第21話
遠巻きからリクトたちの様子を協力者であるヘルメスから貸してもらった暗視スコープで眺めていたレイズは、気分良さそうに口角を吊り上げていた。
数分前、遠くにいる自分に狙われないように物陰に隠れたリクトたちは、コソコソしながら今後のことについて話し合っていたのか、数分間同じ場所にいた後、二手に分かれた。
おそらく、今回の事件の対応をするためにどこかに集まっている制輝軍たちと接触するグループと、アカデミー都市に向かうグループに分けたんだろうとレイズは推測した。
白葉ノエル、大道共慈、強面の大男、学生服を着たよくわからない少年のグループ、そして、白葉クロノと強面の少女がターゲットであるリクトを連れたグループに分かれた。
「何だか、罠っぽいなぁ……」
物陰に隠れた後にリクトたちが突然二手に分かれたことに、本能的にレイズは罠かもしれないと悟った。
確かに、夜の闇に覆われ、いつ、どこで誰に襲われるかわからない中、応援を呼ぶグループと、目的地に向かうグループに分ける判断は誰でも思いつきそうだった。
それに加えて、二手に分かれるということは、リクトを護衛する人数も減るというリスクも存在していた。
そんなリスクが孕んでいるにもかかわらず二手に分かれ、リクト護衛の任務を忠実に守るクロノや、制輝軍トップである白葉ノエルも、弟のクロノと同様何よりも任務を優先させるという噂をレイズは聞いたことがあるので、納得するのだろうかという疑問が生まれ、罠なのではないかとレイズは思ってしまった。
「……入れ替わってる?」
体格がほんの少し似ている名前のわからない少年と、ターゲットであるリクトが入れ替わっているのではないかという推測をするレイズ。
そんな考えが浮かんだレイズは、即座に暗視スコープから目を離して目視でリクトの姿を確認する。
クロノと一緒にいるリクトらしき人物の首には――青白く淡く光るティアストーンの欠片があり、夜の闇に青白い光が浮かび上がっていた。
煌石を扱う資格のない人間が煌石に触れれば、煌石は輝きを失ってただの石ころになるというのは誰でも知っている常識だ。
その光を利用して、ヘルメスが用意した特殊な装置のせいで連絡が取りあえない状況で、夜の暗がりの中でリクトを襲えることができた。
リクトと少年が入れ替わったと推測していたレイズだったが――
「ということは、本当に二手に分かれたってこと?」
夜の闇に浮かぶ青白い光を確認したレイズは、自分の推測が間違っていたことを悟る――だが、漠然としない不安が胸にあった。
何か妙だ、本当にリクト君なのか?
でも、ティアストーンの欠片が光っている。
煌石の資格を持たないのなら、あれは光らない。
……なら、あれはリクト・フォルトゥス自身だ、間違いない。
頭の中でレイズは自問自答を繰り返すが、漠然としない不安は解消されなかった。
不安を解消するための精神安定剤代わりであるコイントスをして、見事に予想を的中させる。
普段ならそれで不安は解消されるハズだが――それでも、不安感が胸の中にこびりついて離れなかった。
しかし、ティアストーンの欠片が光っているのは間違いなかった。
そして、ずっとリクトを護衛する任務に就いていたクロノがリクトの傍に離れるとは考えにくい。
それなら、クロノと一緒に行動しているのは正真正銘にリクトだ。
ティアストーンの欠片の光と、リクトを護衛する任務に就いているクロノ、そして何よりもコイントスの結果を信じ、若干の不安と違和感を抱えながらも、それらを無理矢理押さえつけてクロノたちを追うことをレイズは優先させた。
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