第26話

「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!」


 周囲にうるさいくらいに響くほどの声量の大きな高笑いをしながら、麗華は縦横無尽に常人では捕らえることのできない速度で疾走していた。


 まるで翻弄するかのように周囲を疾走する麗華に向けて、水月沙菜は精神を集中して、武輝である杖から輝石の力を振り絞り、その力を光として武輝に纏わせる。


 光が武輝に纏うと同時に、麗華の周囲を取り囲むように光球が発生し――瞬時に爆発。


 雨粒を吹き飛ばすほどの衝撃が周囲に走り、建物の壁などに亀裂が入り、爆風で周囲の建物のガラスが割れて雨のように降り注ぐ。


 麗華は舞うようにして大きく跳躍して、その爆発を回避した。


 空中にいる麗華は、武輝であるレイピアに光を纏わせると同時に空中で意味もなく身体を一回転させて、沙菜に向けて突き出すようにしてレイピアを振るい、衝撃波を放つ。


 自身に向かう沙菜は避ける素振りすら見せずに、杖を衝撃波に向けて掲げた瞬間、自身の前面を防御するバリアを貼り、難なく衝撃波を止めた。


 麗華は空を蹴り、バリアを貼った沙菜に向けてレイピアを突き出しながら、勢いよく彼女に向けて突進し、バリアに激突する。


 周囲の空気が揺れるほどの衝撃とともに、沙菜のバリアが麗華の攻撃に耐え切れずに消滅する。同時に、麗華の攻撃の威力も相殺されてしまった。


 間髪入れずに、麗華は沙菜との間合いを詰めて攻撃を仕掛けるが、沙菜の杖からばら撒かれる光弾の嵐に、攻撃を中断して大きくバックステップをして回避せざる負えなかった。


 回避している間にも向かってくる沙菜の光弾を、麗華は自身の武輝で撃ち落とす。


 一旦間合いが麗華と沙菜の間に間合いが開いた。


 沙菜を援護しようと輝士団たちが集まっているが、二人の戦いに下手に手を出せば巻き込まれ、そして、沙菜の邪魔になるかと思っているため傍観するしかなかった。


 あれだけ激しい動きをしたのにもかかわらず、麗華は息一つ乱すことない余裕な様子で、沙菜は冷静を装っていたが額に一筋の冷や汗が流れていた。


「さすがですわね――輝士団内でも上位の実力を持つ水月沙菜さん」


「あなたこそ、想像以上のふざけた実力を持っているようですね――そんなあなたを簡単に打ち破ったというセラ・ヴァイスハルトさんには恐れ入ります」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


 余裕そうに、そして丁寧に、仰々しく一礼下げる麗華に、沙菜は忌々しく思うとともに、自分の全力を出し切っても勝ち目が薄そうな相手に焦りも抱いていた。


 ここで勝たなければ、団長である久住優輝に顔向けできない――沙菜は優輝のためになんとしてでも勝ちたかった。


 しかし、相手は自分よりも遥かに実力がある相手だった。


 何か手を考えなければと思い、麗華の動向に注視しながら思案すると、すぐにある考えが沙菜に浮かんだ。圧倒的な実力を持っている麗華だが、彼女よりも勝っている点があると気づき、それを上手く利用すれば勝てるのではないかと考え、僅かな希望を持った。


