エピローグ
夜の闇に染まった鬱蒼とした森の中を武輝である太刀を手にした一人の青年が息を切らして走っていた。
精悍な顔立ちを泥汚れと焦燥感で満たした短髪の青年――村雨宗太は悪い足元のせいで何度も転んではすぐに起き上がり、必死に走っていた。
村雨の背後からは圧倒的な力の気配と殺気が迫ってきていた。
――早く、早く伝えなければ!
アカデミーに――克也さんに!
背後から迫る圧倒的な気配に逃げているわけではなく、村雨は自分が得た情報をアカデミーにいる仲間たちに伝えるために走っていた。
しかし、それを背後の気配が阻んだ。
村雨は一緒にいた二人の仲間とともに背後にいる気配の主と戦うが、三人同時に相手をしても圧倒的な力の差で敵わなかった。
情報を伝えるために村雨の仲間たちは時間稼ぎを買って出てくれたが、背後に迫る圧倒的な力の気配を放つ存在には敵わず、すぐに背後の気配は村雨を追いはじめた。
自分のために時間を稼いでくれた仲間たちのために、村雨は何とかして情報をアカデミーにいる仲間たちに届けなければならなかった。
その使命感のまま村雨は走り続けていた。
長い間全速力で走り続けても背後から迫る気配は強大さを保ったまま離れることがなかったが――ここで、急に背後の気配がなくなった。
――気配が消えた?
おかしい、さっきまでずっと追ってきたのに……
……諦めた? ――いや、そんなわけがない。
不自然なほど急に消えた気配に不信を抱く村雨だが、足は止めない。追うのを諦めるような簡単な相手ではないことは村雨は身をもって実感したからだ。
追うのを諦めたと思って安心したところで、襲いかかってくることは容易に想像できた。
だから村雨は足を止めずに走り続けていたが――一瞬、身体を駆け抜ける疾風が吹く。
その瞬間、村雨の周囲を囲んでいた木々たちが一斉に切り落とされた。
突然の事態に唖然としていると、どこからともなく光弾が飛んでくる。
咄嗟に村雨は横に飛んで回避。
気配が現れた――それも前から。
……回り込んでいたんだ。後ろにばかり気を取られて失念していた。
今度は背後ではなく前方から感じ取るとともに、戦闘は避けられないと思い武輝をきつく握りしめる村雨。
「……頼む、そこをどいてくれ」
前方にいる気配に向けて村雨は声をかけるが何も反応はなく、返事の代わりに圧倒的な力の気配と殺気を村雨にぶつけてきた。
――やれるのか?
……やるしかない――いや、やるんだ!
俺がやらなければ、鳳グループが大変なことになるんだ。
せっかくアカデミーは大きく変わろうとしているのに、それの邪魔をされるわけにはいかない!
強大な敵を前にして浮足立つ自分自身に喝を入れる村雨。
「悪いが、今のアカデミーの邪魔はさせない――何としてでもそこをどいてもらうぞ!」
言い終えると同時に村雨は前方に向けて飛びかかった。
一分程の短い時間、森の中には激しい剣戟の音が鳴り響いていた。
そして、一分経過すると同時に森の中が静かになり――すぐに爆発音が夜の闇に響き渡り、多くの木々を吹き飛ばし、薙ぎ倒すほどの衝撃波が森の中に広がった。
衝撃波が過ぎ去ると同時に一本の武輝が宙に舞う。
宙に舞った武輝が、木々が吹き飛ばされて荒地となった地面に突き刺さる。
地面に突き刺さったのは村雨の武輝である太刀だった。
地面に突き刺さった武輝は、すぐに儚い光とともに輝石へと戻った。
――――――――続く――――――――
次回、今年中には何とか!
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