第四章 陰謀の代償
第31話
両手に武輝である鉤爪を装着した黒衣の輝石使いは、大和に攻撃を仕掛けていた。
いっさいの反撃の余裕を与えない輝石使いの連撃だが――
自身の武輝である大型の十字手裏剣を億劫そうに担いだ大和は、余裕な表情を浮かべて、僅かな動きだけですべての攻撃を回避し続けていた。
大振りに武輝を薙ぎ払った輝石使いの攻撃を、大和はクルクルと身体を回すふざけた動きで回避すると同時に、回転した勢いをつけた蹴りを相手の鳩尾を狙って放った。
大和の爪先が輝石使いの鳩尾にめり込むが――黒衣の輝石使いはまったく怯まなかった。
いくら輝石の力を薄く身に纏って、並大抵の攻撃を防げる輝石使いとはいえ、身体能力を強化された同じ輝石使いの強烈な蹴りが鳩尾に直撃して効いている素振りすら見せない相手に、大和は「あれれ?」と素っ頓狂な声を上げる。
「油断大敵! もっと真面目に戦いなさい!」
そんな大和の隙をついて輝石使いは攻撃を仕掛けるが、面倒そうに相手と戦う大和を一喝する怒声とともに、無駄に華麗な動きで横から現れた麗華の武輝であるレイピアによる鋭い突きによって輝石使いの行動は阻まれた。
麗華の攻撃に咄嗟に攻撃を中断して大きく後退して回避する輝石使いだが、回避した先には武輝である籠手を両腕に装着したドレイクが待っていた。
麗華の攻撃を回避した相手が自分の間合いに入ってくると同時に、体重を乗せたストレートを放つドレイク。
間髪入れずの連続攻撃に避けることも防ぐこともできなかった輝石使いは、何度も固いアスファルトの上でバウンドしながら吹き飛んだ。
「助かったよ、麗華。それと、お見事ドレイクさん」
「少しはあなたも真面目に戦いなさい!」
「失礼だなぁ。君たちが攻撃を仕掛ける隙を作っていたんじゃないか」
「そ、そうでしたの? それならば、よく頑張りましたと褒めてあげましょう!」
適当な言い訳に納得してくれている単純な麗華に、大和はしてやったりという顔を浮かべており、そんな二人のやり取りを見てドレイクは呆れていた。
相手を倒したと思い込んで和気藹々としている三人だったが――ドレイクの強烈な一撃を食らって大きく吹き飛ばされた黒衣の輝石使いは、平然とした様子で立ち上がった。
「あらら……随分と頑丈じゃないか。ドレイクさん、ちゃんとトドメは決めなくちゃ恰好がつかないよ? お父さんがカッコ悪かったってサラサちゃんに言いつけちゃうぞ」
「手応えはあったハズだが……」
倒しきれていなかった自分を茶化すように文句を言う大和を放って、ドレイクはダメージがまったくない様子で平然と立ち上がった黒衣の輝石使いをジッと見据える。
手応えは確かにドレイクの中ではあった。
相手はそれなりの実力者であるが、麗華や大和のような規格外の実力を持つ輝石使いならまだしも、今の自分の一撃を直撃して立っているとは思えなかった。
思い返してみれば、今対峙している相手と同じ服装を着た相手と一度戦った時からドレイクは違和感を覚えていた。
あの時も――今自分たちの目の前にいる人物と同じ服装の纏った輝石使いは、自分よりも実力が遥かに上回っている白葉姉弟の強烈な一撃を受けても平然としていた。
多少なりともダメージがあっていいはずなのに、平然と立っていた。
「大和、相手はアンプリファイアを使っているのか?」
輝石使いの力を一時的に増減させる力を持つ煌石・無窮の勾玉から抽出された欠片・アンプリファイアを相手が使って一時的に力を向上させているのではないかとドレイクは疑問を抱くが、大和は「使ってないね」と首を横に振った。
「無窮の勾玉の力を感じてたら、最初から言ってるよ。ドレイクさんの思ってることは大体わかるけど、今は相手がかなり頑丈ってことしか言えないかな?」
無窮の勾玉の力を操る資格を持つ『御子』と呼ばれる存在である大和――天宮加耶からの言葉を受けて、ドレイクは相手がアンプリファイアは使っていないことを納得せざる負えなかった。
「……本当に人間か?」
ほとんどダメージがなく平然と立ち上がった黒衣の輝石使いを見て、思わずドレイクはそう呟いてしまった。
「言い訳無用ですわ! 私たちが倒し損ねてしまったのは事実! 次こそは確実に倒すだけですわ! 行きますわよ!」
ドレイクと大和に喝を入れるような怒声を張り上げる麗華は、一気に輝石使いとの間合いを詰めた。
喧しい麗華の一喝に、今は取り敢えずドレイクは頭に浮かんだ浮かんだ疑問を放って、戦闘に集中することにする。
「さてと――お嬢様がうるさいから、さっさと決着をつけようかな?」
ため息交じりにそう呟くと同時に、大和の武輝である大型の手裏剣が宙に浮いた。
宙に浮いた手裏剣は一瞬光を放つと、手裏剣が六つになった。
大和の持つ輝石を扱う高い能力が、輝石の力で武輝を複製して複数にした。
複製された手裏剣はボンヤリとした光を放って、大和の周囲をフワリと浮かんでいた。
攻撃準備を整えた大和は、後は待った――幼馴染が攻撃のチャンスを作るのを。
「この私たちの邪魔をするとはいい度胸ですわね!」
相手に怒声を浴びせながら武輝であるレイピアを軽快でありながらも豪快に、そして無駄に華麗に振って突き出し、黒衣の輝石使いに攻撃を仕掛ける麗華。
大きく一歩を踏み込んで鋭い刺突を放ち、華麗なステップを踏んで武輝を薙ぎ払うように振い、優雅な動きで後退した麗華は相手との距離を取ると同時に武輝であるレイピアの刀身に光を纏わせ、指揮者のように武輝を振って光弾を発射する。
麗華のすべての攻撃が黒衣の輝石使いに直撃するが、輝石使いは効いている素振りは見せんなかった。
自身の美しさを気にするあまり隙の多い麗華の動きだが、それを補って多くの余りがあるほどの圧倒的な彼女の実力に輝石使いは手も足も出せずに押されていた。
麗華の華麗で優雅な攻撃はまだ終わらない。
「私の足をお舐めなさい!」
そう叫びながら、身体を優雅に一度空中で回転させてから、輝石使いの頭に向けて回し蹴りする麗華。
隙の多い麗華の動きだが、彼女の素早い動きに反応できなかった輝石使いは直撃してしまい、吹き飛びそうになったが踏ん張ってそれを堪えた。
すぐに反撃しようとする輝石使いだが、麗華の攻撃が反撃を許さない。
「行きますわよ! ――必殺、『ビューティフル・ハリケーン』!」
聞いていて恥ずかしくなる技名を叫ぶと同時に、麗華は目にも止まらぬ速さで繰り出される連続突きを放つ。
百以上もの突きを一瞬で繰り出した麗華の技を全身に受けても、黒衣の輝石使いは一瞬怯んだだけで、効いている様子はなかった。
今の攻撃を受けても相手が倒れないことを想定内だった麗華は、「まだまだですわ!」と、空中で大きく身を華麗に翻して黒衣の輝石使いとの距離を取った。
「必殺! 『エレガント・ストライク!』
距離を取ると同時に、麗華はアスファルトの固い地面を踏み砕くほどの力強い一歩を踏み込んで一瞬で輝石使いとの間合いを詰め、光を纏わせた武輝で渾身の力で放つ必殺の一突きを放つ。
渾身の力を込めて麗華は武輝を突き出すと同時に、武輝に纏っていた光がレーザー状の光になって放たれる。
渾身の麗華の突きと、武輝から放たれた力の奔流に呑み込まれた黒衣の輝石使いは勢いよく吹き飛ばされた。
「ダメ押しにもう一発だね」
自身の周囲にボンヤリと光る六つの武輝である手裏剣を浮かび上がらせていた大和はいたずらっぽく笑うと、麗華の強烈な一撃を受けて吹き飛んでいる黒衣の輝石使いに向けて、浮かんでいる武輝からレーザー状の光を放った。
大和の攻撃を受けて、黒衣の輝石使いは上空へと打ち上げられた。
上空に打ち上げられた黒衣の輝石使いを待っているのは、両腕に装着した武輝である籠手に光を纏わせているドレイクだった。
「これで終わりにする」
ドレイクは空を蹴って、こちらに向かって飛んでくる輝石使いに一気に接近する。
そして、勢いよく拳を突き出して、黒衣の輝石使いを地上に向けて叩き落とす。
今まで何度も強烈な攻撃を食らっても平然と起き上がってきた頑丈な輝石使いを叩き落としたドレイクは確かな手応えを感じると同時に、違和感のようなものが攻撃を放った拳に広がっていた。
爆発音にも似た轟音が響くと同時に、固いアスファルトの上に黒衣の輝石使いは叩きつけられ、叩きつけられた周囲のアスファルトが砕け散った。
今までは強烈な一撃を食らっても平然と起き上がっていた黒衣の輝石使いだったが、さすがに我が強い麗華に大和とドレイクが無理をして合わせた強烈な連携攻撃を食らった後に地面に叩きつけられて、今までのようにすぐに起き上がることはしなかった。
「フフン! 私の指示通り、エクセレントな連携でしたわ! 私の完全勝利ですわ! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」
「君に指示なんてされた覚えはないんだけどなぁ……まあいいか」
相手が起き上がらないのを確認して、自身の完全勝利を確信して気分良さそうにうるさいくらいの高笑いをする麗華を、じっとりとした目で大和は見つめていた。
勝利の余韻に浸っている幼馴染を放って、大和は倒れたまま動かない黒衣の輝石使いを睨むように見つめているドレイクに視線を向けた。
「どう? ドレイクさん。手応えはあったの?」
「ああ。今まで以上の確かな手応えはあった――だが、よく見ろ。相手の手にはまだ武輝があるぞ」
「もしかして、まだ終わってなかったの? さすがに頑丈過ぎ――」
普通輝石使いは気絶すれば武輝は自然と輝石に戻るのだが、倒れている黒衣の輝石使いの武輝はまだ輝石に戻っていなかった。
まだ戦いが終わっていないかもしれないことに、大和は心底ウンザリしたようにため息を漏らした瞬間――
雷鳴にも似た豪快な爆発音が轟くと同時に、黒衣の輝石使いは爆発四散し、炎上する。
周囲に燃えた黒い服の破片が舞い落ちると同時に、金属のようなものが飛んでくる。
「……何なのこれ」
突然戦っていた相手が爆発四散した後に炎上して、大和は唖然としながらも思考を巡らせていると――
「ちょ、ちょっと! 何ですの、これ! ああ、私の美しい髪が、髪がぁあああああ!」
「アッハッハッハッハッハッハッ! 麗華、そのままだとドレイクさんや大道さんみたいにツルツルになっちゃうよ」
「笑っている場合ではありませんわ! 水を、水をぉおおおおおお!」
大和の思考を邪魔するかのような悲鳴を上げて、火の粉のように舞い落ちてくる破片が自身の見事な金糸の髪を焦がして麗華はパニックになっていた。
髪が焦げてパニックになっている幼馴染の姿を見て、大和は思考を中断して楽しそうに大声で笑っていた。
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