第32話
セイウスが別荘として使用している小高い丘の上にある大きな屋敷に到着したリクトは、輝石を武器に変化させて臨戦態勢を整えると、重厚な扉をそっと開いた。
エントランスには埃っぽいにおいが充満していたが、同時に人のぬくもりも感じられた。
それ以上に感じていたのは、肌を刺すように攻撃的でありながらも、どこか慣れ親しんだ力の波動だった。
……この力、どこかで。
もしかして――これと同じ力?
屋敷中に広がる力の気配が自分の首にかけられたペンダントについている、青白く発光しているティアストーンの欠片から発せられるものと同じだとリクトは気づいた。
攻撃的だがティアストーンの欠片と同じ力の波動を強く感じて、疑念と警戒心が同時に高まるリクト。
エントランスの先にある力の気配がする場所へと、リクトは慎重な足取りで向かう。
エントランスを抜け、僅かな明かりに照らされている薄暗い大広間に入ると――リクトの目に異様な光景が広がった。
多くの人を集めてパーティーを行えるほどの広さを誇る大広間内には、広い空間内を埋め尽くすほどの機械で覆われており、床には大小様々なコードが敷き詰められていた。
機械で埋め尽くされた大広間の中央に立つのは、白いシャツを着崩したセイウスだった。
「ようこそ、リクト様。まさか、本当にここまで来るとは思いもしませんでしたよ」
「プリムさんを返してください」
「挨拶を返してくれないとは、中々不躾ですね」
「突然現れて、人を攫うあなたに言われたくありません」
訪問者であるリクトに向かって、フレンドリーでありながらも狂気を滲ませた笑みを浮かべて、仰々しく頭を下げるセイウス。
挨拶よりもプリムを優先させるリクトにセイウスは嫌味を言うが、リクトは淡々と嫌味を返して相手にしなかった。
突き放すようなリクトの生意気な態度に忌々しそうに顔を一瞬歪めると、セイウスは明るく、嫌らしい意味深な笑みを浮かべた。
「大丈夫、彼女は無事ですよ――ほら、この通り」
そう言って、セイウスは自分の背後で椅子に座っているプリムを紹介する。
椅子に座るプリムを見て、リクトの表情は驚愕に怒りに染まる。
両手両足を拘束されて椅子に座らされているプリムの頭には、多くのコードにつながれたヘルメットを目深に被らされており、全身には細い管のようなコードにつながれていた。
気絶しているのか、プリムは俯き加減で座ったまま動いていないが、彼女の首にかけられたペンダントについたティアストーンの欠片は青白い光の明滅を繰り返していた。
「こ、これは……一体、プリムさんに何をしてるんですか」
多くのコードにつながれた痛々しいプリムを見た驚きと、少女の服をはだけさせて全身にコードを繋げていることに対しての怒りと、理解不能な状況で生まれた怯えで、頭が真っ白になったリクトは震える声でセイウスに尋ねた。
「これは『
聞き慣れない『輝械人形』という単語がセイウスの口から出てきて、リクトは縋るような目を向けて彼に説明を求めた。
「輝械人形とは、あのヴィクター・オズワルドと並び称されるほどの天才であり、僕の協力者である男が構想・開発した輝石と機械を融合させた新技術です」
「あ、ありえません……輝石と機械は水と油の関係。合わさることは決してないはずです」
機械と輝石が相容れない存在であることは、リクトは十分に理解していた。
今まで何度も輝石のエネルギーを利用した新エネルギーや新技術を開発しようとして、ことごとく失敗していたからだ。
それを知っているリクトはセイウスの言葉が信じられなかった。
固定概念に縛られ、状況を把握できないでいるリクトの様子をセイウスは気分良さそうに眺めていた。
「教皇エレナのようなティアストーンを扱う強い素質を持っている人間は、触れていない輝石を反応させることができる力を持っている。そこに目をつけたあの男は、煌石の資格者を動力源にして、戦闘特化用のガードロボットに輝石を埋め込み、輝石の力で動くガードロボット・『輝械人形』を開発した。後は動力源である、輝石を触れないでも反応できるティアストーンの資格者を利用すれば、輝械人形は武輝を扱うことができるのだ! あなたも先程――いいえ、もっと前に見たはずだ。黒衣を身に纏う輝石使いを」
セイウスの説明を聞いて、前回の事件の際に現れた輝石使いと、先程自分たちの前に現れた輝石使いのことが頭に過る。
前回の事件の際、自分たちの前に現れた黒衣の輝石使いは信じられないほど頑丈であり、倒したと思ったら爆炎とともに消えてしまった。
もしかしたら、相手は機械だったのではないかという考えももちろん浮かんだが、機械と輝石が相容れないものだという固定概念を持っていたその時のリクトはすぐにその考えを捨てた。
