第18話

 鳳グループ本社前には、アカデミーの生徒と大勢の制輝軍が集まっていた。


 制輝軍たちの表情は仲間を襲われた怒りと現状の焦燥感に満ちており、彼らの視線の先には御使いによって支配されている大量のガードロボットを従えた、怒りと恨みに満ちた表情のアカデミーに通う輝石使いの生徒たちがいた。


 制輝軍と対峙している生徒たちの数は、ガードロボットの数を加えると本社に集まった制輝軍の数を大きく上回っていた。


 数が大きく上回っているから制輝軍たちは焦っているのではなかった。


 無窮の勾玉の影響で輝石の力を上手く扱うことができないから焦っていた。


 制輝軍と対峙している生徒のほとんどは、周囲から落ちこぼれのレッテルを張られている生徒であり、アンプリファイアに手を出して痛い目を見た生徒もいた。彼らはアンプリファイアの存在を隠して、アンプリファイアを生み出す無窮の勾玉を所持し、実力主義が蔓延する中で何も対策をしなかった鳳グループへの怒りに満ちていた。


 そして、徹底的な実力主義を掲げて実力主義をアカデミーに深く浸透させた制輝軍にも深い恨みを抱いているので、今すぐ彼らに今までたまっていた不満をぶつけたかった。


 御使いが生徒たちの心の奥底から引き揚げた暗い復讐心は、制輝軍を威圧させるのには十分な威力を持っていた。


 普段は彼らのような実力のない輝石使いを落ちこぼれを見下している制輝軍たちだが、大量のガードロボットを引き連れて、輝石の力を上手く扱えない状況で自分たちに強い憎しみをぶつける大勢の生徒たちに気圧されていた。しかし、そんな彼らによって大勢の仲間が傷つけられたので、このまま怖気づいて退く気はなかった。


 銀城美咲から不用意に生徒には手を出すなと指示されているが、そんなの関係なく仲間を傷つけた相手に向かって今すぐにでも飛びかかりたかった。


 だが、輝石の力を制限されている状況で大勢の輝石使いとガードロボットを考えなしに相手にしても返り討ちにされるだけと思って動けなかった。


 一方の生徒たち側は、今まで落ちこぼれと呼ばれ続けて邪険に扱われた日々が頭に過り、激しい怒りが渦巻いていたが、いざ制輝軍と対峙して動くことができずにいた。


 本当に自分たちだけで制輝軍と戦うことができるのか、こんなことをして後で自分たちはどうなってしまうのか、不安で何もすることができなかった。しかし、不安や迷いを抱きつつも、それを凌駕する今までの恨みによって生み出された怒りで、覚悟はしていた。


 数時間膠着状態が続いて状況は変わっていないが、全員弱々しい光を放つ輝石を手にしており、いつでも輝石を武輝に変化させてぶつかり合う準備はお互いにできていた。


 極限までに張り詰めた緊張感の中――


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」


 場違いなほど明るく耳障りな高笑いが響き渡り、その笑い声の主に視線が集まった。


 笑い声の主は、鳳グループトップの娘――鳳麗華だった。


 怒りの矛先を向けている鳳グループの人間であり、それもトップの娘の麗華に、輝石使いたちの怒りの矛先が彼女に一斉に向けられた。


 今すぐにでも大勢の生徒が自分に飛びかかってきそうな状況だが、麗華は偉そうに豊満な胸を張って凄味のある笑みを浮かべて余裕な様子だった。


「フフン! この私に野蛮な目を向けるとはいい度胸をしていますわね! この私を誰だと心得ていますの?」


 尊大な態度の麗華に煽られ、さらに怒りを募らせる生徒たちだが、彼女の背後から、微弱な光を放つ輝石を手にしていつでも輝石を武輝に変化させる準備ができているセラやティア、美咲など大勢の実力者たちが続々と集まっているのを見て、不用意に怒りを爆発させることはできなかった。


「制輝軍のみんな、お疲れ様~! おねーさんの言うこと聞いてくれて、嬉しいぞ☆ 後で、おねーさんがいーっぱい、ご褒美あげちゃうね❤」


 麗華とともに現れた美咲の姿に制輝軍たちは安堵の息を漏らし、心強い味方を得られたと思って勢いが戻ってくる。


 一方の制輝軍と対峙している生徒たちは実力者たちの登場に気後れしていたが、実力者たちが手にしている弱々しい光を放つ輝石を見て、彼らも自分たちと同様に輝石の力が制限されていると察したので、まだ退く気はないようだった。


