第二章 失われた力
第10話
重い瞼をゆっくりと開けると――ティアの視界には見慣れぬ天井が広がっていた。
自分が白いベッドの上に寝かされ、腕に点滴がつながれているという自分の状況に、ここが病院であることに気がついた。
――病院? どうして……
――……エリザ!
エリザとの戦闘の記憶が断片的に蘇り、すぐに起き上がろうとしたが――鉛のように身体が重く、激しい頭痛とめまいで吐き気を催して起き上がることができなかった。
思うように動かない自分の身体を忌々しく思い、大きく舌打ちをすると――
「無理しないで、ティア。まだ眠っておいた方がいい」
「セラの言う通りだ。今はゆっくり身体を休めるんだ」
「セラ、優輝……どうやら、怪我はないようだな、セラ……」
起き上がろうとする自分を諌めるセラと優輝の声に、ティアは二人が自分の傍らにいることにたった今気がついた。
そして、湖泉と多摩場の二人と戦っていながらも怪我をしていない様子のセラを見て、ティアは安堵するとともにこの場にいない幸太郎と、そして刈谷のことが気になった。
「幸太郎と刈谷のバカモノはどうした」
「大丈夫。二人とも無事」
二人の無事をセラから教えてもらい、ティアは心の中で安堵のため息を深々と漏らす。
「……エリザはどうなった」
「幸太郎君が呼んだ大勢の制輝軍の気配に気づいてすぐに逃げた。今、刈谷さんがエリザさんたちを追っているけど、多分見つからないと思う。……エリザさんは逃げるタイミングを心得ている。ティアの言う通りかなり手強い相手のようだね」
エリザたちを逃がして悔しそうな表情を浮かべているセラの説明を聞いて、自分の状況を冷静に判断して深追いをしない、昔と変わらず強かなエリザに、ティアは忌々しげに小さく舌打ちをした。
今すぐにでも刈谷とともにエリザを追いたいと思っているティアだが、身体が思うように動けないのと同時に――何か、身体の中に違和感があった。
ティアの脳裏に過るのは、アンプリファイアから放たれた緑白色の閃光が自分を包み込んだ記憶が蘇ってくる。
あの光に包まれた時――……力を搾り取られるような気がした。
私の意思とは関係なく武輝が輝石に――まさか……
「……私の輝石はどこにある」
「ダメ、ティア! 無茶はしないでって、さっき言ったばかりなのに!」
「いいから私の輝石を出せ!」
唐突なことを言いだして、消耗している状態で無茶をするつもりだと思ったセラは声を荒げて注意をするが、それ以上の怒声をティアは張り上げてセラを黙らせた。
疲れ果てて声を出すのがやっとだというのに、怒声を張り上げてしまって激しく体力を消耗したティアは大きく息を乱していた。
息を整えながら、セラに八つ当たりをするように怒声を張り上げてしまった自分を自戒して、「すまない」と、小さくセラに謝罪をした。
「まともに動けない状態だ。無茶をするつもりは毛頭ない」
「……そう言っているんだ。セラ、ティアの輝石を」
「優輝がそう言うのなら……わかった」
無茶をするつもりはなさそうなティアと、優輝の言葉を受けて、不承不承ながらポケットの中からチェーンにつながれたティアの輝石を取り出して、ティアの掌に置いた。
ティアの掌にある輝石は弱々しい、切れかけの豆電球のような光を放っていた。
掌の中にある自身の輝石に向けて、武輝に変化させるつもりで精神を集中させる、弱々しい力を放っていた輝石が強い光を放つ――が、突如自分の掌から発生した毒々しい緑色の光が、輝石から放っていた光を覆い隠して消した。
ティアは二度、三度、輝石を武輝に変化させようとするが――その都度緑色の光が自分の掌から発生して、輝石の光を覆い隠し、輝石を武輝に変化させることができなかった。
やはり……私は――
自分の中に渦巻いていた違和感の正体に気づくティア――そして、セラと優輝もティアの異変に気づいているようで、驚いている様子だった。
「問題ない。一過性だ……すぐに元に戻って、私はエリザを――……」
輝石を武輝に変化させることができない理由が不明だというにもかかわらず、問題ないと言い張って、自分の異変に気づいた二人の前で強がるティアだが――やがて気絶するように彼女は眠ってしまった。
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