第14話

 アリス、サラサ、優輝の力で襲ってきた四体の輝械人形を破壊した次は、騒ぎを聞きつけて集まってきた制輝軍たちの対応に追われていた。


「そこ右――じゃなくて、左! 真っ直ぐ走って次の次の角を右! えっと、その次は……えーと……」


「しっかりするのだ、コータロー! まったく、お前はどうしてそんなにポンコツなのだ!」


 つたない幸太郎の指示に喝を入れるプリム。


 狭い路地を幸太郎の指示で走り抜けながら、武輝を持ったアリスたちは後方から追いかける制輝軍から逃れていた。


 制輝軍たちから追われながらも、アリスは冷静に事件について考えていた。


 ……輝械人形が現れたということは、今回の件にアルバートが関わっているのは確実。

 輝械人形は二か月前にリクトを狙った事件の際にも現れてる。

 証拠はないけどあの事件に関わっていると疑われているアリシアとアルバートがつながっているのは可能性は高い。

 つまり、これでアリシアの疑いはさらに強くなった。

 でも――どうして敵は制輝軍が駆けつけるよりも早く私たちの居場所を特定したんだろう。

 ――それよりも、一体ノエルは何を考えているの?


 アリシアへの疑いがさらに強くなると同時に、新たな疑問が増えて苛立つアリス。


 ここでアリスの思考の邪魔をするように前方に数人の制輝軍が現れる。


「任せて、ください」


 即座に反応したサラサは、目にも止まらぬ速さで、さらに重力を無視して壁を伝って行く手を阻む制輝軍たちへと疾走する。


 目にも映らぬ速さで眼前に現れたサラサに反応しようとする制輝軍たちだが、それよりも早く左右の手に持った武輝である短剣を振って、制輝軍たちを倒した。


「幸太郎君! どれくらいで目的地に到着するんだ?」


「えっと……このまま真っ直ぐ走って、大通りに出ればすぐです」


「わかった! ――それなら、ここで一旦足止めをしよう」


 目的地がすぐだと言った幸太郎に、武輝である刀を手にした優輝は自身の周囲に、武輝に変化した輝石絞り出した力で、無数の光の刃を生み出した。


 大通りへと向かいながら、優輝が生み出した光の刃は徐々に数が増えてくる。


 光の刃が増えるにつれて優輝の息遣いは荒くなり、苦悶の表情を浮かべていた。


 息も絶え絶えになる頃には、優輝が生み出した光の刃は幾千の数になっていた。


 そして、優輝は生み出した光の刃を、後方から追ってくる制輝軍たちに向かって発射した。


 発射された数多の光の刃は制輝軍たちに襲いかかるが、ほとんどの光の刃は彼らの道を邪魔するかのように地面に突き刺さった。


「おぉ! すごいぞ、ユーキ!」


 多くの制輝軍たちを蹴散らし、足止めする圧倒的な優輝の力に、プリムは声を大にして感心しており、幸太郎も「おー」と情けなく大口を開けて感心していた。


 そんな二人とは対照的に、消耗しきっている優輝にサラサは駆け寄った。


「大丈夫、ですか、優輝さん……」


「す、少し、無理をし過ぎたけど……まだ、大丈夫」


 自分を心配するサラサに力強い笑みを浮かべる優輝だが無理しているのは明らかだった。


 だが、それでも優輝は決して幸太郎たちの前で弱さを見せず、歩みを止めない。


 まだ力を取り戻せていないけど……さすがは久住宗仁の息子。

 アカデミー最高戦力と称された『久住優輝』は別人だけど、彼に遜色ない力を持ってる。


 本調子ではないが、優輝の力の一端を垣間見たアリスは無表情ながらも、幸太郎とプリムと同様に内心では驚くとともに、感心していた。


 このまま順調なら目的地まではすぐだとアリスは思っていたが――狭い路地を抜け、大通りに入った瞬間、それが甘い考えだとすぐに悟った。


「やっほー☆ アリスちゃん。元気にしてた?」


 美咲、クロノ――こんな時に……


 路地を抜けて大通りに入ると、武輝である身の丈をゆうに超える斧を担いでキュートにウインクをする美咲と、武輝である鍔のない剣を持った無表情のクロノが出迎えた。


 制輝軍内でもトップクラスの実力を持つ二人が出迎え、アリスは苦々しい顔つきになった。


「いやぁ、おねーさんびっくりしちゃった! まさか、常に冷静クールなアリスちゃんが大胆な真似をするなんて、予想しなかったよ♪ アリスちゃんって、実はベッドの上だと――」


