第四章 僅かな希望

第29話


 襲いかかるガードロボットをサラサは左右の手に持った自身の武輝である二つの短剣で両断する。


 間髪入れずにサラサの背後からガードロボットが襲い、ショックガンを撃ってきた。


 サラサは後方へ向かって大きく身を翻し、ショックガンを撃ってきたガードロボットの半球型の頭部パーツに武輝を突き刺し、機能停止させる。


 前方から襲いかかってきた複数のガードロボットに対応しようとした瞬間――

 空から流線を描いて数発の光弾がサラサに向けて飛んで来る。


 避けきれないと瞬時に判断したサラサは、襲いかかってきたガードロボットたちを刀身に光を纏わせた短剣を薙ぎ払う。


 襲いかかったガードロボットたちの寸胴の円柱型ボディは横一文字に切り裂かれた。


 そして、武輝に変化した輝石の力を身体に纏わせて光弾を防御する。


 連続して光弾が激突してサラサは後方に向けて吹き飛ぶが、ダメージはほとんどない。


 吹き飛ばされながらも空中で身を翻し、サラサは着地すると同時に襲いかかってきたガードロボットたちに向けて走り、踊るようなステップを踏んで切り刻んで機能停止させる。


 そして、再びどこからともなく空から光弾が飛来する。


 向かってきた光弾をサラサは左右の手に持っている短剣で切り裂き、霧散させる。


 光弾を無力化させると、サラサの周囲を大量のガードロボットが取り囲む。


 軽く息を乱しながらも、サラサはまだまだ余裕だが――同じことの繰り返しで戦況にまったく変化がないことに、焦りと若干の苛立ちを覚えていた。


 同じことをもう十分以上繰り返し、サラサの足下には切り刻まれて機能停止して鉄屑と化した大量のガードロボットで埋め尽くされていた。


 アリスはガードロボットを遠隔操作をしてサラサを襲わせ、襲いかかるガードロボットに対応している時に隙が生まれたところで遠距離から的確にサラサを狙っていた。


 ガードロボットと戦いながらサラサはアリスの居場所を探っているが、間髪入れずに襲いかかるガードロボットが邪魔をしていまだにアリスの居場所を掴めないでいた。


『想像以上の実力ね』


 精神を研ぎ澄ましてアリスの居場所を探っているサラサに、ガードロボットに取り付けられたスピーカー越しでアリスは話しかけた。


 抵抗を続けるサラサの実力を純粋にアリスは褒めているが、口調は事務的であからさまなお世辞を言っているようであり、まったく心が込められていなかった。


『生まれた時から心臓に重い病を抱えていたと聞いていたけど、嘘みたい』


 アリスの言葉にサラサは自分のために頑張ってくれた両親の姿と、輝石使いだとわかって稽古をつけてくれた麗華の姿が頭に過った。


『自分の父親が罪を犯した結果、生きている感想は?』


 サラサへの、それ以上に自分自身への静かな怒りが込められたアリスの質問に、サラサは父親のドレイクがかつて行った罪のことを思い出し、悲しそうな顔を浮かべるが――


 すぐに力強い目でアリスの声がするスピーカーを睨んだ。


「お父さんが私のためにしてくれたこと、です」


『そう……それは――羨ましいと思う』


 父親への不信感がまったくないサラサの答えに、アリスは相変わらず事務的な口調だったが、心から羨ましいと思っていて、自嘲気味で寂しそうな声をしていた。


『実力は理解した――戦略を変える』


 冷たくそう告げると同時に、サラサを囲んでいるガードロボットたちは一斉に、両腕に装着されたショックガンの銃口を彼女に向けた。


 空気が収縮するような音がした瞬間――破裂音が響き渡った。


 ショックガンの銃口から放たれた電流を纏った不可視の衝撃波がサラサに襲いかかる。


 大きく跳躍してショックガンの一斉射撃を回避するサラサ。


 回避と同時に空中でガードロボットが襲いかかり、大型のショックガンを鈍器のように振るが、瞬時にサラサは武輝で両腕を切断し、空中で大きく身を翻して勢いをつけた踵落としでガードロボットを地面に叩きつけた。