「……行きます」


 短い言葉を合図に沙菜の武輝に光が纏う。それと同時に周囲に無数の光球が浮かんだ。


 見覚えのある技に麗華は余裕の笑みを浮かべる。


「触れれば爆発する技ですわね。もうその技は私には通用しませんわ」


「ええ――……十分に理解しています……あなたが私よりも圧倒的な力を持っていること、そして、あなたよりも私が勝っている点があるということも」


 沙菜の話が終わると同時に、光球が一斉にして爆発する。


 再び高く跳躍して爆発から逃れる麗華。


 そんな麗華に向けて、大量の光弾を沙菜は撃ち出した。


「ちょ、ちょっと、タイムですわぁああああああ!」


 逃げ場のない空中で、自身に迫る大量の光弾に焦る麗華。


 一時中止を求める麗華だが、沙菜は容赦なく次々と光弾を杖から撃ち出した。


 慌てながらも、空中という足下がおぼつかない場所で麗華は自分に迫る光弾を撃ち落とし、器用に身体を捻りながらそれらを回避する。


「クッ――……必殺、『エレガント・ストライク・パートⅡ』!」


 レイピアに光を纏わせて、地上にいる沙菜に向けて思いきり武輝を突き出すと同時に、纏っていた光が極太のレーザー状のエネルギーとなって、沙菜に向けて放出される。


 沙菜は自身に迫る強大なエネルギーに向けて、杖から麗華以上に大きなレーザー状になった輝石の力を発射した。


 二つの力は拮抗するが、一瞬にして沙菜の力が勝り、麗華の放った力をかき消し、彼女に向けて沙菜の力が飛んで来る。


「ぬぁんですってぇ!」


 咄嗟に麗華は地上に向かって空を蹴り、着地した。


 着地すると同時に、麗華の周囲に光球が浮かぶ。


 すぐにそれに反応して、爆発から逃れるために麗華は大きくバックステップする。


 間髪入れずに沙菜の光弾が麗華に飛んできた。


 避けられないと瞬時に判断した麗華は、自身の身に纏う、輝石の力によって生み出されたバリアの出力を上げて、防御に専念する。


 光弾が自身に着弾すると同時に、重い衝撃が全身に伝わり、顔をしかめる麗華。


 矢継ぎ早に麗華に向かって、沙菜は光弾を連射させる。


 自身に向かう光弾の嵐に、麗華は耐え切れずに吹き飛んでしまう。


 しかし、吹き飛んでいる最中に麗華は体勢を立て直し、優雅に着地する。


 嵐のような光弾の嵐をその身に受けても、麗華はダメージを食らっている様子はなく、余裕な態度を崩さずに衣服についた埃を丁寧に払っていた。まだまだ余裕な様子の麗華に、歴然とした力の差を感じ取り、沙菜は思わず小さく嘆息してしまう。


「なるほど、あなたが私よりも勝っている点――意味がわかりましたわ」


 レイピアの切先を沙菜に向け、フフンと自慢げに胸を張って、不敵に麗華は笑う。


「確かに、中から遠距離間の攻撃はあなたの方が有利のようですわね」


「そのようですね」


「その点、さすがは輝士団と言ったところですわね――輝士団は輝動隊の方々とは異なり、純粋な実力よりも、どれほど輝石を上手く扱えるかに重きを置き、その中でも輝士として教皇庁に認められた選りすぐりのエリートが揃っている組織。そんな輝士団の中でもトップクラスの実力を持っているあなたの主な戦闘手段は遠距離、私は近距離から中距離が専門ですので、遠距離攻撃を得意とするあなたには少々分が悪いですわね」


「ええ……純粋な実力ではあなたの方が私よりも遥かに勝っていますが、その点だけは私が唯一勝っています。飛び道具ばかりで卑怯だと思われても仕方がありませんが、手段を選んでいられませんので、遠慮なく遠距離から攻めさせてもらいます」


 自ら卑怯な戦法を取ると豪語する沙菜に、ある種の潔さを感じ取り、麗華は気分良さそうに笑うと、再び不敵な笑みを浮かべた。


 いまだに余裕そうに不敵な笑みを浮かべる麗華を見て、沙菜は何か冷たいものが走る。


「卑怯だろうが、何だろうが、好きに使えばいいですわ! それらに打ち勝ってこそ、私の強さ、美しさ、気高さがさらに際立つ! さあ、かかってきなさい!」


 麗華から放たれた威圧感に、一瞬沙菜は気圧されるが、すぐに武輝に精神を集中させて光を纏わせて、戦闘態勢に入る。


 沙菜が戦闘態勢に入ると同時に、麗華は一気に彼女に間合いを詰める。


 こちらに向かって疾走する麗華の周囲に、光球を発生させる。


 今度は上空に飛んで回避することなく、麗華は一直線に向かってきた。


 回避するよりも、一気に間合いを詰めて接近戦に持ち込む気だと思った沙菜は、麗華に向けて大量の光弾を放った。


 すると、突然麗華は立ち止まり、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべる。


「まずはこの攻撃を――必殺、『ビューティフル・ハリケーン』!」


 自身に向かってくる無数の光弾を、降っている雨の滴の一つ一つを払うほど精密かつ高速で放たれる連続突きで次々と撃ち落とす。


 先程麗華の防御を崩した光弾の嵐は一度も麗華に掠ることなく、すべて撃ち落とされる。


 そして、連続突きを放ちながら徐々に麗華は沙菜に接近してきた。


 このままでは間合いを詰められると判断した沙菜は一度光弾の連射を中断させて、麗華との間合いを開くため、彼女の周囲に光球を発生させる。


 沙菜の目論見通り、光球が発生した瞬間麗華はバックステップで間合いを取る。


 すぐに麗華は間合いを詰め、沙菜は輝石の力を足下に集中させ、フワリと宙に浮き、10メートル以上の高さまで上昇した。


「次は――それを打ち破りますわ! 必殺、『エレガント・ストライク・パートⅢ』!」


 上昇した沙菜に向かって、地上にいる麗華は光を纏ったレイピアを勢いよく一歩を踏み込んで突き出すと同時に放出される、極太のレーザー状として放たれる輝石の力。


 沙菜は先程打ち破った攻撃に冷静に対処して、武輝である杖から輝石の力をレーザー状にして発射した。


 再び大きな力同士がぶつかり合い、雨粒が吹き飛び、拮抗状態になる。


 先程は一瞬にして勝負がついた拮抗状態だったが――今度は違った。


 徐々に沙菜の力が押し出されてしまっていた。


 先程と変わらぬ力で放たれた麗華の輝石の力だというのに、徐々に押し出されている状態に沙菜は不思議に思い、麗華の様子を見た瞬間、沙菜は驚愕した。


 撃ち出したレーザー状の輝石の力とともに、麗華も自身の撃ち出した輝石の力に乗って沙菜の攻撃を受け止めていたのだった。


 沙菜の驚いた顔に、その顔が見たかったと言わんばかりに麗華は気分良さそうに微笑む。


 そして、麗華は少しの力を入れると同時に、沙菜と自身の攻撃を相殺させた。


 上空に浮かぶ麗華と沙菜。


 麗華は空を蹴り、一気に沙菜との距離を詰めてきた。


 咄嗟に沙菜は目の前に、輝石の力を思いきり絞り出して作った強固なバリアを貼る。


「最後はそれを打ち破りますわ! 必殺、『エレガント・ストライク』!」


 空中で大きく、そして、力強く空を蹴ると同時に放たれる鋭い突き。


 沙菜の貼ったバリアはその強烈な一撃に脆くも崩れ去った。


 レイピアの切先は沙菜に向かって真っ直ぐ向かい、そのまま沙菜に向かって貫く勢いで切先が彼女の鳩尾に衝突する。輝石の力身体が守られているため、突き刺さることはしなかったが、そのまま地面に向かって沙菜の身体は吹き飛んだ。


 麗華の一撃の衝撃に、完全に気絶している様子の沙菜は受け身を取ることなくそのまま地面に向かうが、すぐさま麗華は再び空を蹴り、高速で彼女に近づいた。


 そして、沙菜の身体を抱えて、そのまま優雅に着地した。


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッ! 勝利! 私の完ッ全ッ勝ッ利ッですわ!」


 沙菜を抱えながら、完全勝利をした麗華は気分良さそうにして大声で高笑いをする。


 気絶していた沙菜だったが、大音量の笑い声に顔をしかめ、そして、激しく咳き込みながら目を覚ました。


「……どうやら、私が負けたのですね……」


「オーッホッホッホッホッホッホッホッ! あなたのトリッキーな戦法には少々手を焼きましたが、まあ、相手が悪かったのですわ」


「本当にそう思います……あなたに見せた私の技をすべて打ち破るとは……」


 麗華の言う通りだったので、沙菜は何も反論することなく悔しそうに歯噛みした。


 麗華に敗北した悔しさよりも、優輝の役に立てなかったという悔しさが勝っていた。


 暗い表情を浮かべ、涙さえも目にためている沙菜だったが――

「んっ! ……あ、あの……どうして揉むんですか? あんっ!」


「やはり、私以上の持ち主……感度も良好のようですわね」


「だ、だから、やめてくだ――んんっ!」


 自身を抱えている麗華の手が、沙菜の豊かに実った柔らかな果実を掴み、その感触を心から楽しむかのようにして揉んだ。麗華の手の感触に思わず沙菜は声を上げてしまい、驚くほど柔らかい沙菜の感触に、自分以上のモノを持っていると判断した。


 周囲にいる輝士団――特に男は眼前に繰り広げられるグッとくる演出に、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


 やめてくれて目に涙をためて懇願する沙菜を、麗華は冷たい目で見る。


「あなたは私の風紀委員メンバー、まあ、ギリギリですが。そんな彼に怪我を負わせました……これはその罰ですわ! さあ、悶えるのですわ!」


「んっ! あっ! ひゃん! そ、それに関しては後日――……あああっ!」


 抱えていた沙菜を降ろし、彼女の背後に回って今度は片手ではなく両手で、豊かに実りきった果実を掴み、乱雑に揉む、揉む、揉む!


 輝士団たちの前で辱められ、抵抗しようとするが、麗華との一戦でダメージが残っている身体ではそれができない沙菜は好き勝手にされていた。


 輝士団たちは(特に男)、下手に手を出してしまえば麗華に返り討ちにあうと判断して、沙菜を助けようにも助けることができずに(というお題目を並べて)、ただ目の前で繰り広げられる光景をジッと見つめていた。


 そして、麗華の罰は五分くらい続いた。


 三分くらい過ぎたくらいから、麗華のテクニックにより沙菜はぐったりとした様子でなすがままにされていた。


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