第24話
今まで関わってきた事件の資料が床に散乱して、チョコのお菓子が入っていた空の袋が床に落ちていて、情報収集用のデスクトップPCのハードディスクが抜き取られ、テーブルやソファの位置がめちゃくちゃになって荒らされた風紀委員本部内にセラと巴はいた。
制輝軍が証拠を集めるために荒らした風紀委員本部を見て、後片付けのことを考えて巴は疲れたように小さくため息をついたが、すぐに表情を真剣なものに戻した。
「何か証拠が残っていると思って、本部に戻りましたがこれでは収穫がなさそうですね――すみません、セラさん。無駄な時間になりそうです」
散らかっている周囲の状況を眺めて、幸太郎たちが今どこに向かっているのか何か手がかりがあると巴は思い、風紀委員本部に戻ってきたが、手がかりになりそうなものはすべて制輝軍が持って行っていそうなこの状況に、巴は無駄足を踏んだと思ってセラに謝った。
巴の謝罪に「気にしないでください」とセラは柔らかな笑みを浮かべた。
そして、すぐにセラは何かを思案している様子で部屋全体を見回していた。
「それにしても、校舎を制輝軍が囲んでいる状況で、どうやって七瀬君たちは校舎から離れたの……」
「……それについては予想はしています」
ふいに口にした巴の疑問に、思考を中断してセラは話しはじめる。
「幸太郎君がアカデミーに戻って一週間、私は多くの時間を幸太郎君と過ごしました」
幸太郎を守ると誓ったからこそ、今のアカデミーの状況では軽蔑の対象となり、輝石使いとしての実力がほとんどない幸太郎を近くで守るため、できる限りセラは一緒に行動して、麗華に無理を言って彼の隣の部屋で暮らしはじめた。
出来る限り見守るようにはしていたが、自分が用事でいない時は、ティアか優輝か誰かが彼の傍にいるようにしていた。
だからこそ、セラはこの一週間で幸太郎がどんな人物と出会ったのかを把握していた。
「この一週間で、幸太郎君と再会した友人たちは僅かです」
「ということは、七瀬君たちを助ける人は限られる」
巴の言葉にセラはその通りだと言わんばかりに力強く頷く。
「おそらく――ヴィクター先生が幸太郎君の脱出に関わっていると思います。あの人なら、比較的に自由に動けますから」
「確かに、自由奔放なあの方なら奇案か妙案を出して脱出方法を考えそうね。でも、逃げ込むとしたら一体どこに……」
「ヴィクター先生がアカデミー都市の各エリアに勝手に作った秘密研究所に逃げ込んだ可能性が高いでしょう」
「そ、そんなところが本当にあるの?」
セラの言った「秘密研究所」という名前の響きに、どこかバカバカしさを巴は感じていたが、冗談を言ってはいないセラの様子を見て、巴は納得することにした。
「でも、制輝軍に所属していて、身内でもあるアリス・オズワルドに秘密研究所の場所を教えている可能性があるわ」
「ええ……なので、おそらく確実な隠れ家を探すのではないかと思うのですが……」
真剣な表情で幸太郎たちが向かっている先について思案して行動の先を読んでいたセラだが、ここで降参と言わんばかりに深々とため息を漏らした。
「正直、これ以上は幸太郎君とヴィクター先生の行動は読めません。ヴィクター先生は突飛で無茶な考えを思いつきますし、幸太郎君は自ら進んで無茶をする人ですから……」
「……ある意味、相性抜群のようね」
呆れ果てたように呟いた巴の言葉にセラは思わず笑ってしまった。
「ここから先は私の推測で、確信が持てないのですが……多分、幸太郎君たちはウェストエリアに向かうと思います」
「……何か当てがあるのね」
「ノースエリアに近く、移動の負担のかからないあそこがあれで使われているのは、私を含めて数少なく、運が良ければティアとも合流できるのですが――幸太郎君がそこに気づくかどうかが問題です……」
「迷うよりもまずは行動あるのみ。君は七瀬君のことに集中しなさい。連絡手段を確保するため、できればティアとも合流して」
厳しくも優しい巴の言葉にセラは力強く頷いた。
「その言い方だと……巴さんは別行動をするんでしょうか?」
「ええ……私はこれから、私の情報網を使ってアンプリファイアの件と貴原君について調べる。君が合流すると仮定して、何か重要な情報に辿り着いたらティアに連絡をする――連絡を制輝軍に禁じられているにもかかわらず、連絡をするということは制輝軍とぶつかることになる。そのことを覚悟しておきなさい」
協力者等に連絡をするなとノエルに釘を刺されている以上、巴が誰かに連絡すれば、風紀委員を捕えられるという大義名分ができた制輝軍と確実にぶつかり合うことになるが、そうなってもセラにはいっさいの迷いはない。
すべては幸太郎のため、幸太郎のことを守るためと思っているセラにとって、彼の無実を証明するための邪魔をしようとする存在はすべて敵だった。
制輝軍とぶつかり合うことにいっさいの迷いがない様子のセラを見て、心強く思った巴は満足そうに頷いた。
二人は高等部校舎から出て、それぞれの目的のために別々の方向へと向かった。
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