「私はこれから御使いたちの計画を止めに向かいますわ! その通り道にいるあなたたちは邪魔なのですわ! 私の邪魔をする場合は容赦はしませんわよ!」


 自分に向かって怒りをぶつける相手に対して麗華は偉そうな態度で怒声を張り上げ、恫喝するような目で睨んだ。


 そんな麗華の態度にさらに怒りを募らせる生徒たちだが、多くの実力者たちを従えている麗華の脅しは効いていた。


「鳳さん、これでますます友達ができなくなるね」


「シャラップ! 相手の戦意を削いで、あなたを目立たせる下準備をしているので黙っていなさい!」


 尊大な態度の麗華を見て、思ったことを何気なく、悪気もなく口にした幸太郎に、麗華は抑えた怒声を張り上げる。


 緊張感のない幸太郎と麗華の様子に輝石使いたちの勢いが僅かに戻った。


「れ、麗華……まずいよ。今の話、聞かれたよ」


「このバカ! せっかくの計画が台無しですわ!」


 ある程度輝石使いの戦意を削いでから、この場を幸太郎に任せて御使いたちの居場所に向かうつもりだったが、初っ端から躓いてしまった。


 冷や汗を流しているセラの指摘に、輝石使いたちの戦意が徐々に上がっていることに気がついた麗華は、今度は大声で幸太郎に向けて怒声を張り上げた。


「鳳さんの声がうるさいから」


「シャラップ! あなたが余計なことを言わずに黙っていればよかったのですわ! 何か代替案を考えなければなりませんわ! あぁ、もう! 計画が滅茶苦茶ですわ」


「それなら、ここは考えるよりも正直になった方がいいと思う」


「……フム、あなたにしてはいい考えですわね。やってみなさい」


「ドンと任せて」


 ヒステリックな怒声を張り上げる麗華を気にせずに、頭に浮かんだ思いつきをそのまま口にする幸太郎。 麗華はまったく期待してはいないが、それでも浮かばないよりかはマシだと思って、その思いつきに乗るが――


