第17話

 麗華が暮らす豪勢な屋敷内の広間には、セラ、幸太郎、ティア、沙菜、刈谷、ヴィクター、ドレイク、サラサ、美咲、貴原――一部を除いてアカデミー都市内でもトップクラスの実力を持つ輝石使いたちは、天宮加耶率いる御使いの計画を潰すために集められていた。


 麗華との口喧嘩を終えてセラは幸太郎に連絡すると、すぐに大勢の仲間を引き連れた幸太郎が麗華の屋敷に現れた。


 麗華ならきっと御使いに反撃すると思って準備をしていた幸太郎に、麗華は嬉しく思いながらも感謝の言葉は絶対に口にしないで、相変わらずの素直ではない態度を取った。


 打倒御使いのために集まった仲間たちを屋敷の広間に集めた麗華は、彼らの前に立った。


 大勢の仲間たちの視線が一斉に集まって麗華は僅かな緊張感が生まれたが、それを吹き飛ばすように軽く深呼吸をして――いつものような高笑いをする。


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!」


 耳障りな麗華の高笑いが響き渡り、さっそく帰りたいと思っている人がいた。


「みなさん、御使いをボコボコにするために集まっていただいて感謝しますわ! 理解しているかもしれませんが、今から現状についての説明をしますわ!」


 感謝の言葉を述べながらも、尊大な麗華の態度は相変わらずだった。


「現状は最悪ですわ。私の幼馴染であり、御使いを率いている天宮加耶が鳳グループから奪った煌石・『無窮の勾玉』の力を発動させて輝石の力が弱められていますわ! その結果、アカデミー都市はパニックになり、実力主義が広まったアカデミーで落ちこぼれと呼ばれていたアカデミーの生徒たちはこの機に乗じて、自分たちをバカにしていた方に復讐をして、多くの怪我人も出ていますわ! ホント、最悪ですわ!」


 状況は最悪であると、麗華は忌々しく、そして吐き捨てるように簡単に説明した。


「それに、鳳グループ本社周辺には、御使いに煽られて鳳グループに怒りの矛先を向けた多くのアカデミーの生徒たちと、そんな彼らを止めるために現れた制輝軍が睨み合っていますわ。いつ衝突してもおかしくはない状態ですわ」


「一応、手は出すなって指示はしてるけど、仲間が襲われたから、制輝軍の子たちは相当頭に血が上ってるから、我慢の限界は近いからねー☆」


「美咲さんの言う通り、最悪な状況に加えて時間がありませんわ」


 麗華の説明を制輝軍である美咲が付け加えたが、状況がもっと最悪になっただけだった。


「御使いはグレイブヤードの奥深くにある、『深部』と呼ばれる無窮の勾玉が保管されている場所にいますわ! 両者が衝突する前に深部に突撃して、御使いをとっちめますわ!」


「ほう……グレイブヤードのセキュリティを担当した私はそんな場所があるとは知らなかったぞ。この私でさえも知らないその場所の情報は本当に頼りになるのかな?」


 グレイブヤードのことをよく知っているヴィクターは、グレイブヤードの奥に深部という場所があるという情報にあまり信用していない様子だった。


「鳳の旦那の命令で御使いに潜入してた大道のバカの情報だ」


「その命令をした張本人が捕えられ、本当に潜入していたのか確認できない状況で信用できない情報筋だが――時間がない状況では仕方がない。信用するしかないようだな! いいだろう、信用しようじゃないか! ハーッハッハッハッハッハッハッ!」


 刈谷のため息交じりの説明を聞いて不安そうにヴィクターはため息を漏らすが、すぐに麗華と同等のテンションで気分よく高笑いをしていた。


「それにしても、僅かな人間にしか入れない場所にどうやって御使いは入ったのだ。あそこのセキュリティを破るのは容易ではないはずだ」


「前回の事件で御使い側の人間に『マスターキー』を奪われたのですわ」


「なるほど、すべてのシステムにアクセスできる権限を持つ、鳳グループと教皇庁のトップにしか渡していないマスターキーの力ならば、アカデミーに施されたセキュリティを解除することも、ガードロボットを支配することも、深部という隠された場所に入るのも容易だな。それに加えてマスターキーを持つ者の権限で、正規の方法でグレイブヤードに侵入した我々を、グレイブヤードのセキュリティに排除しろと命令することができる! 状況は最悪だ! もう笑うしかないな! ハーッハッハッハッハッハッハッ!」


 絶大な権限を持つマスターキーを御使いの手に渡ったことを麗華から聞いて、自分が思っている以上に状況が最悪なことに気づいて、ヴィクターはさらに楽しげに笑っていた。


「グレイブヤード、そして、おそらくは『深部』という場所も同じだとは思うが――グレイブヤードは機密情報が保管されている場所なのでセキュリティレベルは最大に設定してある。有事の際に、様々な種類の趣味や趣向を凝らした様々な武装の純粋な戦闘用のガードロボットが全力で、命を奪うつもりで侵入者を排除する。輝石の力を制限されている現状で相手をするのはかなりの危険が伴うだろう」


 意地悪な笑みを浮かべて脅すような発言をするヴィクターだが、全員特に怖気づいていることはなかった。幸太郎だけは様々なガードロボットが見れることに、期待で目を輝かせていた。


「深部までの道程が危険なことは理解できましたが、輝石使いたちと制輝軍の衝突を抑えるために多くの人員を割きますわ。異存はありませんわね」


 御使いを倒すことに集中するよりも、大勢の輝石使いたちの身の安全を最優先にした麗華の判断に、誰も異議を唱えずに納得していた。


「御使いの計画を潰すために、私とともに深部に向かうグループと、輝石使いたちの対応をするグループに分けますわ!」


 そう宣言して、不承不承といった様子で麗華は主人公に視線を向ける。


「七瀬さん、あなたはセラやティアさん、美咲さんや水月さん、そして刈谷さんと貴原さんとともに、輝石使いの対応をお願いしますわ」


「ドンと任せて」


「わかっていますわね? あなたがアカデミーに戻ってきた理由は、落ちこぼれのあなたが目立つことで、落ちこぼれと蔑まれている人たちの支えになること。その大きなチャンスがようやく訪れたのですわ! そのためのお膳立てもしたのに、失敗は許しませんわよ!」


「何だか緊張するけど、ドンと任せて」


 差し迫った状況を理解していない様子で自信満々に華奢な胸を張る幸太郎に、麗華は不安しか覚えなかった。


 なので、もう一度どうして自分がアカデミーに戻ってきたのかの理由を麗華は思い出させるが――相変わらず幸太郎は緊張感のない様子で胸を張っていた。


 不安しかない幸太郎だが、セラたちが傍にいるので麗華はその不安を無理矢理押し殺して、仕方がなく彼を信じることにした。


「深部に向かうためのメンバーは私とドレイクと、サラサ、そして、グレイブヤードのセキュリティを知り尽くしているヴィクターさんにお願いしますわ」


 サラサとドレイクの父娘は力強く静かに頷き、ヴィクターは「任せてくれたまえ」と仰々しく頷いた。


「深部のことは知らないが、できる限りグレイブヤード内のガードロボットの足止めをするために尽力しよう――それと、ギリギリまで病院で白葉ノエルとともにいると言って、まだここに集まっていない我が娘も、グレイブヤードに向かわせてもいいかな? 我が娘もそれなりに優秀なのだ」


 自慢げに娘のことを語っているヴィクターの提案に、迷うことなく麗華は「いいでしょう」と快諾した。


「途中必ず御使いの邪魔が入るでしょう。鳳に復讐心を燃やしている彼らを口で止めることは不可能ですわ! 輝石の力を上手く扱えない状況で酷ですが、彼らが邪魔をしたら撃退してください! 相手は無窮の勾玉の影響を受けていない強敵ですので、戦う時は気をつけてください」


 無窮の勾玉の影響で力が制限されている自分たちとは対照的に、力が制限されていない御使いと戦うことになることを、不安げな表情を浮かべている者が数人いたが、それ以上に、好戦的な笑みを浮かべている者、覚悟を決めている者がほとんどだった。


「以上で作戦の説明は終了ですわ! 御拝聴ありがとうございます」


 すべての説明が終わって、仰々しく麗華は華麗に頭を下げた。


「正直、長年の間練りに練った計画を勢い任せの私たちの作戦で容易に打ち破ることができるとは思っていませんが――私は今この場にいるみなさんの力を信じていますわ!」


「ドンと任せて!」


「一部の方は信用していませんが!」


 カッコよく決め台詞を言って自分に酔いしれていた麗華だが、割り込んできた幸太郎の一言に、決め台詞の一部を即座に訂正した。


「とにかく、私が言えることは――悔いのないように好き勝手に暴れて、素直に私に利用されてくださいということですわ!」


 麗華らしい無茶苦茶な言葉に、これから大きな戦いがはじまることに固くなっていた周囲の空気が和らいだ。


「さあ、行きますわよ、みなさん!」


 力強い声で麗華はそう宣言すると――


 御使いの計画を潰すために、麗華たちは動きはじめる。


 御使いたちとの最終決戦が、今、はじまった。

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