第8話
「いやぁ、やっぱりセラさんに任せるべきだったかな?」
「泣き言漏らすのには早いですわよ! セラに任せたら勢い余って病院を破壊する可能性が大いにありますし、何よりもまだまだ私は余裕ですわ!」
「麗華にそう言われるなんて、セラさんはかわいそうだなぁ……まあ、否定はしないけど」
「セラはああ見えて意地っ張りで、子供っぽくて、向う見ずな性格をしていますわ! そんな彼女がノエルさん相手に大暴れするのは目に見えてわかりますわ!」
「なるほど――というか、セラさんって麗華に似てるね。意地っ張りなところとか、子供っぽいところとか。まあ、麗華と違って友達たくさんいるけど」
「ぬぁんですってぇ!」
セントラルエリアの大病院の廊下で、武輝を手にした麗華と大和は普段通りの気の抜けた会話をしながら、ノエルと戦っていた。
麗華は無駄に華麗で派手な動きでノエルとの間合いを詰めて、武輝であるレイピアを華麗かつアグレッシブに振って彼女に激しい攻撃を仕掛ける。
一方の大和はアグレッシブな麗華とは対照的にあまり動かず、武輝である一本の巨大手裏剣を輝石の力で五つに複製し、複製した手裏剣を自分の思い通りに操って飛ばしていた。
性格的な相性が悪く、お互い好き勝手に動きながらも二人の息は合っており、ノエルの隙を的確に突くが――戦闘開始から数分が経過しても、二人の連携攻撃はノエルに掠らなかった。
しかし、それはノエルも同じだった。逃げるタイミングを窺いながら二人の相手をしているが、回避や防御に精一杯で反撃に転ずることができず、息の合った二人の連携に苦戦していた。
苦戦している理由は二人の連携だけではなかった。
事もなげに、武輝に変化した輝石の力を絞り出して、その力で武輝をいくつも複製し、それを自由自在に操る伊波大和。
単調的で勢いに身を任せた攻撃で、隙だらけなのにもかかわらず、それを補えるほどの驚異的な身体能力を持った鳳麗華。
息の合った連携以外に、二人の実力がノエルの想定を超えていた。
ノエルは制輝軍に所属している間、いつか交戦する時を考え、麗華や大和のようなアカデミーでもトップクラスの実力者たちの戦闘データを集めて、戦闘時の対処法を考えていたが、今自分と対峙している麗華と大和の実力は、事前に収集していた戦闘データを大幅に超えていた。
鳳麗華、伊波大和の連携、二人の想定外の実力を考えれば勝率はおおよそ三割。
――警告、すぐにこの場から逃走することを推奨。
現状を冷静に分析する頭の中の声が逃げろ指示を出すが、そうしたくてもできなかった。
「大和! ちゃんと私の動きに合わせるのですわ!」
「簡単に言ってくれるけどさ、好き勝手に動く君の動きに合わせられるわけないでしょ」
「問答無用ですわ! いいから真面目にやりなさい!」
「まったく、ホント君はわがままだなぁ」
「何ですの、その態度は! 何か文句がありますの?」
「別にー。しょうがないなぁ――これ以上君を不機嫌にすると、意地の悪い性悪な小姑のようにギャーギャー喚いてうるさいから、ちょっと真面目にやろうかな?」
「最初から真面目にやりなさい!」
不満を漏らしながら、大和は自身の手から離れて宙に浮かんでいる武輝である手裏剣を、ノエルの死角に向けて的確に飛ばす。
自由自在に武輝を操り、的確に隙を突いてくる大和の攻撃にノエルは対応する。
左右の手に持った武輝である双剣を華麗でありながらも機械的に振い、ノエルは死角から襲いかかる手裏剣の姿を確認することなく弾き飛ばした。
ノエルの武輝によって弾き飛ばされる手裏剣だが、弾き飛ばされていた手裏剣は急ブレーキをかけたように空中で一時停止すると、再びノエルに向かって襲いかかってくる。
「それにしても、クロノ君の命を奪うためにここまで来るなんてご苦労様だね。ここに来る途中、何も迷いはなかったのかな?」
手裏剣を自由自在に操作しながら、嫌らしい笑みを浮かべて大和はノエルに尋ねるが、答えるつもりも、その余裕もないノエルは無言のまま大和の操作する手裏剣を防ぎ、避け続けていた。
自分の質問に答えないながらも、与えられた任務は忠実に遂行するという無言の訴えをノエルから感じた大和は、彼女に向けて茶化すような笑みを浮かべる。
「いやぁ、清々しいまでに迷いがない姿はカッコイイね、ノエルさん。僕も参考にしたかったよ、その迷いのなさを――でも、肉親を平気で始末しようとする君にはなりたくはないかな?」
呟くように放たれる言葉と同時に、大和の攻撃が一瞬だけ今までにないほど激しくなった。
その動きに対応できなかったと同時に、大和の言葉に一瞬だけ気を取られてしまったノエは、彼女の操作する手裏剣が直撃し、怯んでしまう。
「さあ、行きますわよ! 必殺! 『エレガント・ストライク』!」
大和の攻撃を受けて怯むノエルに向けて、床を砕くほど力強く踏み込んだ麗華が恥ずかしげもなく技名を叫ぶと同時に、全身の力を使って渾身の突きを放つ。
麗華の必殺の一撃を、避けることができないと判断したノエルは左右の手に持った剣を交差させて受け止めると、甲高い金属音と同時に麗華の渾身の一突きを受け止めた衝撃が襲い、ノエルは後方に向けて思いきり吹き飛んだ。
――この機に乗じて、逃走をする。
「――残念だけど、逃がしはしないよ」
このまま吹き飛んで、二人との間合いを取って逃げようと思ったノエルだが――逃げようとするノエルの思考を読み取り、いつの間にか後方に回り込んでいた大和がそれを許さない。
サディスティックな笑みを浮かべ、自身の周囲に輝石の力で複製した八本の手裏剣を浮かび上がらせた大和は、八本の手裏剣からレーザー状の光がノエルに放つ。
逃走するのを諦めたノエルは大和の攻撃に対応するため、吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、迫るレーザーを武輝で防いだ。
不意打ちであるにもかかわらず、即座に対応してすべて防ぎきったノエルを、大和は「おー、すごいすごい」と呑気に拍手を送った。
「フフン! 隙ありですわ!」
大和の攻撃を防ぎきったノエルに、休むことなく襲いかかるのは麗華だった。
わざわざ『隙あり!』と叫ぶ麗華の不意打ちを難なくノエルは一本の剣で受け止めると、もう一本の剣を麗華に向けて突き出した。
ノエルの反撃を無駄に派手で隙の多い踊るような動きで回避しながらレイピアを薙ぎ払う麗華――ノエルは回避をするが、ここではじめて麗華の一撃がノエルの頬を掠めた。
「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ! まだまだ行きますわよ! 必殺! 『ビューティフル・ハリケーン』!」
「いやー、高笑いしながら攻撃するのって、傍目から見ると気持ちが悪いね」
自身の一撃がようやく掠ったことに気を良くした麗華は、気分良さそうに高笑いをしながら聞いているだけで恥ずかしい技名を叫んで必殺の連続突きを放つ。
麗華の必殺の連続突きを避け続けているノエルだが、徐々に身体にレイピアの切先が掠りはじめ――そして、ついに麗華の攻撃がノエルを捕えた。
「それじゃあ、僕も疲れたし、そろそろ終わりにしようか――まあ、二対一でノエルさんにとっては圧倒的な不利な状況だったけど、悪く思わないでね?」
勝利を確信し、憎たらしいほどの清々しい笑みを浮かべた大和は、八本複製していた武輝を一気に二十本以上複製させて、麗華の連続突きに追い詰められているノエルに向けて一気に飛ばした。
――警告! 予想されるダメージは甚大であり、戦闘続行は困難。
頭の中の冷静な声が、麗華と大和の攻撃を受けたら敗北することを分析し、警告する。
しかし、いくら頭の中の声が警告したとしても、二人の攻撃から逃れることはできない。
与えられた任務を遂行できなくなるという緊急事態だが、ノエルは相変わらず無表情だった。
――警告、敗北は必至。
このまま長期戦になれば、騒ぎを聞きつけた制輝軍が殺到することを考慮し、奥の手を使う。
――警告! 『奥の手』を使用した場合任務続行が困難になる恐れがある。
非常事態発生により、奥の手を使って逃走することを推奨。
麗華と大和から逃れるため、長期戦を避けるため、何よりも、ここで捕まってヘルメスの計画に支障をきたさないため、ノエルは事前に用意していた奥の手を使うことにする。
しかし、頭の中の機械的な声がノエルを制止させる――が、それを無視してノエルはこの場を凌ぐために奥の手を使うことを強行する。
「――麗華! 離れるんだ!」
ノエルから何かを感じ取った大和は、今まで浮かべていた軽薄な笑みを消して声を張る。
切羽詰まった大和の声に即座に反応した麗華は、攻撃を中断してノエルから離れた瞬間――ノエルの全身に毒々しいほどの緑色の光を纏う。
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