第18話

 鳳グループ本社前には、普段はアカデミーを清掃するために巡回して、有事の際には戦闘用になる円柱型の寸胴ボディで半円形の頭部を持つガードロボットが何体も破壊されていた。


 そして、破壊された無数のガードロボットの傍には傷ついた多くの制輝軍たちが倒れていた。


 そんな彼らに囲まれているようにして立っているのは、武輝である身の丈をゆうに超える斧を担いだ銀城美咲だった。自分に襲いかかる多くのガードロボットや制輝軍を相手にしても、美咲はまったく疲れている様子はなく、興奮しきったような笑みを浮かべていた。


「ちょーっとした準備運動で、君たちのお稽古のつもりだったんだけど――もう終わりなのかな? それじゃあ、制輝軍の名前が泣いちゃうよぉ☆」


 倒れている制輝軍たちに向けて煽るようでありながらも発破をかける美咲だが、彼らは立ち上がることができなかった。


 煽っても立ち上がらない制輝軍たちの様子を見て、呆れたようにため息を漏らす美咲は鳳グループ本社に迷いのない足取りで向かおうとするが――どこからかともなく光弾が飛んでくる。


 突然の不意打ちに美咲は動揺することなく、軽快に躍るようなステップを踏んで両手に持った斧を思いきりフルスイングをして、迫る光弾を打ち返した。


 打ち返した光弾は天に向かってぐんぐん距離を伸ばし、天に無数に煌めく星となった


 間髪入れずに再び光弾が襲いかかってくるが、美咲はふざけたような隙のある動きで光弾を回避していた。すると、そんな彼女の背後に小さな影が急接近する。


 その小さな影は自身の武輝――身の丈を超える銃剣のついた大型の銃を勢いよく突き出す。


 光弾を余裕で回避していた美咲だったが、背後からの一撃には真面目な動きで回避する。


「やっほー☆ アリスちゃん。元気だった?」


 奇襲を仕掛けてきたアリスに向けて、二カッと大きく口を開いて挨拶をする美咲だが――問答無用でアリスは突き出した銃を薙ぎ払って攻撃をする。


 軽く後ろに飛んで回避しながら美咲は手に持った斧を振り上げると、大きく後退しながらアリスは銃の引き金を引いて光弾を放つ。


 発射された光弾は無数に分裂して美咲に襲いかかるが、美咲は避けることなく迫る光弾を身の丈をゆうに超える斧を軽々と振り回して払い落とした。


 すべてを払い落とした美咲は自慢げな笑みを浮かべていたが――そんな美咲に向けて、眩いほどの光を纏った銃の引き金を引いて、アリスは極太のレーザーを発射する。


 美咲は武輝を盾にして防御に徹する。


 一瞬の拮抗の後、美咲はアリスの攻撃に耐え切れず、レーザーの光に呑み込まれた。


 美咲を包んだ光が収まると――美咲は地面に仰向けになって倒れていた。


 だが、すぐに美咲は服についた埃を払いながら不敵な笑み浮かべて平然と立ち上がった。


「ダメだなぁ、アリスちゃん。ダメダメだよ♪」


 仰々しくため息を一度漏らすと、全身に輝石の力を漲らせて光を纏っている美咲は力強い一歩を踏み込んで突進する勢いでアリスとの間合いを一気に詰めた。


 高速で接近する光を纏う美咲にアリスは銃の引き金を引いて何度も光弾を放つが、彼女を覆う光によってかき消された。


 攻撃が通じない美咲から、咄嗟にアリスは飛び退いて距離を取ろうとするが――アリスの細い首を片手で掴んだ美咲は逃がさない。


 美咲はそのままアリスを勢いよく、アスファルトの地面が割れるほどの力で叩きつける。


 苦悶の表情を浮かべるアリスに容赦なく美咲は斧を振り下ろした。


 全身に伝わる痛みに堪えながらアリスは身体を転がして回避しながら引き金を引く。


 光弾は美咲に直撃して一瞬怯む。その隙にアリスは立ち上がり、武輝に光を纏わせ、大きく一歩を踏み込むと同時に銃剣を勢いよく突き出した。


 鋭いアリスの刺突が迫りながらも、美咲はニッと力強い笑みを浮かべると軽々と片手で自身の武輝を、アリスの武輝に向けて振り上げる。


 鈍い金属音が周囲に響き渡ると――美咲の武輝とぶつかり合ったアリスの武輝が宙を舞い、元の輝石に戻ってしまった。


「普段の冷静沈着なアリスちゃんにしては、勝負に急ぎすぎちゃってたね――そんなんじゃ、サラサちゃんの時のように他人の足手まといになるだけだし、アタシはもちろん、ウサギちゃんを止められないんじゃないかなー? 中途半端な覚悟じゃ、ダメダメだよ」


 軽薄な笑みを浮かべる美咲の一言に反論できないアリスは悔しさで拳をきつく握り締めた。


 ――覚悟は決めていた。


 サラサの時のように、土壇場で身体が動かなくなって誰かに迷惑はかけまいと決めていた。


 強がって、迷いのない振りをしてクロノたちの前から立ち去った。


 しかし――いざ、美咲と対峙したら本来の力を出し切れない、中途半端な覚悟を抱けなかった自分をアリスは心底恨んだ。


「アリスちゃん……アタシは本気だよ?」


「私もクロノもわかってる……理由があって、ノエルの味方をしてることも」


「弟クン、目が覚めたんだね。そっか……無事でよかった」


 ここに来てはじめて口を開いたアリスの言葉から、クロノが無事であることを悟り美咲は安堵したように、それでいて満足そうに微笑む。


「弟クンが目を覚ましたなら、アリスちゃんは弟クンたちの正体を知ったんだよね?」


「知ったけど――クロノはクロノ、ノエルはノエル。何一つ、変わらない」


「アタシもそう思うよ――だから、悪く思わないでよ? アタシはアタシの目的を果たすから」


 ノエルとクロノを人間として見ているアリスに同意するように力強く頷いた美咲は、より強固なものにした覚悟を表すかのように拳をきつく握り締めた。


「ちょーっと痛いけど、我慢してよね❤」


 握り締めた拳をアリスに向けて振り上げようとする美咲。


 輝石を武輝に変化させて輝石の力が全身に漲っている今、美咲の拳は輝石の力を纏っていない一般人も同然なアリスを一撃で昏倒させる凶器だった。


 ――まだ、終わりたくない!


 敗北が近づきながらも、まだ諦めたくないアリスは心の中でそう叫ぶ。


 アリスの心の叫びに応えるように、美咲の拳が突然割って入ってきた人物に止められた。


「そこまでよ、美咲――ここからは私が相手をするわ」


 きつく握られた固い美咲の拳を掌でそっと包むのは、静かに闘志を漲らせる、武輝である十文字槍を手にした御柴巴だった。


 友人の登場に嬉しそうな笑みを浮かべながらも、美咲の表情は不満気だった。


「相手にしてくれるのは嬉しいんだけど、もう少し空気を読もうよー、巴ちゃん。因縁の対決って感じで燃えてたのにさぁ。そういうところ巴ちゃんって昔から空気読まないよね」


「よ、余計なお世話。そんなことよりも――アリスさんは下がっていなさい」


 美咲の文句に反応しつつ、巴は自身の背後にいるアリスに厳しくも優しい目を向ける。


 巴の目は仲間であった美咲と戦うことに躊躇いを覚えているアリスを気遣うようであり、躊躇っている自分を突き放すようでもあった。


 今の自分は足手まといにしかならないことを承知しているアリスは、巴の言うことに反論できず、大人しく従うことしかできなかった。


「本気で巴ちゃんとぶつかり合うのって久しぶり♪」


「無駄口を叩くと隙が生まれるわよ。集中しなさい」


「昔もそうやって巴ちゃんはグチグチうるさかったなぁ。ある意味、訓練大好きなティアちゃんよりも厄介だったかな?」


「ティアよりも、戦闘中必要以上に身体をベタベタ触る君の方が厄介だったわ」


「あー、あれはクセなんだよね。ほら、目の前で揺れるニンジンを追う馬みたいな感じ❤」


「私からしてみれば、変質者に変わりないわ」


「厳しいなぁ――あ、無駄口を叩くなって言った巴ちゃん、世間話に付き合ってくれてるね」


「それなら……戦うのか戦わないのか、どっちか決めなさい」


 揚げ足を取る美咲の言葉にムッとする巴は見透かしたような目を向けて挑発するように尋ねると、美咲は心底楽しそうな笑みを浮かべた後――すぐにそれを消して、真顔になる。


「それはもちろん、戦おうかな?」


 その言葉と同時に美咲は巴に飛びかかり、両手持ちした武輝を勢いよく振り下ろした。


 両手持ちした武輝による力任せの一撃を巴は武輝で受け流すと、勢いよく攻撃した美咲は「おっとっと」と素っ頓狂な声を上げてバランスを崩してしまう。


 美咲の強烈な一撃による衝撃も受け流した巴は、力任せの一撃を受け流しても身体に衝撃が襲いかかることなく涼しい顔をしていた。


 舞うような動きでターンすると同時に美咲の背中に向けて巴は武輝を振り下ろす。


 ダメージを受けても怯まず、美咲は勢いよく振り返りながら武輝を力任せに薙ぎ払うが、軽く屈んで回避した巴は石突の部分を美咲の顎めがけて振り上げた。


 咄嗟に美咲は上体をそらせて回避すると、間髪入れずに巴は武輝を薙ぎ払って追撃する。


 美咲は武輝で巴の追撃を防いだ瞬間、巴は一旦流麗な動きで後退して美咲から距離を取る。


「戦い辛いなぁ、巴ちゃんは」


 自身の攻撃と、その攻撃による衝撃も受け流して無にする巴に、得意な力任せの猪突猛進戦法が使えないことに美咲はため息を漏らしていた。


 ……この勝負、御柴巴が圧倒的に有利だ。

 力任せの美咲の戦い方とは違って、巴は相手の攻撃を受け流して隙をつく戦法が得意だ。

 それに、美咲は考えるよりも直感で動いて激しく攻めるタイプだから、巴のように堅牢な防御の術を持ち、冷静沈着で的確に相手の隙を突いてカウンターを狙う相手は不得意だ。


 二人の戦いを見て、アリスは巴が有利だと悟るが、まだ勝負が決まったとは思えなかった。


 距離を取った巴に一気に接近する美咲は、身の丈を超える武輝である斧を片手で軽々と、そして、力任せに振り回しながら攻撃――今度は連撃を仕掛ける。


 先程と同じように受け流され、反撃を受けながらも、怯まずに美咲は攻撃を続ける。


 一撃一撃が力強く、さらに一撃ごとに攻撃の勢いを美咲は強くしていた。


 徐々に巴は美咲の攻撃の衝撃を捌ききれなくなり、涼しげだった巴の表情に余裕がなくなる。


 そして、ついに美咲は巴の防御を崩し、美咲の攻撃を上手く受け流すことができなかった巴は、彼女の攻撃の衝撃をまともに受けて数歩後退してしまう。


 その隙を見逃さず、美咲は両手持ちした武輝をフルスイングする。


 目前に迫る美咲の攻撃に、巴は動じることなく彼女の攻撃が自身に届くよりも早く全身の力を使って武輝を突き出した。


 巴の渾身の刺突が直撃して、今まで反撃を受けても怯まなかったタフな美咲でも効いたのか、攻撃を中断して怯んだ。


 怯んだ美咲に容赦なく巴は流れるようでありながらも、激しい動作で追撃を仕掛ける。


 武輝を振り下ろし、振り上げ、突き出し、薙ぎ払う――巴の攻撃に対応するできない美咲はあっという間に追い詰められ、膝を突く。


 そんな美咲に巴は武輝を突きつけると、美咲は降参だと言わんばかりに苦笑を浮かべた。


 ――勝負あった。


 二人の戦いを眺めていたアリスは、決着がついたと判断していた。


 一瞬自分のペースに持ち込んだ美咲だが、巴が有利のまま変わらなかった。


 しかし――アリスの中には違和感があった。


 戦闘があまりにもあっさりしていたからだ。美咲ならばもっと巴に食らいつくとアリスは思っていたが、戦いはすぐに、そして、あっさりと終わった。


「イタタタッ……巴ちゃん強いなぁ、参った参った」


 強烈な巴の攻撃を受けて苦悶の表情を浮かべながらも、軽薄な笑みを崩さず、武輝も手にしている美咲の全身にはまだ戦意は失っていなかった。


 戦意を漲らせながらも襲いかかる気配のない美咲を見て、「まったく……」巴は呆れたように一度ため息を漏らした。


「戦うつもりなら真面目にやりなさい、美咲」


「厳しいなぁ、こっちは本気の本気、マジのマジなんだけど」


「バカを言わないで。今の君のどこが本気なの? 一撃一撃に迷いが感じられるのに、普段ならもっと勢いのある攻撃を仕掛けるのに、それのどこが本気なの?」


 膝を突く美咲の心を見透かすような冷たく、鋭い目で見下ろした巴は厳しい声でそう言った。


 厳しい巴の一言に苦笑を浮かべる美咲は本気だと言うが、巴は小さく鼻で笑う。


「中途半端な覚悟を抱いているのなら、今すぐ大人しく投降しなさい」


「失礼だなぁ! アタシは本気の本気、マジのマジなんだからね!」


「君のその覚悟は周りを傷つける。君の生温い優しさが大勢の人に迷惑をかけるわ」


「巴ちゃんが言うと、妙に説得力あるけど――アタシは巴ちゃんみたいにならないから」


 かつての仲間や友人たちと敵対した自分の覚悟を中途半端だと言い放つ巴に、美咲はムッとした表情を浮かべ、仕返しとしてかつて大勢の人間を率いて鳳グループに殴り込みをかけようとして失敗した巴に嫌味を言うが、巴は動じない。


「……本当にそう言い切れるの?」


「それ、アリスちゃんに言われたくないかな?」


 戦っていた時には美咲の相手に必死で余裕はなかったが、巴との戦いを観戦していたアリスは美咲の覚悟に明確な『迷い』を感じ取り、人のことを言えないのを承知で疑問を口にする。


「アリスさんは美咲を本気で止めようと思っていたけど、戦うことなんて彼女は望んでない。美咲はどうなの? 何か理由があってノエルさんたちの味方をしているのはわかるけど――美咲もアリスさんたちと戦うことなんて望んでないんじゃないの?」


 嫌味な目で美咲に見つめられて反論できないアリスに代わって巴は問いかけると、美咲は返答に困ったように眉を下げる。


 沈黙が流れるが、すぐに降参と言わんばかりに美咲はため息を深々と漏らして沈黙を破る。


「確かに、二人の言う通りかも……やっぱり、友達とは戦いたくはないよね?」


 苦笑を浮かべながら本音を口にして、美咲は自身が抱いていた中途半端な覚悟を認めながらも、「でも――」と話を続ける。


「アタシはウサギちゃんの味方でいたいんだよね」


 そう言って、無邪気な笑みを浮かべて、溢れ出んばかりの好戦的なオーラに満ち溢れている美咲だが――彼女から迷いを感じたアリスと巴には、強がりにしか見えなかった。


「弟クンとウサギちゃんはさ、ずっとアルトマンのオジサンの命令に従ってたんだよ? それが自分の存在意義だって教えられてきたから。自分の意思なんてものは存在しなかったし、それを持つことも許されなかった。だからさ、ウサギちゃんや弟クンたちが悪いことをしたのは、ただ任務に従っていただけ……自分の意思を持てなかった二人はそれしか知らなかったんだ」


 自分の好きなようにノエルとクロノを動かしていたアルトマンへの静かな憎悪の炎を滾らせ、命令に従うことしかできなかったノエルとクロノたちへの憐憫の情を抱いている美咲に、普段浮かべている軽薄な笑みは消えていた。


「あの子たちはただ、自分たちを生み出したお父さんの命令に従っていただけで、罪はない。だから、アタシはあの子たちの味方をする。弟クンはアリスちゃんたちたくさんの味方がついてるから問題ないけど、ウサギちゃんは違う。あの子はまだ与えられた命令に縛られたまま自分の意思を持てないかわいそうな子なんだ。そんな子を一人ぼっちにはさせられない――だから、アタシはウサギちゃんの味方になったんだ」