 一台機能停止にさせると同時に再び現れるガードロボット。


 息つく間もなく襲いかかるガードロボットに対処しようとするサラサに向かって、どこからかともなく飛んできた光弾が、眼前にいたガードロボットを貫いてサラサに直撃した。


 ガードロボットの影に隠れて光弾が見えなかったサラサは避ける間も、防御に徹する間もなく直撃してしまい、空中で体勢を崩してしまう。


 すぐに体勢を立て直そうとするサラサだが、複数のガードロボットから伸びた隠し腕が手足を拘束して、動けない彼女の身体の上にのしかかった。


 そのまま身動きも受け身も取れないまま、サラサは落下して地面に激突する。


 地面に激突する寸前、サラサは咄嗟に輝石の力を纏わせて防御に徹していたが、それでも地面に激突したダメージは大きく、苦悶の表情を浮かべて倒れていた。


 大きなダメージを負った痛みで小さく呻き声を上げながらも、サラサの両手には武輝である短剣が握り締められていて、戦意は失っていなかった。


 サラサとは少し離れた位置にあるマンションの屋上にいるアリスは、うつ伏せで武輝である銃剣のついた大型の銃を構え、光を纏わせたスコープでサラサの様子を眺めていた。


 輝石の力でスコープの精度を高めたアリスは、夜の闇に覆われた場所でもハッキリとサラサの様子を眺めており、彼女がまだ戦意を失っていないことを確認した。


 更なる追撃を仕掛けるためトリガーを数回引いて大きな光弾を数発発射する。


 同時に、サラサを囲んだガードロボットたちも両腕のショックガンから衝撃波を放つ。


 痛みを堪えてサラサは避けようとするが、間に合わず――真っ直ぐと飛んできたアリスが放った光弾と、ショックガンの衝撃波がサラサに襲いかかった。


 爆発音にも似たアスファルトの地面が砕ける音とともに、周囲に粉塵が舞う。


 粉塵が晴れ、サラサの倒れていた場所には凄まじい威力の攻撃で小規模のクレーターが生まれていたが――サラサの姿はなかった。


 アリスは光を纏わせたスコープでサラサの姿を確認するが、彼女はいない。


 スコープでは確認できなかったので、ガードロボットに取り付けられたカメラと、周囲の監視カメラの映像を映しているタブレットPCでサラサの姿をアリスは探すと――


 ――ガードロボットが一斉に真っ二つになって破壊され、ガードロボットに取り付けられたカメラのライブ映像も途切れてしまった。


 PCで遠隔操作してすぐに新たなガードロボットを出動させると同時に、周辺の監視カメラの映像をアリスは確認する――


 苦悶の表情を浮かべているアリスを片手で抱えて、もう片方の手には自身の身長をゆうに超える、武輝である十字型の穂先の槍――十文字槍を持った御柴巴が立っていた。


「うぅ……と、巴さん……アリスさんは……?」


「心配しないで。サラサさんは無理をしないで下がっていなさい」


「まだ大丈夫、です」


 心配そうな表情を浮かべて自分を気遣ってくれる巴に感謝をしながらも、サラサはヨロヨロと起き上がって抱えてくれている巴から離れて立ち上がった。


 大きなダメージを負いながらも、戦意を喪失しているどころか、静かに燃え上がっているサラサの様子に、巴は小さく嘆息しながらも心強さを感じていた。


『ここに来たということはあなたを監視・拘束する役目の隊員は失敗したのね』


 新たに現れた大量のガードロボットのスピーカーからアリスの冷たい声が響く。


「そうね――でも、彼らは拘束するというよりも、時間稼ぎという役割の方が正しいわ。まあ、時間稼ぎにはならなかったけど」


『大量に送り込んだと聞いていたけど……その様子だと大して苦にならなかったのね』


 道中大量の制輝軍を相手にして、駆けつけた巴がまったく息切れしていないことに、スピーカーから発せられるアリスの声は若干驚いている様子だった。


『まあいい――私はそう簡単に倒れないから』


「君も時間稼ぎということね――かかってきなさい」


 巴の言葉を合図に集まってき大量のガードロボットが彼女に向けて突撃する。


 四方八方を囲まれながらも、余裕な表情の巴は舞うような動きで身体を捻らせると同時に、武輝の穂先に光を纏わせ、大きく薙ぎ払う。


 一瞬の静寂の後――巴を中心として光の衝撃波が放たれ、襲いかかってきたすべてのガードロボットがバラバラになった。


 鎧袖一触――サラサとは次元が違う巴の力を目の当たりにして、心の中でアリスは大きく舌打ちをする。


 再びガードロボットを送り込んで、ガードロボットに取り付けられたカメラの映像を眺めながらアリスは巴の隙を伺う。


 巴は一歩も動かず、次々と襲いかかるガードロボットを対処していた。


 接近戦を挑んでくるガードロボットの寸胴円柱型の分厚いボディを刺し貫き、貫いたまま武輝を豪快でありながらも美しい動きで振るい、追撃してくるガードロボットたちを破壊した。


 遠距離からショックガンを撃つガードロボットに対しては、最小限の動きで紙一重で衝撃を回避、避けきれない攻撃は武輝で打ち消し、穂先から放たれた細長いレーザーのような光で遠くにいるガードロボットのボディを貫き、破壊した。


 武輝である大型の銃から発射した光弾の弾道を操り、巴の死角を攻めるアリスだが――まるで、アリスの行動を予知しているかのように死角からの攻撃を巴は武輝で払い落とす。


 圧倒的な巴の実力に、アリスは考えた戦術を実践しようとするが、頭の中でシミュレーションしても、彼女にすべてを破られる結果しか見えず、一部の隙が見当たらなかった。


 今の戦術を根本から変える必要があると判断したアリスは今いる場所を変えて、危険だが確実に自分の攻撃を当てるために、巴に接近しようと考えていたが――


「……アリスさんの負け、です」


 抑揚のない声と同時に感じた背後の気配に、アリスは動けなくなった。


 振り返らなくとも声の主がサラサ・デュールであることを気づくと同時に、目先のことしか頭になかった自分自身の愚かさに小さくため息を漏らした。


「――御柴巴に集中していて、あなたのことを忘れてた」


「いつも存在感がないって、言われます」


「確かに……でも、どうやって私の位置を?」


「さっきの攻撃の時――真っ直ぐと光弾が私に向かってくるのが見えたから、です」


「なるほど――ね!」


 うつ伏せの姿勢のアリスは不意打ち気味に身体を捻らせて、仰向けになってサラサに銃口を向けると同時に引き金を引いて光弾を発射した。


 アリスの不意打ちにサラサは大きく後方に身を翻して光弾を回避。


 回避されると同時に武輝である大型の銃に取り付けられた銃剣の切先をサラサに向けながら、アリスは彼女に突撃する。


 自身の身長をゆうに超える大型の銃を軽々しく、長柄武器のように振うアリス。


 アリスは大きく一歩を踏み込むと同時に刺突を放つ――だが、横に飛び退いたサラサに回避される。


 アリスの攻撃を回避すると同時に、サラサは左右の手に持つ武輝である短剣で斬りつける


 素早いサラサの攻撃をアリスは銃で受け止め、大きくバックステップをしてサラサから間合いを開けると同時に、引き金を引いて光弾を発射する。


 真っ直ぐと向かってくる光弾をサラサは避けることなく、光を纏わせた武輝で光弾を切り払い、立ち止まることなくアリスに向かって走る。


 サラサに小細工は聞かないと判断したアリスは、銃剣に光を纏わせてサラサを迎え撃つ。


 お互いの武輝がぶつかり合う衝撃がマンションを揺らした。


 アリスの武輝の銃剣がサラサの首筋に押し当てられ、サラサの武輝である短剣の切先がアリスの喉元に突きつけられていた。


 どちらか一方が動くか隙を見せれば、勝敗がつくこの状況に二人の間に張り詰めた空気が走るが――


「そこまで――二人とも、武輝を輝石に戻しなさい」


 サラサとアリスの二人を諌める声で、張り詰めた空気があっという間に霧散した。


 声の主――武輝である十文字槍を持った御柴巴は二人の間に割って入った。


「状況は引き分け――でも、私たちは二人で君は一人……状況は理解できるわね?」


 巴に現実を突きつけられて、諦めたように小さくため息を漏らすと、素直にアリスは武輝を小さな懐中時計に埋め込まれた輝石に戻した。


 アリスと同時にサラサも武輝を輝石が埋め込まれたペンダントに戻した。


「……どうするつもり?」


「騒動を解決するまで、大人しくしてもらうわ」


 巴の返答にすべての興味を失くしたように「そう」とアリスは呟き、座り込んだ。


 不貞腐れた表情を浮かべて座り込んだアリスを見て、やれやれと言わんばかりに小さくため息を漏らしながらも、巴はサラサの頭を撫でた。


「頑張ったね、サラサさん」


「……う、うん」


「そんなに恥ずかしがらないで、もっとシャンとしなさい。ね?」


 そう言って、巴は褒められて気恥ずかしがっているサラサの頭を再び撫でた。


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