と反省の欠片を見せずフレンドリーな笑みで軽く謝るヤマダ。
「――でも、今の状況で卑怯も何もないんじゃないかな?」
「そいつは確かにそうだな! それなら――俺も遠慮なくそうさせてもらうぞ」
卑怯な真似も辞さないと臆面もなく言い放つヤマダに、刈谷はあくどい笑みを浮かべて同意をすると、手にしていた武輝を口に咥え、空いた手で隠し持っていたド派手に金色に染め上げたショックガンを取り出して引き金を引く。
幸太郎の持つものとは比べ物にならないほどに威力を改造をしたショックガンから放たれる衝撃波が直撃し、吹っ飛ぶヤマダ。
不意打ちを食らって吹き飛び、地面に叩きつけられたヤマダを見て、「ゲハハハハハッ!」と気分良さそうに凶悪な笑い声を上げる刈谷。
普通の輝石使いならば、直撃すれば一気に戦闘不能に陥るほどの威力を持つショックガンだが、それでもヤマダは立ち上がった。
それも――さらに力を上げて。
そんな山田の様子を見て、刈谷は億劫そうにため息を漏らす。
「どーするよ、クロノ……あのオッサン、何か妙だぜ」
「同感だ。あの男が使う力をどうにかしない限り、戦闘は終わらないだろう」
「そんじゃ、あの義手をどうにかしねぇとな」
「了解した」
輝石の力を纏う義手を切り落とすことに同意する刈谷とクロノの短い会話を聞いていたヤマダは、「それは勘弁してくれよ」とわざとらしく困った様子でそう懇願した。
「壊されたら困るんだ。この腕は高価なもので作るのも一苦労だし、未来のために必要なものだし――君たち輝石使いを痛めつけるためのものだからね」
そう言ったヤマダから憎悪と執念を纏った凶悪な殺気が、右腕の力とともに放たれた。
今までフレンドリーに会話をして、害がなさそうな特筆すべき点のない顔で取り繕っていたヤマダだが、ここでようやく見え隠れしていた彼の凶悪な本性が露になる。
――この男は危険だ。
ヤマダから感じるどす黒い気配にそう判断したクロノは、刈谷に目配せをする。
クロノと同じことを思っている様子の刈谷は小さく頷き、一気に決着をつけるためにヤマダに飛びかかろうとした――が。
「腕を切り落とせば貴様など恐れるに足らん!」
「おい貴原! 邪魔すんじゃねぇよ! いいからお前は大人しくしてろって!」
「無様な醜態を晒したままでいられるか! ここは任せてもらいますよ、刈谷さん!」
刈谷とクロノが考えていた計画を一気に崩すようにして、さっきまでダウンしていた貴原が起き上がり、武輝であるサーベルを振り上げてヤマダに飛びかかる。
刈谷の制止を無視して一気に間合いを詰めた貴原は、ヤマダの義手の右腕めがけて武輝を振り下ろした。
「若いって素晴らしいね、貴原君。でも、そろそろ時間切れだ。もう少し実験をしたいんだけど、七瀬君が逃げて少々時間がかかりすぎた。そろそろお暇しようと思っているんだ」
「グヌヌ……バカにするのもいい加減にしてもらおうか!」
威勢だけは立派な貴原を嘲笑するようにそう呟いたヤマダは、目前に迫る貴原の武輝の刃を右腕で難なく掴む。
すぐに貴原は武輝を掴んでいるヤマダを引き離そうとしたが、どんなに力を込めても武輝はビクとも動かない。
「君のような輝石使いを見ていると――反吐が出るんだ」
フレンドリーな笑みを浮かべながらそう吐き捨てたヤマダは、右腕に軽く力を込めて掴んでいた刀身を持ち上げる。それに合わせて貴原の身体も宙に浮く。
貴原のフォローに向かおうとする刈谷とクロノだが、そんな二人に向けてヤマダは貴原を思い切り放り投げた。
勢いよく向かってくる貴原の身体を避けることができなかった刈谷とクロノは、仕方がなく彼の身体をキャッチする。
そんな三人に向けて右手をかざしていたヤマダは先程のように光弾を発射させようとするが――それをどこからかともなく飛んできた衝撃波が阻む。
