第22話

 輝動隊本部内――ファントムは拘束しているセラとともにとある場所へと向かっていた。


 刈谷と大道――アカデミー内でも屈指の実力を持つ二人の実力者を相手にしながらも、ファントムは疲れている素振りすら見せず涼しげな表情だった。


 無差別に放たれた攻撃に二人は負傷者を必死に守りながらも、次から次へと飛んで来るファントムが生んだ光の刃に対処することができなかった。


 アカデミー屈指の実力者たちを退け、さっそくファントムはセラを連れて輝士団本部内にある、ティアがいる医務室へと向かっていた。


 その間、輝士団本部内に輝士団団長である『久住優輝』が入ってきたことに、彼を信奉する輝士団団員たちは安堵の表情を浮かべるが、すぐにその表情は絶望に染まる。


 近づくなと叫ぶセラの警告を聞かず、警戒心なく話しかけてきた輝士団たちをファントムは問答無用に攻撃を仕掛け、何の抵抗もなく信じていた人間に攻撃されたという事実に表情を絶望に染めながら輝士団団員たちは気絶して倒れた。


「どうしてお前は関係のない人を巻き込んだ! 目的は私たちだろう!」


「質問なら全員揃ってからにしてくれ」


 セラの質問を適当に流し、順調にファントムは輝士団本部内にある医務室へ向かった。


 医務室に入り、ティアが眠る病室へと扉を開けるが――ベッドに眠っているはずのティアはどこにもいなかった。


 ティアがいないことに驚きながらも、すぐに背後から伝わってきた殺気にファントムはニンマリと楽しそうな笑みを浮かべる。


 ゆっくりとファントムは背後を振り返ると、普段着ている軍服のような服を着崩しているティアがパイプ椅子を振り上げていた。


「お前ならそう来ると思っていたぞ、ティア!」


 嬉々とした表情を浮かべるファントムに向けてティアはパイプ椅子を力任せに振り下ろすが、ファントムは不意打ちを食らう前にティアの腕を捻り上げて床に組み伏せる。それと同時に「ティア!」と、悲痛なセラの叫び声が響いた。


 組み伏せられながらも激しい憎悪が込められた目でティアに睨まれ、ファントムは喜びに満ち溢れた笑みを浮かべ、セラと同じくプラスチックの結束バンド状の手錠で彼女の両腕を拘束し、セラと並ばせた。


「しかし、今まで眠っていたのにもかかわらず、よく目覚めたな……」


「クッ――……あれだけ上で激しく動かれた誰だって目が覚める……」


「ティア! 大丈夫?」


「騒ぐな、セラ。私なら平気だ」


「これでようやく揃ったな――待っていたよ、この時を……」


 拘束されて何もできないが、お互いを気遣っているセラとティアを見て、優越感に浸っているファントムは満足気に微笑んだ。


「……お前は一体何が目的だ」


「何度もセラに質問されたが、これでようやく話せる……よかったな、セラ。お前の疑問のすべてを答えることができるぞ」


 拘束されてまともに動けなかったが、それでもティアは必死に身をよじって庇うようにしてセラの前に膝立ちになり、鋭い視線でジッとファントムを見据えて質問した。


 セラを庇うようにして膝立ちになっているティア、セラもまたティアを守ろうとして必死に身をよじってティアの前まで向かおうとしている。


 お互いを大切に思っている二人にファントムは心底滑稽だというように笑った。


「単純に俺の目的はお前たちへの復讐だ」


 自身の目的を復讐だと言い切ったファントムの表情はセラとティアに対しての激しすぎるまでの憎悪と執着心に溢れ、どす黒い感情に塗れた凶相を浮かべていた。


 復讐だと言い切ったファントムに向けてセラは小馬鹿にしたように大きく鼻を鳴らした。


「そんなに私たちに負けたのが悔しかったようだな……なら――なら、お前に致命傷を与えた私だけを狙えばいいだろう! ティアや優輝だけじゃない――七瀬君やリクト君、それに刈谷さんや大道さん! どうして関係のないみんなを巻き込んだ!」


「四年前から変わらぬお前たちの弱点を突いただけだ。お前たちは四年前から何一つ変わっていない……四年前からずっと、容易に利用しやすい人間だ」


 ニヤッと嫌らしくファントムは笑ってセラの質問に答え、おもむろにポケットの中から三つの輝石を取り出した。その三つはどれもチェーンにつながれた輝石であり、セラ、ティア、そして――優輝のものだった。


 三つの輝石をこれ見よがしと二人に見せて、抑えきれない感情のままファントムはチェーンが軋むほど三つの輝石をきつく握り締めた。


「お前やティア、そして優輝はお互いを大切に思い、自分たちの周囲にいる人間も人一倍大切にしようとする……そんな大切な人間が危機に瀕した際、お前たちは想像を遥かに超えるほどの爆発的な力を発揮する。四年前、俺を倒した時と同じ力を……それがお前たちの強みであり、何よりもの弱点。俺はその弱点を存分に利用するつもり――……だった」


 ファントムの表情が徐々にセラたちへの憎悪と、復讐への執着心で狂気に歪んだ。


「俺は四年前からずっと様々な準備をしていた……四年間ずっと嫌々久住優輝を演じ、周囲の評価を上げ続け、着実に周囲の信用を得た。確固たる地位を得てからもそれをずっと休むことなく続けた。すべては俺が俺になるため、そして、お前たちへの復讐のため! もうちょっと……もうちょっと準備をするつもりだった――だがな……二か月前、お前たち二人と会ってから我慢できなくなった……抑えていたお前たちへの復讐心が!」


 身を震わせるほど興奮して息遣いも荒く、ファントムは笑いを堪えながらも話を続ける。


「それでも我慢しようとした……ここで行動を起こせば、四年間の計画が台無しになる――そのために、俺はお前たちの周囲にいる人間を取り入ることにした! そうすれば、もっと面白いことになると思ったからだ!」


「七瀬に取り入ろうとした結果、ミスを犯したか……無様だな」


「ティアの言う通りだ。結局一つのミスが大きな綻びを生んでしまうことになった――いや、もしかしたら、無意識に望んでいたのかもしれないが……結局それでよかった……」


 再びファントムの表情がセラたちへの憎悪と復讐、執着心に染まり、今度は全身にどす黒い激情を身に纏って二人を睨みつけた。


 すべての計画を中途半端に投げて自分たちへの復讐に支配されているファントムをセラとティアの二人は小馬鹿にしたように見つめているが、どす黒い激情を身に纏うファントムに二人は息を呑んでしまっていた。


「四年間立てた計画なんて、もう――もう、お前たちの復讐の前では、もう何もかもがどうでもいい!」


 そう断言するファントムの目には、もうセラたちへの復讐以外何も見えていなかった。


「さて……これくらい説明すればお前たちも満足だろう……さあ、そろそろお前たちのお友達が来る……パーティのはじまりだ!」


 嬉々とした表情でパーティの開始を宣言するファントム。


 拘束され、輝石も奪われ何もできないセラとティアは、友の危機を目の前にして何もできない自分に怒りを覚えるとともに、無力感に苛まれていた。


 だが、諦めることなくこの状況をどうにかするために考え、手錠が擦れて皮膚から血が出ても身をよじって拘束を解こうとしていた。


 そんな必死な二人を見て、その姿が見たかったと言わんばかりに満足気に二人の姿を見下ろし、嘲笑を浮かべていた。


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