「アリス、プリムを誘拐した罪でオマエを拘束する」


 呑気な美咲の会話を遮ったクロノはアリスに武輝の切先を突きつける。


 アリスを拘束する気でいるクロノに、プリムは庇うようにしてアリスの前に仁王立ちする。


「待て、クロノ! 私は進んでアリスといるのだ!」


「オマエがそう言っても、教皇庁はアリスを拘束し、オマエを保護しろと命令を下した」


「この私が問題ないと言っているのだぞ!」


「そうだとしても、オレは与えられた命令を遂行しなければならない」


「頑固者のわからず屋のバカモノめ! どうしてお前はいつも『命令』、『任務』、ばかりなのだ! お前の意思はどうなのだ!」


 与えられた命令や任務のためではなく、クロノの意思を尋ねるプリム。


 プリムの問いに、クロノは言い淀んでしまうが――すぐに、アリスたちを厳しい目で睨む。


「……とにかく、大人しく従え。面倒事になる前に」


「ということだからさ――大人しくおねーさんたちに従ってくれないかな? アリスちゃんと戦えるのはとっても嬉しいんだけどさ……正直、あんまり気が乗らないんだよね」


 好戦的な笑みを浮かべながらも、目だけは真剣な美咲は懇願する。


「アリスちゃんは事件の真実が知りたいんでしょ? そのために、教皇庁とアタシたち制輝軍を牽制するためにプリムちゃんを連れ出した。そんな大胆な真似をするアリスちゃんは悪くないけど、結局アリスちゃんのしてることは無暗に混乱を広げるだけだし、大勢に追われてるから真実を掴めることなんてできないよ――だから、ね? ここはおねーさんに従ってよ」


 ……ごめん、美咲。


 任務第一のクロノと違って必死にアリスを説得する美咲だが――考えが変わらないアリスは強い覚悟が込めた目を二人に向け、自身の武輝である大型の銃を突きつけた。


「悪いけど、まだ捕まるつもりはない」


 まだ捕まる気のないアリスに同調するように、彼女の傍に武輝を持った優輝とサラサが立つ。三人の背後にはショックガンをカッコよく構えた幸太郎がいるが、誰も見ていなかった。


「……ならば、容赦はしない」


「残念。ホント……残念だよ、アリスちゃん」


 抵抗する気満々のアリスたちに、クロノは戦意を高め、美咲は深々と嘆息しながらもアリスたちを迎え撃つ準備をする。


 一瞬、美咲とクロノと、アリスたちの間に沈黙が流れたが、アリスが武輝である銃の引き金を引くと同時に沈黙は破られた。


 優輝とサラサは美咲に飛びかかり、アリスは飛びかかってるクロノに対応する。


 遅れて反応した幸太郎はアリスたちの援護をしようとするが、割って入る隙が見当たらずにあたふたしていた。プリムは険しい表情で腕を組んで観戦していた。


 美咲に同時攻撃を仕掛けた優輝とサラサだが、優輝の一撃を武輝で受け止め、攻撃を仕掛けようとするサラサを蹴り飛ばし、美咲は余裕に二人の動きに対応した。


「ティアちゃんと同等かそれ以上の力を持ってる優輝クンと戦えるのは嬉しいけど、本調子じゃないみたいだし――それに、気が乗らないんだよね」


 憂鬱そうにため息を漏らしながら、優輝の一撃を受け止めていた片手に持った武輝を軽々と振って、彼を突き放した。


 凄まじい美咲の力で突き放された優輝の身体は宙に舞うが、空中で体勢を立て直した優輝は空を蹴り、再び美咲に襲いかかって武輝である刀を振り下ろした。


「美咲さんにしては、戦いを喜ばないなんて珍しいんじゃないかな?」


「アタシもこんなことはじめてだから、ちょっと困ってる」


 優輝の攻撃を余裕で美咲は捌きながら、大好きな戦闘に気が乗らない戸惑いを口にした。


 そんな美咲に音もなく近づいたサラサは、左右の手に持った武輝である短剣を振うが、美咲は余裕を持った派手な動きで回避しながら、片手に持った武輝を薙ぎ払うように大きく振う。


 サラサは回避しながらも、美咲が勢いよく武輝を振って発生させた風圧で吹き飛んだ。


 サラサの対処をして生まれた美咲の一瞬の隙を突いて優輝は武輝を突き出すが、美咲は難なく武輝で受け止め、武輝同士がぶつかり合う甲高い金属音が周囲に鳴り響いた。


「つまり、美咲さんは迷っているということだ」


「……そうだね。うん、そうなんだな、きっと」


 優輝の指摘に、素直に認めた美咲は力なく笑う。


「アタシはね、ただ――みんな仲良くすればいいってだけなんだよね」


「それなら、アリスちゃんを信じてあげればいい」


 力なく笑う美咲が口に出した言葉が本音だと察した優輝は、美咲を説得する。


 だが、美咲は勢いよく武輝である斧を振り下ろし、優輝から差し伸べられた手を振り払った。


「もちろん、信じてるけど――……こんな無茶をしてたら、元には戻れないから」


 そう言って、美咲は普段の無邪気で軽薄な笑みを浮かべ、迷いは晴れていた。


 そんな美咲と相対して、優輝は勝ち目のないことを悟って冷や汗を一滴流した。


 優輝とサラサが美咲とぶつかり合っている傍では、クロノとアリスが激しくぶつかり合っていた。


 美咲のように迷いを抱いている様子はなく淡々とクロノはアリスを攻め、アリスも冷静に対応し、容赦なく武輝である大型の銃の引き金を引いていた。


 遠距離が得意なアリスに肉迫して、自身の得意な接近戦に持ち込もうとするクロノだが、アリスの武輝である大型の銃には銃剣がついており、それでクロノと接近戦を繰り広げていた。


 クロノの攻撃に対応するため、自身の身長をゆうに超える銃を槍のように振うアリスだが、接近戦では明らかにクロノの方が有利だった。


 しかし、武輝を槍のように振って自分の攻撃に対応し、引き金を引いて光弾を発射して不用意に自分を近づけさせないアリスの戦法に、クロノは決定打を与えられずにいた。


 一旦仕切り直すため、アリスとクロノはお互い同時に大きくバックステップをして間合いを取り、お互いを睨みながら、出方を窺っていたが――


「オマエの負けだ、アリス」


 何かを悟ったクロノは構えを解いて、淡々とアリスにそう告げた。


 まさかと思ったアリスは、美咲と交戦していた優輝とサラサの様子を見ると、美咲の圧倒的な力の前に膝をついている二人がいた。


「後はオマエだけだ、アリス」


 ……これまで、なの?


 先程、大勢の制輝軍たちを蹴散らす力を見せ、さっきまでは美咲と渡り合っていた優輝だったが、アカデミートップクラスの実力を持つ美咲が相手では、サラサのフォローがあっても無理だったとアリスは気づくと同時に、追い詰められた状況に諦めの感情が芽生える。


