第5話
セントラルエリア内にある大病院――
ここは最先端の設備で、最先端の医療を、世界から集めた最高の人材で受けることができる場所であり、世界でもトップクラスの医療を受けられる病院である。
どんな難病にも対応できるため、世界各国の重要人物がわざわざ治療を受けに来ることがあるが、基本的には大怪我を負った輝石使いのための病院である。
輝石使いならば輝石の力で身体能力が強化されると同時に、バリアを貼って防御力が強化され、怪我の治療も輝石の力を使えば軽い怪我ならすぐにでも治せるので、基本的には医者いらずだが、それでも訓練中に怪我を負うことがあるので輝石使いの患者は結構多い。
高い実力を持つ刈谷ならば、意識不明の状態であってもすぐに起きるだろうと、刈谷がいる病室に到着するまで、呑気に幸太郎はそう思い、事前に見舞いの品として駄菓子を大量に買っていた――
しかし、看護師に案内されてガラス張りの集中治療室にいる刈谷の姿を見た瞬間、幸太郎は絶句した。
ベッドに横になっている刈谷は傷だらけで、その傷を隠すように全身に包帯が巻かれ、口には人工呼吸器、そし点滴の複数の管が腕につながっていた。
集中治療室は現在医師と看護師以外立ち入り禁止とのことで、幸太郎は刈谷の治療室の傍にあるソファに座り、そこから見える刈谷の様子をジッと眺めていた。
時間の感覚を忘れるほどボーっとして刈谷の様子を眺めている幸太郎だが、起き上がる様子はまったくなかった。
「案ずるな、命に別条はない」
ボーっとしている幸太郎の耳に届く、氷のように冷たい声。
幸太郎はその声がした方へ視線を向けると、そこには銀髪セミロングヘアーで、軍服のような堅苦しい服の上に輝動隊の証である黒いジャケットを着た、全身に冷たい雰囲気を纏っている長身の女性がいた。
その女性は輝動隊№2であり、セラの親友であるティアリナ・フリューゲルだった。
「……ティアさん、こんにちは」
視線をティアに向けて一瞬の間の後、幸太郎は今ティアの存在に気づいたかのように、軽く会釈をして挨拶をした。
挨拶を終えると、ティアはおもむろに幸太郎の隣に座った。
「骨や内臓には異常はなく、後遺症が残る怪我もなく、全身打撲だ。命には別条はないようだが、意識は数日の間は戻らないそうだ……だから、案ずることはない」
「……そうですか」
命には別条ないことはあらかじめセラと麗華から聞いていたが、改めて刈谷の容態についての説明をティアから聞いて、幸太郎は幾分安堵できた。
「思っていたよりもひどい怪我だから、ちょっと驚きました」
「かなり痛めつけられたようだから無理もない」
「刈谷さんがあんなにボロボロになるなんて、死神は相当強いみたいですね」
セラさんと鳳さん……大丈夫かな……
高い実力を持っているにもかかわらず、ボロボロにされた刈谷を見て、何度か実力を目の当たりにして彼が強いことを十分に知っている幸太郎は、彼をここまでボロボロにした強さを持つ死神を追っているセラと麗華のことが心配になってきた。
やはり今回の事件も四年前の死神と同一人物なのではないかと、幸太郎は思いはじめた。
「やっぱり、都市伝説通り四年前の死神は生きているんでしょうか」
「くだらん噂に惑わされるな。四年前の死神はもういない……ただ――」
都市伝説である死神生存説を一蹴するティアだが、何か疑問を抱いている様子だった。
「……刈谷は抵抗した様子が見受けられなかった」
「刈谷さんが抵抗しなかったんですか? ……何かおかしいですね」
抵抗をしなかった刈谷に幸太郎は疑問を抱き、ティアも同感だというように頷いた。
幸太郎の知る刈谷祥という人物は、敵に対して容赦なく、好戦的な性格をしている。
そんな刈谷が抵抗をしないのは、幸太郎も何か引っかかりを覚えた。
「刈谷を倒した相手は、刈谷ほどの実力者相手にいっさいの抵抗を許さないほどの高い実力を持っているか――それか、刈谷の知り合いかもしれない」
「刈谷さんの知り合い……ですか?」
「ああ……アイツは粗野で大雑把な性格をしているが、自分が友と決めた相手や、恩義を感じている相手に対しては義理堅く、甘いところがある……それを考えればあの好戦的な刈谷が抵抗しない姿は想像できる」
顔見知り、そして、友人というティアの言葉に、幸太郎は昨日出会ったばかりであり、刈谷とは長い付き合いであると言っていた大道共慈のことを思い出した。
「もしかしたら、大道さんなら何か知っているかもしれません」
「大道? ……大道共慈のことか? なぜここであの男の名前が出てくる」
大道の名前が突然出てきて、ティアは驚いている様子だが、幸太郎も驚いていた。
ティアを『
「昨日、刈谷さんと会って、一緒にいた大道さんを紹介されたんです。大道さんは刈谷さんのことを長い付き合いだと言ってました……その様子だと二人の関係をティアさんは知らなかったようですね」
「ああ。刈谷は輝士団を露骨に嫌っているから、輝士団である大道共慈と付き合いがあるというのはまったく知らなかった」
刈谷と大道に付き合いがあることに驚くティアだが、今度は幸太郎が驚く番だった。
「大道さんって、輝士団の人だったんですか?」
「立場上、あまり接する機会はないが、輝士団の中でもっとも古株のメンバーで、高い実力と多くの経験から輝士団内では主に新人の教育係を務め、高い発言力を持っている。自ら前線に立って行動することは少ないが、輝士団と輝動隊の諍いには率先して制止に入り、輝士団に所属しながらも中立的な視点で諍いを制止させて、非暴力で平和的に解決することから、輝動隊内でも評価が高い人物だ」
「それを聞くと、昨日はぐらかされたけど、やっぱり刈谷さんと大道さんの出会いは気になる。二人とも、性格がまったく正反対だし」
輝士団・大道共慈に関するティアの説明を聞いて、ますます刈谷と大道の出会いが気になる幸太郎に、ティアも「同感だ」と言って頷いた。
「しかし、刈谷が襲われた日に、大道と一緒にいたのはどうも気になる……お前の言う通り、大道ならば刈谷の交友関係を知っているかもしれんな……。貴重な情報感謝する」
そう言ってティアはソファから立ち上がり、刈谷が眠っている治療室を一瞥すると、事件の参考になった情報を提供した幸太郎に短いが心がしっかり籠っている感謝の言葉を述べて、背を向けてすぐにでもこの場から立ち去ろうとした。
そんなティアを、幸太郎は「あ、ちょっと待ってください」と呼び止めた。
はやる気持ちを抑えた様子で、ティアは振り返って幸太郎を見つめる。
「これから、ティアさんは大道さんに会いに行くんですよね」
「そのつもりだ。立場上会うことは厳しいかもしれないが、事件解決の手掛かりになるかもしれないことを考えれば、足踏みしている暇はない」
「それなら、僕なら簡単に大道さんに会えることができるかもしれません」
その言葉に、幸太郎に協力してもらうか否かを無表情でティアは考え、そして、彼に冷たい視線を向けた。
幸太郎に向けられたティアの視線は冷たいものであったが、セラと麗華と同様、冷たい中にも確かに幸太郎の身を心配する気持ちは存在していた。
しばしの沈黙の後、ティアは諦めたように小さく嘆息した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます