第6話
新型ガードロボット完成披露パーティー当日。
日がすっかり沈んだ頃――鳳グループ本社前には多くの車やマスコミが集まり、鳳グループ本社のビル屋上にひっきりなしにヘリコプターが着陸しては離れていた。
高級車から降りて鳳グループ本社の上層階にあるパーティー会場に向かう人たちの服装は全員タキシードやスーツやドレス等、フォーマルな服装をしていたのだが――
鳳グループ本社前で、パーティー会場まで案内してくれる約束をしたサラサとドレイクを待っているセラと幸太郎の服装は、アカデミー高等部専用の白を基調としたブレザータイプの制服を着ていた。
「すごいカメラの数……いよいよ全国デビューできるかな」
パーティーに出席する各界の権力者たちをインタビューするために、本社前に集まるマスコミたちが持つカメラを眺めて、幸太郎は呑気にそう呟いた。
「思っていた以上の人が集まるようですね……」
「そうだね――あ、あの人テレビで見たことがある……サイン色紙持ってくればよかった」
思っていた以上の人が集まるパーティーに若干緊張しているセラだったが、相変わらずの幸太郎の呑気な態度に徐々に緊張感が薄れた。
「僕たち制服だけど大丈夫かな」
「一応、大丈夫だとは思いますが……」
「セラさんのドレス姿、ちょっと見たかったかも」
「そ、そうですか?」
「あ、でも、セラさんの見た目ってお姫様よりも王子様だね。ドレスじゃない方が似合いそう」
「……ありがとうございます?」
女として喜んでいいのかどうかはわからないが、取り敢えずは感謝の言葉を述べるセラ。
「ドレスではないのは残念ですが、相変わらずセラさん、あなたは美しい!」
「何だ、お前らも出席するのか。よかったよ、知り合いがいて」
「お、みんな揃ってるね。おねーさん嬉しいぞ」
セラと幸太郎が話していると、三人の人物が近づいてきた。
一人はタキシードを着た、相変わらずセラへ情熱的なラブコールを送る貴原康。
もう一人は、テカテカと金色に光るスーツを着ている刈谷祥。
そして、もう一人は、十一月の下旬で寒くなってきているというのにショートパンツを履いて健康的な足を惜しげもなく晒し、洗いざらしのシャツの上にボロボロで薄汚いロングコートを着て、首には緩々のネクタイを巻いた、アカデミー都市内の治安を守る
三人の登場に、セラと幸太郎は「こんばんは」と挨拶する。
「貴原君は来るって知ってたんですけど、刈谷さんと美咲さんも来たんですね」
貴原が来ることは知っていたが、パーティーに乗り気ではなかった刈谷、そして、出席するかどうかも知らなかった美咲の登場に、幸太郎は意外そうに見つめていた。
「まあ、せっかくただ飯食えるんだから、欠席するのはもったいないと思ってな。だから、今日は目いっぱい楽しもうぜ! なあ、貴原!」
「え、ええ……刈谷さんが一緒で僕も嬉しいですよ……」
肩を組んで貴原とフレンドリーに接する刈谷。
しかし、過去に刈谷に懲らしめられたことがある貴原は、刈谷に対して苦手意識を持っており、フレンドリーに接してきた刈谷に取り繕った笑みを浮かべているが、明らかに不満気で、刈谷の存在を忌々しく思っていた。
そんな貴原を尻目に、美咲はキョロキョロと周囲を見回していた。
「ティアちゃんたちは――いないみたいだね。まあいいや、セラちゃんたちがいるんだし」
「ええ。優輝と一緒に沙菜さんの実家で調べ物をするようです。そ、その……銀城さんがいるということは、もしかして――」
「あー、今日は残念だけどウサギちゃんたちはいないの。制輝軍の代表としてアタシは出席してるんだよー。ちゃんとタッパーも持ってきているから、おねーさん気合十分だよ」
美咲以外に制輝軍の関係者がいないということを聞いて、セラは僅かに安堵する。
「アタシが出席するって言ったら、ウサギちゃんたちはそれなら自分たちは行かないって言うから、一人で寂しく自棄食いしようと思ったんだけど、みんながいておねーさんは嬉しいぞ☆ 今日はもう目いっぱい食べて飲んで、乱れちゃうぞ~♪」
「たくさん乱れちゃいましょう」
「さすが、幸太郎ちゃん。ノリが良いなぁ」
盛り上がっている美咲の様子に、幸太郎以外の面々は辟易したようにため息を漏らした。
「セラと幸太郎の二人だけと聞いていたが、随分と人が集まっているようだな」
幸太郎たち五人の前に現れるのは、卸したてのスーツを着た、スキンヘッドで長身の強面の大男――サラサ・デュールの父であるドレイク・デュールだった。
父の背後には恥ずかしそうに、強面の顔をさらに鋭くさせて緊張している、赤を基調としたドレスを着ているサラサ・デュールだった。
「よお、オッサン。久しぶりだな」
「……お前は――いや、銀城もだが、ドレスコードというものを知っているのか?」
「そんなの基本的なマナー、当然だろ。どーよ、俺の勝負服」
「アタシはちゃーんとネクタイはしてるよー」
申し訳程度にネクタイを巻いている着古したボロボロのロングコートを着ている美咲と、金ぴかのド派手なスーツを着ている相変わらずのセンスの刈谷に、ドレイクは呆れ果てて何も言えない様子だった。
「なあ、幸太郎。俺の服装は何か変か? ビシッと決まってるだろ?」
「カッコイイです。カナブンみたいで」
刈谷の質問に、的のど真ん中を射抜くストレートな感想を言い放つ幸太郎に、セラたちは思わず吹き出してしまう。普段感情を見せないドレイクも、内気な性格のサラサも、刈谷を畏怖している貴原も、みんな吹き出してしまっていた。
「お、おい! 幸太郎、人を何だと――」
本人に悪気がないが、さすがの刈谷も限界を超えて怒りの矛先を幸太郎に向けるが――
「サラサちゃん、すごいかわいい」
「あ、その……ありがとう、ございます」
興味の対象がドレスを身に纏って普段の雰囲気とは違うサラサに移っていたので、幸太郎は刈谷の怒りにまったく気づいていなかった。
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