第25話
輝動隊本部にある会議室。
つい一時間近く前にアカデミートップクラスの実力者たちを集めて、嵯峨隼士と捕まえるための作戦会議を開かれていた場所に、輝動隊隊長である大和と麗華、そして、幸太郎の三人がいた。
大和は鼻歌を囀りながら、タブレットPCをニヤニヤとした意味深な笑みを浮かべて器用な手つき操作していた。
そんな大和と距離を置いて、腕と足を組んで座っている麗華と、彼女と向かい合うように退屈そうに欠伸をしながら座っている幸太郎の間には気まずい空気が流れていた。
作戦会議をするためにここに呼び出されてから今まで、麗華は面と向かって幸太郎に喋りかけなかった。
この状況を打破すべく、幸太郎は様々な手段を使って何度か麗華に話しかけたが、麗華はあからさまに不機嫌な態度を取って徹底的に無視し続けていた。
ドレイクさんは僕の言葉を伝えてくれたと思うけど……やっぱり、まだ怒ってるよね。
心の中で小さくため息ついたつもりが、実際に無意識にため息をついてしまった幸太郎を、麗華は不愉快そうに睨み、フンと小さく鼻を鳴らしてソッポを向いた。
「よーし、調べもの終了――……何、麗華、まだ君は意地を張っているのかい?」
「うっ――よ、余計なお世話ですわ! というか、あなたには関係ないでしょう!」
人の気持ちなどまったく理解する気も、気遣う気持ちもない大和の一言に、痛いところを突かれた麗華は苛立った様子で声を荒げた。
そんな麗華の反応に、クスクスと小馬鹿にしたように大和は笑っていた。
大和は机に思いきりダイブして滑るようにして、麗華と対面に座っている幸太郎の元へと向かい、フレンドリーに彼の身体をべたべたと触れて肩を組んだ。
「君が幸太郎君のことを心配して、大事に思っているのはわかるよ」
「そ、そんなこと思ったことありませんわ!」
「またまた、素直じゃないなぁ……幸太郎君だって、自分が無茶をしたことをちゃんと謝りに行ったんだろう? ドレイクさんに――いや、君自身がちゃんと聞いていたハズだ」
「何であなたがそんなことを……まさか、あなた!」
「フフン、幼馴染の君の行動は逐一チェックしないと」
「許可なく家の監視カメラの映像を盗み見ましたわね! この変態! ストーカー!」
すべてを知っていると言わんばかりにいやらしく笑っている大和に、机を思いきり叩いて麗華は激怒するが、麗華の怒りのボルテージが上がる度に大和は楽しそうだった。
大和が何をしたのかを幸太郎は詳しく理解できなかったが、そんなことを気にするよりも、ちゃんと自分の言葉が伝わっていることに安堵感を得ていた。
自身を明らかにバカにしている態度を取る大和に様々な罵詈雑言を述べて、激怒している麗華。そんな彼女に恐れることなく、「鳳さん」と、幸太郎はふいに話しかけた。
激怒している最中に空気も読まずに話しかけられ、麗華は憤怒の表情で幸太郎を無言で睨みつけたが、幸太郎はそんな麗華に臆することなく真っ直ぐと見つめ返した。
「鳳さん……ごめんね、勝手な行動で心配かけて」
「……別に私はあなたのことなんて心配してませんわ」
真っ直ぐと曇りのない目で自分を見つめてくる幸太郎から逃げるように顔を背けた麗華は、小さく鼻を鳴らして素直ではない態度を取る。
そんな麗華の反応を、ニヤニヤと大和はいやらしく笑いながら見ていた。
「謝罪の一言でこの私が満足できると思っていますの? 謝罪なんてものはいつでも口に出せますわ――重要なのはあなたが持っている無意味な信念がどのように変化したのかが重要ですわ……変わっていなければ、また同じ行動を繰り返しますわ」
麗華の一言に幸太郎は難しい顔をして言い淀んでしまう。
明らかに痛いところを突かれた反応を示す幸太郎に、麗華は心底呆れ果たように深々とため息をついて、大和は軽く噴き出してしまっていた。
「……結局、口だけというわけですわね」
言い淀んだ幸太郎に、麗華は失望しているような冷たい目を向けた。
黙ってしまっている幸太郎だったが、やがて諦めたように小さくため息をついた。
「やっぱり……まだ思いつかない」
ため息交じりにそう呟いて、幸太郎は苛立ったように髪を掻きむしり、机に突っ伏した。
「ごめんね、鳳さん……まだハッキリとした答えが見つからないから、もうちょっと、時間がほしいんだけど」
