第36話
アンプリファイアによって力を得られたことによる狂喜と、自分の立場を脅かす周囲への憎悪が入り混じった表情を浮かべているセイウスは、自身の身長を覆うほどの大きな盾を軽々と振ってこちらに向かって疾走する怒りの表情を浮かべるリクトに向けて手をかざすと、掌から毒々しい緑色の光弾を撃ち出した。
撃ち出された光弾を武輝である盾で防ぎ、最小限の動きで回避しながら、リクトはセイウスと距離を詰める。
一気に間合いを詰めたリクトは持っている武輝である大型の盾を軽々と鈍器のように振ってセイウスに殴りつける。
胸につけられた装置に埋め込まれたアンプリファイアから発せられる緑色の光を両腕に纏わせ、セイウスはリクトの攻撃を容易に防いだ。
「さあ、さあ、さあ! もっと、もっと僕の力を振わせてください、リクト様!」
存分に自身の力を振える機会に嬉々とした声を上げて、セイウスは緑色の光を纏った拳でリクトを殴りつけた。
威力や速度だけは十分にあるが――セイウス自体の戦闘経験が乏しいために、技術も何もなくただ子供のように力任せに殴りつけているだけだった。
そのため、隙がかなり大きく、容易にリクトはセイウスの攻撃を回避し、武輝を大きく振って反撃できる間が十分にあった。
プリムを誘拐された時はセイウスが得た凄まじい力に取り乱されて冷静な判断ができなかったが、今のリクトは違った。
セイウスの攻撃を一つ一つを見切る冷静さを持っており、確実に反撃を決めていた。
セイウスの胸につけられたアンプリファイアが埋め込まれた装置めがけてリクトは思いきり武輝で殴りつけるが、一瞬の抵抗があって装置には届かずにリクトの身体は弾かれるように軽く吹き飛んだ。
吹き飛びながらも体勢を立て直して華麗に着地したリクトは、後方に向けて大きく身体を翻してセイウスとの距離を一旦開いた。
「フフフ……どうでしょう、リクト様。素晴らしい力でしょう。ここまで、この素晴らしい力は、美しくも激しいあなたの攻撃をすべて無力化している」
全身から緑白色の光を纏いながら、忌々しいほど自慢げな笑みを浮かべるセイウス。
ただの力任せの攻撃で技術も何もないセイウスだが、アンプリファイアの力が強固なバリアとして彼の全身を包んでいるため、リクトの攻撃を弾いて無力化していた。
しかし、その分圧倒的な手数でリクトはセイウスを攻めており、セイウスに力を供給している胸の装置を狙っていた。
だが、いまだにリクトの攻撃はセイウスの胸の装置に届かなかった。
――確かにすごい力だ。
輝石の力を使わずに、あそこまで身体能力や反射神経、防御力のすべてを向上させるなんて……
それに、アンプリファイアを使えば高揚感が頭を支配して支離滅裂な言葉を繰り返すというのに、セイウスさんはある程度喋れるほどの冷静さを持っている。
……セイウスさんが使っている装置は、完全にアンプリファイアの力を安定させて使いこなしているようだ。
いや、もしかしたら、アンプリファイアが本来持っている力以上の力をあの装置が発揮しているのかもしれない。
セイウスが得た力を冷静に分析して、リクトは心の中でアンプリファイアの力を存分に引き出している彼の胸につけられた装置に感心していた。
アンプリファイアの力を安定させ、アンプリファイアが持っている力以上の力を発揮するセイウスの胸につけられたアンプリファイアが埋め込まれた装置の力を、リクトは認めざる負えなかった。
どんな攻撃も弾く強固なバリアを前にして、プリムの命を軽視したセイウスへの怒りに支配されていたリクトはここで一旦冷静になるようにした。
「……確かに、あなたの力は借り物であっても認めざる負えません」
「そうでしょう! 素晴らしい力でしょう! この力があれば、未来はきっと明るくなるに違いありません!」
ため息交じりにリクトはセイウスの力を認めると、セイウスは嬉々とした笑い声を上げる。
耳障りなセイウスの笑いに、不快感を示しながらもリクトは武輝に変化した輝石の力を無理矢理絞り出すようなイメージを頭に浮かべる。
すると、そのイメージに呼応するかのようにリクトの首にかけられたペンダントについたティアストーンの欠片が青白く発光するとともに、武輝に光が纏った。
「輝石の力を絞り出しても無駄ですよリクト様。あなたの攻撃はすべて無意味に終わる」
「そうかもしれませんが――今回は一味違います」
意味深な微笑を浮かべたリクトは、セイウスに向かって疾走する。
自身に迫るリクトに向けて掌から緑色の光弾を撃ち出すが、リクトは武輝で弾き飛ばしながらセイウスとの距離を一気に詰めてきた。
間合いに入った瞬間、リクトは身をかがめて水面蹴りでセイウスの足を思いきり払った。
リクトの動きに対応できなかったセイウスは、苛立ちと悔しさで満ちた表情を浮かべて尻餅をついて無様に倒れてしまった。
即座に尻餅をついたセイウスにリクトは飛びかかって、馬乗りになった。
「壊れないのなら、壊すまで攻撃を続けるまでです」
眼下にいるセイウスを冷たい眼で見下ろしたリクトは淡々とそう告げると、彼の胸についた装置めがけて武輝である振り下ろした。
何度も、何度もセイウスが見に纏うバリアを壊すまで、彼の胸についた装置を破壊するまで、何度も何度も武輝を叩きつけた。
リクトの攻撃を受けても相変わらずセイウスの纏っているバリアはビクともしなかったが――鬼気迫る表情で自身に向けて何度も武輝を振り下ろすリクトの姿に、力を得られて狂喜の絶頂にいたセイウスは気圧され、明確な恐怖を抱き、喉の奥から振り絞った小さな悲鳴を上げてしまった。
「ま、待て、待ってください! リクト様!」
恐怖に満ちた表情で必死にリクトを制止させようとするセイウスだが、問答無用にリクトは武輝を振り下ろす。
セイウスの耳に何かが軋む音が響いたような気がした。
その音が自分の身に纏うバリアからだと思い込んでしまい、セイウスはさらに恐怖する。
何か手はないかと探るセイウスの視界に、輝械人形を動かすための人形となっているプリムが目に入った。
プリムの姿を見て勝機を掴んだセイウスは、恐怖の表情から一変させて気分良さそうな強気な笑みを浮かべた。
そんなセイウスの表情の変化に気づくことなく、リクトは無我夢中で武輝を振り下ろしていたが――突然、背後から強い衝撃が襲ってリクトの身体は吹き飛んでしまった。
全身に衝撃が走ると同時に身体が痺れて上手く受け身を取れず、リクトは床に叩きつけられ、身体が痺れてうつ伏せに倒れたまま動くことができなかった。
「や、やれやれ……少々焦ってしまいましたよ。やはり、持つべきものは協力者ですね」
小さく何度も深呼吸しながら怯えた自分を落ち着かせ、忌々しいほどの余裕な笑みを浮かべて埃を払いながら優雅に立ち上がり、身体が痺れて動かないリクトを冷たい目で見下ろしているセイウスの周りを、フードを目深に被った黒い服を着た三人の輝石使いが武輝を持って囲んでいた。
三人の輝石使いが目深に被ったフードの中から、赤く光る双眸が浮かび上がっていた。
「彼らはもしもの場合に用意した『護衛』の輝械人形です。この力を存分に振って、あなたを打ちのめそうと思いましたが――……もうそんなの関係ありません」
気分良さそうな顔から、自分の思い通りにならなかったことによる苛立ちと、力を得たのにリクトに追い詰められた屈辱で、セイウスはどす黒い感情に染まった表情を浮かべていた。
ようやく身体から痺れが抜けたリクトは立ち上がり、輝械人形たちとセイウスを睨んだ。
「……それが輝械人形」
現れた輝械人形の姿が、先程ティアたちの前に現れ、前回の事件で現れた黒衣の輝石使いの姿と同じであることを悟り、ようやくリクトは輝械人形という存在を認めることができた。
「その通り、彼らは人間の輝石使いではなく、プリム様の力によって動かされている機械の輝石使いですよ」
自慢げにセイウスは説明すると、輝械人形は全身に身に纏っていた黒い服を脱ぎ去った。
赤く光る鋭い双眸を持ち、闇と同化する黒色のボディの輝械人形は、姿形は数か月前に新たに開発された二足歩行型のガードロボットよりも遥かに人間に酷似したデザインであり、胸の部分にはプリムの力によって輝いている輝石が埋め込まれていた。
武輝以外にもアームの部分にショックガンが内蔵されていることに気づいたリクトは、先程自分の背後を襲った電流を纏った衝撃波の正体を察した。
三体の輝械人形からは無機質ながらもセイウスを超える威圧感を放っており、リクトは思わず息を呑んでしまうが、それでもプリムのために退かない。
そんなリクトの姿を見て、嫌らしい笑みを浮かべるセイウスは優雅に歩きながら拘束されて椅子に座らされているプリムに近づき、彼女の細い肩にそっと手を置いた。
「あなたが助けようとするプリム様は今、僕の目の前にいる……それがどんな意味なのかを理解していますか?」
……卑怯者め!
ねっとりとした笑みを浮かべて放ったセイウスの言葉の意味をすぐに理解したリクトの怒りはさらに跳ね上がり、心の中でセイウスを罵りながらも、抱いた怒りを爆発させることなく悔しそうな顔を浮かべて動けなくなってしまった。
自分の立場を理解した様子のリクトを見て、セイウスは満足そうに微笑んだ。
「……プリムさんに手を出さないでください」
「それはあなたの態度次第ですよ」
セイウスの言葉を受けて、リクトは武輝を輝石に戻そうとすると――「ああ、ちょっと待ってください」と、セイウスはリクトの行動を制止させた。
「輝石の力を解いたら、あなたを痛めつける面白味がなくなってしまうので、そのままで結構ですよ」
加虐心が溢れ出るほどのにんまりとした笑みを浮かべたまま、セイウスは両腕から緑色の光弾をリクトに発射した。
プリムを人質にされて、リクトは避けることなくセイウスの攻撃をその身で受け止めた。
セイウスが撃ち出した光弾が直撃して、リクトの身体は大きく吹き飛んだ。
全身にバリアのように身に纏う輝石の力の出力を上げずに、セイウスの攻撃が直撃したリクトは全身に凄まじい衝撃を受けるとともに痛みが走り、受け身も取らずにリクトは床に叩きつけられた。
セイウスの攻撃によるダメージが全身に回りながらも、リクトは苦悶の表情を浮かべずに我慢して、卑怯なセイウスに対しての怒りを募らせた。
自分の攻撃がリクトに直撃したことに、嬉々とした笑い声を上げるセイウス。
倒れているリクトを、セイウスの傍から離れた二体の輝械人形が左右からリクトの手を掴み上げて、無理矢理立たせた。
リクトが抵抗した場合に備えてプリムの傍に輝械人形を残して、気分良さそうにサディスティックな笑みを浮かべたセイウスはリクトにゆっくりと近づいた。
人質を取られて手も足も出せない絶体絶命の状況にもかかわらず、相変わらずリクトの目には強い光が宿っていた。
自分の攻撃をまともに受けてもいっさい怯むことなく、リクトの瞳に宿り続ける強い光を見て、セイウスの顔から笑みは消え、代わりに苛立ちが露わになる。
渦巻く暗い感情のまま、セイウスは両腕に緑色の光を纏わせ、きつく握った拳でリクトの顔面を殴りつけた。
バリアのように身に纏っている輝石の力の出力を上げて防御することなく、セイウスの拳を受け止めたリクトの口から一筋の血が流れると、セイウスは嬉々とした笑みを浮かべる。
「いい様ですよ、リクト様……考えもなく、勢いのままに行動するから最後の最後で詰めが甘くなるんですよ」
「……後先考えないでプリムさんを誘拐したあなたのように、ですね」
嘲笑を浮かべて皮肉を吐き捨てるリクトの顔面を、セイウスはもう一発殴った。
強烈な一撃を食らっても、リクトは怯むことなく真っ直ぐとセイウスを睨んだ。
「それにしても、滑稽だとは思いませんか? アリシア・ルーベリアに全幅の信頼を寄せている、プリム様の姿は」
「プリムさんにとって、お母様であるアリシアさんは尊敬すべき人であり、信じています。そんな彼女をバカにしないでください」
母であるアリシアを信じるプリムを嘲笑するセイウスに、リクトは怒りを込めた鋭い目で睨んだ。
立場を弁えずに自分の言葉に過剰に反応して怒りを向けてくるリクトをもう一発殴って、セイウスは嫌らしく笑う。
「リクト様は御存知のはずだ。アリシア・ルーベリアがどんな人間なのか。彼女は決して尊敬することはもちろん、信頼に値する人間ではない」
嬉々とした表情でアリシアを語るセイウスだが、前回の事件で自分を裏切ったアリシアに対して憎悪の感情が見え隠れしていた。
「陰謀、裏切り、冷酷――その言葉が相応しい人間を尊敬して、信頼しているとは、世間知らずのお嬢様は心底滑稽だ」
「……人を信じることは罪ではありません」
「きれいごとを抜かしても、リクト様ならアリシアの所業は御存知のはずだ。それに、あの女は自分の娘を、自分の目的を果たすための道具としてしか見ていない」
私怨がたっぷり込められたセイウスの、アリシアに対しての厳しい評価に、何も反論できないリクト。
子供の頃に何度かアリシアに遊んでもらった思い出がありリクトは、個人的には彼女を憎めなかったが――私情を抜きにすればアリシアは弁解の余地がない非道な人間だと思っていた。
セイウスの言う通り、アリシアが裏で多くの陰謀を張り巡らせ、大勢の人間を利用し、裏切り、冷酷に切り捨てる人物で、娘であるプリムでさえもアリシアは利用しているとリクトは察していた。
過去の事件で信じていた人間に裏切られる辛さを知っているリクトは、母を信じているプリムの前でアリシアに対して抱いている感情はなるべく言わないようにしていた。
しかし、それはリクトの杞憂であり、プリムは母の非道さを理解していた。
理解していても、プリムは母であるアリシアを尊敬して信じていた。
誰が何と言おうとも、プリムさんはアリシアさんのことを信じているんだ。
アリシアさんのことを尊敬しているんだ……
周りから何を言われても、プリムさんはきっと、最後までアリシアさんのことを信じ続けるんだ。
そんなプリムさんを――
無邪気な笑みを浮かべてアリシアのことを尊敬し、信じるプリムの姿を思い浮かべるリクトは、迷いのない目でセイウスを真っ直ぐと睨むと、セイウスは息を呑み、僅かに気圧されているようだった。
「あなたが何と言おうと、アリシアさんを信じているプリムさんを否定する権利はない」
「世間知らずはあなたも同じでしたか――忌々しいガキめ!」
人質も取られて手も足も出せず、痛めつけたのにもかかわらず、いまだに気丈な態度でいるリクトに苛立ちを爆発させたセイウスは、爆発させた苛立ちを発散させるかのように何度もリクトの身体を殴りつけた。
「お前たちは次期教皇最有力候補ともてはやされているが、所詮お前たちは枢機卿やその他大勢の人間に利用されているに過ぎない! お前たちの存在なんて、権力の奪い合いに利用されているだけだ! これだけは、確実に変わらない! 今も、未来も、ずっと! 駒にしか過ぎないお前たちが調子に乗るな! 僕の立場は絶対に変わらない! これからもずっと、お前たちを利用し続けてやる! 周囲の人間を利用して、裏切り、切り捨てて、僕はこれからもずっとこの立場でいてやるんだ! その邪魔をするお前のような生意気なガキは僕がこの『力』で打ちのめしてやる! わかったか!」
醜い性悪な本性を露わにして怨嗟に満ちた言葉を吐き出しながら、力任せに十発以上殴ったところでリクトは項垂れて倒れそうになるが、左右の手を輝械人形によって掴み上げられているので、倒れることは許されなかった。
セイウスは項垂れているリクトの柔らかい癖のある栗毛色の髪を乱雑に掴み上げ、整った顔立ちを歪めるほどの凄まじい憎悪に支配されているセイウスはリクトを睨んだ。
溢れ出んばかりの憎悪を宿している目を向けられても、リクトはいっさい怯むことなく、むなしい目でセイウスを見つめ返した。
「憐れな人だ……自分の立場に固執するあまり、自滅の道を歩んでしまっていることに気づいていないなんて」
「だ、黙れ! 黙れ、黙れ! 黙れぇ!」
今の状況に決して絶望することなく、憐憫の眼差しで自分を見てくるリクトに、セイウスは身を焦がすような灼熱の怒りと憎悪に包まれる。
感情が一気に昂ると同時に、セイウスの全身にこれまで以上の毒々しい緑色の光に包まれた。
そんなセイウスの目の前にいるリクトは、彼の胸に埋め込まれたアンプリファイアから発せられる力がさらに上がったことを肌で感じていた。
激怒する獣のような雄叫びを上げ、リクトに向けて勢いよく、力任せにきつく握った拳で殴りつけるセイウス。
だが――拳がリクトに届く前に、リクトの背後から現れた鋭い剣の切先がセイウスの身体を直撃し、彼の身体が大きく吹き飛ぶとともに床に思いきり叩きつけられた
それと同時に、リクトの左右の手を掴み上げていた輝械人形が横一線に真っ二つになって床に転がり落ちた。
拘束から解放されたリクトは、何発もセイウスに殴られたダメージで倒れそうになるが、そんな彼を一人の人物――相変わらず無表情の白葉クロノがそっと抱き止めた。
「……平気か?」
「ク、クロノ君……どうして」
今回の事件に関わらないように上司であるノエルから命令されていたのにもかかわらず、突然この場に現れて自分を助けてくれたクロノを、信じられないと言った様子で見つめるリクト。
「わからん――……ただ、何かに突き動かされた」
リクトの質問に、無表情ながらもクロノは戸惑ったように答えた。曖昧な返事をするクロノだが、安堵感に満ちた嬉々とした笑みを浮かべたリクトには気にならなかった。
「し、白葉クロノ……お、お前たち! こっちには人質がいるんだぞ!」
立ち上がったセイウスは、突然のクロノの登場に驚きながらも、最大の武器である人質を存分に利用しようとするが――
どこからかともなく光の尾を引いて飛来した数発の光弾が、拘束されて椅子に座らされているプリムの傍にいる輝械人形の頭と胸を貫いて破壊し、プリムの拘束を解いた。
拘束を解かれたプリムは床に倒れそうになるが、どこからかともなく現れた、武輝である大型の銃を持ったアリス・オズワルドが抱き止めた。
「残念だったわね」
存分にプリムを利用する気だったセイウスを嘲笑するように、アリスは冷たくそう吐き捨てた。
せっかくリクトを追い詰めていたのに最後の最後でクロノとアリスが乱入し、自分の忠実な護衛だった輝械人形も破壊され、最大の武器であった人質も取られ、一気に追い詰められたセイウスの表情に動揺が広がった。
自分が得た力に自信を持っているセイウスだが、それでもリクトたち三人には敵わないことは、動揺している頭の中でも十分に理解できていた。
しかし、一度は三人を退けながらもプリムの誘拐に成功させたので、僅かな自信もあった。
その自信に縋ったことで、セイウスは平常心を保つことができた。
「クロノ君、アリスさん……もう僕一人で十分です」
セイウスと決着をつけるため、抱き止めてくれたクロノの傍からそっと離れて立ち上がるリクト。無表情に近い冷静な表情のリクトだったが、静かに燃え上がっている怒りの炎を宿しており、有無を言わさぬ迫力を放っていた。
クロノとアリスは何も言わずにセイウスと対峙するリクトのことを眺めていた。
「無様な醜態を晒すよりも、三人で――」
「もう喋らないでください」
自分に殴られた跡が痛々しく残る自分を見て嫌味を並べるセイウスの口を、静かでありながらも圧倒的な威圧感を放つリクトの一言が閉ざした。
言葉からも、全身からも威圧感を放っているリクトに、彼一人ならどうにかなるかもしれないと思い込んでいた自分の考えが脆くも崩れるようにセイウスは感じていた。
「力ある自分の立場に固執しているあなたを憐れだと思いますが、同情はしません」
キッパリとした声でそう告げると、リクトの全身が淡い光に包まれる。
「今回の件、もしかしたら最初は乗り気ではなかったのかもしれませんし、あなたに力を与えた人物に利用されているだけなのかもしれませんが、僕はいっさい同情はしない」
射抜くような鋭い目をセイウスに向け、淡々とした声でリクトはそう告げると――彼の全身に包んでいた光が強くなる。それに同調するように、胸にかけられたペンダントについたティアストーンの欠片が青白く強く発光した。
リクトの全身を包む光がさらに大きくなり、薄暗い大広間内を真昼のような明るさを放つ。
セイウスも負けじと胸につけられたアンプリファイアが埋め込まれた装置から、アンプリファイアの力を多く引き出して、その力を毒々しいほどの緑色の光として全身に身に纏うが――リクトの身に纏う神々しい光にかき消された。
何度も、何度も、アンプリファイアから力を引き出そうとする度に、リクトの光がかき消す。
セイウスはようやく、本気で恐怖する。
目の前にいるリクト・フォルトゥスがとんでもない力の持ち主であり、安易に怒らせてはならない存在であることを。
「僕はあなたを絶対に許さない」
短いながらも、自分を絶対に許さないという強い意思が込められたリクトの言葉に、セイウスは喉の奥から振り絞った情けない悲鳴を小さく上げた。
怯えるセイウスを鋭い目で見据えたリクトの身を包む光がさらに質量が増すと、リクトの持っていた武輝が忽然と消えた。
その代わりに、リクトを包む光が巨大な人型の形になった。
輝石の力で光の巨人を生み出した圧倒的なリクトの力を目の当たりにして、セイウスはもちろん、クロノとアリスも唖然としていた。
リクトが生み出した光の巨人は巨大な拳を振り上げ、勢いよくセイウスへ向かって振り下ろす。
迫る巨大な拳に腰が抜けて動けず、無様に大きな悲鳴を上げるセイウスだが、もちろん拳は止まらない。
セイウスの身に纏ったバリアによる抵抗があったが、一瞬でバリアを砕いて巨大な拳はセイウスに激突した。
セイウスの断末魔にも似た悲鳴を容易にかき消すほどの爆発音にも似た轟音が響き渡ると同時に、目が眩むほどの光が大広間内に包まれた。
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