千四百四十二話 峰閣砦に帰還と飛怪槍のグラド師匠の記憶

 <魔手太陰肺経>の獲得を皆が喜んでくれた。

 魔皇メイジナ様とヴィーネとビュシエとアドゥムブラリが拍手してくれている。そのメイジナ様の腕の数は六本だから拍手が一段と大きい。

 皆が拍手を止めると、アドゥムブラリが「ハハッ」と笑って片手を上げながら近付いてきて、


「主、サイデイルの日々を思い出したぜ、あの日々は無駄じゃなかったんだな――」

「あぁ」


 アドゥムブラリとハイタッチ――。

 アドゥムブラリは背の黒い翼を畳む。


「「――閣下!」」

「我が主の成長は、我らを強くする!」

「骨ァァ命ァァ、閣下に捧げる、おうおっおっおう~」

「アァァ~骨ァァ、閣下に捧げるぅ、おうおっおっおう~」

「「おおぅ!!」」


 ゼメタスとアドモスが豪快に歌い出しては、片膝の頭を下ろして頭を垂れてくる。シュレゴス・ロードも同じく片膝を下ろしていた。


「ゼメタスとアドモスとシュレ、いいから頭をあげてくれ」


 と言いながらイグィレスの拳と籠手に数珠玉を闘霊本尊界レグィレスのネックレスに仕舞うように意識すると、拳と籠手の防具は数珠玉に戻り、一瞬で収縮してネックレスのクリスタルの中へと転移した。


 そのまま『魔漁掌刃』の構えから両手を活かす掌底の動きを皆に見せた。


「「「おぉ~」」」

「総帥とキサラ様が渋すぎる~」


 キサラも俺の動きを後追いしている。

 そのまま皆の前で演舞を少しして、押忍の挨拶――。


「きゃぁ~総帥様~」


 神獣ロロディーヌの後頭部に集まっている魔犀花流の人面瘡を肩防具に持つ兵士たちの声に応えるように片腕を上げた。

 メイジナ様は、


「二人とも見事だったぞ、眷属のキサラからはダモアヌンの魔槍を扱う天魔女流と聞いていたが、格闘も得意でもあるのだな」

「はい」

「キサラは格闘も凄いが槍使いでもあり、短剣の匕首も扱う、腰にぶらさがる魔導書は魔界四九三書の百鬼道で姫魔鬼武装の一つでもある。百鬼道を活かした遠距離魔術を使った支援と遠距離攻撃も豊富に存在するから、オールマイティな面もあるんだ」

「ヴィーネも格闘はできるのか?」

「あ、それなりに対処はできますが、キサラのようにはできません、剣と弓に魔法です」

「そうなのか」


 とメイジナ様と会話をしていく。


「では、次は――」


 腰ベルトに繋がる魔軍夜行ノ槍業を触ると、


「ンン、にゃおおお~」


 遠くに峰閣砦の崖造りの建物が並ぶ山が見えてきた――。

 タクシス大砦と俺たちが戦っていた【メイジナ大平原】と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿の地下遺跡の出入り口が露出した巨大な断崖絶壁となった地形は通り過ぎたか。

 あの巨大な渓谷となっている断崖の地は、これから別の名で呼ばれるようになるんだろうな。まさに魔界セブドラの歴史の一頁だ。


「もうすぐ、南華仙院の兵士たちがいる屯所に峰閣砦です」

「あぁ」


 すると、エヴァの血文字が、


『シュウヤ、峰閣砦の中にいても外の騒ぎが聞こえる。シュウヤたちの凱旋は大変かもしれない、黒鳩連隊の一部が警備しているけど……』

『おう、もうじき街の上空だ』

『分かった』

「暴れるのは困りますが、一般の魔族たちが喜び騒ぐのは分かりますね」

「使者様がいて、皆、心底良かった思いが強い騒ぎですね」

「ふふ、はい、ロロ様もでしょう」


 キッカの言葉に皆が頷いた。


「悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの戦略を体感した国民たちだ、オオノウチの配下と関わっていた一般の方々も多いと思うし、気が気でない毎日だったに違いない」

「「はい」」

「ただ、調子に乗り治安を乱すような、やからが現れるかもです」

「ウォォン! 我が吼えれば直ぐに静まり返るはずだ!」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスの言葉に皆が静まり返り、頷いた。

 ケーゼンベルスは【メイジナ大平原】の【メイジナ大街道】に【メイジナの大街】に【サネハダ街道街】と【ケイン街道】などで自分の人気がどれくらい高いか、気付いているのかは分からない。


「あぁ、ケーゼンベルスの声なら確実だが、ケーゼンベルスは相棒やメトにサイファと大人しくしててくれ」

「うむ!」

「にゃァ」

「オゥ~ン」


 犀花サイファが馬と犀と似た頭部を寄せてくる。

 その頭部と角を撫でていると、アドゥムブラリは、


「一般層は知らないかも知れないが、悪神ギュラゼルバンにはベターン大公とミュラン公などがいたからな……あの魔族喰いの魔貴族連中が【レン・サキナガの峰閣砦】についたら狂瀾怒濤の勢いで崩壊しただろう。それらの存在を知っている強者が【レン・サキナガの峰閣砦】の街にいたら、嬉しさのあまり騒ぎを起こすのは分かるような気がするぜ」

「それはあるな、あの魔族喰らう魔貴族の数は千人以上はいたからな。大公だけでも【メイジナ大街道】のすべての知的生命体を殺し喰らうような存在だろうし、晩餐会の食材に利用しようとするはずだからな」

「あぁ……心底、主が勝利して良かったと思える」

「「ですね」」

「ウォォン! 我も完全に同意する!」

「にゃごぉ~」

「にゃァ~」

「「はい」」


 皆、頷いた。


「悪霊驍将軍ゲーラーには、漆黒の虚炎魔神ガラビリスもいた。ご主人様や魔皇獣咆ケーゼンベルスがいなければ、【メイジナ大平原】は暗黒時代になっていたはずです」

「わたしもそう思う、シュウヤに助けられて本当に良かった」


 魔皇メイジナ様の発言に皆が頷いた。


「「はい」」

「「ふふ」」

「はい、素晴らしい経験にもなりました」


 キサラとビュシエたちの言葉に嬉しさを覚えながら、頷いた。

 ヴィーネは、


「【メイジナ大平原】の街で暮らす大魔商たちも一安心でしょう」


 と発言。頷いたが、アドゥムブラリが、


「が、魔界セブドラの神絵巻に載るほどの恐王ノクターでさえ魔商人ベクターとして、どこかの街で用事を済ませる場所でもあるからな……悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターの軍勢が迫っても直ぐ逃げられる算段か、直に戦える戦力を密かに用意していたんではないか?」

「それはあるかもな」

「「はい」」

「そうですね、スキルや魔法にマジックアイテムの可能性は様々、神々でさえ絶対ではない」


 キサラの言葉に皆が神妙な表情を浮かべる。


「ンン、にゃおぉぉ~」

「にゃァ」


 相棒のロロディーヌと銀灰猫メトもキサラの言葉に同意するように鳴いている。足下が揺れたように神獣ロロは頭部を揺らしながら鳴いていた。アドゥムブラリが、


「主、大魔商ドムラチュアが持つ、アムシャビスの光玉のことだが……」

「おう、ギリアムとミツラガは峰閣砦にいる。その大魔商ドムラチュアとの交渉には俺も参加しよう」

「それは当然だが、その大魔商ドムラチュアよりも先にギュラゼルバンの討伐を優先してくれていい」

「いいのか?」

「【グィリーフィル地方】の元悪神だった存在は、主がもっとも嫌うタイプだろう?」

「あぁ、そうだな」


 チラッと魔皇メイジナ様を見ると魔皇メイジナ様も頷いた。

 アドゥムブラリも、


「俺もだ」


 と発言、そのアドゥムブラリの笑みを見ながら自然と笑顔となって、互いに頷いた。魔煙草を差し出したくなる表情だ。

 野郎の友もいいもんだな。友というか大眷属か。

 そのまま皆と話をしながら相棒の長い耳を触っては神獣ロロの頭部の端に移動する。眼下を見ると碁盤の目のように縦横に等間隔に並び建つ建物が見えた。もうここは【サネハダ街道街】の街並み。

 峰閣砦の北側は【サネハダ街道街】と【ケイン街道】だ。

 大魔商ドムラチュアがいる街。その幾つかの大通りに無数の魔族たちが犇めいて祭りのようなことが行われていた。

 魔法と花火を宙空で炸裂させている。魔法使いに魔術師の魔族の方もいて、凄まじい大歓声が起きていた。俺たちに手を振っている方々も多い。

 建物の屋根やベランダと屋上にいる四眼四腕の魔族と二眼二腕の魔族たちは魔酒を片手にどんちゃん騒ぎを起こしている。

  

「相棒、南華仙院の皆とも挨拶していく。少し降下してくれ」

「ンン」


 徐々に下降していくと「「「「ゴオォォォォ」」」」と空気を震わせる勢いの大歓声が聞こえてきた。

 共鳴が凄まじい。盛大な勝利を祝う謳にも聞こえてくる。

 何処となく、バーヴァイ地方の空から蒼い光が押し寄せるような空の色合いにも見えた。〝魔神殺しの蒼き連柱〟が強まった?

 無数の魂たちの共鳴が魔界セブドラの空に干渉して影響を与えている?

 

 そんなことを考えながら空から街を埋め尽くさんと集まっている方々に手を振っていると神獣ロロは【レン・サキナガの峰閣砦】の方へと飛翔していく。

 【サネハダ街道街】にある屯所に近付いたところで、南華仙院の坊主頭の戦士たちを連れたシュアノが一気に寄ってきた。

 明櫂戦仙女のニナはここにはいない、峰閣砦か。


「――シュウヤ様~」

「――シュウヤ様! あ、骨鰐魔神ベマドーラーも初めまして!」


 フィナプルスも飛来してきた。


「ンンンン~」

「「ボォォォォォン、ボボボッ、ボボッ!」


 骨鰐魔神ベマドーラーもフィナプルスと南華仙院の皆に返事を行う。

 そして、相棒はフィナプルスを撫でたいんだと思うが無数の触手をフィナプルスに向けていく。と、フィナプルスは、その触手の軌道を読み切ったように避けまくる。

 そのフィナプルスは横回転しながら近付いて、


「ふふ、ロロ様、すみません~、そして、シュウヤ様、戦に勝利とのこと、おめでとうございます」


 フィナプルスはラ・ケラーダの挨拶をしてくれた。

 俺もラ・ケラーダの挨拶を返し、


「――おう、悪神ギュラゼルバンを倒したが、ギュラゼルバンは依代を活かして【グィリーフィル地方】で復活してしまったんだ。だが魔神としての神格は失っている。そのギュラゼルバンの大眷属の魔虚大鷹クヒランから降伏の意味と思うアイテムを得ているが魔皇メイジナ様を助けるさいに、当時の記憶を見たんだ。悪神ギュラゼルバンは女性を……とにかく最悪な部類のやつだった、だから早めに滅しに向かうつもりだ」

「はい」

『……六眼バーテが履いていた赤い靴は無理やりに装備させていたのかもな』

『そうね……あの時は六眼バーテが凶悪な印象だったけど、実は……』

『ふむ、過去は過去じゃ』

 

 魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちも魔皇メイジナ様の記憶を体感していたか。


「あっ」


 とフィナプルスは相棒の触手に捕まった。

 白い大きい翼から白い羽が周囲に無数に散る。

 一瞬、鳩や鳥が蛇や猫に捕まったような印象に見えたが、フィナプルスは笑顔で相棒の大きい触手に抱きついては解放されると、「ロロ様ァァァ」と神獣ロロの大きい胸元に突撃している。


「ンン、にゃぁぁ~」

 

 神獣ロロも嬉しそう。

 さて、シュアノと南華仙院たちに、


「皆、今の話に血文字を聞いていると思うが、悪神ギュラゼルバンを倒した。恐王ノクターとは交渉し、軍は撤退している」

「はい! 戦勝おめでとうございます!」

「おう、ニナは峰閣砦にいるのかな」


 シュアノは、


「はい、レン様とエヴァ様とサシィ様に古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤ様と四腕騎士バミアル様と色々と話をしていました。わたしもマルアちゃん、あ、マルア様とミレイヴァル様とバーヴァイ城にいるエラリエース様とテン様たちについての話をしていました。そして、ここに戻るついでにフィナプルス様と共に【レン・サキナガの峰閣砦】の周辺地域を巡回していました」


 頭部に戻ってきたフィナプルスも頷いている。 

 黒髪が乱れに乱れているが、美人さんだから、それもまた一つの髪形に見えた。


「そっか、シュアノと南華仙院の皆、よく待機をしてくれていた。皆をマホロバの地に送るのは数日後の予定だが、それでもいいかな」


 坊主頭の南華仙院の戦士団の中からマズナラとキヨハベも前に出て、明櫂戦仙女のシュアノの隣に並び、


「「「はい!」」」

「「はい、何日でも待ちまする!」」

「「「「はい!」」」」


 と南華仙院の皆も返事をしてくれた。

 老兵バムトもいる。


「おう。では、俺たちは戦勝報告しに峰閣砦に向かうが、一先ず骨鰐魔神ベマドーラーに乗ってくれ。魔犀花流の兵士たちも、骨鰐魔神ベマドーラーに移動してくれ」

「「「「「「はい!」」」」」」


 南華仙院の方々は骨鰐魔神ベマドーラーの背に向かった。

 シュアノも行こうしているから、


「あ、シュアノと巧手四櫂は峰閣砦に一緒に行こうか」

「「「ハッ」」」

「はい!」

「承知!」


 シュアノは神獣ロロの頭部に来る。

 巧手四櫂のゾウバチ、インミミ、イズチ、ズィルは、人面瘡を肩に擁した魔鎧を着ている兵士たちを見ては、イズチが、


「お前たち総師の言葉を聞いただろう! 南華仙院の兵士たちにどのような戦いだったか、説明をし、状況を正確に伝えるのだ!!」

「「「「「はい!」」」」」


 魔犀花流の兵士たちも骨鰐魔神ベマドーラーに向かう。

 幅広な剣刃が剥き出したままの状態だが大広間の大半は残っているし、休める場所は多い。

 

 さて、相棒は直進――。

 峰閣砦のほうも凄いことになっていた。

 無数の紙吹雪に燃えた紙吹雪と紙飛行が乱舞していく。

 無数の魔法の花火が俺たちを出迎えてくる。


 大砲じみた音も炸裂しているし、祭り処の騒ぎではないな。


 更に、巨大な凧や鯉のぼりが至るところを行き交う。

 幻影的に燃えている凧や紙鳶はだれかのスキルだろうか。

 あ、レンやロロディーヌに俺の大首絵が描かれた巨大な凧があった。

 

