第2話
「ハーッハッハッハッハッ! グッモーニング、諸君! 今日は何と良い日だろう」
朝のアカデミー高等部・二年C組に、はた迷惑な声量の気分良さそうな笑い声が響き渡り、クラスメイトたちは明らかに迷惑な表情を浮かべていた。
笑い声の主――キザっぽく前髪を弄りながら、整いながらも性格が悪そうな表情の男子生徒・
満面の笑みを浮かべて気分良さそうな貴原の手には、高級な羊皮紙に包まれた一通の手紙があり、それをひらひらさせて周囲に見せびらかしていた。
「さあさあ、セラさん! これを見てください! ついに僕も認められたようですよ!」
踊るような足取りで、貴原は多くのクラスメイトに囲まれている、他のクラスメイトとは一線を画する美しく、凛々しい容姿の女子生徒――セラ・ヴァイスハルトに近づく。
楽しく談笑していたセラの友人のクラスメイトたちは、セラに近づく貴原を明らかな迷惑と敵意を込めた目で睨んでいたが、本人はまったく気にしていない様子だった。
「……おはようございます、貴原君」
こちらに近づく貴原に向けて、仕方がなく、セラは顔の筋肉だけを動かしただけで、まったく心が込められていない愛想笑いを浮かべて事務的な口調で挨拶をした。
「どうも、ごきげんようセラさん。それよりも、これを見てくださいよ」
「それは、二日後に鳳グループ本社で行われるパーティーの招待状ですね」
一人盛り上がって、手に持っていた手紙をセラの眼前でこれ見よがしと貴原は見せつけるが、セラはまったく興味がない様子だった。
「その通り! つい昨日、送られてきたんですよ」
「私たちは一週間前にもらいましたが、つい昨日届いたということは、貴原君の存在を忘れていたんでしょうね」
「これで僕の活躍も認められたということですね! ハハッ!」
気分良さそうにキザっぽく笑う貴原に、セラは「それはよかったですね」と、適当に受け流して早々に話を切り上げようとするが、貴原は止まらなかったが。
不躾にも貴原はセラの手にそっと触れる。
「それで、セラさん! 僕と一緒にパーティに参加しませんか? 僕とあなた、優秀な輝石使いが出席すれば、パーティーキングとクイーンになることは間違いありません!」
「お断りします」
「なぜです! 各界の権力者が集まるパーティーで目立てる絶好の機会だというのに!」
「興味がありませんので」
丁寧な口調だが心底興味がない様子で素っ気なくセラはそう答えた。
それでもめげずに貴原はキザな台詞を吐き続けてセラを誘い続けるが、我慢できなくなったセラの友人たちは貴原を非難する。大勢のクラスメイトから非難された貴原は居心地を悪くしながらも、セラにキザな捨て台詞を言い続けていた。
いつものようにセラにフラれる貴原を、自分の席で平凡な顔つきの少年――
「あれだけ相手にされてないってのに、貴原も諦めないよなぁ」
「飛び超えるべき壁が大きいほど、人は燃えるべきものなんだ」
「……飛び越える以前に、壁に到達すらしてないだろ」
毎度セラにフラれても、決して諦めない貴原の様子を、呆れと憐憫の眼差しで幸太郎の友人たちは眺めていた。
「そういえば、七瀬も招待状もらったのか?」
「うん。一週間前に」
「そりゃそうだよな。先月の事件でお前ら風紀委員は活躍したんだから」
「僕は大した活躍してないんだけどね」
「もちろん、出席するんだろ?」
「美味しいもの食べられそうだから、そのつもり」
友人に話を振られ、幸太郎は先週寮の自室に届いた招待状のことを思い出す。
週末の二日後の夜に鳳グループで行われるパーティーとは、新型ガードロボット完成披露パーティーのことだった。
そして、そのパーティーに、先月発生した事件である、
アカデミーを運営する巨大な組織の一つ・鳳グループのパーティーに幸太郎は出席する気満々だが――彼の周囲の人間、セラを含む他の風紀委員メンバー、新型ガードロボットの設計者であり幸太郎の友人であるヴィクター・オズワルド、そして、連日連夜徹夜で人体実験を自ら買って出て新型ガードロボット完成に貢献して、先月の事件で活躍した幸太郎の友人である
「しかし、二週間前に新型ガードロボットが完成したばかりだってのに、随分と急に開かれることになったよな」
「ああ。今まで新型ガードロボットが完成間近って噂もなかったし」
「確かに。この間の特区の騒動といい、あの噂といい……何だか最近のアカデミー、というか鳳グループってちょっと変だ――」
「フン! 相変わらず君はお互いの傷を舐め合っているというわけか。無様だな」
幸太郎の友人たちの会話を遮るようにして、不機嫌な顔の貴原が現れた。
セラに素っ気なくフラれ、大勢いる彼女の友人に非難された貴原は凄まじく機嫌が悪く、不機嫌の矛先を八つ当たり気味に幸太郎たちにぶつけてきた。
「君にも招待状が届いているようだが、勘違いはしない方がいい。君が招待状をもらったのも、君がこうして順風満帆にアカデミー生活を送っているのも、すべては風紀委員――いや、セラさんのおかげなのだ。決して、君の力ではない。君はそうして弱い者同士傷を舐め合っているのが相応しいんだ」
嫌らしい笑みを浮かべて、八つ当たり気味に嫌味を幸太郎にぶつけてくる貴原。
事実だと思っているので特に幸太郎は気にしていなかったが、そんな貴原に向けて、幸太郎、そして、彼の周囲にいる三人の友人は――
「「「「ドンマイ」」」」
示し合わせたわけでもなく、幸太郎たちはタイミングを揃えて異口同音で一斉に、セラにフラれた貴原を励ました。
他意はなく幸太郎は心から貴原を励ましているが、他はセラにフラれた貴原を明らかに煽るような笑みを浮かべていた。
見下している連中に励まされてバカにされ、貴原の整った顔が羞恥と屈辱に塗れ――
「き、貴様らぁああああああああああ! この僕を愚弄するとはもう許さん!」
怨嗟に満ちた貴原の怒声が響き渡るが、始業開始を告げるチャイムによってかき消され、担任が来たので、結局貴原の怒りは有耶無耶になってしまった。
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