第二章 燻ぶった復讐心
第10話
――おかしい……何かがおかしい。
武輝を扱っていることは間違いないのに――……何かがおかしい。
あの男、一体何者だ?
ガードロボットの相手をしながら、刈谷と貴原の二人と戦うヤマダの様子を眺めているクロノは、刈谷と貴原と戦うヤマダから違和感を覚えていた。
武輝であるサーベルを持った貴原と、武輝であるナイフと改造した特殊警棒を手にした刈谷はガードロボットの相手をしながらもヤマダを圧倒していた。
大胆不敵で思いきりがいいが、調子に乗っているのに加えて実力が伴っていない動きのせいで隙の多い貴原とヤマダは実力が伯仲していたが、冴えない風貌からは信じられないほど戦闘慣れした動きでヤマダは貴原を徐々にだが確実に追い詰めていた。
そんな貴原を刈谷は手にした武輝と警棒でフォローしており、刈谷のフォローがあって好き勝手に貴原は動いていた。
貴原が好き勝手に動いているせいで連携と呼ぶにはあまりにも拙いが、それでもヤマダは二人を相手にあっという間に追い詰められていた。
だが――クロノの目にはヤマダが追い詰められているようには見えなった。
追い詰められながらも徐々にだがヤマダは二人の動きについてきており、同時に彼――主に、武輝として扱っている右腕全体から感じられる力が強くなったような気がしていたからだ。
そんなヤマダの右腕から放たれる力は、輝石のようでいて輝石とは異質なものだと、輝石から生まれた存在であるクロノは感じ取り、違和感を覚えていた。
ガードロボットの相手をしながらヤマダを観察しているうちに、一気に刈谷と貴原の二人とヤマダの決着がつきそうになっていた。
輝石の力を纏った右腕を振りかざしながら貴原と刈谷に接近するヤマダ。
自身に接近するヤマダに向け、刈谷は大きく一歩を踏み込んで迎え撃つ。
間合いを詰めてきた刈谷の顔面にヤマダの拳が接近するが――ギリギリまでひきつけて回避した刈谷は、ヤマダの顔面に特殊警棒を握り締めた拳をぶつける。
怯むヤマダに貴原は無駄な動きで刀身に輝石の力を纏わせた武輝から衝撃波を放つ。
衝撃波が直撃したヤマダの身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。
大の字になって地面に倒れたまま動かないヤマダだが、まだ右腕には輝石の力が纏っており、全身からも闘志が失われていなかった。
「ハーッハッハッハッハッハッハッハッ! 勇んできた割には大したことがない男だ! セラさんに手を煩わせるほどでもない」
「まあ、確かになぁ……どーするよ、オッサン。ここで降参した方が身のためなんじゃないの?」
「気をつけろ。その男、何かがおかしい」
「何を心配する必要はあるのだクロノ君! 君ほどの実力者がこんな男に警戒するとはらしくないじゃないか」
「バカ。クロノの言う通りだ。それにオッサンはまだまだやる気みてぇだぞ」
あまりの手応えのなさに調子に乗る貴原と、クロノと同じく違和感を覚えつつも降参を促す刈谷。そんな二人に警告するクロノ。
自分たちを相手に手も足も出せずに倒れているヤマダに警戒心を抱くクロノの警告を、調子に乗る貴原は軽く聞き流していたが、刈谷はあれだけの一撃を受けてもヨロヨロと立ち上がるヤマダを見て、彼を強く警戒しているクロノに同意を示した。
「さすがは輝石使いだ……ここまで圧倒してくれるとはね」
「フン! 無理をしないで大人しく寝ていればよかったものを!」
「そうしたいのは山々なんだけどね、これも仕事の一つなんだよ貴原君」
「中々の力だが所詮は悪足掻きに過ぎない! まあ、諦めずに立ち向かおうとするその心意気は賞賛に値するがね! しかし、相手が悪かったようだね!」
輝石の力? が、さらに強く――
この男、やはり何かがおかしい。
ヤマダの右腕に纏う輝石の力がさっきよりも段違いで強くなった。
それを肌で感じ取ったクロノはもちろん、刈谷もさらに警戒心を高めるが――一人調子に乗っていた貴原は最後の悪足掻きだと思ってまったく気にしていなかった。
「どんなに悪足掻きをしようとも埋められない力の差というものをこの僕が教えてやろうではないか! さあ、悪足掻きもここまでだ!」
「バカ、貴原! 無暗に近づくんじゃねぇ!」
「この戦い、この僕が幕を下ろそうじゃないか! ハーッハッハッハッハッハッ!」
刈谷の制止も聞かずに調子に乗って武輝であるサーベルの刀身に光を纏わせ、振りかざしながらヤマダに飛びかかる貴原。
そんな貴原に向けて右腕をかざすヤマダ。その姿はまるで自分に『待ってくれ』と懇願するように見えた貴原はサディスティックな笑みを浮かべる。
トドメの一撃を食らわせようとする貴原だが――
貴原に向けてかざしたヤマダの右掌から光弾が発射される。
突然の攻撃に避けられなかった貴原は光弾に直撃して吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
そして、気絶したのか貴原の手に持っていた武輝が一瞬の光とともに輝石に戻った。
「よし、力の使い方も少しずつだがわかってきたぞ」
「あーあ……だから言ったのに。おーい、大丈夫か貴原――ダメだな、ありゃ。一発KOだ」
「ごめんごめん。実践ははじめてだから、加減がわからなかったんだ」
「気にしないでもいいよ。アイツの自業自得だからさ」
せっかく注意をしたのにそれを無視して飛びかかり、挙句に一発で倒された憐れな貴原に深々と嘆息する刈谷。
いくら貴原でも、一撃で倒すほどの威力を持っているのか?
あの右腕は一体――いや、あれはまさか……
ぎこちない動きで右手を動かす貴原を注意深く観察するクロノは、光弾を放ったせいでヤマダが右手につけていた皮手袋が破けていることに気づいた。
破けた皮手袋から垣間見える右手は銀色に光っており、機械のようだった。
「それで――オッサン、一体アンタの右手は何なの? それ、武輝か?」
「昔仕事で右腕を失ってしまってね、そのせいで義手なんだ。これが僕の武器だよ」
貴原を一撃で倒した威力を持つ、機械のような右腕を見た刈谷の質問に、ぎこちない動作で右腕の義手を動かしながら、昔の苦い思い出に苦々しい笑みを浮かべてヤマダはそう答えた。
「確認のためにもう少し動かしたいから、まだまだ相手をお願いするよ?」
特徴のない顔を凶悪なものに変えて、ヤマダは再び刈谷とクロノに飛びかかる。
義手の右腕から、それ以上にヤマダから感じられる不気味で不穏な気配に気圧されながらも、刈谷とクロノは迎え撃つ。
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