エピローグ
ゴールデンウィークが終了してから二週間後。
事件は徐々に落ち着きが戻り、『蒼の奇跡』と騒がれた出来事も徐々に治まってきた。
『蒼の奇跡』の結果、今回の事件で内部の不祥事が露わになって周囲の信用が失ってしまった教皇庁だが、テレビに中継された『蒼の奇跡』のおかげで、完全には失っていなかった。
度重なる不祥事で信用が失墜していた鳳グループは、今回の事件で輝動隊隊長の機転によって解決したということで、いくらかの信用は回復することができた。
風紀委員は相変わらず人手不足で、結局煌王祭で優秀な人材をスカウトすることができずに麗華は文句を言っており、人手不足が解消されるまで幸太郎のクビは保留となった。
クビを免れた幸太郎は――
「あ、すみませーん。サーロインステーキセットでライス大盛り、ソースはガーリックソース、それとスープはオニオンで。後、から揚げ、山盛りポテト、チョリソー、それから食後に苺パフェとミルフィーユ。飲み物はウーロン茶でお願いします――リクト君はどうする?」
「えっと……僕はこの、カルボナーラとパンをつけてください。飲み物はオレンジジュースでお願いします」
放課後、幸太郎はリクトとともにセントラルエリアにあるファミレスで食事をしていた。
白を基調とした中等部男子生徒用の制服を着ているリクトは、次期教皇最有力候補であり、教皇の息子というよりも、今年で十五歳になる中等部三年の普通の少年だった――男子生徒用の制服を着ていなければ、少女に見紛うが。
事件が終わり、怪我をした幸太郎が退院してからこうして放課後にリクトと一緒に、ファミレスで食事をすることが多くなった。
事件が終わって二週間で、これでリクトと一緒にファミレスに行くのは五回目だった。
最初はファミレスに一度も入ったことがなかったリクトは、緊張していたが、一回目でファミレスのメニューの味に感動を覚えてすぐに慣れた様子だった。
「そういえば、今日もまた鳳さんがうるさかったんだ。人手が足りないって」
「風紀委員はまだ三人しかいませんからね……人員を足さないんですか? 色々と実績を残している風紀委員ならば、入りたい人がたくさんいるんじゃありませんか?」
「鳳さんは有象無象の戦力は必要ないって言うから、中々入れないんだ」
放課後はこうして、幸太郎とリクトの二人は学校の出来事などを話し合っていた。
歳も違い、幸太郎との趣味も違うが、今まで同年代のクラスメイトたちとこうしてゆっくり話す機会がなかったリクトは、話が合わなくとも話を聞くだけで十分だった。
幸太郎はリクトの周囲にいる人間とは違い、教皇の息子という目で見て、一歩引く態度を見せないのでリクトは気軽に接することができた……少し正直すぎるのが玉に瑕だが。
幸太郎と会って話すのを楽しみにしているリクトは、彼と会う時だけはいつも自分の周囲を守ってくれるボディガードたちを下がらせている。
教皇庁内では落ちこぼれである幸太郎と一緒にいることをあまり良い目で見ない人間が多いが、リクトは気にしなかった。母であり、教皇であるエレナも特に何も言うことなく、むしろ、リクトの好きにしろと言ってくれていた。
「もしよかったらリクト君風紀委員に入らない?」
「え……えぇ?」
幸太郎の話をボーっとしていてあまり聞いていなかったリクトは、突然の幸太郎の提案に素っ頓狂な声を上げて驚いてしまっていたが、すぐに我に返る。
そして、風紀委員に入らないかという幸太郎の誘いに真剣に悩むリクト。
風紀委員になれば幸太郎さんと一緒に過ごせる時間が多くなる……けど――
リクトは申し訳なさそうだが、それでも迷いのない目で幸太郎を見つめた。
「すみません、せっかくのお誘い嬉しいのですが、今は遠慮します……今は、次期教皇最有力候補として、教皇になるための修行をしたいので」
「ちょっと残念だけど仕方がないか……リクト君が決めたことだからね」
「――はい!」
「応援してるから」
迷いのないリクトの言葉を聞いて、残念そうでありながらも幸太郎は無理に誘うことはしなかった。
むしろ、迷いのないリクトの答えを聞いて、幸太郎は満足そうに頷き、淡々として短い言葉ながらも、心の底からの激励を送った。
せっかくの申し出を断ってしまってすみません。
僕はもう少し強くなります。
強くなって――昔の自分を受け入れるくらい強くなって。
幸太郎さんや母さん、そしてみんなを守れるくらい強くなったら……
きっと、幸太郎さんの力になります。
だからその時まで――
「あ、きたきた。それじゃあ、食べようか」
「……はい」
心の中で熱く、固い決意を決めているリクトだったが、そんな彼の決意など梅雨も知らない様子で、注文したから揚げやポテト等のサイドメニューが来て喜んでいる幸太郎の声によってそれが中断されてしまう。
心の中で苦笑を浮かべながらもリクトは幸太郎からフォークを渡され、それを受け取る。
そして――
「それじゃあ、いただきます」
「はい、いただきます。さあ、食べましょう、幸太郎さん」
幸太郎とリクトはいただきますの合図で食べはじめた。
から揚げを頬張る幸太郎は幸せの絶頂の様子であり、そんな友人と一緒にいるリクトも幸せだった。
―――つづく――――
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