第4話
アカデミー都市にある、輝石使いたちの訓練をするための訓練場が立ち並ぶウェストエリアにセラはいた。
小さな訓練場で動きやすい服を着て輝石を
風紀委員の仕事である巡回を早めに終わらせたセラは、幼馴染の優輝に頼んで実戦形式の訓練を行っていたが――訓練がはじまって数分経過するが、セラは優輝を見つめたまま動かない。
目の前の優輝を見つめながらも、セラの思考は訓練以外のことを考えていたからだ。
セラの頭の中にあるのは――白葉ノエルだった。
数時間前、アリスに見せられたアルバートの携帯端末の中に入っていたのは、輝械人形の開発、改造、これからの展望について、ヘルメスとの会話の内容をメモしたもの、そして、白葉ノエルと白葉クロノについてだった。
アルバートはノエルとクロノの成長記録を事細かに載せており、二人の身体検査も行っていたようだった。それによると、ノエルとクロノは制輝軍に入る前からヘルメスとつながりがあり、多忙なヘルメスに頼まれて二人の主治医のような真似をしていた。
ノエルの役割は制輝軍をまとめながら、アカデミーで起きる多くの出来事やアカデミー内部の動きをヘルメスに逐一報告すること。
そして、クロノの目的は、教皇しか知らされていない秘密の場所にある、教皇庁が保有する輝石を生み出す力を持つ煌石・ティアストーンの在り処を探るため、教皇の息子のリクトに近づいて親しくなることで教皇に近づこうとしていた。
それ以外の情報は何もなく、ティアストーンを求めて何をするのかなどのヘルメスの目的、二人以外にいるかもしれない協力者の情報はなかった。
新たに発見された情報で制輝軍たちはアルバートの取調べを再開させたが、アルバートは特に動じることも、相変わらず何も語らず、余裕な態度を崩さなかった。
ノエルさんとクロノ君……本当にヘルメスとつながっていたんだ。
いつかは本気でぶつかり合うことは思っていたけど、まさかこんな形になるなんて……
いつか、考え方が違うノエルと本気でぶつかると思っていたが、思いもしない形でぶつかり合うことになり、セラは戸惑いながらも気を引き締めていた。
――あ、そうだった……
ノエルとぶつかり合うかもしれない近い未来を想像した瞬間、セラは今の状況を思い出した。
「……もうそろそろ、いいかな?」
「あ、ご、ごめん、優輝。――うん、大丈夫」
物思いに耽ってボーっとしていた表情から現実に戻ってきた様子のセラを見て、優輝はため息交じりに声をかけると、セラは慌てて気を引き締める。
気を引き締めて臨戦態勢を整えたセラに、優輝は武輝に変化した輝石から溢れ出んばかりの力を引き出し、その力を光の刃として自身の周囲に浮かばせた。
宙に浮かぶ光の刃はセラに向かって真っ直ぐと発射される。
風を切る速度で迫る光の刃に、セラは力強く踏み込んで光の刃に――優輝に向けて疾走する。
迫る光の刃を紙一重でセラは回避しながら優輝との間合いを一気に詰めた。
間合いに入ると同時に、両手持ちした武輝である剣を豪快に振り下ろすが優輝は紙一重で回避、即座に片手に持ち替えて今度は流麗な動きで振り払った。
緩急をつけたセラの連撃に優輝は容易に回避し、振り払った一撃を受け止めた。
セラは力を込めて彼のガードを崩そうとする――が、簡単に捌かれ、セラはバランスを崩す。
バランスを崩しながらも、身体を捻りながら逆手に持ち替えた武輝を勢いよく振り上げる。
自身の顎に剣の切先が襲いかかるが、優輝は顎をそらして最小限の動きで回避しながら、攻撃をしながらもバランスを立て直したセラの足を再び払った。
今度は派手に転びそうになるセラだが、倒れる寸前に床に両手をつき、そのまま両手だけの力で後方に向けて身を翻して着地する。
派手に転んで隙が隙を生むのを避けたセラの目に入ったのは、優輝の不敵な笑みだった。
その瞬間、全身を包む輝石の力によって強化されたセラの五感が危険信号を伝える。
危険信号の正体は――先程セラが避けた光の刃であり、自分の連撃の対処をしながら優輝は光の刃を操っていた。
死角から襲いかかる光の刃を察知したセラは、視界に捕えることなく迫る光の刃の気配を察知しただけで回避していた。
気配だけを頼りに回避を続けるセラに、意地の悪い笑みを浮かべた優輝は次々と光の刃を発射する。
回避しきれないほどの光の刃が襲いかかっても、セラは武輝で防ぎ、弾き飛ばした。
幾千もの光の刃を防ぎ、回避したセラに優輝は襲いかかる。
優輝に向けて避けている最中に掴み取った光の刃を投げ放ち、不意打ちを仕掛けた。
しかし、投げられた光の刃を優輝は容易にキャッチして、武輝と光の刃の二刀流でセラを攻める。
二刀流になった優輝の姿が、セラの目には一瞬武輝である双剣を手にしたノエルに映った。
その瞬間、胸の中にある熱が全身に伝わり、それに呼応するかのようにセラの武輝である剣の刀身が、輝石に変化した武輝から溢れ出んばかりに放たれる輝石の力が光となって纏った。
勢いのまま、セラは優輝に向けて両手持ちした武輝を思いきり振う。
優輝とセラの攻撃がぶつかり合い、甲高い金属音の後に遅れて衝撃波が周囲に放たれる。
衝撃波が収まると同時に――宙に舞った武輝が床に落ちた。
床に落ちた武輝はセラの剣で、一瞬の発光の後にチェーンにつながれた輝石に戻った。
「……参りました」
武輝を持っていない自分に刀の切先を向ける優輝に向けて、ため息交じりにセラは敗北を認めると、優輝は大きく深呼吸をした後に自身の武輝をチェーンにつながれた輝石に戻した。
「さすがは優輝。本調子に戻って絶好調だね」
「今まで好きに身体を浮かせなかった分、かなり調子が良いみたいだ」
とある事件の影響で長い間まともに歩けず、輝石の力もまともに振えず、つい一週間前にようやく本来の力を取り戻せたというのに、ブランクを感じさせない優輝の力にセラは心から感心していた。
「それにしても、今日のセラは随分力が入り過ぎていたね」
「そうかな? あまり自分ではわからなかったけど……」
「動きも攻撃もいつもと比べて単調だったし、身体に力が入り過ぎていたせいで隙もあったよ」
優輝の指摘にセラは訓練中の自分を振り返るが、いつも通りに動いていたつもりだった。
「大方、白葉ノエルを考えて身体に無駄な力が入ったんだろう。バカモノめ」
「やっぱり……セラは負けず嫌いだなぁ。セラってまだ子供っぽいところがあるよね」
自分の動きを理解していないセラに呆れている冷たい声が響くと同時に、今までセラと優輝の激しい訓練を観戦していた、美しく煌めく銀髪セミロングヘアーの、声と同様冷たい雰囲気を身に纏う美女、ティアリナ・フリューゲルが現れる。
ティアの言葉に同意を示す優輝は茶化すような視線をセラに向けた。
「別にそんなことは――……うん、そうかもしれない」
「お、素直に認めるなんて、少しは大人になった証拠かな?」
「もう! 茶化さないでよ、優輝」
幼馴染の厳しい一言に反論しようとするセラだが、この訓練がノエルとの戦いに備えての訓練であり、二刀流になった優輝とノエルの姿が一瞬重なったように見えた瞬間、身体中に熱が広がったのを思い出したセラは二人の言葉を素直に認めた。
白葉ノエル――セラは一度ノエルに敗北しており、一度は勝利を収めたことがあるが、偶然にも不意打ちが成功しての勝利だったので本当の勝利ではないと感じており、負け越していると思っていた。
ノエルは自分よりも強いとセラは口には出さないが、心で認めていると同時に、考え方の相違もあって対抗心を燃やしていた。
だから、彼女と本気で戦える大義名分ができて、対抗心をぶつけることができる良い機会だと心の奥で思っているのだろうと、幼馴染たちの言葉を受けてセラは認めた。
「あの姉弟がヘルメスと関わっていることは私たちも聞いているし、鳳グループは私を含めた元
「輝動隊だけじゃなく、鳳グループは元
「優輝やティアだけじゃなくて、元治安維持部隊のみんなも協力してくれるなんてすごく心強いよ」
ヘルメスを捕えるため、優輝やティアだけでけではなく、制輝軍がアカデミー都市に訪れる前にアカデミー都市の治安を守っていた輝動隊と輝士団の面々に鳳グループが声をかけてくれていることに、セラは心強いたくさんの味方を得たような気がして安堵していた。
「何度かあいまみえているお前なら理解していると思うが、白葉ノエルはかなりの実力者だ。私でも勝てるかどうかわからない相手だ。そんな奴に隙を見せれば敗北は必至だ」
自他ともに厳しいティアでさえも認めるノエルの実力に、改めてセラは身体に無駄な力が入ってくるのを感じた。
「お前一人で戦っているわけではない。気負い過ぎるな」
「ティアの言う通りだ。他人のことを言う割に、セラは一人で背負い過ぎることがある。少しは他人に頼って、甘えてもいいんだ。お前には俺たちを含めてたくさんの友達がいるんだから」
「……うん。わかってる。ありがとう、ティア、優輝」
厳しくも、自分の心を見透かして的確にアドバイスする幼馴染にセラは心から感謝をした。
二人のおかげで、ノエルとの対抗心のせいで無駄に力が入り過ぎていた身体から僅かに力が抜け、彼女と戦って勝つという気持ちがさらに強くなった。
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