 アリスたちに、そして、中途半端な覚悟を抱いている自分に言い聞かせるように美咲は本音とともに、ノエルに味方になった理由を話す。


 理由を話し終えた美咲の全身には周囲を圧倒するような戦意が漲っていた。


 先程まで感じられた迷いはいっさいなく、ノエルのために美咲は全力で戦うつもりでいた。


 今までに見たことのない美咲の迫力に気圧されながらも、巴は彼女を迎え撃とうとするが――武輝を手にしたアリスが巴の前に出た。


「ここは私に任せて」


 先程まで中途半端に抱いていた覚悟のせいで、戦意を失っていたアリスだったが――自身の前に出たアリスの背中から、今の美咲と同様迷いのない覚悟を巴は感じていた。


 それを感じたからこそ、巴は何も言わずにこの場をアリスに任せ、見届けることにした。


「ノエルの味方をして、自分が追い詰められることになってもいいの?」


「そのつもりだよん❤ アカデミー都市中、ううん、世界中の人がウサギちゃんの敵になっても、アタシだけはウサギちゃんの味方でいるよ♪」


 真っ直ぐと自分を見つめて質問するアリスに、普段通りの軽薄で力強い笑みを浮かべながらも、強い覚悟と思いを秘めた表情で頷く美咲。


 ――美咲はすごい。

 私は自分のことに精一杯で、他のことなんて考えられなかった。

 でも――……ここで退けない。


 自分よりも他人を想う美咲の強さにアリスは心から感心して、尊敬するとともに――彼女を止める覚悟を決める。


「私もノエルの味方であり続けたい。ノエルの傍にいれば、もしかしたらクロノのようにノエルも考え方を改めるかもしれないから――でも、私はノエルを止める」


 美咲の考えを認めつつ、アリスはノエルの敵として立ちはだかることを決める。


「私はもうこれ以上自分の友達が傷つくのは見たくない」


「それじゃあ、アリス・オズワルド――決着をつけようか」


 これ以上友達を傷つけないために戦うアリスに、さっきまでの迷いはもう消えていた。


 そんなアリスを見て、満足そうに一度微笑んだ美咲はすぐに笑みを消し、自分と対峙している敵をジッと見据えて、手にした武輝である斧が光を纏いはじめる。


 離れていても感じられる美咲の力に圧倒されながらも、アリスは決着をつけるために武輝である大型の銃に光を纏わせる。


 巴は自分との交戦で消耗している美咲と、彼女と比べて消耗が少ないアリスなら、互角の勝負を繰り広げることができると思っていたが――お互いの友達のために戦っている二人の勝負は一瞬で決まると想像していた。


 ――すぐに終わらせる。

 もう、こんなことたくさん。


 巴の想像通り、アリスは一瞬で終わらせるつもりでいた。


 もう、これ以上友達との戦いを長引かせるのは嫌だからだ。


 その想いが溢れ出したアリスは銃口を美咲に向け、力強く、躊躇いなく引き金を引く。


 銃口から極太のレーザー状の光が美咲に襲いかかる。


 先程の美咲には通用しなかった攻撃を再び仕掛けるアリスだが、今度の攻撃は力高ではなく、アリスの強い気持ちも乗せていた。


 先程とは比べものにならないほどの力を感じるアリスの攻撃に、美咲は全身に纏っている輝石の力の出力を上げ、全身に光を纏わせると、自身に向かってくるレーザーに向けて疾走し、光に呑み込まれた。


 光に呑み込まれながらも美咲は走る速度を変えずにアリスに向かう。


 負けじと、歯を食いしばり、踏ん張って銃口から発射している力の出力を上げ、その力の反動に呑まれないように堪えるアリスだが、美咲の勢いは止まらない。


 アリスとの間合いを詰めた美咲は、両手で持った武輝を彼女に向けて勢いよく振り下ろす。


 美咲の強烈な一撃を防ぐことも避けようともせず、一気に決着をつけるつもりでアリスは銃口から放っていたレーザーを消し、銃剣にありったけの力を込め、思いきり美咲に突き出した。


 美咲もまた、アリスと同様避けるつもりも防ぐつもりもなく、一気に決着をつけるつもりだったので、攻撃を中断させることはしなかった。


 巴との戦闘によって消耗していた美咲の動きの方が僅かに鈍く、アリスの一撃が届いた。


 アリスの鋭い刺突は、美咲が全身に漲らせていた輝石のバリアを貫いた。


 構わずに美咲は攻撃の手を止めることなく、振り下ろした武輝をアリスに直撃させる。


 互いの強烈な一撃が直撃し、互いの身体が吹き飛び、二人が手にしていた武輝が宙に舞う。


 吹き飛んだ二人は、起き上がることなく気絶していた。

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