衝撃波を放ったのは先程逃げたのに戻ってきた、無理して平凡な顔立ちに力を入れてカッコつけているせいで、不細工な顔になっている自身の唯一の武器であるショックガンを持った七瀬幸太郎だった。
「おお、七瀬君じゃないか。どうしてこんなところに?」
「加勢に来ました」
「無理して加勢に来るとは君は噂通りの人物というわけか。僕の運はかなりいいようだ」
足手纏いになるのは確実だというのに刈谷たちの加勢に来たという幸太郎に、わざわざ目的の人物が来てくれたことを心底嬉しく思っているヤマダ。
「バカ野郎! どうして戻ってきやがった!」
「セラさんたちと制輝軍の人たちを呼びました」
「そういう問題じゃねぇだろうが! お前、自分が狙われてるって理解してんのか、バカ! それに、お前みたいな足手纏いは邪魔なだけなんだよ」
「ダメでしたか?」
「当然だろうが! こっちにも『計画』ってもんがあるんだよ!」
「でも、刈谷さんたち苦戦してたみたいでしたよ?」
「余計なお世話だバカ!」
「貴原君だってボロボロみたいですし」
「君のような落ちこぼれに心配される筋合いなどない!」
自分の置かれた状況をまったく理解していないで、自分たちの加勢に来たという幸太郎のお節介と呑気さに怒る刈谷と、心配されてプライドが刺激される貴原。
呑気な幸太郎と口論している刈谷を放って、すぐにクロノは幸太郎の元へと駆けつける――が、僅かにヤマダの行動の方が早かった。
ヤマダは刈谷たちとの戦闘を放って幸太郎の元へと向かい、義手である右腕で彼の首根っこを掴んで軽々と持ち上げ、この場から即座に離れようとする。
幸太郎は突然の事態に反応できずにただヤマダに持ち上げられていた。
「簡単に逃げられると思うな」
静かな怒りに満ちた声と同時に、幸太郎を連れ去ろうとするヤマダの逃げ道を阻むようにどこからかともなく光の刃が飛んでくる。
「セラさん」
「幸太郎君! 勝手な真似をするなとあれほど言ったでしょう!」
「ごめんなさい」
「すぐに助けますから待っていてください」
刈田な真似をした挙句に捕まった幸太郎への怒りの言葉とともに現れるのは、武輝である券を手にしたセラ・ヴァイスハルトだった。
セラはクロノとともに疾走し、幸太郎を捕らえているヤマダとの距離を一気に詰める。
しかし――突然、刈谷たちが破壊したガードロボットの残骸が閃光とともに爆発する。
耳をつんざく爆音とともに発生した閃光で視界を一瞬奪われてしまうセラたち。
その一瞬でヤマダは用意していた逃走車に幸太郎を乗せ、発進させる。
視界が回復する頃には、幸太郎を乗せた車はだいぶ離れていた。
「待て! ――邪魔だ!」
それでも構わず追いかけようとするセラの前に現れるガードロボットたち。
一気にガードロボットを破壊しようとするセラだが――その前に突然現れた車がガードロボットを轢き飛ばした。
「乗って、セラさん!」
「巴さん、どうしてここに?」
「説明は後、七瀬君を追いかけるんでしょう? いいから乗りなさい!」
「御柴の言う通りだ。ここはオレたちに任せろ」
ガードロボットを轢き飛ばした車に乗っていたのは巴だった。
突然の事態に収拾がつかなかったセラだが、巴とクロノの一言に我に返ってすぐさま助手席に乗る。
セラが乗ると同時に巴はアクセルを思い切り踏み込んで、幸太郎が乗る車を追った。
「お前らの相手は俺たちがしてやるよ!」
「すべてはセラさんのために! セラさん、僕の活躍を見ていてください!」
セラたちの後を追おうとするガードロボットたちの前に立ちはだかる刈谷と貴原。
その間にセラと巴が乗った車はあっという間に離れて行った。
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