苦笑を浮かべる幸太郎に、麗華は脱力したように肩を落とすとともに、再び心底呆れ果てたようなため息を漏らした。
「まったく、気の利いた言葉の一つも考えられないとは……」
「まあまあ、いいじゃないか麗華。幸太郎君なりに必死に考えてるんだから。必死で考えるほど、君から離れたくないんだろう? よかったじゃないか、大切に思われていて」
脈絡もなく突然会話に入ってきた大和を、うんざりした様子で麗華は黙らせるために睨むが、大和は意味深な笑みを浮かべて軽くそれを流した。
「昔言っただろう? 君には敵が多いから少しでも使える味方を増やせって――おっと、いいところで失礼……もしもし、あ、ティアさん?」
嘲るような視線を麗華に向け、大和は意味深な笑みを浮かべた――が、急に大和のポケットから麗華の『オーッホッホッホッホッホッホッ!』という笑い声が響くと、うるさい笑い声が聞こえるポケットから携帯を取り出て、携帯に出た。
携帯に出ると同時に、麗華の笑い声は消えた。
「着信音、僕もあれにしようかな……」
「ちょっと待ちなさい! 今の一体どこで録音しましたの!」
人の笑い声を着信音にする大和に激昂する麗華だが、電話をしている大和は気に留めることなくティアの電話に集中していた。
「あー、そっか、それは残念だったね……それじゃあ、取り敢えず一旦こっちに戻ってきてよ。うん、そうだね、そっちはセラさんや輝士団の人たちに任せよう……え? 嵯峨君がそんなことを? うん、わかった。お疲れ様、それじゃあね」
通話を切って携帯をポケットの中にしまうと、大和は仰々しくため息をついて肩をすくめた。
「ティアさんから連絡が来たということは……嵯峨さんはどうしましたの?」
「いやぁ、作戦は失敗だよ。嵯峨君はセラさんとティアさんと交戦したけど、逃走用に閃光弾と煙幕を持っていて上手く逃げられてしまったそうだ。逃げ足が速いだけじゃなく、用意周到で大胆不敵だね。参った参った」
「そんな悠長なこと言っている場合ですの? 追跡はどうなってますの? セラさんとティアさんと交戦したということは、相当のダメージは残っているはず。そう遠くへは逃げませんわ!」
「久住君の命令で、みんなサウスエリア中を血眼になって探しているみたいだけど、無駄に終わるだろうね。カメラの位置を把握してる彼なら逃走は簡単だし、カメラで姿を捕えたとしても神出鬼没だから、すぐに姿を消しちゃうだろうね……さてさて、どうしようか」
「あなたのことですから、もう対策は取っているのではなくって?」
緊張感がまったく感じられない様子で現在の状況を軽い調子で説明して、まるでこの状況を心底楽しんでいるかの様子の大和に麗華は不信感を抱きながらも、次の策を考えているだろう大和に尋ねる。
幼馴染の麗華だからこそ、今までこんな状況に陥っても必ず代替案を大和は持っているということが多々あったので、今回もそうだと確信していたが――大和は「それがないんだよね」と、自嘲的な笑みを浮かべてそう言った。
「正直言って、行動と思考の先が読めない嵯峨君と僕の相性は最悪だ……だからこそ、今回の作戦でアカデミー内でも屈指の実力を持つ人員を派遣したんだけどね」
そう言って、深々とため息をついていたが、「あ、そうそう」と、思い出したようにそう呟いて、幸太郎に視線を向けた。
「嵯峨君が幸太郎君へ伝言を残したそうだ――『僕がはじまった場所で待ってる』って」
「嵯峨さんがはじまった場所……?」
自分に伝言を残した嵯峨の言葉を聞いて,、幸太郎はボンヤリとその言葉を頭の中で反芻させて、その意味を考えていた。
「嵯峨君と感性が近いとされている君なら、この意味がわかるんじゃないかな?」
「フン! 感性が近いというだけで、この頭が弱い凡人に何を聞いても無駄ですわ!」
冗談交じりに、そして、幸太郎を挑発して試すように聞いてくる大和と、幸太郎に聞いても無駄であろうと断言してせせら笑っている麗華。
明らかに二人はバカにしているが、幸太郎はそんなことを気にすることなく嵯峨が自分に残した言葉をジッと考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます