第27話

「若いのに中々やるなぁ……って言うと、何だかオジサンっぽいかな?」


 少ない人数で大勢の輝石使いたちを相手にしているにもかかわらず、彼らを圧倒しているクロノたちを暗視スコープ越しに観察していたレイズは素直に感心していた。


 協力者たちがクロノたちの手によって次々と倒されて、大勢いた協力者の数が一気に減ってしまい、このままだと大勢いた協力者たちは全員倒されてしまうが、レイズは加勢することなくクロノたちを観察していた。


 リクトを護衛する二人の強さは相当なもので、無策のまま二人に挑めば返り討ちにされると思ったレイズは、協力者たちを利用して二人の戦闘を観察して対応策を練っていた。


 数だけが多くて大した実力のない連中なんて最初から期待していなかったレイズは、そんな彼らを有効的に利用していた。


 一気に協力者が減っても、レイズにとって協力者はヘルメスが用意してくれた輝石使いで十分だったので、彼らのことをまったく気にしないでレイズはクロノたちのことを考えていた。


 白葉クロノ――制輝軍をまとめている白葉ノエルの弟であり、姉と同様輝石使いとしてはかなりの実力を持っていた。


 姉とよく似た外見で少女のような顔をしており、華奢な体躯をしているが力は姉以上であり、レイズにとってはもっとも厄介な存在だった。


 もう一人の名前がわからない褐色肌の強面の少女――この少女の実力はクロノには及ばないが、彼と同等、もしかしたら彼以上のポテンシャルを秘めていた。


 しかし、心優しい性格なのか一撃一撃に僅かな躊躇いと気遣いが存在していることをレイズは見抜いており、せっかくの秘めたポテンシャルを有効に利用することができない輝石使いであるとレイズは判断した。


 戦闘に躊躇いがある少女の方は上手く隙をつける可能性があるとレイズは思っていたが、問題はクロノだった。


 いっさいの迷いなく任務を忠実に果たそうとする、油断も隙もほとんど存在しないクロノがレイズにとって一番の強敵だった。だが、言い換えればクロノさえどうにかできれば、この仕事は成功したも同然だった。


「さて、どうしようかな……また不意打ちを仕掛ける? うーん、さっき失敗したしなぁ……リクト君を人質に取る? 中々いいアイデアだけど、クロノ君が目を光らせてる中で上手くできるかな? それに、リクト君もそれなりに強い輝石使いだし……ん?」


 どうクロノたちを攻略しようかブツブツと独り言を呟きながら考えていたレイズは、何気なく戦闘しているクロノと少女から、二人に守られているリクトへとスコープを向ける。


 スコープの先にいるリクトは自ら輝石を武輝に変化させて戦うことなく、クロノたちに守られながら襲いかかる輝石使いたちをコミカルな動きで避けていた。


 オーバーなリアクションで立ち止まったリクトは、目の前を横切る敵の武輝から放たれた光弾をギリギリで回避。


 背後から襲いかかってくる敵の攻撃を回避させるために思いきりクロノがリクトの手を思いきり引っ張ったせいで、リクトは勢いよく無様にズッコケた。


 そんなリクトに慌てて駆け寄って抱き起し、介抱する少女の薄い胸に押し当てられ、『教皇エレナの息子』、『次期教皇最有力候補』という誉れある肩書きを持ち、自分が狙われているにもかかわらず、思春期を迎えた青少年らしく少女の薄い胸を堪能しているリクト。


 そんなリクトの反応に気づいた少女は、護衛対象であるにもかかわらず思いきりリクトを突き放し、仰向けになって倒れたリクトは後頭部を強く打って悶絶していた。


 サイレント・コメディ映画のワンシーンを見ているかのような光景に、思わずレイズは噴き出してしまったが――抱いていた違和感がここでようやく漠然としてくる。


「あれって……本当にリクト君なのかな?」


 真面目なリクトとは思えないほどのコミカルな動きを繰り返す、スコープ越しにいるリクトに、レイズが抑えていた違和感が一気に溢れ出る。


 違和感を晴らすために、肉眼でリクトのペンダントについたティアストーンの光を確認すると――遠くの方でボンヤリとしたティアストーンから放たれる青白い光が確認できた。


 違和感を晴らすために、ティアストーンの欠片の光を確認したレイズだったが、違和感は晴れずに膨れ上がるばかりだった。


 ティアストーンの欠片から光が放たれているということは、煌石を扱う資格を持つリクトに間違いない。


 間違いないのだが――


 もしも――もしも、煌石を扱える資格を持った人間が、


 ターゲットであるリクトにばかり目が向き、リクト以外には煌石を扱える人間はいないだろうという先入観に囚われてしまい、煌石を扱える人間が他にいるという当たり前の考えをレイズは見過ごしてしまっていた。


 今回の仕事に大きく影響するほどの自分の過失に気づいてしまったレイズは苛立ったように頭を掻きむしった。


「あー、もう! ――……確認するしかないか」


 通信機が使えない今の状況で協力者たちに指示を送ることができないレイズは仕方がなく――リクトが本当にリクトなのか、自分の目で確認することにした。


「付き合ってもらって申し訳ないけど……一緒に行ってくれない?」


 力のない笑みを浮かべて、ヘルメスに用意してもらった黒い服を着たの協力者に声をかけるが、相変わらず無反応だった。しかし、レイズの言葉は理解してくれているようで、彼の後について歩いた。


「今週の運勢は良いはずなんだけどなぁ……」


 月が浮かんだ夜空を仰ぎながら中々思うようにならない現状に、ため息交じりにレイズはぼやいた。

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