第18話
「おいおい、今日は洗濯日和じゃないってのに、これから洗濯でもすんのか?」
数人のスーツを着た男たちが刈谷たちの前に現れると、彼らは臨戦態勢の刈谷とドレイクには目もくれずに、倒れている男たちが羽織っているマントを剥ぎ取り、気絶している男たちを起こし、セラたちに倒された男たちは一人、また一人と起き上がった。
今にも襲いかかりそうなくらいやる気満々な刈谷だったが、戦う気がなさそうな彼らの様子を見て肩透かしを食らうと同時に、意味のわからない行動に首を傾げていた。
一方のドレイクは彼らの行動に、「なるほどな……」と一人納得しているようだった。
「こいつら、輝士団ではない――どいつも見覚えのある連中だ」
「てことは……さっき言ってた高峰って奴の?」
ドレイクは刈谷の言葉に静かに頷く。彼の反応を見て、闘争心溢れる顔を浮かべた刈谷は、手に持っている武輝であるナイフと、警棒をきつく握りしめる。
獰猛な表情で、今にも飛びかかりそうな様子の刈谷の肩をドレイクは掴んで制止させる。
自分を制止させるドレイクを不服そうに刈谷は睨んだ。
「せっかくいい感じにテンション上がってきたのに空気読めよ、オッサン……」
「これは罠だ。迂闊に手を出すな」
「そんなもんわかってるよ! 罠でも何でもこいつら全滅させれば一緒だろうが……」
ドレイクの制止に、何となく罠だとわかっていた刈谷は渋々引き下がった。
刈谷が引き下がると嫌味な笑みを浮かべた一人の男が現れた。
その男の登場に刈谷は一瞬驚いたが、すぐに口を三日月形にさせて狂気的な笑みを浮かべて、わざとらしく感嘆の声を上げて、拍手をして歓迎した。
「まさか、アンタもグルだったとはなぁ――教皇庁が誇る誉れ高き称号を持つ聖輝士サマ」
目の前の人物――聖輝士クラウス・ヴァイルゼンに刈谷は皮肉たっぷりにそう言った。
クラウスは刈谷の言葉に薄い笑みを浮かべるが、すぐにそれを消して真剣な表情になる。真剣な表情だが、彼の内に秘めたどす黒い悪意までは隠し切れていない。
「グル? 何の話かわからんな――それよりも、大変なことをしてくれたな、輝動隊・刈谷祥、そして、君は――ああ、そうか、要領が悪くて教皇庁から追い出され、犯罪者になった挙句に鳳グループに拾われたドレイク・デュール君だったかな?」
とぼけた口調で、明らかにクラウスは二人を挑発していた。
明らかな挑発だったが、刈谷はニッコリとした張り付いたような笑みを浮かべ、ドレイクは自嘲的な笑みを薄く浮かべて、その挑発をスルー――ではなく、我慢していた。
「君たちが倒した彼らはリクト様保護のために集めた協力者だ」
「狂信者の間違いじゃねぇの?」
間髪入れずの刈谷の物言いに、ドレイクは思わず吹き出しそうになってしまっていたが、すぐにわざとらしく咳払いをして、元の無表情へと戻った。
「失礼な奴だ……まあいい、君たちは教皇庁が行っていた捜査の妨害をしたというわけだが――それがどんな意味かわかるかな?」
「なるほどなぁ、輝士団のマントを一番に剥ぎ取ったわけがようやくわかったぜ……こいつらは偽物の輝士団ではなく、あくまでリクトを助けるためにお前が集めた協力者って立ち位置にするわけだな。そうすりゃ、俺たちは偽物の輝士団を倒したんじゃなくて、善良な協力者たちを倒した悪者になるからな……そうだな、オッサン?」
ドレイクは頷き、クラウスはそうだと言わんばかりに嫌味な笑みを浮かべた。
「そんでもって、輝動隊の俺が手を出したとすれば、輝動隊は責任を取るはめになって、輝動隊の動きを封じることができるってわけね」
「何を言っているのか理解できないが、我々は君たちをここで拘束し、そろそろ来る輝士団に引き渡すことになる。後は輝士団本部で監禁されることになるだろう」
「真実を知る俺たちをこの事件が終わるまで監禁させれば、後はさっさとテメェらの仕事をすればいいだけってわけね……そう簡単に上手く行くと思うか? 聖輝士サマよ――」
静かに感情を高ぶらせていた刈谷の瞳孔が開き、手に持ったナイフと警棒を握り締め、思いきりアスファルトを蹴って、性格悪そうな笑みを浮かべるクラウスに飛びかかる――
――が、刈谷は「どうわっ!」と素っ頓狂な声を出して、思いきり後ろのめりに倒れた。
クラウスに飛びかかる寸前に、ドレイクが刈谷の首根っこを掴んで制止させたせいで、刈谷は情けなく後ろのめりに倒れたのだった。
倒れて強打した後頭部を撫でさすり、涙目の刈谷は恨みがましくドレイクを睨むが、ドレイクはやれやれと言わんばかりに深々とため息を漏らし、冷たい目で刈谷を睨み返した。
「迂闊に手を出すなと言ったはずだ」
「イテテテっ……わかってるけどよ……」
「教皇庁の中でも教皇に次いで発言力がある枢機卿と聖輝士が繋がっている場合が多い。若くして実績が認められたクラウスにも必ずいるはずだ。そんな奴と輝動隊のお前が考えなしに衝突したら、後々面倒になる……輝動隊だけではなく、鳳グループにとってもだ」
ドレイクに諭され、刈谷は忌々しげに大きく舌打ちをして武輝を輝石に戻し、警棒をしまった。渋々ながら落ち着いた刈谷を見て、ドレイクも武輝を輝石に戻した。
抵抗する意志を見せない二人を見て、クラウスは残念そうな表情を浮かべながらも、どことなく満足気で嬉しそうだった。
「……まったく、大和の人選は間違ってなかったみてぇだな」
刈谷は涼しげな表情をしているドレイクを見て、忌々しげにそう呟いた。
そして、二人はクラウスに拘束されてしまい、拘束されてすぐに来た輝士団の手によって、教皇庁から派遣された協力者の妨害、暴行の罪で輝士団本部まで連行されてしまった。
輝士団に指示しながら、二人が連行されるのをクラウスは気分良さそうに眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます