第33話

 小さな光球を浮かび上がらせて、武輝である杖を振うと同時に発生させた光弾を周囲にばら撒きながら、自身に襲いかかる宙を滑空しながら麗華から逃げていた。


 自身に向かってくる光弾を回避しながら、武輝であるレイピアを握り締めた麗華は御使いに向かって疾走して、徐々に、確実に追い詰めていた。


 麗華の死角から襲いかかる光弾は、武輝である杖を振って、沙菜が発射した光弾がすべて撃ち落とした。


 御使いを攻める麗華の後を、輝石の力でフワリと身体を宙に浮かせている沙菜は一歩引いて追っていた。


「行きますわよ! 必殺、『エレガント・ストライク』!」


 壁際まで御使いを追い込んだ麗華は、一気に御使いとの間合いを詰めると同時に、ネーミングセンス皆無の技名を叫び、力強い一歩を踏み込んで放たれる、麗華必殺の鋭い刺突。


 普通の輝石使いならば対応できない麗華の必殺の一撃を、御使いは目の前に輝石の力で障壁を張って防ぐ。


 必殺の一撃でも突き破れないほどの障壁を、麗華はレイピアの細身の刀身に光を纏わせ、無理矢理突き破ろうとするが、御使いは自身の周囲に浮かんでいる光球から、麗華に向けて光の矢を発射させる。


 光の矢を回避するために麗華は咄嗟に後方に向かって身を翻すが、そんな彼女に向けて光弾を御使いは連射する。


 空中で無防備な麗華に襲いかかる光弾を、すべて沙菜が撃ち出した光弾で撃ち落とした。


「……あなたは一体」


 頭の中に過る靄のかかった記憶が、自分と対峙している御使いを見ていたら鮮明になってきたが、沙菜の思考を中断させるように、再び麗華は一気に御使いに駆け出す。


 沙菜は生まれた疑問を後回しにさせて、麗華のサポートに集中する。


「今度は本気で行きますわよ! 必殺、『エレガント・ストライク』!」


 刀身に光を纏わせて、放つ麗華の必殺の突き。


 御使いは障壁を張るが、今度はいともたやすく麗華は突き破った。


 麗華の武輝の切先が御使いを捕えるが――自身に迫る寸前に、御使いは両手に持った武輝で彼女の強烈な一撃を受け止めた。


 渾身の力を込めた麗華の必殺の一撃を受け止めた瞬間、凄まじい衝撃が御使いを襲うが、いっさい御使いは怯むことはなかった。


「優輝さんのフォローに回りたいという水月さんに無理を言って、にあなたがいるここまでついて来てもらいましたが――……あなたはですの?」


 自分と御使いにしか聞こえない声で、麗華は御使いの耳元で囁くが、御使いは何も答えず、足払いで麗華の足を払い、麗華はバランスを崩す。


 御使いは自身の武輝である杖を一回転させて勢いをつけて、麗華に向けて薙ぎ払う。


 バランスを崩しながらも麗華は身をよじって御使いの一撃を回避、同時に切りつける。


 最小限の動きで麗華の攻撃を回避すると同時に、まだ体勢を立て直していない麗華に向けて、掌底を放つ。


 避けきれなかった麗華は御使いの掌底の直撃を受けて吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して、空を蹴って再び御使いに向けて飛びかかった。


 自身に飛びかかる麗華に向けて、御使いは光弾を連射するが、すべて沙菜によって撃ち落とされた。


 沙菜のサポートを受けて、麗華は御使いに向けて突きを放つ。


 だが、御使いは麗華の突きを回避して、麗華の武輝であるレイピアの切先が壁に深々と突き刺さった。


 壁に突き刺さった武輝を抜こうとする麗華だが、御使いに光を纏った武輝を突きつけられて、動けなくなってしまう。


 沙菜は咄嗟に麗華の援護をしようとするが、下手に動けば御使いは麗華を傷つけると思って動けなかった。


「……こちらがお前たちの出現を予想していないとでも思っていたのか?」


 力を込めた武輝を麗華に突きつけながら、御使いは自分たちにしか聞こえない声で意味深な発言をするが、麗華はフンと鼻で笑って軽く受け流した。


「苦し紛れの言い訳ですわね」


「予め、お前たちがここに来るということは計画に入っていた」


「こうして追い込まれることも、ですの?」


「誘われたことに気づいていないとはな」


「これ以上の言い訳は見苦しいですわよ。いい加減神妙にお縄につきなさい!」


 言い訳にも聞こえる意味深な発言を繰り返す御使いに、麗華は段々苛立ってきていた。


「ここに向かうという選択肢を選んだお前に待つのは――破壊だ」


「意味がわかりませんわ!」


「お前の持つものはすべて壊れる、粉々に」


 御使いが繰り返す思わせぶりな発言に、麗華の苛立ちはピークに達するが――


 ふいに、頭の中で幼馴染である大和の言葉が過った。


 先月に起きた事件が終わった時、大和が放った『近いうち何かが壊れると思うから』という言葉が。


「……お前に真実を見せてやろう」


 そう呟くと同時に、御使いは力を込めて光を纏っていた武輝である杖の先端を、麗華から床に向けた。


 咄嗟に麗華は壁に突き刺さっていた武輝を引き抜いて、大きくバックステップをして御使いから離れた瞬間――御使いは床に向けて巨大な光弾を放つ。


 光弾が着弾すると同時に目が眩むほどの閃光が御使いを中心に発生して、遅れて鼓膜を突き破るような轟音が響き渡り、麗華と沙菜に衝撃が襲いかかった。


 眩んだ視界が回復すると、麗華たちの前から御使いは消え去り、残ったのは床に開けられた大きな穴だった。


 輝石使いの攻撃にも耐えれるように頑丈に設計された銀行の床を御使いはぶち抜いた。


「鳳さん、御使いは……」


「……逃げましたわ」


 沙菜の質問に素っ気なく麗華は答えて、御使いが開けた大穴に近寄った。


 麗華の頭の中には、御使いと大和の意味深な発言が何度も反芻していた。


 嫌な予感が駆け巡り、麗華は御使いが開けた大穴を覗くと――


 大穴の下にあるものに、目を見開いた麗華の表情が驚愕に染まる。


 そして、一気に様々な感情が襲いかかってきた麗華は全身を微かに震わせた。


「麗華!」


 こちらに近づいてくる巴の声が響いてくるが、麗華は耳に入っていなかった。


 ただ、目の前のものを、驚愕に染まった表情で見つめることしかできなかった。


 麗華の視線の先にある穴の下は金庫内部だった。


 金庫内部には多くの木箱が積み重ねられており、上から降ってきた瓦礫でいくつかの木箱が壊れていた。


 そして、その木箱の中には――妖しく緑白色に光るアンプリファイアが大量にあった。


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