「僕がいるよ」


「私がいることも忘れるな!」


 優輝とサラサが倒された絶体絶命の状況で待っていましたと言わんばかりに登場する幸太郎とプリムだが、最初から二人を戦力と考えていないクロノは無視した。


「これ以上は無駄だ。諦めろ、アリス」


 善戦したけど、結局は無駄な抵抗だった。

 ――でも……やっぱり、まだ終われない。


 降伏を促すクロノに、追い詰められた状況を打破する手がないことを悟ったアリスは、クロノに突きつけた武輝を輝石に戻して降伏を受け入れようとしたが――


 それでも、アリスは僅かに残る抵抗の意思で、クロノと美咲を相手にする覚悟を決める。


「諦めが悪いなぁ、アリスちゃん。いい加減おねーさん、困っちゃうよ」


「……お前がまだ抵抗するなら、覚悟をしてもらおう」


 アリスから戦意が失われていないことに深々と嘆息する美咲。


 一方のクロノは、無表情ながらも何かを抑え込むように必要以上に武輝をきつく握り締めた。


 再びアリスとクロノの間に、一触即発の沈黙が流れるが――クロノが力強い一歩を踏み込み、アリスが引き金を引くと同時に沈黙は脆くも崩れた。


 アリスが発射した光弾を最小限の動きで回避するクロノはアリスとの間合いを詰め、上段に構えた武輝を一気にアリスに向かって振り下ろした。


 防御に転ずる間を与えないほどの速度で振り下ろされるクロノの攻撃だが――アリスは防御することも避けることもなく、彼に銃口を向けたまま引き金を引こうとする。


 お互い相打ちになるのを理解した上での攻撃だが、二人はいっさい退かない。


 相打ち覚悟の二人を見ていられなくなった美咲は目を瞑ってしまう。


 クロノの武輝がアリスの脳天に肉迫し、アリスは引き金を引いて光弾を放つ――が、相打ち覚悟の二人の攻撃は届かなかった。


 クロノの攻撃は突然アリスとクロノの間に割って入った大道が武輝である錫杖で受け止め、アリスが放った光弾は沙菜の武輝である杖から放った光弾で弾き飛ばしたからだ。


「さあ、早く行くんだ!」


 突然の乱入者にアリスたちは驚いている中、誰よりも早く反応した幸太郎は力強く頷き、呆然としているアリスの手を引いて目的地へと走る。


 遅れて反応したサラサと優輝は、プリムを連れてこの場から離れた。


 そんなアリスたちを追おうとするクロノだが、大道と沙菜が道を阻むようにして立つ。


 突然現れて行く手を阻む大道と沙菜を、クロノは溢れ出んばかりの威圧感が込められた目で睨む。普段は感情を宿していないクロノの瞳に僅かな苛立ちが宿っていた。


「説明しろ」


 平坦な声だが苛立ちが込められた棘のある声で大道に説明を求めるクロノ。


 クロノから放たれる圧倒的な威圧感と敵意に気圧されながらも、大道は説明をはじめる。


「我々は今、風紀委員に協力をしている。風紀委員はアリスさんたちが、何らかの目的を持ち、何者かの指示で動いていると判断している。そして、その目的の先にはヴィクターがいると思っている」


「何を言おうがオマエたちは推測で動いているだけだ。証拠がないのに、オレたちの邪魔をしたんだ。どうなるかわかっているのか」


「我々は自分たちの信じるままに行動している。その行動に一分の迷いはない」


 確たる証拠がないのに後先考えない行動をしても、自分の決意は揺るがないと言ってのける大道に、沙菜も力強く頷いて同意を示した。


 そんな二人の態度に、クロノから発せられる空気がさらに重くなり、刺々しくなり、二人とクロノの間に一触即発の空気が流れた。


「ま、まあまあ、弟クン。ここは穏便に、ね? 一応、二人は教皇庁の人間でもあるから、戦ったらみんなに迷惑がかかるからダメだよ。今はアリスちゃんたちを追わなくちゃ」


「わかっている。だが、その前に今の件を報告する。どうなるのか、覚悟しておけ」


 普段のクールな態度からは考えられないほどの怒気を身に纏うクロノを慌てて宥める美咲だが、そんな彼女をクロノは冷たく突き放し、大道たちの件を報告するためにこの場から離れた。


 クロノが離れたおかげで一触即発立った空気が和らいで、全身の緊張を解くように美咲は深々とため息を漏らした。


「ご、ごめんなさい、美咲さん……」


「あー、いいの、いいの、別に気にしなくて……正直、助かったから」


 突然割って入ったことを謝罪する沙菜だが、軽薄でありながらも安堵しているような笑みを浮かべている美咲は特に気にしておらず、むしろ救われたようであった。


「でも、共慈ちゃんとさっちゃん……マズいことになるんじゃないかな」


「今回の件で教皇庁は鳳グループの力を欲している。そう簡単には大事には至らないだろう」


「……そう思いたいね」


 問題ないと判断している大道だが、暗い表情の美咲は憂鬱そうにため息を漏らした。




―――――――――




 ――約半数以上の枢機卿の精神状態は、焦燥感に満ちている。

 これはおそらく、自己保身のためだと思われる。

 枢機卿という自分の立場を失わないため、今回の事件を真面目に、必死に取り組んでいる。

 自己保身のためならば、彼らは手段を選ばないと思われる――以上。


 教皇庁本部の大会議室内で教皇エレナ、次期教皇最有力候補であるプリムが誘拐された事件について対策や、情報収集、事件解決のための計画を話し合っている枢機卿たちの様子を冷めた様子で眺めているノエルは分析していた。


 半分以上の枢機卿が自己保身のために事件解決のために躍起になっており、少しでも手柄を得るために手段を選ばない異様な熱気と、邪な執念を放っていた。


 今まで自分の権力を好き勝手に振っていた結果、追い詰められてしまった自業自得な枢機卿たちの姿を、無表情ながらにもノエルは滑稽だと思うと同時に、都合が良いと感じていた。


「それで、白葉ノエル――報告したいこととは?」


 事件について話し合っている必死に話し合っている枢機卿たちとは対照的に、議長席に座るアリシア・ルーベリアは落ち着き払った様子で、ノエルに声をかけた。


 アリシア・ルーベリア――彼女も枢機卿の権力を存分に振い、他の枢機卿と同じく立場を脅かされている身であるが、精神状態は至って良好。

 娘が誘拐されているのに焦燥していないのは、次期教皇候補の娘を道具として見ているため。

 自分の立場が脅かされているのに精神状態が良好なのは愚かにも自分は問題ないと思っているのか、優秀な自分を教皇が切り離すことができないと思う過信が故か、それとも――


 教皇と自分の娘が誘拐されているというのに、落ち着き払っているアリシアを分析していたノエルは、分析を中断してアリシアの質問に――自分がこの場所に来た理由を話す。


「問題が発生しました」


「今回の件は教皇庁が全力を挙げて捜査しているわ。どんな問題であろうと、教皇庁の力で跳ね除ける――言ってみなさい」


「風紀委員がつながりのある人間を操って我々の妨害をしました。つい先程、アリス・オズワルドを追い詰めましたが、寸でのところで水月沙菜、大道共慈が邪魔をして目標を逃しました」


 淡々としたノエルの報告に、枢機卿たちは苛立ちの声を上げる。


「だから、鳳グループの力を間接的に借りるために風紀委員の力を利用するのは、反対だと言ったのだ! 過去の事例から考えれば、風紀委員が勝手に動くのは目に見えていた!」

「アリシア! 君はどう責任を取る! せっかく君の娘を誘拐した人間を追い詰めたのに、逃がしてしまった! 混乱は収束しないぞ!」


 さっそく鳳グループの力を間接的に借りるために風紀委員を利用すると決めた張本人であるアリシアに責任を擦り付けようとする枢機卿たちだが、アリシアは気にせず話を続ける。


「あなたたち制輝軍には悪いけど、鳳グループの力を借りたい今は風紀委員を外せない」


 想像通りのアリシアの答えに、「そうですか」とノエルは特に動じなかった。


「だけど、妨害行為を行ったのは事実。今後、風紀委員は制輝軍の管理下に置きなさい。今後は邪魔をさせないため、裏方に徹するように見張りなさい」


「わかりました――それと一つ、お願いがあるのですが」


「言ってみなさい」


「妨害行為を行う風紀委員の協力者に対して、実力行使での対応を許可してください」


「許可するわ。判断はあなたたち現場に任せるわ」


 妨害行為を行った風紀委員に協力している大道たちに対して、実力行使に出ることを許可したアリシアに、「待ってください!」と今までアリシアとエレナのやり取りを神妙な面持ちで眺めていたリクトが制止した。


「共慈さんと沙菜さんは御三家である『大道』と『水月』。御三家は教皇庁の協力者です。そんな方々に実力行使で制止するのはどうかと思います」


「今回の事件は教皇庁にとって前代未聞の事件であり、未曽有の危機よ。そんな状況で妨害をする人間は教皇庁の関係者であっても許されない――それくらい、理解しなさい」


 教皇庁の関係者に対して厳しすぎるエレナの判断に異を唱えるリクトだったが、アリシアの反論に何も言い返すことができなかった。枢機卿たちもアリシアの判断が妥当であると思っているのか、リクトのように異を唱えることはしなかった。


 ――何も、問題はない。


 事件の指揮をするアリシアから風紀委員の動きを封じ、邪魔する人間の排除を許可されたノエルは、すべてが順調であることを確信していた。


 さっそくノエルはアリシアの指示を実行するために、会議室を出て制輝軍本部へと向かった。


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