第26話
輝石とは違う、煌石――煌石とは輝石と同じような力を持っているが輝石とは比べ物にならない力を持ち、輝石以上に謎の多い力を秘めていた。
神話の数々に多く登場しており、過去には複数の煌石があったとされているが、現存している煌石は教皇庁が保有している、輝石を生み出すことができるティアストーンのみ。
煌石を扱うには輝石と同じように資質のあるものにしか扱うことができず、その資質は自然消滅してしまうことが多々あり、教皇庁は資質がある人間の中でも特に強い力を持っている人間を教皇に選んでいた。
教皇庁現トップでリクトの母である教皇エレナは、歴代教皇の中でも特に煌石を扱う高い素質を持っており、すべての輝石の母であるティアストーンから生まれた輝石を、触れていなくても反応させることができる力を持っていた。
息子であるリクトもその力を受け継いでおり、範囲は母よりは劣るが、触れていなくとも輝石を反応させることができた。
その力のおかげで過去に重傷を負った幸太郎の怪我を、母であるエレナの協力を得て輝石の力で完治させており、その光景が全国で生中継された。
その時、リクトがかけているペンダントについているティアストーンの欠片から放たれた青い光が幸太郎の身体を包み、彼の怪我を治したことから、『蒼の奇跡』と呼ばれていた。
その再現をするため――ヴィクターの輝石を廃人と化した優輝に持たせ、リクトの力――そして、リクトと同じ力を持つ幸太郎の力を加えて、優輝を助けようとしていた。
リクトと幸太郎は椅子に座ったままの優輝を中央に、向かい合うようして立っていた。
リクトは幸太郎に輝石を反応させるために精神を集中するように、弱々しいながらも煌石を扱える資質を持っている幸太郎に、力を自分に流すイメージをするように手をつなぐようにと二つの指示を出した。
目を閉じて、手をつないでいる二人の様子を遠目でヴィクターは期待に溢れている視線で見つめていた。
リクトが首にかけているペンダントについたティアストーンの欠片は青白い光を放っているが、『蒼の奇跡』のように強い光は放っておらず、優輝の手の中にある輝石は薄らとした光しか放っていなかった。
薄目を開けたリクトは、『蒼の奇跡』のようにティアストーンの欠片が強い光を放たないことに、これでは優輝を助けられないことに焦燥感を覚えていた。
「どうしたの? リクト君」
「え、あ、す、すみません」
リクトの焦燥が伝わったのか、幸太郎は目を瞑ったままリクトを心配した。
幸太郎を心配させてしまい、リクトは無理矢理焦燥を消して、再び精神集中をはじめる。
「……もう十分くらい? それ以上経った? 優輝さんの具合はどう?」
「え、ええと……今はまだ特に快調の兆しは見えません」
「そっか……それじゃあ、もうちょっと頑張ろう――ムムッ」
無理かもしれないという気持ちをほんの僅かに抱きながらも、リクトはそれを幸太郎には出さないようにした。
まだ優輝の調子が良い方向へと向かっていないことに、幸太郎は目をギュッと瞑って、念じるような呻き声を意味なく出していた。幸太郎が気合を入れてもティアストーンの欠片、優輝の手の中にある輝石は何の変化もなかった。
「……優輝さんが目を覚ましたら、セラさんたち喜ぶかな?」
「そう思います。きっと……」
幸太郎のふいの質問にリクトは精神集中したままで素っ気なかったが、確信しているように答えた。
「夏休み遊べるかな」
「これが上手く行けば、きっと……」
「そしたら、プールに優輝さんも呼べるね」
「そうですね」
「優輝さんがいれば、セラさんもティアさんも喜ぶだろうね」
「もちろんですよ」
「――そうだよね……それじゃあ、やっぱり……――気合入れないと」
ティアとセラの喜ぶ顔が頭に過った幸太郎は、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
――もっと、もっと、もっと、もっと……このままじゃ、優輝さんは救えない。
だから、もっと、もっと、頑張らなくちゃ……
心の中でも何度もそう言い聞かし、幸太郎は強く目を瞑った。
諦める気持ち、無理だと思う気持ちはいっさい抱くことなく、セラとティアが思い描いている未来のために、自分の求めている希望に手を伸ばし続けた。
弱々しいながらも自分が持てるすべての力を掴んで引き上げるように、幸太郎は目を瞑り、ずっと暗闇の中で手を伸ばし続けた。
自然と幸太郎はリクトの手とつないでいる自身の手に力が入った。
優輝を助けるという強い意志を反映するように力が入った幸太郎の手に、リクトもそれに応えるように彼の手をつないでいる自身の手の力も強くした。
すると、重なる二人の強い想いを表すかのように、リクトが首にかけているティアストーンの欠片が今までと比べて強い光を放ちはじめ、それに呼応するかのように優輝の手の中にある輝石も強い光を放ちはじめる。
そして――幸太郎の全身からも淡い光が放ちはじめた。
「これは――……」
幸太郎の身体の変化に、ヴィクターは思わず驚きの声を上げてしまう。
そんなヴィクターの驚きの声に反応することなく、幸太郎とリクトの二人は集中し、優輝のこと、そして、セラとティアのことを強く思い続ける。
徐々にティアストーン、輝石、そして、幸太郎の身体が強い光を放ちはじめる。
「これは一体なんだ――何が起きている!」
薄暗い室内を青白い光が照らしはじめた頃にドレイクが登場して、到着するや否やリクトと幸太郎を中心として発生している光に驚きの声を上げた。
ドレイクの登場に集中しているリクトと幸太郎の二人は気づくことはしなかったが、ヴィクターは彼の登場に興奮した面持ちで出迎えた。
「ようやくの御登場か、ドレイク君。君は実に運が良い……リアルタイムでこの奇跡を目の当たりにできるのだからな!」
興奮を隠し切れない様子のヴィクターはそう宣言するとともに、青白い光が室内を眩いほどに照らしはじめ、ヴィクターとドレイクの視界を奪った。
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