第一章 長い夏休みの終わり

第1話

 高い天井に吊られたシャンデリアに美しく照らされた埃一つないきれいで豪華な部屋に、二人の人物が向かい合うようにして本革の黒光りするフカフカのソファに座っていた。


 一人は、この部屋の主である荘厳な輝きを持つ金糸の髪の女性――鳳麗華おおとり れいかであり、彼女は不機嫌そうに口をへの字に曲げて足を組んで座っており、視線の先にいる人物を鋭い目で睨んでいた。


 麗華の視線の先にいるのは、ソファに深々と腰掛けて挑発するような軽薄な笑みを浮かべている耽美的な雰囲気を持つ美少年――麗華の幼馴染である伊波大和いなみ やまとだった。


 二人は幼馴染だが、テーブルを挟んで向かい合っている二人の間にはフレンドリーな空気は存在せず、殺伐としたものだった。


 雰囲気が悪い原因は主に全身から刺々しい空気を発している麗華が理由だが、そんな彼女とは対照的に大和はただ薄い笑みを浮かべているだけで余裕な態度を取っていた。


「さてと――麗華、僕の方はもう終わったよ」


 軽い雰囲気だがどこか重みのある大和の言葉に、麗華の表情は悔しそうに一瞬だけしかめるが、すぐにそれを隠した。だが、無理矢理麗華が悔しさを隠したことに大和は気づいており、何も言わずにクスクスと笑った。


 怒りが一気に込み上げそうになる麗華だが、ここは拳をきつく握って堪えた。


「こっちは駒も揃って、切り札もある。もう完全無欠の完璧、百点満点花丸。麗華、君は詰んでる。逆転の術は今のところ残ってないんじゃないかな? 降参する?」


 得意気で心底楽しそうな表情で勝利宣言をして麗華に降参を求めてくる大和。


 麗華は表情に焦燥と悔しさを滲ませているが――ふいに、口元にフッと笑みを浮かべた。


 まだ諦めていない、まだ逆転できる、そう言っているような麗華の笑みを見て、大和は心底楽しそうで、興味津々な様子で麗華を見つめた。


「残っていた手を潰したと思ってたんだけど、まだ何か残っているみたいだね――さすがだよ、麗華! そう、そうだよ! そうこなくちゃ! 一方的じゃあ面白くない」


 興奮しきっている大和に、麗華は自信ありげだがどこか不安で悔しそうな表情を浮かべていた――まるで、この手だけは使いたくなかった、そんな表情をしていた。


「それなら、麗華! ここでチャンスタイムだ! この状況をもっと面白くするために、君に逆転のチャンスを与えようじゃないか!」


 心底楽しそうな笑みを浮かべている余裕に満ちた大和の言葉に、それに縋ることしかできない麗華は悔しそうでありながらも、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべた。


「お言葉に甘えさせていただきますわ――」


 心の中では不平不満で満ち溢れている麗華だが、今の状況を逆転するために私情を押し殺して切り札を投入することにした。

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