第23話
「まだなのか?」
グレイブヤードの中央にそびえ立つ大型メインコンピューターの裏にあるセキュリティルームの前で、大量のガードロボットと戦闘しているドレイクは淡々としているが切羽詰まった声を上げた。
その声が向けられているのは、強化ガラスで阻まれたセキュリティルーム内にいる、コンピューターを忙しない手つきで操作しているヴィクターだった。
「もうちょっと耐えるのだ。忍耐は美徳だぞ、ドレイク君」
「十分程前にも同じことを聞いたぞ……真面目にやっているのか?」
「もちろんさ! しかし――自分が施したセキュリティに苦労させられる日が来るとは思いもしなかったよ! この私が苦労するほど強固なセキュリティを構築するとは、さすがは私だ! ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッ! 恐れ入ったよ!」
自画自賛をしてヴィクターは気分よく笑っていた。
その間、無窮の勾玉の力が影響して輝石の力が制限されている状況で、疲労感を滲ませた表情で黙々とドレイクは、武輝である両手に装着された籠手で侵入者を排除するために襲いかかってくるガードロボットを破壊していた。
「呑気に笑っている暇があったら、少しは手伝ったらどうだ」
「人には得手不得手があるように、私は戦闘が苦手なのだ。君一人に任せて申し訳ないと心から思っている。そろそろもう一人の助っ人が来るはずだから、もう少しの辛抱だ」
戦闘を手伝わないことに、まったく悪びれる様子もないヴィクターに対しての苛立ちをぶつけるように、飛びかかってきた小さなカニ型のガードロボットを殴り壊した。
「それにしても、君たち仲良し親子は羨ましいよ。私の娘なんて私にだけ絶賛反抗期中だ」
「それは――お前に問題があるんじゃないのか?」
「中々手厳しい意見をどうも!」
自分の仕事をしながら、襲いかかってくるガードロボットの対応に追われているドレイクに呑気にヴィクターは話しかけた。生真面目にもドレイクはガードロボットと相手をしながら会話に応じた。
こんな状況で人の気も知らないで話しかけてくるヴィクターに皮肉を込めて、ドレイクはヴィクターの質問に応じると、ヴィクターは痛いところを突かれて苦笑を浮かべた。
「私としては、大昔のようにパパ大好きって感じになってほしいのだよ」
「気持ちはわかるが、時の流れとともに娘も自立するんだ」
「時の流れは残酷だ! 父として想像したくはないのは娘の嫁入りだ! 今まで手塩に育ててきた娘が、どこぞの馬の骨ともわからない男とチュッチュ・チョメチョメ・イチャイチャ・ラブラブしているところ想像してみたまえ! 間違いなく私は発狂するぞ!」
徐々に熱と狂気を帯びてくるヴィクターの話を聞いて、想像したくないことを想像して苛立つドレイクは八つ当たり気味にガードロボットを破壊していたが、気分は晴れない。
「つまりだ、娘の嫁入りを笑顔で送りたいからこそ、今だけは娘には甘えてほしいのだよ。それが父として――親としての本望ではないかな?」
「……そうだな」
父としての気持ちにドレイクがつい同調してしまうと、満足そうに微笑むヴィクターだったが、ここで大きく憂鬱そうにため息を漏らした。
「だからこそ私なりには努力して娘に歩み寄っているつもりなのだが、どうしても娘の方が一歩を退いてしまって私を蛇蝎のごとく嫌っているのだ」
「歩み寄っているつもりでも、実はお前自身が娘に一歩引いているんじゃないのか?」
「これはまた中々痛いところを! 確かにそうかもしれないな」
再び痛いところを突いてくるドレイクの意見に、ヴィクターは何も反論できず、苦笑を浮かべることしかできなかった。
ヴィクターとの会話が終わって、周囲にドレイクがガードロボットを破壊する音と、ヴィクターがコンピューターを操作する音が響いていた。
お互い、順調に自分の仕事をこなしていたが――ここに来て、大量のガードロボットを休む間もなく相手にしていたドレイクに限界が訪れて、膝をつきそうになってしまった。
「気を付けたまえ! 私の趣味趣向を凝らした武器が君を襲うぞ!」
ヴィクターの警告に、ドレイクはすぐに足を踏ん張って体勢を立て直そうとするが それを阻むように遠くから大型二足歩行のガードロボットが巨大な拳をロケット噴射とともに勢いよく飛ばしてきた。
通称――ロケットパンチをドレイクは受け止めるが、受けきれずに吹き飛んでしまう。
二発目のロケットパンチをセキュリティルームにいるヴィクターに向かって飛ばそうとするガードロボット。ドレイクはすぐに立ち上がってヴィクターを守りに向かおうとするが、ガードロボットに囲まれて動けなかった。
自身を守ってくれていたドレイクが動けない危機的状況にもかかわらず、ヴィクターは力強い笑みを余裕そうに浮かべていた。
その理由は――大型ガードロボットの背後に、武輝である身の丈を超える大型の銃を構えた娘のアリスの姿を視界に捕えていたからだ。
ガードロボットがロケットパンチをするよりも早く、アリスは武輝である大型の銃から光弾を発射して、大型ガードロボットのボディを貫いた。
父を助けると同時に、アリスは涼しい表情で父に向かって走る。
邪魔するガードロボットは武輝である大型の銃についた銃剣で対応して、遠距離から攻撃してくるガードロボットには躊躇いなく引き金を引いて光弾を発射した。
無窮の勾玉で輝石の力が制限されているにもかかわらず、華麗な動きで襲いかかるガードロボットを排除して、自身に近づいてくる娘の姿に父は見惚れてしまっていた。
近づいてくる娘を抱き止めようと父は両手を広げて待っていたが――娘はそれを無視して、セキュリティルームに入るや否や、コンピューターの操作をはじめた。
「父の胸に飛び込んでくれても良いのだぞ」
不満気な表情で仰々しくため息をもらしている父を、アリスはギロリと鋭く冷ややかな目で一瞥した。
「バカなことを言っていないで手伝って」
「まったく、少しはムードというものがあるだろう」
「ウザい」
「相変わらず手厳しいな! さーて、ドレイク君、もう少しの辛抱だ。頑張りたまえ」
自身を囲んでいたガードロボットを破壊して、セキュリティルームの前に戻ったドレイクは、力強く頷いて迫るガードロボットの排除を再開した。
「それにしても、父娘の共同作業とはこんなにも捗るとは驚きだよ」
「ウザい。無駄口言ってないで集中して」
「おおっと、すまないすまない」
敵意を込めた目でジロリと睨むアリスに、苦笑を浮かべてヴィクターは謝る。
そして、無駄口を言ってしまいそうになる口を抑えて、ヴィクターは自分の隣でコンピューターを操作している娘の姿を見る。
身体つきは幼いながらも娘の顔立ちは大人びていて、コンピューターを操作する手つきも迷いがなかった――そんな姿を見て、ヴィクターは娘の成長を感じてしまった。
「……ねえ」
「何か質問かな? 何でもこの父に聞きたまえ!」
娘の成長に打ち震えている父に、アリスは嫌々話しかけた。
自分に話しかけられて心底嬉しそうな表情を浮かべる父に、アリスは深々と嘆息する。
「御使いが関わってる事件で多くのセキュリティが突破されてる……大丈夫なの?」
「さすがは我が娘。素晴らしいところに気づいてくれたな!」
自分を褒める父を無言でジロリと睨んで、早く自分の質問に答えろと促すアリス。
特区のセキュリティが突破されてから、ずっとアリスが感じていた疑問だった。
アカデミーの強固なセキュリティのほとんどは父が施したことを知っており、父のセキュリティは簡単に突破されないだろうとアリスは思っていた。
しかし、ここ最近はアカデミーのセキュリティを突破され続けていることに、アカデミーのセキュリティの安全性に疑問を持ちはじめると同時に、もしかしたら、父がセキュリティを解除するための情報を外部に流しているのではないかとも思っていた。
「私の施したセキュリティは確かに強固なものだが、完璧ではない」
「そうね、実際最近何度も突破されてるから」
娘の容赦のない一言に、「耳が痛いな!」とヴィクターは苦笑する。
「私は天才だ、それは認めよう。しかし、世界は広い。私と同等かそれ以上の天才もいるというわけだ! もちろん、君もその一人だぞ」
「セキュリティを突破した人間に心当たりはあるの?」
「世界でも私と同等かそれ以上のレベルの人間は僅かだから大体絞られるだろう――そう考えるとおそらく、この騒動には天宮以外にも何者かの思惑が存在しているだろう」
遠い目をしながら御使いの協力者について推測している父を見て、アリスは漠然としていないが父は御使いの協力者について知っているのではないかと感じていた。
「……それが、セキュリティを突破した人間なの?」
「正体はわからないがおそらくそうだろう。それとは別に――……閉じようと思えば深部に向かう扉は閉じることができたというのに、深部につながる扉が開きっぱなしになっていた……この騒動には何者かの、隠された思惑が感じられる」
隠された深部への扉を閉じることなく、まるでこの先に向かえと何者かが言っているかのように扉が開いていたことがヴィクターは気になっていた。
もしも、深部への扉が閉じていた場合、深部への扉を探すのに時間がかかってしまい、自分たちは御使いの計画を止めることはできなかったとヴィクターは思っていた。
確証はないが御使い内に、御使いの目的とは別の思惑を持つ人間がいるのではないかとヴィクターは思っていた。
「漠然としないが、まだまだ戦いは終わらないということだけは言えるだろう――さあ、聡明な我が娘のおかげでもう終わりだ。お疲れ様、ドレイク君」
今までガードロボットの対処をしてくれたドレイクへ労いの言葉をかけると同時にコンピューターの操作が終わる。
すると、ドレイクに襲いかかっていた大量のガードロボットの機能が一斉に停止して、力なく床に崩れ落ちた。
同時に、無窮の勾玉の影響で力が抜けていたヴィクターたちの全身に、力が戻ってくるような気がした。
「この感覚――無窮の勾玉の影響がなくなった。……麗華たちが御使いを破ったのか?」
自身の力が戻ってきたことに、麗華が御使いを破ったのではないかと思っているドレイクだが――ヴィクターは「どうだろうね」と意味深な笑みを浮かべてそう呟いた。
「鳳のお嬢様が御使いを打ち破ったのか、それとも――何か、御使いたちに起きたのか」
不安と期待が込められた声でヴィクターはそう呟いた。
「どちらにせよ、鳳のお嬢様たちが心配だ。我々も深部に向かおう」
ヴィクターの提案に、ドレイクは深々と頷いて同意を示した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます