第22話
鋭角的なフォルムの新型の人型ガードロボットに、武輝である剣を片手に持ったセラは飛びかかる。
赤く光っている頭部にある大きな一つ目のようなセンサーは、一直線にこちらに向かってくるセラの動きを完全に捕えていた。
一気に間合いに入って、セラは武輝をガードロボットに向けて振り下ろすが、ガードロボットは後方に身を翻して、人間のようなアクロバティックな身のこなしで回避した。
回避しながら、ガードロボットは腕に内蔵されたショックガンから放たれる電流を纏った不可視の衝撃波を、掌から発射する。
セラは大きくバックステップをして衝撃波を回避すると、不可視の衝撃波はさっきまでセラが立っていた場所の床を砕いた。
セラは武輝を持つ手を逆手に持ち替え、床を踏み砕くほどの力強く一歩を踏み込んでガードロボットとの間合いを一気に詰める。
一直線に向かうセラの動きを完全に捕えていたガードロボットだが、突然セラがスライディングをしたことで、彼女の動きが捕えられなくなる。
ガードロボットの足下までスライディングをしたセラは、逆手に持った武輝を横薙ぎに振い、ガードロボットの脚部を両断する。
起き上がると同時にセラは逆手に持った武輝を振り上げて、足を失くしてバランスを崩したガードロボットを下から縦一閃に両断、破壊する。
苦戦はしなかったが、旧来のガードロボットを軽く凌駕している新型ガードロボットの戦闘力に驚きながらも、セラは落ち着いて周囲の状況を確認する。
草壁、ドレイク、サラサ、貴原、そして、鳳グループの警備員たちと村雨の仲間たちは、先導して人質の避難誘導をしていた。
先導する草壁の後を追うように、人質たちは会場をスムーズに出ていた。
村雨たちとはついさっきまでは敵であったが、人質のためという共通する目的があるおかげで、上手く協力し合って人質たちが怪我をすることはなかった。
他のガードロボットは村雨と戌井、そして、美咲が完膚なきまで破壊した。
ガードロボットの破壊を終え、人質たちの姿がまばらになった会場内は、さっきまでのパニックが嘘のように静かな雰囲気になっていた。
パーティー会場にいるのは、村雨たちと、セラ、美咲、サラサ、ドレイク、貴原、そして、いまだに酔い潰れている刈谷が残っていた。
「楽しい宴会はここまでって感じだね。でも、おねーさんはまだまだイケるんだけどなぁ?」
武輝である身の丈を超える巨大な斧を担いだ美咲は、ニッコリと好戦的な笑みを浮かべて、まだまだ暴れ足りない様子だった。
そんな美咲と対峙している村雨の目は、決して退かない強い意志が宿り、手には自身の武輝である大太刀がきつく握り締められていた。
一方で、人質を失い、緊急警報システムが作動して、すぐにでも大勢の制輝軍が駆けつけてくる圧倒的に自分たちが不利な状況で、村雨の仲間たちの表情は暗く、諦めに満ちており、手にしていた武輝をすぐにでも床に捨てて投降するつもりだった。
「村雨さん……もういいでしょう。周りを見てください」
いまだに退く気つもりがない村雨を察して、悲痛な表情のセラは説得する。
セラの言葉に、村雨は自分の仲間たちの顔を一人ずつ見て、諦めたようなため息を漏らすが――まだ、彼の瞳には揺るがない光が宿っている。
「いい加減にするんだ、村雨……君の負けだ」
村雨の仲間である戌井が、村雨とセラの間に立ち、いまだに抵抗しようとする村雨に厳しい現実とともに、自身の武輝であるステッキの先端を突きつけた。
「もういいだろう、村雨。鳳大悟は真実を話したんだ」
「……まだ、最後の仕上げが残っている」
「これ以上何をするつもりだ! 状況を考えるんだ。ここまで君を信じて慕ってくれた仲間は圧倒的に不利な状況に、不安を覚えて今にも投降するつもりだ!」
「わかっている――だが、退くつもりはない」
「なら……仲間たちを無視する君に、これ以上僕は協力することはできない」
何を言っても退く気がない村雨に呆れ果て、武輝を輝石に戻すと同時に戌井は村雨との袂を分かつ。
「……そうか、君なら理解してくれると思ったんだが」
「悪く思わないでくれ……これ以上僕は君の醜態を見たくはない」
ずっと支えてくれた右腕が去るのを、村雨は咎めることも引き止めることもしなかった。
「少しでも今回の騒動の罪滅ぼしがしたいのなら、僕とともに人質にしていた人たちために、できる限りのことをしよう! 村雨と共倒れする必要はない!」
投降するか否か迷っている村雨の仲間たちに、戌井はそう呼びかけると――
「戌井の言う通りだ! 君たちはここまでよくやってくれた! だから、君たちも戌井とともにここから出て、人質たちのために動くんだ!」
戌井に続いて、村雨も仲間たちに自分と袂を分かつように呼びかけた。
村雨の呼びかけに、彼の仲間だけではなく、セラも驚いていた。
「そして、君たちは俺にすべての責任を押しつけて、少しでも自分の罪を軽くしてくれ! ――それが君たちをまとめていた俺の最後の命令であり、君たちを巻き込んでしまった俺にできる、せめてもの償いだ!」
すべての責任を背負う覚悟を決めている村雨の命令に、仲間たちは躊躇いながらも、彼を止められないと判断して武輝を捨てる。
床に落ちた武輝は一瞬の光とともに、すぐに輝石に戻った。
そして、全員村雨に向けて深々と頭を下げた。
村雨の仲間たち全員、村雨を犠牲にしてしまうことに悔しそうな表情を浮かべ、中には涙を流す者もいた。
自分の気持ちを察してくれた仲間たちに、ずっと口を真一文字に閉じて険しい表情を浮かべていた村雨の表情が、一気に柔らくなっていた。
……村雨さんは最初からそのつもりだったんだ。
すべての責任を取り、最後まで抵抗することでみんなを守ろうとしていたんだ。
――もう、村雨さんは止まらない。
村雨の覚悟をセラは悟ると同時に、村雨との避けられぬ戦いにむなしさを覚える。
「……行こう」
戌井が声をかけるまで、村雨の仲間はずっと村雨に頭を下げ続けていた。
そして、村雨の仲間は戌井とともに会場を出た。
「さて……そろそろ決着をつけよう」
一人会場に残った村雨は、鋭い眼光をセラに飛ばす。力強い覚悟と信念を宿した村雨の瞳に、容易に倒れる相手ではないことを悟ったセラは気圧されてしまっていた。
だが、そんな自分に喝を入れるようにセラは自身の武輝を力強く握り締める。
静かに闘志を漲らせるセラだが――そんな彼女の耳元で、貴原は「セラさん」と、囁くような甘い声で呼んだ。
今から戦うことになる状況で、耳元で囁かれて不快だったが、キザなようでいて真剣な声音だったので、セラは不承不承ながらも貴原の声に耳を傾けることにした。
「ここは僕たちに任せて、セラさんは戌井を追ってください――やっぱり、どうしても僕は彼を信用することができない。この騒動で何かを企んでいるかもしれない」
戌井に対して不信感しか抱いていない貴原に、セラは逡巡する。
戌井が周囲の信頼を得るためにマッチポンプをしていたという話を貴原から聞いて、セラも戌井に対しては不信感を抱いていた。
しかし、戌井とは今日はじめて会って、彼がどんな人物なのかも知らないので、噂話だけで人を判断することができなかった。
セラとしては、すぐにでも幸太郎の元へと駆けつけたかった。
――だが、もしも、戌井に対する貴原の不審が当たっているとしたら、巴の意思を受け継いで努力してきた村雨たちを裏切った戌井は絶対に許せないとセラは思っていた。
「お願いします、セラさん」
「……わかりました」
武器を持って対峙している村雨をジッと睨みながら、自分に懇願してくる貴原の、普段のキザな態度とは違った真っ直ぐな思い感じ取り、彼の気持ちに免じてセラは頷く。
幸太郎が心配だったが、彼は麗華と一緒にいるので、何かあれば、文句を言いながらも麗華が何とかしてくれると思っていたので、そんなに心配はしていなかった。
それに、この場には貴原の他にも、彼よりも実力があるサラサやドレイク、そして何よりも、自他ともに厳しいティアに実力を認められている銀城美咲がいるので、自分がいなくても問題はないと思っていた。
それ以上に――村雨と決着をつけるために必ず現れる人物がまだ来ていないからだ。
「どうした、話し合いは終わったのか?」
「ええ! ここは誰よりも信用するこの僕に任せると、セラさんは仰ってくれたのですよ! さあ、村雨さん! あなたはこの僕が裁いてあげましょう!」
村雨に向けて高らかに大見得を切る貴原を、セラは冷ややかな目で一瞥すると、村雨に視線を移した。
「あなたを止めたかったのですが……すみません、やるべきことができてしまいました」
「俺なんかに構うよりも、君は君のやるべきことをやってくれ」
「……巴さんなら、きっとすぐに来るはずです」
複雑な表情を浮かべて巴の名を出したセラに、期待と不安が入り混じった表情の村雨は何も言わずに苦笑を浮かべて深々と頷いた。
「さあ、行きますよ、村雨さん!」
そう叫んだ貴原は武輝であるサーベルを片手に、無駄に華麗で隙が多い動きで村雨に飛びかかり、貴原と同時にセラは駆け出し、戌井を追うために会場内から走り去った。
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