「えーっと、みんなー、取り敢えず、あー、落ち着こう!」


 気が抜けるような幸太郎の声に、場の張り詰めた緊張感が一気に弛緩するとともに、自分たちの気を知らないで能天気な幸太郎に生徒や制輝軍は苛立ちを覚えていた。


 お互いを燃え上がらせる結果になってしまった幸太郎に、麗華は鬼の形相で詰め寄った。


「せっかくの見せ場だというのに、何ですの、その平凡な言葉は!」


「……緊張した」


 一仕事終えた気でいる幸太郎に、麗華の怒りはさらにヒートアップする。


「何かこう、あなたには心を揺るがす言葉はありませんの? というか、こんな大役を任せたというのに、言うべき言葉を考えましたか?」


「……ごめんね」


「最悪ですわ!」


「アドリブの方が心を震わせるかと思ってた」


「もっと最悪ですわ!」


 何を言うべきか何も考えていない幸太郎に、御使いたちの潰すために麗華が立てた計画に、さっそく修復困難な綻びが生じてしまっていた。


 それでも呑気な様子で幸太郎は前に出て、輝石使いたちを再び説得しようとするが――


 それを阻むかのように、どこからかともなく飛んできた光弾が幸太郎に襲いかかった。


 瞬時に輝石を武輝である剣に変化させてセラは幸太郎に飛びかかり、幸太郎とともに地面に突っ伏して光弾を回避する。


 矢継ぎ早に飛んで来る光弾だが、輝石を武輝である杖に変化した沙菜が、寸でのところでセラと幸太郎の周囲に障壁を張って防いだ。


 光弾を無力化すると同時に、今度は武輝である長巻を手にした御使いがどこからかともなく現れ、幸太郎とセラに襲いかかる。


 勢いよく振り下ろされた武輝だが、輝石を武輝である大剣に変化させたティアが受け止めた。


 受け止められた瞬間に、御使いは再びティアに向けて攻撃を仕掛ける。


 輝石の力を大きく制限されている状況で御使いの強烈な一撃を受け止めたティアは、御使いの二撃目に対応することができなかった。


 だが、ティアに二撃目が直撃する寸前に、武輝である巨大な斧を担いだ美咲のドロップキックが御使いに炸裂した。


 蹴り飛ばされた長巻を武輝にした御使いはすぐに起き上がると、最初に光弾を飛ばした杖を武輝にした御使いが、フワリと空から舞い降りた。


 御使いたちの登場に、セラとティアは守るようにして幸太郎の前に立ち、幸太郎に攻撃を仕掛けた御使いたちを鋭く睨んで対峙した。


 突然の御使いの登場と、輝石の力を制限されているにもかかわらず、御使いの不意打ちに即座に対応したセラたちの動きに、この場にいる全員が見惚れて圧倒されていた。


「伊波大和が言っていた。鳳麗華は必ず反撃すると。そして――七瀬幸太郎、君はであると」


 武輝である長巻を手にした御使いは、機械で加工された声でそう言った。


「君には悪いけど、私たちの計画のために邪魔な君を排除する」


 杖を武輝にした御使いは機械で加工された声でそう告げると、フワリと宙に浮く。


「と、当初の作戦とは違いますが、御使いが上手く釣れたので良しとしますわ! それではみなさん、ここはお任せしますわよ!」


 全員が驚いている隙に麗華はこの場をセラたちに任せて、ドレイクとサラサとヴィクターとともに、グレイブヤードにつながるエレベーターがある、鳳グループ本社の裏にある荷物用エレベーターへと向かった。


 御使いたちは麗華たちを追うことはしないで、セラたちと対峙していた。


「問答無用に幸太郎君に手を出したお前たちを私は許さない」


「わ、私も……ゆ、優輝さんに七瀬君を守ってくれと頼まれました……それに、同じ水月家の人間として、あなたを止めます」


 幸太郎に不意打ちを仕掛けた、杖を持った御使いに静かに怒っているセラと、優輝との約束のために緊張しながらも沙菜は同じ『水月家』である杖を持った御使いと対峙する。


「それじゃあ、アタシは同じ『銀城』の人と戦おうかなぁ? こーんな追い詰められた状況で戦えるなんて、楽しみだなぁ」


「油断をするな」


「あれ、ティアも一緒に戦ってくれるの? 嬉しいなぁ!」


 好戦的な笑みを浮かべている美咲と、そんな彼女に呆れているティアは、長巻を持った御使いと対峙した。


「刈谷……幸太郎を頼む」


「任せてくださいよ、姐さん」


 自分とセラが御使いの相手をするので、幸太郎を守る役目をティアは刈谷に任せた。


「幸太郎君、後はお願いします」


「ドンと任せて」


 相変わらず緊張感のない様子で胸を張っている幸太郎に、セラは微笑んでしまった。


 そして、不承不承といった様子でセラは貴原に視線を向けた。


「……貴原君、あなたにお願いするのは癪ですが、幸太郎君をお願いします」


「セラさんの頼みでしたら何でもしましょう! その代わり、僕とクリスマスを過ごしてもらいますよ!」


「最悪です――が、いいでしょう」


 こんな時に交換条件を出してくる貴原を心底セラは嫌悪しながらも、その条件を呑んだ。


「その代わり、幸太郎君に何かあれば覚悟してもらいます」


 条件を呑んだセラに狂喜する貴原にセラが一言釘を刺して――この場を幸太郎たちに任せて、セラたちは御使いと戦闘をはじめる。


 セラたちは周囲の人を巻き込まないように、御使いとともにこの場から離れて戦闘を開始させた。


 この場に残った幸太郎は――御使いという強力な仲間が現れたおかげで、すっかり戦意を取り戻して復讐心を滾らせている輝石使いと、全身から好戦的なオーラを身に纏わせている制輝軍を交互に見て――


「どうしよう」


 自分と同じくこの場に残った刈谷と貴原に、そう尋ねた。


 幸太郎と同じく何も策が浮かばない刈谷と貴原は大きく嘆息することしかできなかった。




 ―――――――――




 グレイブヤードにつながる鳳グループ本社の裏にある荷物用エレベーターに乗って、ヴィクターの権限を使って地下奥深くにあるグレイブヤードへと向かっていた。


 張り詰めた緊張感が支配しているエレベーター内で麗華は、安堵と不安を宿した複雑な表情を浮かべていた。


 安堵している理由は、当初予定されていた計画を大幅に変更せざる負えない状況になってしまったが、それでも、順調に目的地へと向かうことができたからだ。


 ここに来てようやく運が向いてきた状況だったが、まだ油断はできなかった。


 他にも御使いがいるかもしれないし、巴もいるし、大和もいる――先行き不安だった。


「……大丈夫」


 麗華の不安を察したようにサラサは呟くような声で元気づけて、彼女の微かに震えている手をサラサが握った。


 年下の少女に気を遣われて麗華は不甲斐なさを感じてしまうが、それ以上に麗華は彼女から母性的なものを感じて安堵感を得ていた。


「それにしても、深部という場所はどこにあって、どうやったら行けるというのだ? グレイブヤードを設計した一人としては、そんな場所があったとは思えないのだが」


「到着したらすぐにわかると大道さんが説明していましたわ」


「なるほど……それなら楽しみにしておこうじゃないか!」


 自分が知らない場所にこれから向かうということに、切羽詰まった状況でもヴィクターは旺盛な好奇心を宿した嬉々とした表情を浮かべていた。


 ヴィクターとの会話を終えると同時にエレベーターが止まって扉が開くと、冷たい空気が麗華たちを出迎えた。


 薄暗く、広大な空間の中央には塔のように超大型メインコンピューターがそびえ立ち、その周囲には大量のサーバーが墓石のように立ち並んでいた。


 何度かグレイブヤードを訪れたことがあった麗華だが、メインコンピュータに通じる道に見慣れぬ――地下に通じる階段があることに気づいた。


「見るからに怪しい階段ですわね……どうやら、あれが深部へとつながる道のようですね」


「なるほど……深部――どうやら私はよく知っていたようだ!」


「話は後で聞きますわ――さあ、行きますわよ!」 


 深部の謎が解けてテンションが上がっているヴィクターを放って、麗華は深部に向かうために、さっそくグレイブヤードに足を踏み入れると――


 薄暗かったグレイブヤード内が赤色灯に照らされ、鼓膜を震わすほどの大音量で唸り声のようなサイレンが響き渡った。


「さっそくセキュリティシステムが発動したようだ! すぐにガードロボットが襲いかかるぞ!」


 ヴィクターの警告と同時に、墓石のように立ち並んでいたサーバーが大きく開いた鉄製の床に収納されると、サーバーが収納された穴から大量のガードロボットが現れる。


 御使いたちにグレイブヤードのセキュリティを掌握されているため、麗華たちがグレイブヤードに入る権限を持っていても、床下から現れた大小様々なガードロボットは、彼女たちに敵意を向けていた。


「この数……どこからわいて出てくる」


「グレイブヤードの地下にはグレイブヤードを守るガードロボットを収納するスペースがあるのだ。おそらく、深部とはその場所を利用して秘密裏に設計された空間だろう!」


 想像以上の圧倒的な数のガードロボットに、普段無表情なドレイクも唖然としていた。


 空気も読まずに、ヴィクターはふいに口に出してしまったドレイクの疑問に嬉々とした表情で答えた。


 広いグレイブヤード内を埋め尽くするほどのガードロボットの数に圧倒されながらも、麗華は退く気はなかった。


「そんなこと言っている場合ではありませんわ! 輝石の力が制限されている状況でこんな数、一度に相手できませんわ! ヴィクターさん、セキュリティの方はお願いしますわ」


「ウム、任せてくれたまえ! メインコンピュータの裏にあるセキュリティルームに向かい、操られているガードロボットを一時的に無力化させようじゃないか」


「時間がありません、私は深部に向かいますわ! その間にヴィクターさんたちはセキュリティを任せますわ!」


 即座に麗華は輝石を武輝であるレイピアに変化させ、深部へ通じる階段へと急いだ。


「……サラサ、麗華とともに先に向かえ」


 武輝である籠手を両手に装着したドレイクの指示に、娘は力強く頷いて輝石を二本の短剣に変化させて麗華の後を追う。


「さあ、鳳麗華! 先へ向かうがいい! 君の父、鳳大悟は『祝福の日』から、陰ながらずっと罪滅ぼしをしてきたんだ! それを無駄にさせないために、先へ急ぐのだ!」


 無窮の勾玉の影響で輝石を武輝に変化させた瞬間、麗華の体力が大きく削られてしまったが、ヴィクターの激励を受けて、力を得た気がした麗華の走る速度が上がった。


 グレイブヤードにヴィクターとドレイクを残して、サラサとともに麗華は深部につながる長い階段を降りると――先が見えないほど薄暗く、長い通路に到着した。


 そして、通路に到着した二人を大量のガードロボットが出迎えた。


「行きますわよ、サラサ! 遅れずについてきなさい!」


 合間を通る隙間もないほど通路に埋め尽くされたガードロボットに気後れすることなく、麗華は通路の先をジッと見据えて、サラサとともに通り道の邪魔をするガードロボットに飛びかかった。


 力の配分を考えながら、自分たちの邪魔をするガードロボットだけを相手にして、麗華とサラサは真っ直ぐと通路を突き進む。


 多少の足止めを食らいながらも、思っていた以上に順調に進んでいたが――


 巨大な四足歩行のガードロボットが麗華たちの進む道を阻んだ。


 侵入者を捕えるための三本指型の巨大な機械の手を動かしながら、無機質な一つ目は侵入者である麗華とサラサをジッと見つめていた。


「……お嬢様、先に行って」


 怯えながらも、覚悟を決めた声でサラサは麗華にそう促した。


 目の前にいるのは、他のガードロボットと比べてかなり大型のガードロボットであり、戦闘能力も一線を画しているだろうと麗華は見ていた。


 普段のサラサならば楽勝だが、無窮の勾玉の影響を受けている中m巨大なガードロボットに加えて大量のガードロボットをサラサ一人に任せるのは危険だと思い、麗華は先に向かうことに逡巡してしまった。


「お嬢様は利用している気になってるけど、みんな、お嬢様のために頑張ってる。私だって、お嬢様のために頑張りたい。だから――」


 口数少なく口下手なサラサは、感情的になってそう捲し立てた。


「だから、行って!」


 叫び声にも似た声で熱い言葉を発するサラサに、抱いていた迷いを晴らした麗華は、四足歩行の大型ガードロボットに向かって疾走する。


 こちらに近づいてきた麗華に、巨大なアームを振り下ろして攻撃を仕掛ける大型ガードロボットだが、勢いよく麗華はスライディングをして攻撃を回避。


 そのまま巨大なガードロボットの股下から背後までスライディングで滑り抜いた麗華は、この場をサラサに向かって目的地へ向かって走った。


 振り返ることなく走る麗華の姿をサラサは満足そうに微笑みながら、巨大なガードロボットと周囲にいる大量のガードロボットに集中する。


 激しい戦闘音が背後から響いても、麗華は決して振り返ることなく先を急いだ。


 多くのガードロボットに邪魔をされながらも、麗華は長い通路を抜けた先にある広々とした空間に辿り着いた。


 しかし、まだ先に通路があり、まだまだ目的地は遠そうだったが――


「お父様! 克也さん!」


 連れ去られた父と、父を連れ去った克也が両手両足を拘束されて、粘着テープで口を塞がれている状態で発見した。


 拘束されている二人の表情には疲労感があったが、特に怪我をしてはいなかった。


 拘束されているが、二人が目立った怪我をしていないのを確認して安堵した麗華は、拘束されている二人に駆け寄る。


 だが、二人の傍らにいる御使いの存在に気づいて、咄嗟に麗華は飛び退いた。


「今はまだ私だけですが、しばらくすれば私の仲間が続々とここに集まりますわ……お父様と克也さんを解放しなさい。今なら痛い目にあわずに済みますわよ」


 麗華の脅しに御使いは何も反応しないで、指を鳴らした。


 指を鳴らす小気味良い音が周囲に響いた瞬間――麗華の背後から殺気をぶつけられた。


 背後の殺気に即座に反応して麗華は振り返ると、武輝である十文字槍を手にして、悲痛な表情を浮かべている巴が立っていた。


「……ごめんなさい、麗華」


 溢れ出しそうになる感情を必死に抑えた震えた声で謝罪の言葉を短く述べると同時に――巴は麗華に向かって問答無用に飛びかかった。



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