千四百三十五話 恐王ノクター
恐王ノクターらしき存在を凝視。
頭部に巻き付いている灰色の布は眼球が無いように眼窩の中にめり込んでいる。
布には<血魔力>が溢れ出て、垂れていた。
二眼二腕の魔族、否、人族と呼べる姿は魔界セブドラの神絵巻に載っていた通り。胸元が開いた外套は載っていなかったが、下に着ている
その影響で頭部と足下の空間が揺らいでいるんだろうか。
すると、
「『――そこの大魔獣に乗った戦力の者、そこまでだ、止まれ』」
と神意力を有した言葉で警告してきた。
その恐王ノクターの隣にいる魔術師の二眼二腕二足の魔族が、左右へと移動してから恐王ノクターに一礼し、魔杖を両手に召喚し、掲げると、
『「マハティク、ア、キジィ、ラ、ズィリィル――我らの恐王ノクター様が体現せり」』
「マハティク、ア、キジィ、ラ、ズィリィル――我らの恐王ノクター体様が現せり」』
一人は神意力を含んでいる呪文を唱えた直後――。
「『ウォル・シン・ダルア――』」
二人の魔杖から無数の魔線が迸る。
魔線の幾つかは一瞬で数体の怪物に変質した。
その怪物は無数の腕で三日月状を象り、胴体と下腹部の器官と足らしき器官を作る。三日月状の表面に人族の顔と魔族の顔がポコポコと音を立てて出現しては口が裂けて口の襞が伸縮しながら揺れてカラカラと嗤い声を響かせる。裂けた口からは紫色の魔力粒子が大量に吐かれていた。
二体の奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵か。
かなり強そうだ。下の軍隊にいる白い毛が覆う頭部に無数の角を生やし、長い四本腕を持つ黒毛の上半身と、下腹部が蠅の頭部で、その下が分厚い肉のスカート足を持つ存在よりも魔力量は多い。
一方、恐王ノクターらしき存在の上空に向かった魔線は
そのズレた巨大な空間は巨大な恐王ノクターの姿に変化を遂げる。
神獣ロロディーヌと同じような大きさ。
体長は最低でも五十メートルはありそうだ。
双眸を灰色の布で隠している。
真下にいる恐王ノクターらしき存在と誕生した巨人の恐王ノクターは魔線で繋がっていた。
二体の恐王ノクターと奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵と二名の魔術師を見てから、
「皆、戦いとなったら各自の判断に任せるが、今は様子見だ、基本に相棒から離れるなよ、ヘルメは左目にこい、グィヴァは相棒と共に皆を頼む、ゼメタスとアドモスも一緒に来い」
「ハッ、お任せあれ!」
「ハッ、閣下の骨盾としての任を嬉しく思いまする!」
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を強めた二人は兜を煌めかせて、兜の横の左右の角が伸びて槍烏賊の形状となった。
槍烏賊のヒレが上下に回転し細かな孔から虹色の魔力が展開され、骨盾と星屑のマントと繋がる。
骨盾と槍烏賊の兜の縁が真っ赤に変色し虹色の魔力も取り込みながら囂々と煌びやかな炎を放出していく。
直ぐにヘルメも、
「はい、閣下、左目に行きます」
一瞬で液体状態になったヘルメは、突進し、左目に飛び込んでくる。
「「「はい」」」
ヴィーネたちの声を聞きながら左目にヘルメを格納した。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは相棒の頭部から跳躍。
前方を飛翔するように足下から月虹の魔力を発して進む。
俺も神獣ロロディーヌの頭部を歩きつつ、片手を上げて、大きい片耳の内側と外側を触ってから「ンン」と喉声を響かせる相棒の頭部の端に移動して前へ跳ぶ――ゼメタスとアドモスの星屑のマントの揺らぎを見つつ<武行氣>を発動――全身から魔力を放ち上昇し、そのまま推進力を活かすように前方へと飛翔を行った。
ゼメタスとアドモスと共に恐王ノクターへと近付いてから、
「ゼメタスとアドモス、ここで待機」
「「ハッ」」
と三人で静止。
巨大な恐王ノクターと普通の大きさの魔族と変わらない見た目の恐王ノクターは、
「「『お前が【レン・サキナガの峰閣砦】で我らの活動を阻害し続けた槍使いだな』」」
と声をハモらせながら聞いてくる。
左と右にいる魔術師と、奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵は少し動いただけで、攻撃はしてこない。
巨人の恐王ノクターと普通の恐王ノクターがいるが普通の大きさの恐王ノクターに、
「そうです。貴方は恐王ノクターでしょうか」
「無論だ、そして悪神ギュラゼルバンを倒したようだな」
と下の恐王ノクターは神意力を外して喋ってくれた。頷いて、
「はい、先ほど倒しました。ギュラゼルバンの軍勢も退いている。恐王ノクターは軍を進めて【メイジナ大平原】に【レン・サキナガの峰閣砦】や【古バーヴァイ族の集落跡】に【バーヴァイ地方】を攻めるつもりですか?」
「ふっ、攻めるつもりならば最初から攻めている」
「では、下の軍勢がここで待機し続けている理由は?」
「様々だ」
【マセグド大平原】の戦いの対策か。
が、それは様々と語った一つだろう。
「退いてくれるとありがたいんですが」
『「――ハッ、我に指図をするつもりか、槍使い!」』
一瞬、バチッと目の前で何かが弾けた音が響いたように精神攻撃か。
ゼメタスとアドモスは立ち眩みをしたようにフラついていたが、直ぐに体勢を直す。
『閣下、一瞬、視界がブレました。巨人の恐王ノクターが本物なのでしょうか』
『<闇透纏視>で判別もつかないし、分からない、両方が本物だと思うが……』
『はい、<精霊珠想>の準備はいつでも』
『おう』
「指図ではなく、お願いですよ、戦いたいなら別ですが」
「「『不遜――』」」
と右にいた魔術師と奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵が叫ぶ。
魔術師が闇の炎を発している球を繰り出す。
奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵が無数の多腕を飛ばしてきた。
『「「止めろ――」」』
巨人の恐王ノクターと普通の恐王ノクターの二人が叫ぶと俺に向かってきた闇の炎の球と無数の多腕は一瞬で弾け飛んだ。
「陛下……出過ぎた真似を致しました……」
「「「ノクター様、スミマセヌ……」」」
「ふむ、タヂラオカン、ババルアルザ、トトガ、ドゲルナスは待機のままだ」
「「「ハッ」」」
「承知!」
タヂラオカン、ババルアルザ、トトガ、ドゲルナスが魔術師と奇怪な三日月状の多腕人面モンスター兵の名か。
普通の大きさの恐王ノクターは、俺を見て、
「我と戦いたいか、悪神ギュラゼルバンを倒したことで自信がついたのか、面白いぞ」
「面白い? 神意力をぶち込まれたのは俺たちが先ですから、実際に戦いを試してみましょうか」
<闘気玄装>を強める。
<滔天神働術>――。
<光魔血仙経>――。
<滔天魔経>――。
<経脈自在>――。
<水の神使>――。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>――。
<血道第一・開門>を意識し全身から<血魔力>を放出させる。
<血想槍>を意識して――。
血に浮かせた白蛇竜小神ゲン様の短槍――。
血を纏う聖槍ラマドシュラー。
血を纏う聖槍アロステ――。
血を纏う霊槍ハヴィス――。
血を纏う夜王の傘セイヴァルト――。
血を纏う雷式ラ・ドオラ――。
血を纏う独鈷魔槍――。
右手に神槍ガンジスを召喚した。
左手に仙王槍スーウィンを召喚。
二体の恐王ノクターは俺を見据えて、ニヤリとした。
すると、普通の恐王ノクターは<魔闘術>系統を強めると、闇のオーラのような魔力を発して、その魔力で巨人の恐王ノクターを包むと一瞬で分解させて膨大な闇の魔力に変化させると、その魔力を普通の大きさの恐王ノクターは全身に吸い込んでいた。
その恐王ノクターは、
「……お前は戦神のような気質か、エスパニュラスからの報告では、冷静沈着と聞いてるが……ふむ、槍使い、我は、峰閣砦などから手を退くことを約束しよう」
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