第21話

 嵯峨を捕まえるための大まかな内容を説明した後、大和はこれからの説明に幸太郎は必要ないとして、幸太郎を会議室の外から出して、会議室前にあるソファに座って会議が終わるのを退屈そうに大きく欠伸をして待っていた。


 ソファに座りながら、幸太郎は会議室での大和の様子を思い出していた。


 大和君、やっぱりすごいな……


 相手の先を見越した作戦を立てるのが得意な大和のことを思い浮かべながら、ふいに幸太郎は疑問が浮かんだ。


 鳳さんと大和君……幼馴染って言ってたけど、二人はどこで出会ったんだろう。

 二人は仲良いとは思うけど、性格はまるで違うし……

 あ、幼馴染だったら、もしかしたら大和君も鳳さんと同じでお金持ちの家の人なのかな?

 ……鳳さんと同じで、あんまりそんな雰囲気は見えないけど。

 あ、でも、鳳さんと同じで友達は少なそう。


 失礼なことを思っていると、会議室の扉が開いた。


 終わったのかと思っていると、扉から出たのは一人だけであり、その人物は輝士団団長であり、セラとティアの幼馴染である久住優輝だった。


 優輝は幸太郎に気づくと、爽やかな笑みを浮かべて幸太郎に近づいた。


「どうも、優輝さん。会議は……まだ終わってませんね」


「ああ。取り敢えず、自分が担当する役割の説明が終わったから、これから団員たちに支持をするために一足早く外れたんだ」


「どんな作戦なんですか? 大和君が僕を出て行かせるから気になっちゃって……」


 興味津々といった様子で尋ねてくる幸太郎に、苦笑を浮かべながらも優輝は説明する。


「特に変わらず、嵯峨に出会ったら君の情報を流して好奇心を煽る作戦だ。これで逃げられた場合でも嵯峨は君を狙い続ける」


「それだけだったら、僕も参加してもよかったのに」


「君がいれば、セラや麗華さんが君を守る発言をして、会議が滞ると思ったから君を会議室から出したんだ」


「嵯峨さんを捕まえるためなら別に構わないのに……まあいいか、それよりも忙しいのに引き止めちゃってすみません」


 丁寧に頭を下げる幸太郎に、優輝は爽やかな笑みを浮かべて「気にしないでくれ」よ、優しく声をかけてくれた。


「こちらとしても、君と少し話をしたかったんだ……いいだろうか?」


 思いもしなかった意外な優輝の一言に、驚きながらも幸太郎は笑みを浮かべて頷いた。


 セラとティアの幼馴染であり、輝士団団長、そして、アカデミー最高戦力としてアカデミーに所属している輝石使いの中でも最強と呼び声が高い人物に、幸太郎も色々と聞きたいこともあり、話もしたかった。


 しかし、好奇心旺盛な様子の幸太郎とは対照的に、優輝の表情は曇っていた。


「君は四年前の死神事件に……俺たちが関わっていたことを知っているか?」


「はい。さっき、セラさんとティアさんに聞きました」


 幸太郎の返答が思いもしなかったのか、優輝は驚いたような表情を浮かべて一瞬固まってしまったが、すぐに微笑を浮かべて「そうか……」と嬉しそうでありながらも、不安そうな感情が込めれた言葉でそう呟いた。


「どうやら、思っている以上に君はセラ、そして、ティアから信頼をされているようだ」


「そうなんですか? ……何だか照れます」


 照れたように笑う幸太郎に優輝は一瞬羨望の眼差しを向け、自嘲的な笑みを浮かべた。


「それなら、セラと死神――ファントムの関係を知っているか?」


「セラさんたちのお師匠さん――優輝さんのお父さんを襲ったから、恨んでるっていうことは知っているんですけど……それ以外に何かあるんですか?」


 ――やっぱり、あれは気のせいじゃなかったんだ……


 幸太郎はつい先程のセラとティアの会話の様子を思い出した。


 四年前の事件のことを話している二人――鈍感な幸太郎でも、二人は何を隠しているのかはわからないが、二人は何かを必死で隠しているように感じていた。


 そして、同時に怒っているような、それでいて、悲しんでいるような、そんな辛そうな気持ちが四年前のことを話すセラ、そして、それを聞いているティアから幸太郎は感じ取っており、そんな中人一倍セラからそれらの感情が強く感じていた。


 幸太郎の質問にしばし考えた後、無理矢理自分を納得させた様子で、優輝は逡巡しながらもゆっくりと口を開いて、四年前の裏側を幸太郎に話す。


「ファントムは倒した」


「……三人が戦ったって聞いてたから、三人が力を合わせて倒したと思ってました」


「確かに三人でファントムと立ち向かったが、悔しいことに当時の実力ではまったく歯が立たなかった……しかし、結果的にはセラの一太刀が決め手になった」


 三人がかりでもファントムに敵わなかった当時のことを思い出しているのか、優輝は辛そうな表情を浮かべて、悔しそうに拳をきつく握り締めていた。


「個人的な感情込みでファントムに致命傷を負わせたセラは今回の事件に対して俺たち以上の因縁を感じている……だからこそ、自分が倒した死神の手口を真似している今回の模倣犯に対して、セラは並々ならない感情を抱いている」


 優輝の説明を聞いて、幸太郎は今までセラが事件のこと、そして、何よりも死神のことを話している時に憎悪にも似た感情が見え隠れしていた理由をようやく理解できた。


「君も知っているだろうが、セラは自分の身を顧みないで無茶をする悪い癖がある……そんなセラを止められるのはティア以外に、君しかいない……もしも、セラが無茶をすることがあったら、ティアがいない時は君がセラを支えてやってくれ」


 幼馴染だからこそセラを理解している優輝は、幸太郎にそう懇願した。


 今の優輝の顔は、唐突な願いを言って申し訳ないという気持ち以上に、幸太郎に伝わるほど後悔と悲しみで溢れており、辛そうだった。


 もちろん、優輝の頼みを応じるつもりだったが、幸太郎は複雑な顔をしていた。


「優輝さんもいるじゃないですか」


 真っ直ぐ自身を見つめて、何気ない一言を述べた幸太郎から逃れるように、居心地が悪そうに優輝は顔をそらした。


「自分の言葉よりも、君の言葉の方がセラには届く」


「どうして、そう思えるんですか? どうして、セラさんとティアさんは優輝さんを突き放すように見ているんですか? ……三人は幼馴染なのに」


 今まで幸太郎が、セラとティア、優輝の態度を見て思っていたことを遠慮なく聞いた。


 頭の中で、セラの部屋に入った際に窓際に置いてあった昔撮ったと思われる三人仲睦ましく写っている写真、そして、ずっと優輝に対して冷たい態度を取っているセラとティアの態度を思い浮かべて。


 その疑問に優輝は自嘲的な笑みを一度浮かべると、寂しそうで、何よりも後悔しているような表情を浮かべた。


「俺は裏切り……そして、傷つけたんだ……自分の目的のために」


 呟くような声で言い残し、優輝は幸太郎の前から立ち去った。


 ゆっくりとした歩調だったが、まるで逃げるようにして。


 幸太郎はそんな優輝を引き止めることなく、彼の寂しそうな背中を見えなくなるまでずっと見つめていた。


 数分後、会議室から出てきた大和たちは、さっそく嵯峨を捕えるための作戦を開始した。


 幸太郎は、大和と麗華とともに輝動隊本部に残り、残りは嵯峨が暴れているサウスエリアへと向かった。


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