自慢げにしたセイウスの説明にリクトは納得できたが、それでも長年培われた固定概念を中々覆すことができないリクトはまだ輝械人形という存在にいまだに半信半疑だった。
「あの男は天才だ……過激な思想で教皇庁と鳳グループから毛嫌いされて、アカデミーを追いやられて失脚したが、あの男がいればアカデミーはもっと発展したに間違いない」
嬉々として自分の協力者を語るセイウスは、おもむろに着ているシャツの胸元をはだけた。
セイウスの薄く、華奢な胸板についた異様な物体を見て、リクトの表情は再び驚愕に染まる。
セイウスの胸板には、緑白色の淡い光を発するアンプリファイアが埋め込まれた小さな機械が装着されていた。
「これも彼の発明ですよ。もっとも、まだ試験段階のようですが。この機械にアンプリファイアを埋め込めば、アンプリファイアの力をある程度制御することができて、輝石の力を使わずともアンプリファイアの力を存分に振えることができる……彼曰く、これは世界の未来の希望となるそうですよ?」
「それなら、セイウスさんはその協力者に上手く利用されているだけです! 強い力を持つアンプリファイアの欠片を人間が簡単に制御できるはずはありません!」
「利用されていようが関係ありませんよ、リクト様。彼は僕にあなたたちに復讐できる力を与えてくれたという事実だけで、僕は満足だ!」
「……セイウスさん、あなたは正気じゃない」
狂気に満ちた笑い声を上げるセイウスの全身が、胸の装置から溢れるアンプリファイアの緑白色の光に包まれた。
利用されているかもしれないのに、自分たちへの憎悪と力を得られた狂喜に支配されているセイウスから感じる狂気に圧倒されるとともに、恐怖心が芽生えるリクトだが、それを押し殺して力強い目でセイウスを睨む。
「あなたの逆恨みに付き合っている暇はありません……プリムさんを返してもらいます」
「申し訳ないが、それはできません。まだ、輝械人形の実戦データは集め終わっていません。彼のために、まだ待っていただけないでしょうか? もっとも――その頃にはプリム様が無事であるとは限りませんが」
嫌らしい笑みを浮かべて、コードにつながれているプリムの肩にそっと触れるセイウス。
すると、プリムの全身につながれているコードが青白く淡く発光する。
それに同調するように、気絶しているプリムの息遣いが荒くなった。
……ま、まさか――
セイウスさんはプリムさんを、輝械人形を動かすための動力源と言った……
息を荒くしているプリムから力が徐々に失われているような気がしたリクトは、嫌な予感が駆け巡ると同時に、それを遥かに超える怒りがドッと押し寄せてくる。
すべてを察して顔を青白くさせているリクトを見て、セイウスは気分良さそうに笑った。
「あの男は煌石の資格を持つ人間を、輝械人形を動かすために部品としてしか思っていません。そして、力を使い続ければ部品は摩耗して、いつかは壊れるものということですよ」
薄笑いを浮かべながら平然とそう説明するセイウスからは、プリムの命などどうなっても構わないという明確な意思があった。
「あの男は過激な思想だけではなく、他人を平然と犠牲にして肥やしにする冷酷さを持っていたから、アカデミーから追いやられた……しかし、未来のためには多少の冷酷さも必要不可欠。それを僕は改めて思い知らされましたよ!」
嬉々として未来のためにプリムを――自分の友達を犠牲にすることを構わないと言い放つセイウスに、抑えていたリクトの怒りが臨界点を超える。
「許さない……僕の友達の命を軽く見ているあなたたちは絶対に許さない!」
「あなたから素晴らしい力を感じますよ、リクト様! さすがは次期教皇最有力候補、そして、エレナ様の息子だ! 僕が得た力の全力を発揮するのに相応しい相手ですよ!」
友達であるプリムの命を部品として扱い、軽く見ているセイウスたちに、押し寄せた怒りを爆発させて普段の温厚で気弱なリクトから考えられないほどの怒声を張り上げた。
感情を爆発させるリクトに同調して、ペンダントについたティアストーンの欠片が青白い神々しい光を放ってリクトの身体を包み、武輝にも強い光が纏った。
全身から強い怒気と周囲を圧倒する力を放つリクトに、力を得たのにもかかわらず気後れてしてしまうセイウスだが、すぐに自分が得た力を存分に振える好機に嬉々とした声を上げると、全身に毒々しい緑色の光を身に纏った。
力強い一歩を思いきり踏み込んでセイウスに飛びかかる怒りの表情を浮かべるリクトと、そんな彼を迎え撃つ狂気を宿した表情のセイウス。
怒りを爆発させながらも神々しい青白い光を纏うリクトと、攻撃的で毒々しい緑色の光を纏うセイウスがぶつかり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます