千四百四十一話 キサラと模擬戦に<魔手太陰肺経>の獲得

 実体化しているシュレゴス・ロードは胸元に手を当て、左足を前に出しながら丁寧に会釈を行うように頭を下げてくれた。貴族然としたスタイルだから、かなり渋い。

 足下から<血魔力>と鈍く赫く魔力が円状に展開されると相棒の頭髪の黒い毛が、そのシュレゴス・ロードの足下から出ている魔力から放出されている風の影響で倒れている。

 そのシュレゴス・ロードは、


「――主、闘霊本尊界レグィレスに吸い込まれる時は未知の感覚だったが、主の<血魔力>を得てパワーを得たような気がする」

「回復効果の他に、一時的に魔力と体力の増加がなされている?」

「はい、皆様が回復していたような効果もあると分かります」


 頷いた。

 

「では、イグィレスの拳と籠手に数珠玉を用いた格闘の修業を行う、あ、キサラにお願いしようか」

「ふふ、やっ……勿論です!」


 キサラの喜ぶ表情を見て嬉しさが込み上げる。

 そして、


「次は、この魔軍夜行ノ槍業に飛怪槍のグラド師匠の体を納めたい。その後、相棒が峰閣砦に着くと思うが、<黒衣の王>と<祭祀大綱権>を使い、【古バーヴァイ族の集落跡】の【赤霊ノ溝】で得ていた魔槍グルンバウダーの<バーヴァイの螺旋暗赤刃>と魔大剣ブルアダラーの<バーヴァイの魔風重大剣>を皆に授けるとしよう。それまで、皆、自由にしててくれ」

「はい! ご主人様が皆に授けたのは<バーヴァイの魔刃>のみ。しかし、皆に分ける時、かなり魔力に精神力が消耗しているように見えましたが……」

「あぁ、いいさ、俺よりも皆の強化が重要だ」

「ふふ、はい、ご主人様……ありがとうございます」

「優しい使者様、大好き~」

「そういえば<バーヴァイの魔刃>だけでしたね」

「あぁ、俺も覚えていたが、<バーヴァイの魔刃>はどうもな」


 アドゥムブラリの言葉だ。すると、キサラが、


「なぜです? <魔弓魔霊・レポンヌクス>からの<魔矢魔霊・レームル>のほうが威力が?」

「単なる癖だ。どうしても<魔弓魔霊・レポンヌクス>を使いたくなる……偽魔皇の擬三日月なら<バーヴァイの魔刃>は繰り出せると思うから今度使うか……」


 アドゥムブラリの言葉に頷いた。

 キサラは、


「なるほどです。そして、聖なる暗闇で<バーヴァイの魔刃>は繰り出せるので、べんりは便利ですが、わたしには<バーヴァイの螺旋暗赤刃>のほうがありがたいです」

「ダモアヌンの魔槍だからな」

「はい」

「「楽しみですぞ!」」


 ゼメタスとアドモスの気合い漲る言葉に頷いて、


「おう、魑魅魍魎な魔貴族たちの晩餐会と戦った時、盛大に光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが<バーヴァイの魔刃>を繰り出していたからな」


 あの一撃は俺たちの未来を示しているような感じだった。

 ゼメタスとアドモスの剛毅果断の思いが感じられた。


「見ていました。先陣を飾る光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは頼もしかったです」

「「「「はい」」」」

「あぁ、そうだな、本当に頼もしい」

「「うむ」」


 ヴィーネ、キサラ、ビュシエ、キッカ、アドゥムブラリ、イモリザの皆が頷きつつ返事をしてはゼメタスとアドモスを見やる。


 尊敬の眼差しを全身に浴びるゼメタスとアドモスは、皆の言葉を聞いて嬉しかったのか、兜の前立てと頭頂部の日の出のような旭日が強く輝いた。

 体から噴出している黒と赤の蒸気、煙、炎にも見える魔力量が一気に増えた。

 噴出具合を、皆は〝ぼあぼあ〟と評したが、今ではもう〝ごうごう〟に近い。

 自然と<沸ノ闘魂>を強めたようだな。

 その光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを見て、


「あぁ、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは俺の大将軍だ」


 と発言するとゼメタスとアドモスは体から噴出させていた炎を止めた。

 甲冑の装甲の至るところを振動させて、漆黒に銀色と金色に赤色の筋肉の筋だと思うが鋼の筋の群れがうねる。と、胸元の輝く肋骨が少し蛇腹機動で波打っていく。更に体からルシヴァルの紋章樹の形状の魔力を大放出しては「「オオオオオォ!!」と叫ぶ。そのうえ、


「「……閣下の、だ、大将軍!!!!」」

「……か、感動で、どうにかなってしまう……」

「あぁ……感涙だ、ゼメタスよ、我らはこの胸の高まりのまま蒸発してしまうのか?」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは己の体から噴出させている黒と赤の魔力に包まれて見えなくなってしまった。


 そのまま、


「私たちは体が朽ち果てようとも、今の言葉は永遠に忘れませぬ!!」

「忘れませぬ!!」

「わすれませぬぅぅ♪」

「にゃァァ~♪」

「オゥ~ン♪」


 イモリザと銀灰猫メト犀花サイファが、ゼメタスとアドモスのモノマネを行うが、銀灰猫メト犀花サイファは可愛いだけだな。

 ゼメタスとアドモスは魔力の噴出を止めると、俺を見て、


「閣下、<バーヴァイの魔風重大剣>なら名剣・光魔黒骨清濁牙で繰り出せるかもしれないですぞ」

「いつか骨槍をも入手できれば、<バーヴァイの螺旋暗赤刃>も出せるかもしれませぬ!」

「そうだな。そして、赤霊ベゲドアードのほうが黒衣のバケン・ダスル将軍と黒衣のレバナウン将軍よりも強かったから<バーヴァイの魔刃>のほうが威力は上かも知れないが」

「――は、はい、そうだとしても閣下から授けていただけることが至上の喜びなのです!」

「――はい!!」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは片膝の頭で相棒の頭部を突く。

 二人は頭を垂れた、星屑のマントも似合う。

 

 現在の魔具の闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの指環の原形は、闇神リヴォグラフの惑星セラ側の大眷属サビード・ケンツィルが持っていたが、ゾルが、クローンのクナと魔迷宮サビード・ケンツィルと取り引きを行い魔具の指輪を入手していた。


 そのゾルはヘカトレイルの一級魔術師で【魔術総武会】の幹部で貴族。

 俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>のミスティの兄だった。


 しかし、巡り巡っての縁と楔が、ここまで成長するのは凄すぎる。

 最初に、ゼメタスとアドモスだった骨騎士を生み出した時は驚いた。

 そんな二人から魔界セブドラの知識を聞いたんだよなぁ。

 あの頃、魔界セブドラなんて完全な地獄のような印象でしかなかったが……今、俺たちがいるところは、その魔界セブドラだ……と感慨深さを得ながら二人を見た。


「ゼメタスとアドモスが喜ぶのも分かります、宗主からスキルを頂けるのは嬉しいです」

「はい、とても……ふふ」

「うむ、<バーヴァイの魔刃>は良いが、我には接近戦に移行させるための道具に過ぎぬ」


 キッカとビュシエとキスマリの言葉に頷いた。

 イモリザは、


「強化は嬉しいですが【峰閣砦】にいるマルアちゃんたちに色々と報告したいー」

「あぁ、では、訓練を開始する」

「「「「はい!」」」」

「「承知」」

「了解」

「シュウヤ様、途中から混ざっても良いでしょうか」

「おう、格闘の模擬戦をやろう」

「ふふ、はい!」


 キサラの笑みに魅了された。

 ヴィーネとイモリザとビュシエとキッカにキサラは肩を叩かれ置かれては、


「キサラは格闘術も得意だからな、ご主人様を頼む」

「がんばってください~」

「わたしも特訓したい~いいな~♪」

「羨ましいですが、キサラとシュウヤ様の絆は聞いています。がんばってください」


 と話をしている。

 その皆に、イグィレスの拳と籠手に数珠玉を見せてから――。

 周囲に浮かんでいる漆黒の魔力と<血魔力>が覆う数珠玉を、己の体の防御に回すように操作しつつ<武行氣>を発動させた。


 全身から迸っていく<武行氣>の魔力は風を生むように体を浮かせてくれる。そのまま飛翔を開始した。


 大きい数珠玉の操作は自律的なオートに任せて飛翔しながら右腕で正拳突き。大きい数珠玉の群れが、右腕と左腕と背中を守る。イグィレスの拳と籠手から煌びやかな魔線と繋がる大きい数珠玉を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で叩く遊びができそうだな。と、正拳突きを繰り出す。

 右拳と右腕の周りからシュッと音が響く。引いていた左腕の拳で<滔天拳>――前に突き出た左拳と左腕から陰陽太極図のような印と水魚の形の水飛沫が周囲に飛ぶ。

 その水飛沫を左腕の肘で破壊するように素早くコンパクトな引き手を行う。己の脇を左肘が穿つ勢いの引き手を行いつつ、その左腕の腋を前に晒すように上げた。同時に引いていた右腕で<虎邪拳・黒鴨狩>を繰り出した――右腕が猿臂の如く伸びて突き出る。

 その右腕を直ぐに引き、上げていた左腕で<悪式・霊禹盤打>の左の掌底の打ち下ろしを繰り出し、右足を軸に腰を右に捻りながら左足を振り上げるような<蓬莱無陀蹴>を繰り出した。

 

 横回転しつつ<武行氣>をわざと解除した。慣性の落下――。

 相棒は、


「にゃご!」


 と俺の落下に気付いて驚いて追い掛けようとしてくれたが左腕を上げて、


「大丈夫だ――」


 と言うと神獣ロロは頷いたように横に体を傾ける。そして、


「ボォォォン――」


 と骨鰐魔神ベマドーラーもきてくれた。

 構わず慣性落下の勢いを大きい数珠玉にぶつけるようにアーゼンのブーツの裏で、大きい数珠玉を蹴って高々と跳躍を行う――。

 魔界セブドラの大気を全身に味わうように両手を拡げて横回転――。

 そのまま飛翔も可能だが直ぐに<武行氣>の再発動を行い、<武行氣>の魔力を推進力に飛翔をしていく。


 一瞬で数人の敵に囲まれたことを想定し――。


 宙空で八字立ちを行うように姿勢を維持しつつ左腕を前に突き出す<血仙拳>を繰り出した。

 直ぐに、右膝の<悪式・突鈍膝>を繰り出す。敵対していた幻影の顎を潰すようなイメージのまま右手の<滔天掌打>を繰り出した。

 更に左手の指先を揃えた<血仙瞑貫手>を繰り出す。

 右手の掌底の<血仙掌打>も繰り出しては、<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させた加速から左回し蹴りの<湖月魔蹴>を繰り出した。 

 更に大きい数珠玉を蹴るように<魔経舞踊・蹴殺回し>を行う。

 右足と左足の回し蹴りを連続的に宙空に放ち、数珠玉をも蹴り飛ばしながら横回転後――。

 イグィレスの拳と籠手に数珠玉を意識して複数の数珠玉を引き寄せながら神獣ロロディーヌの頭部に両足で着地をした――。


 直ぐに両腕をクロスさせての押忍の挨拶で締めた。

 ヴィーネたちから拍手が起きる。キサラに向け、


「キサラ先生、宜しくお願いします」

「ふふ、此方こそ宜しくお願いします、やっとです!」

「この模擬戦か?」

「はい。寝ることは少なくなりましたが、夙夜夢寐しゃくやむびの想いが叶った気分です」


 とキサラも礼、俺は<経脈自在>を行う。

 

 キサラは、丹田を中心に<血魔力>が体を巡っていくと姫魔鬼武装を格闘用の装束に変化させた。額のルシヴァルの魁石が付いている蓬莱飾り風のサークレットは変わらないが<魔戦酒胴衣>と少し似た可愛い武道着に変化させた。 

 四天魔女と魁ノ光魔魔女の意味があるような印もある。

 キサラは展開したアイマスクを一対の角に収斂し仕舞う。

 乳房が揺れる姿が魅惑的すぎて、くらっとしたが律した。

 魅惑的なキサラは<透纏>を使ったようだ。目尻付近にミミズ腫れのような血管が浮いている。黒いアイシャドウが少し不気味に見えた。


 そのキサラは修道女風の衣装とは異なるから、魔界セブドラにきたことで<筆頭従者長選ばれし眷属>として成長している証拠かな。


「黒魔女教団の天魔女流〝天魔女流白照闇凝武譜〟の<魔手太陰肺経>と<血手光魔肺経>と<光魔太極経>に<血天魔女陰陽経>などのすべてを使います。あ、シュウヤ様は<経脈自在>を使用してください。多分ですが、今回の模擬戦で……」

「あぁ、そうだな、もう使った。キサラ先生の<魔手太陰肺経>か<血手光魔肺経>を学べるかもだな」

「はい!」

「おう、では、空でやろうか数珠玉を足場に利用していいからな」

「はい!」


 キサラと共に相棒の頭部から離れた――。

 キサラは直ぐに<魔闘術>系統を強める。最初からキサラは全開か。

 <血魔力>を纏ったキサラは『魔漁掌刃』の構えを崩し、<魔手太陰肺経>から連なる天魔女功の根幹を示すように迅速に右の掌底を繰り出してくる――その右手で受け払うと今度は左手の掌底が胸元にきた。


 掌底を左手で<血仙掌打>で弾くが、


「ふふ、<白照血拳>を完璧に防いだシュウヤ様は、本当に強い!」


 白絹のような髪が揺らいで蒼い双眸を少し隠す――。

 サイデイルでの模擬戦を行っていた姿と重なった。

 キサラは怯まない<魔手太陰肺経>を強めたように連続とした掌打を繰り出してきた。


 ――受けに回る。掌底に拳の<闇凝拳>の連続攻撃を防ぐ。


「その防具を崩すのは容易ではない。無理ですね」

「あぁ」


 イグィレスの拳と籠手に数珠玉の防具は硬い。

 それでもキサラの打撃は<魔戦酒胴衣>越しに何度も体に喰らう。

 <魔人武術・光魔擒拿>で掴もうとして、キサラの柔らかい肌だから気を付けたいとか考えた直後に、片手を取られて投げられそうになってしまう。

 が、無我のまま<滔天仙正理大綱>を意識し発動――。

 両腕で<滔天掌打>と<血仙拳>に<滔天拳>を繰り出し<血脈冥想>を行いつつキサラの掌打と<魔手太陰肺経>を学ぶように戦いながら心を静めた――。

 キサラの<血魔力>を活かした「<光魔血凝肘槌>――」という名の連続肘打撃をキサラから習っていた<魔手太陰肺経>で簡単に往なした直後――。


 ピコーン※<魔手太陰肺経>※恒久スキル獲得※


 やった!!

 と、まだ戦い、模擬戦は続いている――。

 キサラの<闇凝拳>か不明な拳を往なす。

 キサラはイグィレスの拳と籠手に数珠玉を簡単に弾く。

 と、反撃に<滔天拳>を繰り出したが、キサラの<血魔力>を活かした<光魔太極経>で簡単に往なされた――。

 直ぐに<光魔血仙経>を発動し、あらゆる能力を一段、二段、上昇させると、キサラの動きが遅く感じられた。

 <魔手太陰肺経>の効果もあるだろう。


『閣下の腕の周りの魔力と体を巡る魔力の速度が上昇したように見えます、今までも速かったですが――』

『おう、<魔手太陰肺経>を獲得した』

『なんと!』


 続けて左腕の<滔天掌打>を弾かれたが、キサラの体幹の軸が少しズレるそこを見逃さない。

 キサラの左腕を<魔人武術・光魔擒拿>で掴むが、腕と体を回転させて、俺を投げてくるが、が、僅かに隙があるところを風槍流の『中段受け崩し』から『右背攻』をキサラの半身に衝突させることに成功――。


「きゃぁ――」


 と<滔天魔経>を発動、強めて吹き飛んでいたキサラの下に向かい――そのキサラの体を肩に抱く――。


「ぁ……ふふ、負けです」


 そのまま御姫様抱っこを行いつつ神獣ロロディーヌの頭部に着地――。

 キサラに「打撃は結構な勢いで入ったと思うが、大丈夫か?」と聞くと、


 俺の胸元に顔を寄せていたキサラは、


「は、はい……大丈夫です」

「良かった、では」


 と立ってもらった。


「シュウヤ様、途中から、わたしの打撃の往なし方がスムーズになりましたが、もしや……」

「おう、<魔手太陰肺経>を学べた。スキルを獲得できた」

「「「「おぉ!」」」」

「わぁ~ついに!!」

「やりましたね~」

「おう!」

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