 峰閣砦の昇降台と各階層の踊り場と階段に魔塔の板の間の崖造りの板の廊下の上と、屋根の上にも魔族たちがびっしりと並びながら俺たちに手を振っていた。


「「「シュウヤ様ァァァァ」」」

「「「わあぁぁぁぁぁ~」」」

「「「神獣様~~」」」

「げぇ、骨の鰐もいるぞ!!」

「あの骨の鰐はなんだぁぁぁ」

「俺たちの戦神のお帰りだぁ」

「ばかやろ、戦神では神界の敵だろうが! 魔英雄で救世主の魔戦神様がシュウヤ様だ!!」

「素直に魔英雄でいいだろうが!」

「「「「魔英雄~~」」」」

「「「「おぉぉぉ~」」」」


 皆、大興奮状態だ。【レン・サキナガの峰閣砦】の生産活動が止まっていそう。

 それはそれで拙いとは思うが、今日ぐらいはいいか。

 悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの脅威が消えたんだからな。


 そして、巨大な神獣ロロの斜め右後方を飛翔している骨鰐魔神ベマドーラーに向け――。


『隠れてくれ、<隠身ハイド>に<無影歩>を頼む』


 などの思念を連続的に送ると骨鰐魔神ベマドーラーは半透明な魔力を発した。

 一瞬で骨鰐魔神ベマドーラーの全身が半透明な魔線に包まれる。

 姿が虚ろとなると骨鰐魔神ベマドーラーの半径数メートルの空間がブレて骨鰐魔神ベマドーラーが魔界セブドラから隔絶されたように見えにくくなった。


 静止した状態なら魔察眼や<闇透纏視>なら簡単に位置が見破られるはず。


 と思ったが、急上昇を行う骨鰐魔神ベマドーラーの姿が見えない。

 蒼い夜空に溶け込む? 速度を出せばあれで十分か、ステルスモードに移行してくれた。


 骨鰐魔神ベマドーラーから「ボォォォォッ――」と鳴き声が斜め後方から響く。

 そこに移動していたのか、と、その骨鰐魔神ベマドーラーは頭部だけの隠蔽を少し解いた。


 刹那、周囲から


「なんだあの骨の頭蓋骨は!!」

「鰐? 骨鰐の巨大怪物が出たぞぉぉ!!」


 と騒ぎになった黒鳩連隊は笑って、騒いでいる魔族たちを止めているから大丈夫だが――。

 直ぐに骨鰐魔神ベマドーラーに『暫し、隠れててくれ』と思念を飛ばす。

 骨鰐魔神ベマドーラーは「ボボッボボッ」と鳴き声を発し、頭部の周りに半透明な魔線を展開させると骨鰐魔神ベマドーラーの頭部の周囲が先ほどと同じく隔絶される。と一瞬で頭部が半透明と化して全身の姿と同じく見にくくなった。

 その骨鰐魔神ベマドーラーは峰閣砦の斜め左上のほうに飛翔していく。

 肉眼で、飛翔しているステルスモードの骨鰐魔神ベマドーラーを追うことは難しい。


 そのステルスモードの骨鰐魔神ベマドーラーに、


『峰閣砦の真上辺りで待機しといてくれ。【レン・サキナガの峰閣砦】に近付く怪しい存在がいたら逃げていいからな』


「ボォォォォッ――」


 と骨鰐魔神ベマドーラーは鳴き声を響かせてくる。

 南華仙院と魔犀花流の兵士たちを乗せている骨鰐魔神ベマドーラーの姿は肉眼では見えないが、魔察眼では、峰閣砦の真上にいると分かる。 


 さて、その峰閣砦を見るように振り向いた。

 大きい昇降台が止まる踊り場には、エヴァとレンとサシィにアキサダがいる。


 アキサダの両手はナロミヴァスの魔法の枷により拘束されていた。


 監獄主監ルミコは見えない。ナロミヴァスの横にはアンブルサンとアポルアもいる。

 元バリィアン族の<従者長>ラムラントに、<筆頭従者長選ばれし眷属>バーソロンと、光魔騎士ヴィナトロスと光魔騎士グラドにエトアとアミラとマルアとミレイヴァルもいる。


 古バーヴァイ族だった四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルもいた。


 その皆に、片手を上げると、


「「「「シュウヤ様のお帰りだァァ」」」」

「「「神獣様と魔英雄様ァァ」」」

「「「「魔英雄様!」」」」

「「「「「おぉぉぉ~」」」」」

「悪神ギュラゼルバンを討伐し、恐王ノクターを退けた、魔英雄!」

「「「「「「おぉぉ~」」」」」」


 と大歓声が上がる。

 神獣ロロの頭部にいる皆に、


「皆、先に【レン・サキナガの峰閣砦】に戻ってくれていい。血文字で報告していると思うが、エヴァとサシィたちに報告を頼む。レンにも伝えておいてくれ」

「「「「「はい」」」」」」

「「「「はい」」」」

「分かりました」

「ご主人様、魔軍夜行ノ槍業に飛怪槍のグラド師匠の体を納めるのですね」

「おう」

「「承知! 先に降りまする――」」


 ゼメタスとアドモスが先に降下するとヴィーネたちも続いた。

 〝巧手四櫂〟のイズチたちも神獣ロロの頭部から離れて飛翔し、峰閣砦の昇降台近くの踊り場に着地する。相棒はまだ大きい姿のままだ。


 戦闘型デバイスから飛怪槍のグラド師匠の手足を出した。


『グラド師匠、お待たせしました』

『うむ!』


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し<血魔力>を覆う。

 腰ベルトにぶら下がるに魔軍夜行ノ槍業に<血魔力>を送りつつ飛怪槍のグラド師匠の手足を魔軍夜行ノ槍業に押し当てると魔軍夜行ノ槍業の中に吸い込まれた。

 

 視界が一変――。

 魔城ルグファントだと思われる石の坂道で、飛怪槍のグラド師匠と魔人武王ガンジスが戦っていた。


 二眼二腕の魔族がグラド師匠。

 四眼四腕の魔族が魔人武王ガンジスか。


 ゼロコンマ数秒も満たない内に数合を打ち合いながら戦う場所を移動させていく。門を潜り坂道に移行した左右に背の高い石灯籠が並ぶ。

 その石灯籠の上に飛怪槍のグラド師匠は、右足の片足を付けて着地――左足は右足の脛に乗せている。変わったスタイルだ。

 左手と右手に鋼の魔槍を持つ。穂先は銀杏穂先で鋭そうだ。

 その二槍流に<血想槍>のような<導魔術>系統の五本の魔槍を浮かばせていた。

 魔人武王ガンジスは腰を低くして頬にできていた切り傷を長い舌で舐めてから、


「ハッ、やるな……お前が魔界八槍卿の頭目……飛怪槍のグラドで間違いないな」


 魔人武王ガンジスの左手には神槍ガンジスが握られている。

 螻蛄首の窪みには神魔石が嵌まり梵字が浮かんでいた。

 槍纓の蒼い毛がない。まだ、旧神ギリメカラを突き刺していないようだな。右手の魔槍は魔槍杖バルドークに似た魔斧槍か。


 俺のスタイルと似ているとか……。


「……うぬが魔人武王ガンジスか、シュリとソーに皆は……」

「あぁ、我に付きまとってきた雷炎槍と妙神槍の使い手か、今頃はパーシヴァルかギガンホーが相手をしているはずだ――」


 と、魔人武王ガンジスの姿が消える。

 否、<雷飛>を使った理解――。

 凄まじい加速力からの神槍ガンジスを振るう。

 ――<闇雷・飛閃>と似たスキルか。

 飛怪槍のグラド師匠の胴体を方天画戟と似た穂先が捉えたかに見えたが――影のように飛怪槍のグラド師匠が揺らいで消えた。

 

「……」


 魔人武王ガンジスは左を見やる。

 飛怪槍のグラド師匠は、


「カカカッ」


 と石灯籠に上に左足一本で立ちながら笑っている。

 胴衣の端が揺らいでいた。影のような魔力を発生させている。今度は左足の上に右足を乗せていた。

 そのグラド師匠は、両手の左手と右手に鋼の魔槍を浮かばせて、


「一閃の軌道読みやすいのぅ……」


 と言いながら両手の指を動かすと、影のような魔力が、その動く指に吸い付いていく、指の数が増えていくように見えた。


「ハッ、<陽目陰閃>だ。それを余裕の間で避けていたが、その影のような魔力がお前の飛怪槍の源か?」


 グラド師匠は魔人武王ガンジスの言葉に応えず。

 瞳が一点の赤い点になったように異常に収縮させると顔の皺が急激に増えていく。

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