第28話

 自身と対峙する身の丈をゆうに超える武輝である大剣を持ったティアを見て、輝石を武輝に変化させることができない自分にとって唯一の武器であるショックガンを手にした幸太郎は肩を落として深々とため息を漏らした。


「ティアさんが相手かぁ」


「私では不満か?」


「セラさんの方が優しく痛めつけてくれるかなと」


 ティアと自分が対峙している様子を、少し離れた場所で険しい顔を浮かべて眺めているセラを見ながら幸太郎は呑気なことを言った。


 対峙しているというのにいまだに呑気でいられる緊張感のない幸太郎に、ティアは小さく深々とため息を漏らした。


「結局、痛めつけられることには変わりはないのだろう」


「結局はそうなんですけど」


「それともセラに何かを期待しているのか? それならその期待は無駄に終わる。セラはこの戦いが終わるまで、いっさい手を出さないで見届けるだけだ。それに、セラと戦っても、セラはいっさいお前に容赦しない。二人同時に戦ってみて確かめてみるか?」


「二対一だと圧倒的に不利なんで、一対一の方がいいです。まだ希望があるので」


「私を倒すつもりでいるとはいい度胸だ。いや、愚かと言うべきか――度胸だけは褒めてやる」


「ありがとうございます?」


 自分を倒す気でいる幸太郎の度胸を認めつつ、ティアは両手に持った武輝を頭上に掲げた。


 天に掲げたティアの武輝である大剣の刀身に、武輝に変化した輝石から絞り出した力が光りとなって纏う。


 刀身を纏う光は徐々に強くなり、同時に光は天に向かって伸びはじめた。


 ある程度の高さまで光が伸びると、光の形が徐々に形を成して、最終的には大剣の刀身の形になった。


 巨大化した自身の武輝である大剣を、ティアは勢いよく幸太郎に向けて振り下ろした。


 幸太郎は避ける間もなく――いや、避けることなく迫る武輝の刃をジッと見つめていた。


 振り下ろされたティアの武輝は幸太郎に直撃することなく、額を掠めた。掠めた額からは一筋の血が流れた。


 最初から自分の攻撃が当たると思っていなかったかのように、避けることもなく、いっさい表情を変えずに動じなかった幸太郎をティアは忌々しそうに、それでいて呆れたように睨んだ。


「どうして避けなかった」


「当たらないと思ったからです」


「……舐められたものだな」


 ニコッと笑ってそう言ってのける幸太郎に、ティアは諦めたようにため息を漏らした。


「確かに、最初から当てるつもりはなかった。脅しの一撃を見せれば、情けなく尻尾を巻いて逃げるかもしれないと思っていたが――お前には無駄だったようだ」


「……舐められたものだな」


「……全然似てないぞ」


 自分の言ったことをそっくりそのままに、そして、茶化すように自分の声音を真似て幸太郎に言い返され、忌々しく思うティアだが、舐めていたのは事実なので反論できなかった。


「何をしてもお前は逃げないのなら、私も本気で行かせてもらう」


 逃げる気がいっさいない幸太郎に、ティアは力強くそう宣言すると同時に武輝を輝石に戻した。


 本気で行くと宣言しておきながら輝石を武輝に戻したティアを不思議に思いつつも、彼女から発せられる凄まじい闘志に幸太郎は気圧されてしまっていた。


「輝石の力を使えば、お前は一撃で倒すことができる――だが、そんなことをしたら本当の意味でお前を止めることはできない。……だから、お前の力に合わせて、お前を止める。私は素手だが、何でも好きに使え」


「良いんですか? ショックガン、当たったら痛いですよ」


「問題ない」


「わかりました。それなら、もしかしたら勝てるかもしれません」


「――どうかな?」


 ハンデをもらって能天気に嬉々とした笑みを浮かべる幸太郎をティアは冷めた目で睨んだ。


「行くぞ」


「ドンと来てください」


 淡々とティアは戦闘開始を告げると、幸太郎の視界に映るティアの姿が一瞬ぶれた。


 瞬きした瞬間――一気にティアが眼前に迫っていたので、幸太郎は素っ頓狂な声を上げた。


 大きく一歩を踏み込んで、容赦なく幸太郎の顔面めがけて拳を振うティア。


 突然目の前にティアが現れ、驚きのあまり一歩身を退いた幸太郎はティアの攻撃を運良く回避、ショックガンの引き金を引いてすぐに反撃に出る。


 ショックガンの銃口から電流を纏った衝撃波が放たれるが――密着していたのにもかかわらず、不可視の衝撃波をティアは無駄のない最小限の動きで回避。回避された衝撃波は近くにある街路樹を薙ぎ倒した。


 そ、そうだ……

 ハンデを与えられて、浮かれていたせいで忘れてたけど――

 ティアさん、輝石の力を使わなくても問題ないんだった。

 こ、これ、やっぱり勝てないんじゃないの?


 ティアが輝石の力を使わずともゴリラ並の握力を持ち、武輝を持った輝石使いを圧倒するほど強いということを思い出し、焦る幸太郎。


 幸太郎がショックガンを握っている手をティアは思いきり叩いた。痛みで思わずショックガンを手放してしまう幸太郎。


「ちょ、ちょっと、タイム! ティアさん、タイム!」


「問答無用」


 落とした武輝を拾う猶予をもらおうとする幸太郎だが、ティアは許さない。


 地面に落ちたショックガンを蹴り飛ばして、即座に幸太郎の胸倉を掴んだティアは、軽々と彼の身体を後方へと投げ飛ばした。


 素っ頓狂な悲鳴を上げ、きれいな放物線を描いて宙を舞う幸太郎は地面に叩きつけられるが、叩きつけられる寸前にティアとの訓練中に教えてもらった受け身を使ったのでダメージは――多少はあった。


 強打した肩を抑えてヨロヨロと立ち上がった幸太郎は近くにある、ショックガンから放たれた衝撃波を受けてへし折れた街路樹から太目の枝を折り、それを武器の代わりにしてティアと対峙する幸太郎。


 ハンデを与えられても圧倒的な実力の差があるティアに立ち向かおうとする幸太郎。


 幸太郎の目に映らぬほどの速さで接近したティアは、容赦なく彼に攻撃を仕掛けた。


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