千四百三十四話 恐王ノクターと恐王ノクターの軍勢

 魔皇メイジナ様も


「シュウヤ、骨鰐魔神ベマドーラーの内部から外に飛び出た球体の敵を倒していたが、ギュラゼルバンの大眷属が頭蓋骨の内部に潜んでいたのか? 大公たちは強いしタフで有名だった」

「歪な球体の単体では雑魚でしたが、集合したらタフさを持った人型モンスターでした。ギュラゼルバンの大公や公と呼ばれていたような存在には見えなかったですが、なんとも言えないですね」


 魔皇メイジナ様は五つの眼球をそれぞれに動かして思案氣な表情を浮かべていて、一つの眼球は俺を見ていた。

 小さい唇が動いて、


「……謎の敵か悪神ギュラゼルバンの骨鰐魔神ベマドーラーの魂を狙った寄生魔魂食蟲の類いか、神々に諸侯の眷属が魔街異獣の奪取を狙ったか、どちらにせよ、長い間チャンスを狙っていた存在に違いない」

「その寄生魔魂食蟲とは魂を喰らう寄生虫のような存在ですが?」

「そうだ、宿主を徐々に侵しながら最終的に自分たちの巣穴に誘導し、すべてを喰らう」

「……それは嫌な敵ですね」


 セラにも同じようなモンスターはいたな。

 俺の知る地球の昆虫にも存在した。


「ふっ、大抵は闇属性の蟲だが、光属性を用いたら余裕で倒せるぞ」

「え、光属性も扱えるのですか」

「そうだ。吸収などはできないが、この腕輪と腹巻きと下着のアイテム効果だ」


 と、魔皇メイジナ様は六本の手首と二の腕の腕輪と腹巻きに下着を見せようとしたが、途中で手の動きを止めて防護服の上着を捲るのを止めていた。

 六眼の内の三眼で少し俺を睨むと少し恥ずかしそうな顔色を浮かべていたが、直ぐに表情を誤魔化すように笑みを浮かべて、


「ゴホンッ、シュウヤ、骨鰐魔神ベマドーラーの使役は見事だったぞ」


 魔皇メイジナ様は対応が可愛い。

 珠色と黒色が基調な貴族服も似合っている。

 その魔皇メイジナ様に、


「はい、無事に<骨鰐魔神ベマドーラーの担い手>を得ました」

「操作もスムーズに行えているようだ」

「はい、思念での操作も可能です。が、まだまだ機能、生物的な行動が行える。転移方法などは、これからですね」

「うむ、魔神の神格を持った存在が骨鰐魔神ベマドーラーだからな、直ぐに感覚で理解できるような魔街異獣ではないのだろう」

「そのようです」


 すると、神獣ロロは、


「にゃ、にゃ、にゃおぉぉ~」


 骨鰐魔神ベマドーラーに何かを語るように鳴いた。

 少し一生懸命な声の調子で触手を前に伸ばすと、骨鰐魔神ベマドーラーの頭部を撫でていた。と触手を上下に動かし肉球で俺たちが頭蓋骨の内部へと沈んだ窪みをポンポコポコポンと叩いて確認している。


 ケーゼンベルスは、相棒の気持ちを話してくれたが、俺たちを骨鰐魔神ベマドーラーが喰ったと心配していると言っていたようだからな、調べたいんだろう。

 

 確認の仕方が面白い。

 

 その骨鰐魔神ベマドーラーの頭蓋骨には変化がないが胴回りと足の骨の一部が斜め上に反るように尖りが増している。明滅を繰り返す、消えたようにも見える箇所は旧神の次元魔力を吸い取ったからな?

 肉の部位も本当に増えていた。牛系のモンスターを食べた効果だろう、骨鰐の名前通り骨が基本に変わりないようだ。


 その骨鰐魔神ベマドーラーは眼窩の炎を強めたのか、眼窩から溢れるほどの炎の大きさになると、


「ボォォォォォン、ボボボッ、ボボッ!」

 

 と返事を行っていた。

 神獣ロロは頷き、俺たちは前後に揺れた。

 相棒は骨鰐魔神ベマドーラーの不思議な声を理解したのか?

 その相棒ちゃんは鼻息を荒らすように、


「にゃ、にゃお、にゃお~にゃおぉぉ~」


 とまた鳴いていた。

 すると、銀灰猫メトも巨大な鳴き声の挨拶に釣られたように神獣ロロの鼻先へとトコトコと歩いて、


「ンン、にゃァ~」


 と巨大な骨鰐魔神ベマドーラーに挨拶している。

 骨鰐魔神ベマドーラーは無言だ。

 銀灰猫メトには気付いていないか。

 アドゥムブラリが、


「主よ、神獣と骨鰐魔神ベマドーラーは会話をしているようだな」

「あぁ、挨拶だろう」

「主は、神獣と骨鰐魔神ベマドーラーの鳴き声の意味は理解できているのか?」

「理解か……ロロのほうは何となく分かる。意味は、ほねわに~、こにゃにゃちは~、おしりのにおいは、くちゃいかお~? いいにおいかお? だと思う。骨鰐魔神ベマドーラーのほうも挨拶だろ、状況的に」

「あぁ……ははは」

「はは、面白いが、相棒の翻訳には自信があるぞ」

「あぁ、たしかに、それが正解だろう」

「「ふふ」」

「ふふ、閣下らしい翻訳です。ロロ様も正解だと言っているはず」

「はい、大正解のはずです!」


 闇雷精霊グィヴァが拳を上げて謎の力説。


「ンンン、にゃ~」


 と神獣ロロは体の大きさに似合うような喉声を響かせながらグィヴァの片手を触手で掴むと片手を上げさせていた。


 俺の翻訳は正解だったようだ。


 さて、アドゥムブラリから皆に視線を巡らせてから、


「【タクシス大砦】への報告はレンたちがもう行ったかな」

「はい、既に皆が知るところです。タクシス大砦からも、わたしたちが戦っている戦場の一部は見えていたようですね、勝ち鬨の声が響き渡っているようです」


 ヴィーネの言葉に頷いた。


「恐王ノクターの軍とレン側の北方マニア馬兵団と黒騎虎銃大隊と睨み合っている状況も変化なしかな」


 ヴィーネは頷いて、キサラが、


「はい、〝秘鏡ノ大具〟と〝合わせ秘境〟と黒鳩連隊の人員が常に報告しあっているようですから確実な情報かと。そして、サシィからの血文字で、レンが、『タクシス大砦と北方マニア馬兵団と黒騎虎銃大隊との連絡役を務めていた黒鳩連隊のミトとハットリを恐王ノクターの軍が待機している場所にシュウヤ様たちを案内するように』と指示を出したようです。ですので、わたしたちがタクシス大砦に近付けば、ミトとハットリが合流するとのこと」

「了解した」


 魔族喰いのバアネル族たちから救出したばかりだからな、休んでいてほしいが、こんな状況だ、休んでは居られないか。


 相棒の背中にいる〝巧手四櫂〟の四人と魔犀花流の人面瘡の鎧を着ている方々にも聞こえるように、


「では、皆、行こうか! タクシス大砦は近いが相棒よ、移動を頼む、骨鰐魔神ベマドーラーも進むぞ! 〝巧手四櫂〟のインミミ、ゾウバチ、イズチ、ズィルも頭部に来い!」

「「「「ハッ!」」」」

「「「「はい!」」」」

「「承知!」」

「おう!」

「ボォォォォォン」

「ふふ」

「恐王ノクターが戦を仕掛けてきたら<雷狂蜘蛛>を浴びせてあげます!」

「はい! 魔剣・月華忌憚の錆にしてくれる! 行きましょう」


 相棒は直進、骨鰐魔神ベマドーラーも続いた。

 直ぐにタクシス大砦に到着。


 レン家の兵士の方々が壁上の歩廊に集まっていて、兵士たちは俺たちに手を振ってくれている。魔酒が入った杯を手に持った兵士たちもいた。

 

 酒を持った兵士を叱っているタクシスとアワリの姿も見えた。

 と黒鳩連隊のミトとハットリが近付いてくる。

 相棒の鼻先に移動して、


「――シュウヤ様!」

「悪神ギュラゼルバンの討伐おめでとうございます!」


 浮遊しているミトとハットリは前の姿よりも身なりしっかりとしている。

 胸元に手を当てて礼をしてくれた。

 俺もラ・ケラーダのポーズを返し、


「おう、早速だが、恐王ノクターが陣取っている場所に案内してもらう」


 と発言、二人は、


「はい、お任せを此方です――」

「ついてきてください」

 

 と身を翻した二人は先を飛翔していく。

 直ぐに「ンン――」と鳴いた神獣ロロディーヌは追い掛けた。

「ボォォォォォン」


 と鳴いている骨鰐魔神ベマドーラーも続いた。

 その骨鰐魔神ベマドーラーがいる右後方を振り返りながら、相棒の頭部にいるキサラとヴィーネとイモリザたちを見てから骨鰐魔神ベマドーラーに向け、


『ステルス』、『姿を消してみろ』と念話、思念を送ると、


 一瞬で半透明が強まり、背景と周囲の地形の情報を反射しているように透明化。魔力の流れが微かに分かる程度のステルス機能もあるようだ。


『姿を現せ』と念じると、直ぐに姿を出した。


「ボォォォォッ」


 と鳴いた。


「シュウヤ様、今、骨鰐魔神ベマドーラーは<隠身ハイド>のようなスキルも持つのですね」

「あぁ、試しに使ったら使えた」

「「おぉ」」

「敵の拠点を攻める際に使えますな!」

「姿を消せるのは不意打ちにも使えますぞ」

「使えるが、骨鰐魔神ベマドーラーの周囲には魔力の流れが存在する。魔察眼など<闇透纏視>のような観察力が強まるスキルを持つなら直ぐに察知されるはず」

「はい、それでも有能ですぞ」

「あぁ」


 魔皇メイジナ様に、


「恐王ノクターがいきなり現れるかも知れません。その場合は皆と守りをお願い致します」

「ふっ勿論だとも……」


 魔皇メイジナ様は、俺の左の掌の<シュレゴス・ロードの魔印>から少し出ている半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロード、アドゥムブラリ、キッカ、サイファ、ヴィーネと、その肩に乗って金属鳥イザーローンを肉球パンチしている銀灰猫メト、キスマリ、イモリザ、キサラ、イズチ、ズィル、インミミ、ゾウバチ、ビシュエ、ヘルメ、グィヴァ、ゼメタス、アドモス、リサナを順繰りに見ていく。最後に魔皇獣咆ケーゼンベルスを見て、


「ウォォン!」


 魔皇メイジナ様は微笑んで、


「魔皇獣咆ケーゼンベルス殿も強かった」


 と、会釈。

 半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロード以外の皆は、自然と軍人然と並ぶ。いい面構えだ。魔皇メイジナ様は、そんな多士済々と言える皆に、ケーゼンベルスに続いて何かを語るかと思ったが身なりを戦闘装束に変化させた。


 と、六本の腕の手に六浄魔槍キリウルカ、六浄短槍ベギリアル、六浄魔剣セリアス、六浄魔大斧ガ・ランドア、六浄独鈷コソタクマヤタク、六浄魔刀キリクを召喚。


「シュウヤ、六浄を返そう」

「え?」

「我がシュウヤだと見込んで授けた、と言いたいが実は、この六浄武器がシュウヤを見込んだのだ。我の記憶を見たと思うが、<六浄ノ朱華>のスキルを得たのもそれが理由だろう」

「俺を見込んだ……」

「そうだ。六浄の武器は我が扱えるから闇属性をも内包しているが実は神界側の戦神ソーン、戦神ササナミ、戦神サザナミなどが使っていた光属性の武器でもあるのだ。だからこそ光と闇の専門の光魔ルシヴァルの宗主に似合うと思ってな」

「……戦神の武器、そうでしたか」

「うむ、闇属性が内包の理由だが、我が拾った際に我の魔力に六浄が呼応してくれたのだ」

「武器が呼応を、不思議ですね」

「曰くは色々とあるが――」


 と、飛来してくる六浄魔槍キリウルカ――を右手に掴んで戦闘型デバイスに仕舞う。次に六浄短槍ベギリアルを左手で掴んで六浄魔剣セリアスを右手で掴む。直ぐに戦闘型デバイスに仕舞う。

 続いて六浄魔大斧ガ・ランドアと六浄独鈷コソタクマヤタクを両手で掴んで戦闘型デバイスに仕舞い、六浄魔刀キリクを右手で掴む。

 六浄魔刀キリクの刃は朱色の魔力が漂っている。

 その六浄魔刀キリクを仕舞った。


「ありがとうございます」


 魔皇メイジナ様は直ぐに六本の腕に魔槍グドルルのような武器を召喚する。

 オレンジ色と朱色の炎が薙刀に宿っていた、似合う。


 そこから魔皇メイジナ様と皆が自己紹介を兼ねた雑談が始まった。

 魔皇メイジナ様とイモリザがいつの間にか仲良くなっていた。

 〝巧手四櫂〟たちも笑顔で会話をしている。俺たちが骨鰐魔神ベマドーラーに入っている時に自己紹介を終えていたようだ。


 と、談笑していると平原の前方に恐王ノクターの軍勢と見えた。

 飛翔している俺たちに近い距離にいる軍勢が北方マニア馬兵団と黒騎虎銃大隊だな。総勢、何万ぐらいだ。明らかに恐王ノクターのほうが多い。


 恐王ノクター側の空軍には、大柄の幽体の騎士集団。

 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスのような存在が空にはいた。

 頭巾を被った幽体の戦士集団もいる。眼窩を魔布で隠しているようだ。

 恐王ノクターの眷属に見えたが、ここからでは眷属かは不明。

 

 地上には、大柄の白と黒の体毛に白と黒の樹のような多腕が体に生えまくっている怪物兵士が多い。

 そんな地上の中央の軍の中心には……。

 頭部が白い毛に覆われて茶色の角を生やし、黒毛で覆われた上半身に長い四本腕を持ち、下腹部が大形の蠅の頭部で、下に分厚い肉のスカート足を持つ奇怪な存在がいた。

 

 恐王ノクターではないと分かるが、それに近い存在か?

 

 前衛の両端は色違いの戦闘装束が渋い四眼四腕の魔傭兵集団。

 両端の魔傭兵集団が普通すぎる存在に見えてしまうほど、中央の地上軍には奇怪な怪物たちが多かった。


 白と黒の体毛と白と黒の樹のような素材の多腕が体に生えまくっている怪物兵士が目立つ。


 中でも、もう一度注視してしまうほど、ヤヴァい存在を凝視。

 

 白い毛が覆う頭部に無数の角を生やし、長い四本腕を持つ黒毛の上半身と、下腹部が蠅の頭部で、その下が分厚い肉のスカート足を持つ。

 この存在がかなり奇怪すぎる。

 恐王ノクターではないと思うが、恐王ノクターに極めて近いぐらいに魔力量もヤヴァい。


 悪神ギュラゼルバンの大眷属の一人、片眼鏡を膨れた顔に装備をしていたベターン大公や褐色の翼を持つトーガを着た巨漢魔族ウゲラヌス大公たちが可愛く見えるほどだ。


 飛んでいた黒鳩連隊のミトとハットリが飛行速度を落とした。

 相棒と骨鰐魔神ベマドーラーも速度を落とす。

 ミトとハットリが振り返って此方に飛んでくる。

 相棒の頭部に着地してきた。


「着きました。前方の斜め右に聳え立つ山脈がデェインの隠陽大鉱山があるデェイン山脈です。その周囲が【メイジナ大平原】と【マセグド大平原】となります。奥側にいるのが恐王ノクターの軍勢で、わたしたちに近い側にいる軍勢が北方マニア馬兵団と黒騎虎銃大隊です」


 頷いた。ミトとハットリに、


「了解した、休んでくれていい」

「心遣いはありがとうございます。しかし、別の任務もあります。黒騎虎銃隊隊長シバに書簡も渡す任務もあるので、わたしたちはここで、ご健闘をお祈り致します」

「はい、同じく、ここで失礼を!」

「分かった」

「「ハッ、では――」」


 と直ぐにミトとハットリは相棒の頭部から離れて、急降下するように左側前方へ飛翔していく。黒騎虎銃隊隊長シバが率いている黒騎虎銃大隊に向かった。

 

「相棒、俺たちは、恐王ノクターの軍勢に近付こうか」

「ご主人様、恐王ノクターから接触があると?」

「あぁ、悪神ギュラゼルバンの完全な滅殺はできていないが、倒れたことは察知しているはずだからな、そして、俺たちの行動はある程度予想はしているはず」

「はい、分かりました」

「急襲はないと読むぜ、アキサダと交渉していた話は聞いているからな」

「あぁ」

「ンン――」


 と神獣ロロディーヌと骨鰐魔神ベマドーラーは直進――。

 すると、恐王ノクター側の軍勢の空軍に動きが出ると、そこから俺たちに点々と点滅しながら近付く存在が見えた、魔察眼と<闇透纏視>を同時に行う――点滅している存在は三体、三体とも強大な魔力を内包している。

 中央の存在は特に桁違い、そして、魔界セブドラの神絵巻に載っていた恐王ノクターと少し似ている、外套を着込んでいた。あれが恐王ノクターに間違いないだろう。不自然に上下の空間が揺れている。

 

 

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