第19話

 大勢の輝石使いたちに襲われたリクトたちは、逃げながら襲いかかってくる輝石使いたちを対処していた。


 襲いかかる輝石使いたちを、ノエルは武輝である双剣で冷静に対応する。


 華麗に舞うようでありながらもいっさいの無駄のない機械的な動きで、ノエルは次々と輝石使いたちを倒していた。


 そんな姉の動きと似たような動きをしながらも、姉と比べてアグレッシブな動きで、そして、力強い一撃で迫る敵を確実にクロノは武輝である剣で次々と倒していた。


 自身の周囲に火の弾のように揺らめく光弾を生み出した大道は、飛びかかる敵を武輝である錫杖を豪快かつ軽やかに振って倒しながら、死角から襲いかかる敵に光弾を発射していた。


 武輝である籠手を両腕に装着したドレイクは、対峙する相手が恐怖を覚えるほど荒々しい動きで迫る輝石使いたちを次々と薙ぎ倒していた。


 目にも止まらぬ速さで敵対する輝石使いたちの背後に回り込んだサラサは、次々と武輝である二本の短剣を振って音もなく、次々と輝石使いたちを倒していた。


 集中的に狙われているリクトは、武輝である盾で次々と繰り出してくる相手の攻撃を防いでいた。


 しかし、防ぐばかりではなくリクトは盾を鈍器のように振い、時には体術で攻撃を仕掛け、防いだ攻撃の衝撃を武輝である盾に吸収させて、吸収した衝撃を光として発射して多くの敵を倒していた。


 そして、輝石を武輝に変化させることができない幸太郎は、自身の唯一の武器であるショックガンを片手で持ち、自分で考えたカッコイイ構え方を披露しながら発射しているが、誰も見ていなければ、発射した衝撃波すべて外していた。


 幸太郎以外の輝石使いたちの実力に、襲いかかってきた輝石使いたちはあっという間に倒されてしまっていた。


 リクトたちの力が想像以上で恐れをなし、このままでは分が悪いと思ったのか、輝石使いたちは一斉に退却してしまった。


 逃すまいとドレイクは輝石使いの後を追いかけようとするが――そんな彼の前に、身の丈を超える巨大なハンマーを持った、フードを目深にかぶった黒い服を着た謎の人物が突然現れた。


「貴様はあの時車を落とした――」


 目の前に現れた謎の人物が強烈な一撃でリクトの張ったバリアを破壊して、車を橋から落とした人物であることに気づいたドレイク。


 無言のまま、予備動作なく謎の人物はドレイクに武輝であるハンマーを片手で軽々と振って不意打ち気味の攻撃を仕掛けた。


 突然の攻撃に不意を突かれながらもドレイクは咄嗟にバックステップで回避すると、謎の人物は回避したドレイクを一瞥もしないでリクトに飛びかかる。


 突然の事態に驚いたまま対応できないリクトだが、遠距離から大道が光弾を飛ばして謎の人物の行動を阻んだ。


 大道の攻撃と同時にノエルとクロノが黒い服を着た謎の人物に飛びかかる。


 大きく武輝を振り下ろすクロノの攻撃をギリギリで回避することができたが、力強い一歩を踏み込んで目にも止まらぬ速さで繰り出されたノエルの突きは回避できなかった。


 ノエルの強烈な威力の突きが謎の人物に命中して吹き飛ばされるが、即座にノエルは大きく身を捻ってもう一方の武器である剣を薙ぎ払って追撃を仕掛けた。


 吹き飛ばされていた謎の人物だが、ノエルの追撃に反応して体勢を立て直して、彼女の攻撃を武輝で受け止めた。


 ノエルの攻撃を受け止めた瞬間、背後から武輝を振り上げたクロノが飛びかかって勢いよく武輝を振り下ろした。


 姉弟息の合った連携攻撃が直撃するが――謎の人物は怯むことなく、リクトに向かおうとする。


 自分たちの攻撃にいっさい怯まない相手を意外に思いつつも、更なる攻撃を仕掛けようとするクロノとノエルだが、謎の人物は一旦大きく後退して二人から大きく距離を取り、そのまま謎の人物はこの場から立ち去った。


「クロノ君やノエルさんの攻撃を受けても、効いていないなんて……」


 クロノやノエルの強烈な攻撃が直撃しても、いっさい怯まずに効いていない様子だった謎の人物に対して、リクトは畏怖の念を抱いていた。


 一方のクロノは、自分の攻撃が効いていなかった黒い服を着た輝石使いに、無表情だが僅かに戸惑っている様子の表情を浮かべていたが、すぐに抱いていた戸惑いを消して自分のやるべきことに集中する。


 クロノとは違い、ノエルはいつも通り冷静沈着な様子で自分の攻撃が効いていなかった相手に対して何とも思っていない様子だった。


 謎の人物を最後に輝石使いたちが退却して周囲に静けさが戻るが、それでもリクトたちは武輝を輝石に戻さずに周囲を警戒していた。


「……先を急ぎましょう」


 周囲から敵意が完全に消えたことを確認したノエルは、先を急ごうとした瞬間――「リクト!」と、怒声にも似たクロノの大声が響き渡った。


 その声にすぐに反応したリクトは、自身に向かって光を纏ったコインが飛んできていることに気づいた。


 気づいた時には避けることができないほど眼前に迫っていたコインだが、リクトが武輝に変化した輝石に一瞬意識を集中させると、自身の周囲に光の膜のようなバリアを発生させた。


 リクトのバリアに衝突したコインは、すぐに光とともに霧散した。


「今の攻撃……どこかでレイズが見ているのか」


 コインを武輝としているレイズの攻撃であると判断したクロノは、周囲を見回し、神経を研ぎ澄まして周囲の気配を探るが、視界には誰も映らず誰の気配もしなかった。


「かなりの遠距離からの攻撃だ……レイズという聖輝士はかなりの実力者のようだな」


 自分たちが僅かに気を抜いた絶妙なタイミングに加えて、気配を探れないほどの遠距離で夜の闇に包まれているのに正確にリクトに攻撃を仕掛けてくるレイズが只者ではないと評価した大道の言葉に、悔しいがクロノはレイズの実力を認めざる負えなかった。


「大勢の輝石使い、あの黒い服を着た輝石使い、そして聖輝士――そいつらにいつ、どこで、どうやって邪魔をされるかわからない……形勢はこちらが不利だな」


 ため息交じりで冷静に状況を判断しているドレイクに、ノエルは同意を示すように頷く。


 そして、ノエルは感情を何も宿していない目をリクトに――正確には、彼の首にかけたペンダントについた、青白い淡い光を放つティアストーンの欠片を見つめていた。


 夜の闇にティアストーンの欠片の光は幻想的に、神秘的に映っており、目立っていた。


「この暗がりの状況でリクト様を遠距離から正確に狙ったのは、おそらくこのティアストーンの欠片も理由としてあるでしょう」


「す、すみません、僕のせいでみなさんを危険に巻き込んでしまって!」


 ノエルの指摘に、慌ててリクトはティアストーンの欠片がついたペンダントを外した。


 僕のせいだ……僕のせいで、みんなを――幸太郎さんを!


 次期教皇候補になってからずっと肌身離さずに持っていたティアストーンの欠片が仇となっていることに気づけなかったリクトは、幸太郎たちを危険な目にあわせてしまったことに激しい罪悪感を抱いた。


 罪悪感で暗い表情を浮かべるリクトにノエルは「お気になさらずに」とフォローをするが、感情がまったく込められていないのでフォローになっていなかった。


 陰鬱な雰囲気を身に纏うリクトに興味が失せたのか、ノエルは彼から視線を外すと、「こちらとしても都合が良いです」と呟いたノエルは幸太郎に視線を向けた。


「私の任務は、リクト様の護衛をすること――つまり、守ることです。その点では、七瀬さんと私の目的は同じです。そうですよね?」


 煽るようなノエルの問いに、幸太郎は頼りないほど華奢な胸を張って、「もちろん!」と大きく頷いた。


 一人やる気が漲っている幸太郎の答えを聞いて、ノエルは「結構」と満足そうに頷いた。


「現状を打破するため、二手に分かれてもう一方を囮として使います」


「……お前は幸太郎を囮として使うつもりだな」


 ノエルの魂胆を何となく理解したドレイクは鋭い目で彼女を睨みつけるが、彼女は何か文句でもあるのかと言っているような目でドレイクを見つめ返した。


「囮を使って敵を誘き出し、その隙にリクト様を安全な場所へと向かわせます。先程の連絡橋での騒動で、今回の騒動は最早周囲に隠しきれないほど大きなっています。ですので、ここからそう遠くない場所で制輝軍たちが拠点を作って今回の騒動の対応をしているハズです。七瀬さんが囮になっている間、リクト様はそこへ――」


「ま、待ってください! ドレイクさんの言う通り、本当にノエルさんは幸太郎さんを囮に使うつもりなんですか? 輝石の力を上手く扱えない幸太郎さんに危険な真似をさせて、本当にあなたはそれでいいんですか?」


 輝石使いでありながらも輝石の力を使えないほぼ一般人と同等の幸太郎を平然と利用する気でいるノエルの説明をリクトは遮り、彼女を非難するように睨んだ。


 大切な友人を囮として利用されることに決して納得していないリクトだが――ノエルは何も映し出していない空虚な目をリクトに向けると、自分の心の奥を見透かしているような気がしたリクトは上手く言葉が出なくなってしまい、縋るような目でクロノを見た。


「リクトを守れるならば、オレはノエルの意見に賛成だ。だが、輝石をまともに扱えない七瀬が本当に囮として役に立つのか?」


 幸太郎を利用することに異論がないクロノに、リクトは愕然とする。


 ショックを受けているリクトを放って、ノエルは弟との話を続ける。


「それについては何も問題ありません。リクト様の囮は七瀬さん以外には考えられません。……そういえば、あなたにはまだ報告していませんでしたね。百聞は一見に如かずです。さっそく、七瀬さんは――何のつもりです?」


 幸太郎を利用する気でいるノエルとクロノだが、リクトと同じくドレイク、サラサ、大道も幸太郎を囮として使うことを反対しているようで、幸太郎の前に彼らは庇うようにして立ち、幸太郎を囮として使うつもりのノエルとクロノに対して敵意を向けていた。


「お前たちの判断は正しいが――お前らと同じく、私も任務がある」


 ドレイクの言葉と同調するように、娘であるサラサは申し訳なさそうでありながらも武輝をきつく握り締めて、反抗するつもりでいた。


「美点であり短所でもあるが、幸太郎君は自分を顧みないで無茶をする性格をしている。囮になってしまったら彼がどんな無茶をするのか見当もつかない――君たちはそんな人物を危険に巻き込もうとしているんだ。その場凌ぎの安易な決断をして、もしもの場合の責任を君たちは取れるのか?」


 説得するようでありながらも、一歩も退かない強い意志の込められた大道の言葉だが、クロノとノエルには特に響いていなかった。


 追い詰められた状況で、情に流されて自分たちに反抗する大道たちを見て、リクトとノエルは無表情だが明らかに呆れ果てている様子だった。


 そんな彼らを放って、ノエルは幸太郎をジッと見つめる。


 何の感情を宿していないノエルの目は有無を言わさぬ威圧感を放っており、まるで幸太郎を脅しているようでもあったが――ノエルに見つめられて、「そんなに見つめられると、ちょっと恥ずかしい」と呑気にも幸太郎は少し照れていた。


「誰が何を言おうとも、すべては七瀬さんの判断次第。七瀬さんはどうしますか? リクト様を――自分のご友人を守るために囮になれますか?」


「いいよ」


 特に考えている様子はなく、幸太郎は囮になることを了承した。


 無表情だが満足そうに頷くノエルと、短慮な幸太郎に呆れ果てるドレイクたち。


「……幸太郎、少しは考えたらどうなんだ。こいつらは自分の任務のためならお前のことなどどうでもいいと思っているんだぞ。お前はそれでいいのか?」


「リクト君を守るためだし、僕が決めたことだから」


 考え直すように説得するドレイクだが、幸太郎は一歩も退かなかった。


 自分が決めたことに一歩も退かない幸太郎の態度に、ドレイクたちは何を言っても無駄だと悟り、説得したくてもできなかった。


「そうと決めたのなら時間がありません。七瀬さん、服を脱いでください」


「ノエルさんって、結構大胆」


「やらしい勘違いしないでください」


「ノエルさんって、もしかしてムッツリ?」


「……セクハラはやめてください」


 勘違いを続けている幸太郎を、ノエルはじっとりとした目で睨んでいた。


 自分の決めたことにまったく後悔がしていない様子の幸太郎を、リクトは後悔と罪悪感の念に押し潰された絶望に染まった顔で許しを求めるように見つめていた。


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