第27話
鳳グループ本社内にある豪勢な一室にある簡易ベッドに寝かされている麗華とともに、幸太郎は見舞いの品である豪華なフルーツバスケットの中にある果物を食べていた。
負傷して激しく抵抗できない麗華は、幸太郎に果物を食べさせられていた。
自分よりも遥かに下に見ている相手に甲斐甲斐しく介護をされ、屈辱を味わう麗華だが――ブツブツ文句を言いながらも、幸太郎に身を委ねていた。
「麗華さん、次何食べる?」
「その不出来なウサギ型のリンゴを食べさせるのですわ!」
「個人的にはちゃんと剥けたと思うけど――はい、どーぞ」
「フフン、さすがは最高品質のリンゴ。出来の悪いカットでも、味は最高ですわ」
「ホント、薫先生が持ってきた果物美味しいよね。もう一個食べる?」
「聞く前に行動するのが基本ですわよ!」
「じゃあ、どんどん入れるね」
「わっ、ちょ、ちょっと待ちなさい! そんなっ強引にっ! んっ、じゅる、ずぞっ、じゅ! んっ、じゅっ――い、いい加減にしなさい!」
「イダッ、イダダダッ! 麗華さん、み、耳! 耳、引っ張らないで!」
言われた通り、麗華の大きな口の中にリンゴ、ブドウ、バナナを放り込む幸太郎。
バナナを頬張って、涙目になる麗華を無邪気な加虐心に溢れた目で幸太郎は見つめていると――麗華の怒りが爆発し、幸太郎の耳を容赦ない力で捻り上げた。
しばらく捻り上げて満足した麗華は強引に幸太郎の耳を掴んでいた手を放し、昂った気分を落ち着かせるように深呼吸すると、真っ赤になった耳を抑えて涙目になっている幸太郎をじっとりとした目で睨むように見つめた。
「それで? ……あなたはここで何をしていますの?」
「麗華さんと一緒にいるよ」
「そんなことはわかっていますわ! ――ただ、あなたにしては珍しいですわね。これから一大決戦が行われるというのに、それについて行かないとは」
いつもなら身の程を知らずに危険に首を突っ込むのに、これから決戦に向かうセラたちと一緒にいないでのんびりしている幸太郎を、意外そうに、僅かに安堵したように麗華は見つめた。
「克也さんに留守番しろって言われたから」
「克也さんの判断は正しいですわね。余計なことをして引っ掻き回して、状況をさらに混乱させるあなたが今の状況で、セラたちと一緒にいれば多大な迷惑がかかりますわ」
「克也さんにも同じことを言われて、ぐうの音も出なかった」
自分に留守番を命じた克也と同じく、容赦のない麗華の言葉に、反論できない幸太郎は笑うことしかできなかった。
「……どうせ、あなたのことですから、克也さんの言いつけは守らないつもりなんでしょう?」
「わかる?」
「当然ですわ。単純なあなたの考えなど容易に読めますわ」
「でも、麗華さんも同じだよね」
「……フン! 知ったような口を利かないでいただけます?」
お互いに大人しくするつもりがないということを十分に理解していた。
自分を理解しているつもりの幸太郎に不快感を露わにする麗華だが、僅かに嬉しそうだった。
「――それで、あなたはこれからどうしますの?」
「セラさんたちが気になる」
「あなたが行ったとしても、何の戦力にもなりませんわ」
「ぐうの音も出ない」
容赦のない麗華の一言に苦笑を浮かべることしかできない幸太郎を見て、麗華は「そういえば――」と何かを思い出し、話を続ける。
「あなたにも煌石を操る力を持っていましたわね。そう考えると役立たずと判断するのはいささか早すぎるかもしれませんわ――いいですわ、幸太郎、あなたの好きにしなさい」
「ドンと任せて」
輝石をまともに使えないのにもかかわらず、幸太郎にも煌石を扱える僅かな素質を持っていることを思い出す麗華は、彼を役立たずの烙印を押すのはまだ早いと判断して、彼の判断に任せることにした。
好きに動いても良いと麗華の許可を得た幸太郎は頼りないほどの華奢な胸を張って、やる気を漲らせた。
「麗華さんはどうするの?」
「今、大和がお父様と話し合っていますわ――それ次第ですわね」
「身体の具合、大丈夫?」
「私のアンブレイカブルボディを甘く見ないでいただけます?」
「ダイナマイトボディじゃなくて?」
「おだまり! とにかく、私はあなたに心配されなくとも平気なのですわ!」
「本当?」
「しつこいですわね! あなたに心配されるのが一番の屈辱ですわ!」
「ホント?」
「――っ! ……バカ」
しつこく自分のことを心配しながら、純粋な光を宿した水晶玉のような澄んだ目で真っ直ぐと見つめてくる幸太郎に、麗華は怒りのピークに達すると同時に――力を抜く。
自分が無理をしていることを見抜き、相変わらず呑気な幸太郎の態度を見ていたが、麗華は無理してるよがっていることがバカバカしくなって、力を抜いてしまっていた。
ボーっとした締まりのない表情を浮かべる幸太郎を、僅かに潤んだ瞳で、いつもの強気な態度を一変させ、か弱い少女のように麗華は見つめた。
「あなたは意地悪ですわ」
「そうなの?」
「どうして、あなたはいつもいつも……ホント腹立たしいですわ」
「ごめんね」
「あなたの謝罪は聞き飽きましたわ。謝れば済むと思っているでしょう?」
「ぐうの音も出ない」
「……バカ」
幸太郎の優しさに触れて、強がることを――
「仲睦ましいところ、お邪魔をして悪いんだけど――」
笑いを堪えながらのその一言に、ふわふわ浮かぶような心地良い感覚に陥っていた麗華は一気に現実に戻って我に返った。
顔を真っ赤にさせて、音もなく部屋に入ってきた声の主――ニヤニヤとした笑みを浮かべている大和を羞恥と屈辱と怒りに満ちた視線で睨んだ。
かわいらしい幼馴染の反応を舐め回すように見つめた大和は満足そうに微笑み、彼女の怒りを無視して話を進める。
「例の件だけど――大悟さんは中々許可しなかったけど、最後は状況を考えて折れてくれたよ」
「……お父様よりも、あなたは大丈夫ですの?」
「まあ――……うん……一応、心の整理はちゃんとついているからさ」
大和の報告を聞いた麗華は、さっきまでの激情を忘れて、軽薄でありながらも力のない笑みを浮かべる幼馴染を心配そうに見つめた。
「……あなたがそう言うのなら、私は何も言いませんわ。――ただ、あなたが『御子』としての力を使わなくとも、教皇庁と鳳グループの連携が強くなったら対応は何とかなりますわ」
「それでも、最悪な事態を想定しなくちゃダメだろう? ――ほら、麗華。さっき幸太郎君を見つめていたかわいらしい目で僕を見ないで、いつもみたいにバカみたいに高笑いをして強気な態度に戻ってよ、ね?」
「まったく――では、わかりましたわ! そうと決まれば大和! さっそく動きますわよ!」
憎たらしくも大和らしい発破のかけ方に、麗華は思わず苦笑を浮かべながらも――いつものような態度に戻った麗華は横になっていたベッドから勢いよく起き上がった。
いつもの調子に戻った麗華を、大和は満足そうに見つめていると――「大和君」と幸太郎が何気ない調子で話しかけた。
麗華と大和が何をするのかはわかっていないようだが、いつもと比べて大和に元気がないことを幸太郎は何となく察していた。
「大丈夫?」
「……じゃあ、幸太郎君。僕をギューッて抱きしめて、耳元で大丈夫って囁いてよ」
「いいの?」
「ドンと来てよ」
「じゃあ、ドンと任せて」
からかうような笑みを浮かべた大和の言葉を、すぐに実行しようとする幸太郎。
大和の身体を抱きしめようとする幸太郎だが――「ストープッ!」と麗華が間に入った。
間に入ってきた麗華を、大和は待っていましたと言わんばかりに口角を吊り上げた。
「そんなことをしている暇があったら、さっさと事件を解決しますわよ!」
「幸太郎君に抱いてもらいたかったなぁ」
「その言葉は誤解を生みますわよ!」
「麗華、エッチだね」
「シャラップ!」
騒がしくも微笑ましいやり取りをしながら麗華は大和を引きずって部屋を出た。
幸太郎も自分の好きに動くために二人に遅れて部屋を出た。
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