第22話

 周囲には多くの輝士団や輝動隊たちが倒れ、そして、鉄屑と化したガードロボットの残骸が転がっていた。


 そんな場所を、武輝である槍を手にしている嵯峨は軽い足取りで歩き、自分が倒した輝士団や輝動隊の持っている輝石を奪い取り、それをコンビニのビニール袋に入れた。


 ビニール袋の中には今まで奪った分がたくさん入っており、そろそろ別の袋に移した方がいいかなと、嵯峨は呑気に思っていた。


 それにしても……キリがないな。


 次々と自分に襲いかかってくる治安維持部隊と、ガードロボットに、さすがに嵯峨は飽き飽きしている様子で、軽くため息をついて退屈そうに欠伸をしていた。


 今のところ嵯峨は戦闘に支障をきたすような怪我は負っておらず、当初の目的である輝石も大量に入手できたのは嬉しいが、飽きてくるとともに疲労感が出てきたので、一旦休憩したい気分になっていた。


 今の嵯峨にとって輝石を集めるのはついででしかなく、今の目的とは別だった。


 今はナナセコウタロウ君について知りたいんだよなぁ……

 いい加減場所を変えようかな。

 今サウスエリアにいるから……今度はノースエリア? それとも、イーストエリア?

 いや、もしかしたら、僕の狙いをもう知っていて、どちらかの治安維持部隊が彼のことを保護しているかもしれない――そうしたら、セントラルエリアにいるのかな……


 ナナセコウタロウに会う――その目的のために行動している嵯峨は、ナナセコウタロウといういまだ見ぬ人物に思いを馳せ、避難も兼ねて一旦別のエリアに移動しようかと呑気な調子で考えていた――そんな時だった。


 全身がチクチクと何か小さい棘に刺さるような感覚が自身の後方からしてきた。


 この感覚――……あの頃と同じだ……

 四年前……あの人と会った時の感覚と同じだ……


 懐かしい感覚に嬉々とした表情を浮かべて、嵯峨は振り返った。


 振り返るとそこには、白を基調とした高等部の女子生徒専用の制服を着て、腕に赤と黒のラインが入った腕章をつけた、長身のショートヘアーの女子生徒が、激情の炎が揺らめく瞳で嵯峨を睨みながら武輝である片手で扱えるサイズの剣を手にして立っていた。


 かわいいというよりもかっこいい容姿の女子生徒であり、思わず嵯峨はその女子生徒に見惚れてしまったが、彼女の身に纏う雰囲気に苦笑を浮かべて一歩引いてしまう。


 女子生徒の身に纏う雰囲気は、怒りと憎悪と殺意を混ぜ合わせたようなものであり、今にも嵯峨は自分に襲いかかってきそうだと感じていた。


「お前が嵯峨隼士だな」


「その台詞、今日何回も聞いた……。そうだよ、僕は嵯峨隼士。よろしくね」


 呑気に自己紹介をしてくる嵯峨に、一瞬女子生徒は呆気に取られたが、すぐに「なるほど……」と呟いて、得心したように頷いた。


「確かに、七瀬君に似ているところはあるかもしれないな」


 囁くような声で呟かれた言葉だったが、耳を澄ましてようやく聞こえるくらいの声量でもすぐに嵯峨は反応して、好奇心旺盛な瞳で女子生徒を見つめた。


「あれ? もしかして、君……ナナセコウタロウ君の友達? 今、ナナセコウタロウ君のことを探しているんだけど、知ってるなら是非僕に紹介してほしいな」


「……七瀬君が狙いだというのは本当のようだな」


 嵯峨の言葉を聞いて、元々身に纏っていた敵対心と警戒心をさらに強くさせて、女子生徒は武輝を構える。


 知っていても教えてくれなさそうな女子生徒の様子に、嵯峨はウンザリというようにため息をついたが、その顔は餌を目の前にした獣のようだった。


「ナナセコウタロウ君について教えてくれるだけでいいんだ。それ以外は何も要求――あ、君の輝石を僕にくれるともっと嬉しい。君は強そうだから、君の輝石を手に入れることができれば、僕はもっと強くなれるかもしれない」


「断る」


「即答で断られると、ちょっとショック」


 本当にショックな様子で肩を落としている嵯峨に女子生徒は呆れてしまい、嵯峨のペースに乗せられそうになったが、頭を振って気を引き締めた。


「死神の――ファントムの真似事もこれまでだ……お前は私がここで倒す」


「彼のことも知ってるんだ……」


 嵯峨の脳裏に蘇る、四年前の出来事、そして、言葉――

 自然と嵯峨の口角が吊り上がり、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 その笑みに何か得体のしれないものを感じ取った女子生徒は、嫌悪感を露わにすると同時に、化け物を見るような目で嵯峨を見ていた。


「……何だか、君のことも興味が出てきた」


 そう言って、嵯峨はゆっくりとした歩調で真っ直ぐと女子生徒に向かう。


 女子生徒は自身に向かって確実に近づいてくる嵯峨を、ジッと見据えていた。


 この女の子……今までの人と全然違うみたいだ……


 自身の目の前で対峙している女子生徒は今まで襲ってきた人と違い、自分が近づいても気後れする気配すら見せずにこちらをジッと見据えていることに、嵯峨は今までの相手と一味違うことを悟る。


 同時に、高い実力を持つ相手と戦えるということに、嵯峨は光栄な気持ちを抱くとともに、期待で胸を躍らせた。


 ……この子と戦えば、僕はきっと今よりもさらに強くなれる。

 それに、この子はきっとナナセコウタロウ君の友達だ。

 まさに一石二鳥、今日は運がついてる。


 小躍りしたい気分を抑え、嵯峨は一気に女子生徒と間合いを詰めて攻撃を仕掛ける――

 一気に激しい動きに変化した嵯峨に不意をつかれたが、女子生徒は冷静に嵯峨の攻撃を武輝である片手剣で受け止めた。


 武輝がぶつかり合い、悲鳴のような甲高い金属音が周囲に響き渡る――


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