第20話

「負傷した美咲さんとアリスさんはクロノ君がいる部屋へと運びました。二人とも意識不明のままですが、すぐに目が覚めるとのことです。ですが、二人とも怪我を負っているとのことで、しばらくはまともに戦闘するのは難しいらしいです。それに、制輝軍の方々はかなりの負傷者が出ています」


 鳳グループ本社の社長室に呼び出されたリクトは、鳳グループ本社前で暴れていた美咲と、彼女を止めようとしたアリスと制輝軍たちの状態を、目の前で机を挟んで椅子に座っている大悟、その横にいる克也、克也の隣に寄り添うようにして立っている萌乃、そして自分と同じく呼び出された出入り口の扉の近くに立っているアリシアに説明した。


「それにしてもちょうどよかったです。クロノ君の検査のために呼んだ医師の方々がまだ鳳グループに残っていて。おかげで病院の移送や怪我の処置もスムーズに行えました。ですが――制輝軍と風紀委員に負傷者が大勢出ているの現状は少しマズいですね」


「巴はどうだ?」


「巴さんはほとんど怪我を負ってはいないそうですが、激しく美咲さんとぶつかり合ったので、念のために医師の方々が診ています」


 ぶっきらぼうな様子で娘を心配する克也に、リクトはあえて何も言わなかったが、微笑を浮かべながら巴の様子を説明すると、克也は「そうか」と素っ気ない返事をしながらも僅かに安堵しているようだった。


「もう、克也さんったらかわいーの! 安心したなら素直に言えばいいのになぁ」


「いい加減その気持ちの悪い猫撫で声を出すのはやめなさいよ。聞いていて恥ずかしくなるわ」


「あら、かわいげのないアンタよりかはマシだと思うけどなぁ」


 甘々猫撫でボイスの萌乃の声に大悟たちから数歩離れた場所にいるアリシアは苛立ち、そんなアリシアを煽る萌乃に、アリシアは忌々しげに舌打ちをして自分を呼び出した大悟を睨んだ。


「それで、私を呼び出した要件は何? 悠長に話している暇があったらさっさと銀城美咲が暴れたせいで混乱している状況を治めなさいよ」


 ピリピリしているアリシアの空気に、室内の雰囲気が悪くなっていた。


 しかし、アリシアの言うことはもっともなので誰も何も反論できなかった。


「大悟さん、アリシアさんの言う通りです。制輝軍に大勢怪我人も出ているせいで今回の騒動を治めるための人員が少なくなってしまっています。そして、教皇庁は裏切者の存在と、鳳グループ関係悪化を気にして混乱しています。今は僕たちと話すよりも、教皇庁との連携を強めるべきではないでしょうか」


「お前らの言いたいことはわかるが、秘密主義のこの男が秘密を話してくれるそうなんだ。少しだけ我慢してくれ――さあ、大悟、さっさと話せ」


 悪くなる一方の状況にリクトは不安げな面持ちで、自分とアリシアを呼び出した大悟に視線を向けて自分の意見をハッキリと述べるが――大悟は相変わらず無表情のままだった。


 不満を抱いているリクトとアリシアを諌める克也に促され、大悟は頷く。


「今から話すことは今まで誰にも言ったことのない真実だ。それに、呼び出したお前たちに深く関わっている。特にアリシア、お前には是非聞いてもらいたい」


 真実を話すつもりの大悟に室内の空気が静まり返った。


 苛立つアリシアは文句を言いたい気分だったが、それを堪えてソファの上に深々と腰掛けて大悟の話を大人しく聞くことにする。


「すべてを話す前にこれだけは言っておく――教皇庁内部にいる裏切者はエレナだろう」


 教皇庁トップである教皇エレナがアルトマンとつながっている裏切者だということをハッキリと大悟が告げた瞬間、空気が一瞬にして張り詰めた。


「前から不自然に思っていたが今回の騒動で確信した。エレナは――」


「そ、そんなことありえません! 大悟さんだって母さんの今までの活躍を見てきたはずです! そんな人がアルトマンさんと組んでアカデミーを混乱に陥れるわけないでしょう」


「あの女の味方をするわけではないけど――……判断が遅いところが欠点だけど、教皇としてはよくやっていたと思う。忌々しいほどね。そんな奴が裏切者だなんて信じられないわね」


 大悟の言葉を遮り、誰よりも早く、考えるよりも早くリクトは大悟の言葉を否定した。


 息子として誰よりも近くで母の活躍を見てきたリクトとしては、大悟の言葉は信じられない。


 そんなリクトに心底不承不承といった様子でアリシアも同意した。


 二人だけではなく、鳳グループである克也と萌乃も大悟の言葉を信じられなかった。


 異なる組織に所属している人間でさえも、教皇エレナ・フォルトゥスは信用に足る存在だった。


「教皇が裏切者に足る証拠がないと、それを言っても誰も信じるわけがないわ」


「残念だが。だから、証拠は存在しない」


「それなら、母さんが裏切者である確証は何もないんじゃないんですか!」


 エレナが裏切者だという証拠を求める萌乃だが、大悟は首を横に振る。


 冷静さを欠いているリクトは、証拠がないのに母を裏切者だと決めつける大悟に声を荒げるが、「落ち着きなさい」とアリシアがリクトを制する。


 ありえない――絶対に、ありえない!

 母さんが……あの母さんが絶対にアルトマンさんとつながっているわけがない!


 一応大人しくなるリクトだが、胸の中では大悟の言葉を否定して母を信じていた。


 そんなリクトを一瞥した後、アリシアは鋭い目で大悟を脅すように睨む。


「毎回証拠を消してるって言ったわね……どういう意味かしら?」


「言ったままの意味だ。そういう約束したんだ」


「誰と約束したのか知らないけど、前からエレナを不自然に思っていたなら普通は証拠を残しておくべきじゃないの?」


「仕方がない。それが、だったんだ」


「意味がわからない。約束したのがエレナってどういうことなの?」


 エレナを疑わしいと思いつつも証拠を残さなかった大悟に侮蔑の視線を送っていたアリシアだったが、証拠を消す約束をしたのがエレナだと言った大悟にアリシアは困惑する。


 困惑しているのはアリシアだけではなく、克也たちも同じだった。そんな彼らを見て、大悟は軽く一度深呼吸をした後――すべてを話すために口を開く。


「私とエレナが互いに所属している組織に秘密裏に接触する場合、証拠はいっさい残さない――十数年前に協力し合うと決めた時にそういう約束をしていた。だから、私が証拠を消した」


 一瞬の静寂の後――室内の空気が驚きに包まれる。


 声を出せないほど驚いているリクトたちを無視して大悟は淡々と話を進めようとすると、「――待て」と平然を装いながらも動揺を隠しきれない克也が割って入った。


「お前とエレナはずっとつながっていたということか?」


「ああ」


 人の気も知らないで平然としている大悟に苛立ちを覚える克也だが、隣にいる萌乃が「まあまあ落ち着いて」と諌めてくれたので、苛立ちを抑えることができた。


「どうしてそれを俺や萌乃に黙ってた」


「エレナと協力すると約束した時はアカデミーが設立する前だった。まだ教皇庁は先代教皇に支配され、鳳グループも前社長が率いていた。信頼できる人間が限られ、どこで情報が漏れるかもわからない状況で秘密を共有するには我々だけで十分だという判断をしただけだ」


 大悟の淡々とした答えに克也は何も言い返せなくなる。


 鳳グループ前社長も、先代教皇も自分たちの利益になるためなら何でもするタイプであり、彼らの周りにいる人間も似たタイプであり、今のように味方が大勢いるわけでもなかったので、秘密を誰にも共有しないのは正しいと、不承不承だが克也は認めざる負えなかった。


「私とエレナはお互いが所属している組織に不満を持ち、何とかして変えたいと思っていた。しかし中々上手く行かなかった――だが、祝福の日が大きな転機になった。祝福の日で世間からの非難を避けるのに必死だった鳳グループと教皇庁を追い詰めることにした。自分たちが知る鳳グループと教皇庁トップの醜聞を流した。先代教皇がエレナを利用していたこと、鳳グループ前社長の数えきれない悪事を。それが成功して両組織のトップを追いやり、我々がトップになり、教皇庁と鳳グループが強固な協力関係を結ぶことを目指した」


 淡々と説明しているが、今の教皇庁と鳳グループが成り立っている裏側で起きていた真実に、大悟以外の人間は驚き、黙って彼の言葉に耳を傾けることしかできなかった。


「そこまでは順調だったが、それからが苦難の連続だった。先代教皇と鳳グループ前社長が遺した負の遺産は多く、鳳グループ上層部や枢機卿たちは自分の利益ばかりを優先する人間ばかりで信用できる人間が限られていた。そんな状況で私とエレナだけでは、組織の連携を強めることができず、負の遺産も片付けられなかった――そんな時に利用しようと決めたのが『幽霊輝士ゆうれいきし』だ」


 教皇庁に長くいる者なら誰でも知っている、悪さをすれば『幽霊輝士』が現れるという、おとぎ話の登場人物を口に出す大悟が理解できないリクトたちだったが――克也、萌乃、アリシアに大悟が視線を移したことによって、幽霊輝士の正体を察することができた。


 リクトたちが幽霊輝士の正体を察したことを大悟は悟る。


「もちろん、フィクションの登場人物に頼ったわけではなく、幽霊輝士は私とエレナの隠語だ――その正体は察していると思うが、克也、萌乃、そして、アリシア、主にお前たちのことだ」


 大体察しができていたので克也と萌乃は自分たちが幽霊輝士であるということに特に驚いていなかったが、アリシアだけは理解しながらも戸惑っていた。


 枢機卿だった時、アリシアは虎視眈々と復讐の機会を狙いながら、好き勝手に枢機卿の権力を振っており、利用されていた覚えはないからだ。


「大体どんな仕事をしてきたのか、想像はできるわね――この前、克也さんを教皇庁旧本部がある国に海外出張させたのも、幽霊輝士としての仕事かしら?」


「その通りだ。もちろん、巴が率いていた学生連合の暴走の一件で克也の立場が悪くなり、処分の一環で海外へ向かわせた理由ももちろんあるが、次期教皇最有力候補の人間の中に不正をしている人間がいるという情報をエレナから得て、鳳グループと教皇庁の連携を強めるためという名目で不正をしている次期教皇最有力候補を追ってもらっていた。その結果、克也はリクトともに上手く事件を解決してくれたというわけだ」


「まったく……ムカつく奴だ。とことん人を利用しやがるとはな」


 察しの良い萌乃に、長い間教皇庁旧本部に克也を送り出していた理由を話した。


 周囲に思惑を悟られずに人を巧みに動かす大悟に、克也は立腹していたが、同時に周囲に悟られずにエレナと巧みに連携を取る大悟に感心していた。


 克也と萌乃から、大悟は不機嫌そうに、そして納得してない様子のアリシアに視線を移す。


「教皇庁内にいる邪魔な人間、危険な人間、許されない罪を犯して一線を越えた人間は克也と萌乃の二人に動いてもらい、エレナから得た情報で彼らを追い詰め、鳳グループ内側は私から得た情報でエレナはアリシアを動かして追い詰めてもらっていた」


「……エレナに利用された覚えはないわ」


「鳳グループの人間がお前の不正を暴こうとして、何度か返り討ちにされて失敗したことがあっただろう。それと、鳳グループや教皇庁、アカデミー内外の人間がお前に接触してきて協力を持ち掛けた挙句にお前にさんざん利用されて捨てたこともあっただろう――それらはすべて、鳳グループはもちろん、教皇庁側にとって不利益に、そして、ロクでもない人間ばかりだ」


「それじゃあ、私は――……ずっとエレナに利用されていたのね」


「利用というより、お前を上手くコントロールしていたというべきだろう。だから、枢機卿とはいえ問題行動ばかりのお前を処分することはしなかったんだ」


 大悟の言葉に身に覚えがあり過ぎるアリシアは、自分は周りを利用したつもりでいたが、自分がずっとエレナに利用されていたことに気づくと同時に自分の滑稽さを思い知り、脱力したように乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。


「エレナもバカね……利用していた人間に手を噛まれるなんて」


「知っていると思うが、エレナはお前の復讐心に気づいていた。気づきながらもお前がいつの日か変われると信じていた。最初に会って話をした時からずっとお前を――」

「うるさいわね! 黙っていなさいよ!」


 長年エレナが自分についてどう思っていたのかを口にしようとする大悟の言葉を、ヒステリックな声を上げてアリシアは遮った。


 愛憎渦巻く複雑な感情を抱いて、その感情を整理しようと思っても処理できないアリシアは俯いていた。そんな彼女に大悟はもちろん誰も声をかけることはしなかった。


 ……母さんは――いや、大悟さんと母さんはすごい。

 何十年も誰にも気づかれずに協力し合っていたなんて……

 でも――わからない。

 何十年も協力し合っていたのに、どうして母さんが裏切者になるんだ?

 やっぱり、母さんが裏切者だなんて信じられない!


 大悟とエレナの協力関係に驚き、感心していたリクトだったが、その真実を受け入れても、やはり母が裏切者であるという事実は信じられなかった。


「どうして……どうして、母さんは大悟さんと協力していたんですか?」


「エレナが私に協力すると決めた理由はリクト、君だ――煌石を扱う資格をすでに失っていたのにもかかわらず、教皇という立場に固執した先代教皇は、生まれながらにして煌石を扱う力が備わっていた君も利用しようとしていた。それを許せなかったエレナは今までため込んでいた不満を爆発させ、私と手を組んだ」


 自分が先代教皇に利用されそうになっていたことをはじめて知って驚くリクトと、先代教皇との愛人の間に生まれた子であるアリシアははじめて聞く事実に苦い顔を浮かべる。


 ――やっぱり、変だ。


 はじめて聞く事実に驚くと同時に、リクトは違和感を覚える。


「大悟さんの話を聞くと、お二人は大義があってお互いに協力し合っていた。なのに、母さんがアカデミー都市で大きな事件を起こしているアルトマンさんと協力する意味がわかりません」


「リクトの言う通りだ。アルトマンと協力して何のメリットがある。それに、今までクリーンに生きてきたエレナが、突然アルトマンと協力するのは考えづらい」


「わかってないわねぇ、克也さん。私たち女の子にはたくさんの秘密を持ってるものなのよ。エレナちゃんが裏の顔をずっと隠して生きてきたって説も十分に考えられるんじゃないの?」


「アンタは男でしょ――……別にエレナの味方をするつもりじゃないけど、昔から知ってる身としては、腹黒い面もあるけど教皇としてはまともじゃないの?」


 リクトたちの意見を大悟は頷いて受け入れ、「確かにそうだ」と認めた。


 エレナがアルトマンとつながっていると確信しながらも、大悟もまた心のどこかで迷いがあるようにリクトは感じていた。


「しかし――協力してから週に一、二度必ず連絡を取り合っていたが、一年近く前にリクトを教皇庁旧本部に送り出してから連絡が途絶えた。それから、エレナの雰囲気が僅かにだが変わったような気がした。今までは気のせいだと思っていたが、徐々に漠然となかったものが確実になり――そして、今回の一件だ。鳳グループと教皇庁が強固な協力関係を築くことを目的としていたのに、エレナはそれをふいにした……鳳グループ上層部を一新して、枢機卿も一新するとエレナが決めて、ようやく負の遺産を片付けて協力関係を結べると思っていたのにどうにも不自然だ」


 ……確かに、大悟さんの言う通り、今の母さんには不自然な点が多い。

 いつもの母さんなら、事件解決を真っ先に考えて鳳グループと協力しているハズだ。

 ……でも――あの母さんが裏切者だなんて信じられない。


 エレナへの疑心に満ちた大悟の言葉に、確かにリクトも思うところはあった。


 週に何度も連絡を取り合っていたのに、それが急に途切れたのも不自然であり、鳳グループとの連携を望んでいたのなら、今回の一件は教皇庁と鳳グループの連携を強める良い機会だ――しかし、それをエレナは頑なに拒否した。


 もちろん、お互いに疑心暗鬼になっている状況で協力し合えないというエレナの言い分も理解できるが、それでも長年目指してきた目的達成の好機を彼女が見逃すはずがないとリクトは感じていた。それはリクトだけではなく、克也たちも同じことを考えていた。


 エレナがアルトマンとつながっている線が濃厚になってくるが――それでも、確証がないのでいまだに彼女が裏切者だと信じられなかった。


「確たる証拠もないのに、エレナを疑いたくはない。長年連れ添った仲だからな――だが、私はエレナが裏切者である確率はかなり高いことは断言できる」


 リクトたちと同様、大悟にもエレナを信じたい気持ちが存在していたが――それでも、エレナから感じられる不穏な気配に、彼女が裏切者である確率は高いと大悟は断言した。


 ……もしも――もしも、母さんが本当に裏切者なら……

 どうしたらいいんだろう……


 尊敬していた母が裏切者であるという最悪な事態を想像して、リクトは強い不安に襲われる。


 自分はもちろん、母を尊敬する周囲の人間はその事実を受け止めきれず、アカデミー都市に混乱が広がっていることを想像して、リクトの表情は暗くなる。


「どちらにせよアルトマンの計画は絶対に阻止しなければならない。ただでさえ輝石使いの数が年々増えている状況で再び祝福の日と同レベルの事態が起きれば今のアカデミーでは――いや、世界は増えた輝石使いの対応はできない――よって、アルトマンの計画阻止が最優先だ」


 エレナが裏切者かもしれないという状況と、鳳グループトップと教皇庁トップが裏で長年つながっていた衝撃の事実を吹き飛ばす大悟の言葉に、リクトたちは力強く頷く。


 今は余計なことを考えないでアルトマンさんたちを止めよう――いや、止めなくちゃ。


 母が裏切者だった場合に想像できる最悪の事態を考えて、気分が暗く沈んでいた自分に喝を入れるように心の中でそう言い聞かせるリクトの瞳に強い光が宿る。


「制輝軍と風紀委員に負傷者がいるため、ここは何としてでも教皇庁に協力を取り付けたい。そして、ティアストーンの元へと向かう準備をはじめる」


「――ちょっと待ちなさい。ティアストーンの在り処は代々教皇しか知らされていないのに……まさか、アンタはそれを知ってるの?」


「ああ。煌石についての情報はお互いに交換している。ティアストーンは教皇庁の地下深く、教皇庁本部の聖堂内にある『祈りの間』と呼ばれるエレベータから行ける」


「なるほどね……その場所にティアストーンがあるとしたら納得できるわ。教皇の権力を使って聖堂を私物化していると思ったら、そんなところにあったのね」


 アリシアの疑問に大悟は当然と言わんばかりに、平然とした様子で頷き、ティアストーンの在り処を答えた。


 エレナが聖堂に一人でいることを良く知っているアリシアとリクトは、一人になりたいこと以外に、彼女がティアストーンの元へと向かっていたことを察した。


 教皇しか知らない教皇庁内でもトップシークレットの情報を対立している鳳グループトップに流すエレナに呆れると同時に、前回の事件で拷問まがいのことをされても決して口にしなかった情報を与えたことに二人の信頼関係を垣間見え、改めてエレナが裏切者であることに疑問を抱くアリシア。


「教皇庁は無窮の勾玉の存在を知って驚いている中、エレナはその存在を知ってたってわけか」


「ああ。無窮の勾玉はティアストーンの力を悪用される最悪の事態で、無窮の勾玉の力を使ってティアストーンの力を制御するためのものとして保管していた」


「それを聞いて、お前が前に無窮の勾玉を『』だと言っていた理由がわかったよ」


 無窮の勾玉について前に大悟が『』と言っていたことを思い出し、克也は納得するとともに、最悪の事態をしっかりと想定してお互いに重要な情報を交換している大悟とエレナの抜け目のなさに改めて感心した。


「でも、無窮の勾玉の存在を教皇庁が知った時、大人しく教皇庁に管理を任せておけば、教皇庁との信頼関係を築く良い機会だったんじゃないの?」


「先程も言ったがその時はすでにエレナとの連絡が途絶え、エレナの雰囲気も僅かに変わっていた。だから、管理を任せられなかった。それに、俗物ばかりの枢機卿が大勢いる教皇庁に管理を任せたくはなかったからな」


「なるほどねー、それにしても裏でそんなにスリリングで面白そうなことになってたのを私に言わなかったのは、ちょっとショックだなー」


「すまない、萌乃。この埋め合わせはしっかりする――克也が」


「どうして俺に振る!」


 自分の疑問に淡々と答える大悟に萌乃も納得したようで、飼い主に懐く犬のように克也に纏わりついて埋め合わせを期待していた。


 すべての話が終わり、大悟は真っ直ぐとこの場にいる全員に視線を向けた。


「これから鳳グループの我々は、今言った真実を上層部に告げるために会議を開いて騒動の対策を練る。その間に、リクトとアリシアたちは教皇庁との協力を何とかして取り付けてくれ」


 大悟の指示に力強く頷くリクトと、気まずそうな表情を浮かべているアリシア。


 教皇庁はリクトたちに任せ、大悟たちは会議を開くためにすぐに部屋を出た。


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