第二章 真実の追及

第12話

 パーティー会場を占拠した村雨たちは、人質が持っている携帯、武器、輝石を回収した後、人質の両手を結束バンド状の手錠で拘束した。


「オエェ……き、気持ち悪……何、どうなってんの? 村雨? ……ダメ、気持ち悪ぃ」


 酔い潰れてテーブルに突っ伏している刈谷から輝石を回収しようとする村雨の仲間は、今にも吐き出しそうな刈谷の様子に、縋るような目で村雨を見つめた。


 仲間に救いを求められ、村雨は小さく嘆息して刈谷に近づいた。


「ほら、刈谷。しっかりしろ」

「む、村雨、お前何してんだよ……」

「調子の悪いところ申し訳ないが、大人しくしてもらうぞ」

「無理、もー、動けない」

「まったく……これに懲りたら、慣れるまで過度な飲酒は控えておけ」

「は、吐きそうなんだけど……」

「だ、誰か! エチケット袋を用意してくれ! 大至急!」


 完全に酔い潰れてグロッキー状態の刈谷を介抱しながら、村雨はベルトについている刈谷の輝石と、彼の武器である警棒、そして、金色のド派手なショックガンを回収した。


 刈谷を最後に、ようやく全員の抵抗手段を奪った村雨は誰にも気づかれないように小さく、安堵のため息を漏らした。


 不測の事態はあったが、運良く怪我人は出なかった。

 取り敢えず、ここまでは順調だ……

 重要なのはこれから、鳳大悟に真実を聞かなければならない。

 ……大丈夫、大丈夫だ。


 不安に襲われそうになって村雨は気を引き締めていると、大悟を追っていた戌井が戻ってきた。戻ってきた戌井の表情は暗く、そして、不安そうな表情だった。


「すまない、村雨……結局、鳳大悟には逃げられてしまった」


 開口一番謝罪をして頭を下げる戌井に、固かった表情を柔らくさせて「気にするな」と村雨は優しく声をかけるが、戌井の表情は暗いままだった。


「いや……問題があるんだ。鳳大悟の他に逃げている人がいる」


 躊躇いがちに放たれた戌井の言葉に、村雨の表情が一気に固くなる。


「破壊された数台のガードロボットが記録している映像を確認したら、鳳麗華、御柴巴、伊波大和の三人がともに逃げており、鳳大悟とともに七瀬幸太郎が逃げている」


「そうか……巴さんも出席していたのか……」


 かつて学生連合を率いた人物であり、心から慕っている巴が逃げ回っていると聞いて、村雨は迷いとともにほんの僅かな安堵感が生まれていた。


「大丈夫なのか、村雨。君は御柴さんのことを……」


「大丈夫だ。俺たちの邪魔をするのなら、巴さんでも俺は容赦しない」


 自分がここにいる理由をすぐに思い出し、村雨の迷いは一瞬で霧散した。


 今は巴よりも大事なことがある村雨にとって、巴の存在は邪魔なものだった。


「策略を張り巡らせる伊波大和がいるのは厄介だが、今はエレベーターを使えなくしているし、非常階段の下りにはガードロボットも配置した。たとえ、巴さんたちでも輝石の力をまともに扱えない現状で無茶をするとは考えにくい。戌井、引き続き君は鳳大悟の後を追ってくれ。念のために数人の仲間と新型ガードロボットを数台連れて行くんだ」


 不測の事態にも落ち着き払っている村雨の指示に、不安げな面持ちで一瞬だけ逡巡する戌井だったが、「……わかった、すぐに向かおう」と指示に従った。


「それと――七瀬君は輝石の力をまともに扱えない、一般人も同然の人物だ。気を遣ってくれ」


 こんな状況でも他人を気遣うことを忘れない村雨に、不安だった表情を一瞬だけ柔らかくした戌井は力強く頷き、数人の仲間と二台の新型ガードロボットとともに、大悟たちを追うためにパーティー会場を出た。


 戌井が会場から出ると同時に、「村雨さん」とすっかり体力が戻った様子のセラが村雨に話しかけてきた。


「幸太郎君への気遣い、ありがとうございます」


「俺たちの目的は誰かを傷つけることじゃない。当然のことだ」


「それなら、村雨さんたちは何が目的なんですか?」


「鳳大悟の口から真実を聞くためだ」


 幸太郎を気遣い、抵抗できない人質に危害を加えるつもりがない村雨に、セラは安堵していたが――安堵していた表情を一変させて村雨を鋭い視線で睨み、殺気を放つ。


 両手を拘束され、輝石を奪われたセラだが、村雨を睨む彼女の威圧感は尋常ではなく、村雨はもちろん、彼の仲間たちも彼女に気圧されていた。


「村雨さんたちの目的が何であれ――幸太郎君に何かあれば絶対に許さない」


「……肝に銘じておこう」


 全身から殺気を放ってドスの利いた声で忠告をするセラに、気圧されながらも村雨は頷いた。


「それにしても失望しましたよ、村雨さん!」


 セラに続いて、性格が悪そうな貴原の声が響いた。


 力を奪われ人質にされているの関わらず、尊大の態度の貴原は村雨を心底軽蔑しているような目で睨み、口角を嫌らしく吊り上げて嘲笑を浮かべていた。


「村雨さん、あなたは何をしているのかわかっているんですか? こんなバカなことをしてしまえば、間違いなくあなたはアカデミーから永久追放される。優秀な輝石使いであるというのに、あなたは永遠に輝石に触れる機会を失ってしまうんですよ?」


 村雨への失望と軽蔑の色が強くなると同時に、貴原は純粋な怒りが芽生えていた。


「実力も高く、人望もあるあなたには持つべき権力を持ち、人の上に立つ資格がある。それを台無しにする意味を理解しているのですか?」


「持つべきものを手にして悦に浸る前に、果たすべき責任がある……自分のためだけに学生連合に入り、立場が悪くなればすぐに抜ける君には理解できないだろうな」


 先月の事件で責任を擦り付けられて学生連合が完全に潰されることが決定してから、逃げるように学生連合から抜け出した、自分本位の貴原を心底村雨は軽蔑していた。


 痛いところを突かれてしまう貴原だが、それでも確かに言えることはあった。


「村雨さん、あなたは間違っている」


「承知の上だ……それでも、俺は止まれない」


 決して揺るがぬ信念を見せつけてくる村雨に、貴原は思わず気圧されてしまった。


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