千四百三十二話 <断罪槍・薙螺砕>と<骨鰐魔神ベマドーラーの担い手>

 アドゥムブラリが長い金髪を靡かせながら飛翔してくる。

 霊湖水晶の外套と霊湖の水念瓶などアイテムボックスにしまった。

 近くで俺を見ていた魔皇メイジナ様が、「……」と少し股間を見て、頬を赤く染めていたが知らんぷりだ、ゼロコンマ数秒の間にハルホンクの黒ズボンに変更しているが、六眼で魔神だからな動体視力は非常に高いから仕方ない。


 すると、神獣ロロの鼻先で船首像のように立っているシュレゴス・ロードを見たアドゥムブラリは、


「なんだ、その角ありの魔族は!」

「シュレゴス・ロードだ」

「は? 桃色の蛸足が……」


 驚くのも無理はないがシュレゴス・ロードは、


「はい、アドゥムブラリ様、体を得た以外にも様々なスキルを得ました。主と離れて大眷属たちと共に戦えるようになりました、今後は宜しくお願い致しまする」


 その発言に合わせて頷きながら左の掌を見せるようにあげた。


「この<シュレゴス・ロードの魔印>にも若干の変化がある」

「おぉ……テンたちが倒した旧神シュレゴス・ロードがこんな形で、まさかの体を得るとな」

「あぁ」


 アドゥムブラリの発言にシュレゴス・ロードは、細い片目を瞑り、片眼鏡を煌めかせながら己の角のような髪の横に右手の人差し指と中指の鋭い爪を当てて、黙って頭を下げた。それはまるで、紳士が帽子に指先を当てながら頭を下げている態度に見える。


 何処となく髭が特徴的だったポルセンを彷彿とさせる態度だ。


 そんなシュレゴス・ロードの髪の色合いは焦げ茶色と漆黒が多い、根元は少し桃色か。


 その髪を構成しているクリスタル状の繊維質は一部が集積しているから角にも見えた。

 アドゥムブラリはマジマジとシュレゴス・ロードを見る。

 そのアドゥムブラリに、


「悪神ギュラゼルバンが逃げた先は、黒寿草を擁した茎が無数に繁りまくっていた地下空間だった。そこの名は〝列強魔軍地図〟にも刻まれたように【旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿】で、同時に【知能を有した群生旧神の間】でもあり【旧神の墓場】でもあったんだ、そんな地下空間の天井の壁画は生き物のように蠢いていた。更に、宙空に狭間ヴェイルの狭間や【幻瞑暗黒回廊】と似た空間の断裂を思わせる不思議な光景が続いていて、相棒と一緒に飛んでいたんだが、それでも恐怖を感じる場所だった」


 と告げると、アドゥムブラリは神妙な表情を浮かべてから唾を飲み込む。頷いて、


「……あぁ、大体の話はヴィーネとキサラから血文字で聞いている。そんな恐怖が優るところが【旧神の墓場】なのだな……そしてシュレが進化に横にいる六眼六腕の女性魔族が、魔皇メイジナ様か」

「そうだ」


 と言いながら頷いた。

 シュレゴス・ロードと魔皇メイジナ様は頭を下げた。宙空に漂っているアドゥムブラリは魔皇メイジナ様に会釈してからシュレゴス・ロードを見て、


「しかし、あの桃色で半透明蛸が体を得るとは、最低でも魔侯爵級の体を得たか?」

「はい、主とハルホンクからも魔力を頂けた」

「ハッ、ハルホンクも渡したのか、珍しいが魔力をあげるのは主らしい。そして、シュレゴス・ロードは強面だが俺に負けないぐらいのイケメンなこともいいじゃねぇか! お、所々の装備品は蛸のような意匠が施されているのは、もしや、その装備類は意識を持たない武装魔霊のようなスキルとして使えるのか?」

「はい、使えます」


 と、シュレゴス・ロードが肯定。

 アドゥムブラリはニヤリと笑い、


「ビンゴだ、しかし主よ、旧神と知見を共有した<シュレゴス・ロードの魔印>が合わさった結果なんだと思うが、体の構築に武装魔霊のような装備の具現化とか、主の魔法魔術、精神力などが高くないと無理な芸当だぜ。しかも悪神ギュラゼルバンを倒し、ついでに魔皇を救出とか、やってることが普通じゃねぇ、凄すぎるぞ!」


 喋りの勢いが激しいから単眼球の頃を彷彿とさせる。左目の視界に妖精のヘルメが出現し、


『ふふ、昔の単眼球のエロピコだった頃を思い出しました』

『たしかに、エヴァの胸元に卓球球として突っ込んでいた頃が懐かしい』

『ふふ』


 妖精versionのヘルメは小さいが母性ある表情を浮かべていた。感慨深いんだろうなきっと。

 興奮しているアドゥムブラリに、


「おう、シュレゴス・ロードの体の獲得は旧神の墓場だったこともあると思うが、俺自身<無方南華>と<根源ノ魔泉>と<魔仙神功>を獲得して精神と魔力と身体の大幅に強化されたことが大きいか」

「なるほど、魔神ガンゾウとの戦いが、主を一皮剥けさせて、虎に翼を与えたってことか」


 と、相棒をチラッと見るアドゥムブラリ。

 虎に翼で洒落のつもりか。


「あぁ、その通りだ」

「悪神ギュラゼルバンとの戦いにも、<根源ノ魔泉>と<<魔仙神功>は活きたか」

「おう、活きた活きた、悪神ギュラゼルバンとの対決では<脳脊魔速>を使った加速が常態となるぐらいの高速戦闘だったんだからな」

「マジか」

「あぁ。戦いは状況で様々に異なるが、速度のアドバンテージがなくなるのは、やはり恐怖が生まれる。必殺技の<血想槍>と<空穿・螺旋壊槍>を放つタイミングが見つからないぐらいの駆け引きの連続で、途中から余裕がなかった。だから<魔仙神功>の加速力上昇が勝利の鍵だった」


 と語るとアドゥムブラリは重い息を吐き、片手を上げながら、


「主の切り札の加速妙技の<脳脊魔速>を超えた戦いか……悪神だから当然なんだが、相当にヤヴァい相手だったってことだな」


 頷いた。

 <脳脊魔速>も魔人武王ガンジスの弟子ドヌガや魔神ガンゾウには対応されたが、それ以上に、速度を上回ってきた相手が悪神ギュラゼルバンだった。

 そして、<悪神・神域展開>と<悪神・神域暴刹破>などの影響を受けて、判断力が鈍っていたこともあるのかも知れない……。


 そのアドゥムブラリの斜め上からビュシエの白い蝙蝠が降下――。

 ビュシエはシュレゴス・ロードと巨大な神獣ロロディーヌに向けて挨拶するように口から超音波のような<血魔力>を放つ。超音波のような<血魔力>の一部が小さくなってハートの形に変化すると、俺の近くに飛来した。相棒の近くには小魚が泳ぐような<血魔力>の形になっている。相棒は少し体を動かした。戯れないが黒猫ロロだったら反射的に小魚の形をした<血魔力>に飛びついていただろう。

 俺の近くに飛来してきた血のハートを右手で触ると、血の花々の幻影に変化しながら消えていく。イイ匂いもあるし、ビュシエの<血魔力>はお洒落だ。


 魔法絵師の才能を<血魔力>で発揮する一面があったレベッカがビュシエの<血魔力>の技術を近くで見たら影響を受けるだろうな。


 ビュシエの白い蝙蝠の上には、リサナとキスマリとイモリザとキッカがいる。

 皆がシュレゴス・ロードを見ながら、


「え、半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードなの!?」

「おぉ、蛸足ではなく二眼二腕の魔族の姿とは予想外だ」

「わ、使者様の新しい部下に見えます」

「端正な顔立ちのシュレゴス・ロードには驚きを覚えますが、宗主の隣にいる美しい女性魔族が、魔皇メイジナ様なのですね」

「そうだ」

「ふむ――」

 

 俺の横にいる魔皇メイジナ様は戦闘装束から女性貴族が着ているような衣服に変化させる。

 

 そして、白い蝙蝠の上にいる皆に向け、スカートの端に両手を置いて貴族然とした態度で皆に頭を下げていた。皆も頭を下げた。


 宙空にいるシュレゴス・ロードは、右足の踵を左足の甲の上に乗せたまま丁寧に頭を下げている。白い蝙蝠のビュシエは、可愛い口をパクパクとさせてから降下し、神獣ロロの頭部に着地。シュレゴス・ロードも皆に続くように相棒の鼻先に着地した。


 神獣ロロの眼球と俺たちがいる頭上に向けて会釈をしてから神獣ロロの大きい鼻の上を歩くと少し浮遊しつつ神獣ロロの頭部に着地。

 ビュシエは白い蝙蝠から女体化。

 白い蝙蝠には銀灰猫メトも乗っていたようだ、俺の肩の上に跳躍してくる。


『閣下、皆と喜びを分かち合いたいです』

『はい、わたしも』

『おう、出ていいぞ』

『『はい!』』


「にゃァ~」


 常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァが目から出るとほぼ同時に銀灰猫メトは俺の左肩に乗ってくる。

 ビュシエとキサラとイモリザは、「「「精霊様たち~!」」」と叫び抱き合う。


 リサナも加わりゼメタスとアドモスたちに近付いて、


「「「ふふ、悪神ギュラゼルバンの軍勢に大勝利です!」」」

「「はい!」」

「閣下の大勝利!」

「我らの閣下は魔界随一の魔皇帝!」

「「――はい!」」

「【レン・サキナガの峰閣砦】に平和が!」

「シュウヤ様~、崩落から免れた悪神ギュラゼルバンの軍勢は撤退しました――」


 リサナが扇子を振るった遠くの先に土煙が上昇しているのが見えた。


「おう」

 

 とヴィーネとキサラとも互いの健闘をたたえ合うように抱き合っては喜び合う。

 その皆はヘルメとグィヴァから祝福の水飛沫と電気花火を浴びていた。

 ヴィーネとキサラにヘルメとグィヴァの乳房がポヨヨンというように揺れている。

 素晴らしい。


 その間に、銀灰猫メトから頬に鼻キスをされた。

 首筋もペロペロと舐められていく、くすぐったいが、吐息と肉球の冷たい感触が愛しく思えた。その銀灰猫メトの頭部を撫でて、頬と顎下を右手の指先で掻いてあげた。

 銀灰猫メトは小さい頭部を俺の指先に乗せるように少し前に伸ばし、目を瞑る。

 実に気持ち良さそうな顔だ。そして、喉の毛が振動するほどゴロゴロと喉音を響かせてくれた。可愛すぎる。


 キッカは魔皇メイジナ様に会釈し俺に寄る。


「宗主! シュレゴス・ロードの体と悪神ギュラゼルバンの討伐に戦の勝利、おめでとうございます――」

「おめでとうございます~」

「了解、一先ずは勝利だな。が、まだ恐王ノクターの軍が【メイジナ大平原】と【マセグド大平原】の間にいるようだから、骨鰐魔神ベマドーラーの使役に挑戦してから向かうことになる」

「はい」


 続いて、〝巧手四櫂〟と魔犀花流の人面瘡を鎧に有した兵士たちも浮遊しながら近付いてきた。


「「総帥!」」

「お帰りなさいませ」

「悪神ギュラゼルバンを倒したと聞きました」

「おう、〝巧手四櫂〟たちも骨鰐魔神ベマドーラーの上で良く戦ってくれた。魔犀花流波の皆も、神獣ロロの背中に乗って休憩してくれていい」

「「「「「はい!」」」」」


 魔犀花流の人面瘡を鎧に有した兵士たちは神獣ロロの背中側に着地していく。


「主、六眼六腕の魔族が魔皇メイジナ様だな」

「おう、そうだ」

「シュウヤの眷属の一人か、よろしく頼む、メイジナだ」

「はい、俺の名はアドゥムブラリ。嘗ては、空の支配者アムシャビス族の魔侯爵、家族もいましたが、紆余曲折あり……主のお陰で<筆頭従者長選ばれし眷属>になったのです」

「ふむ、アムシャビス族か。魔命を司るメリアディの一派に多いと聞いたことがある」

「はい」

 

 続いて、ビュシエとイモリザとリサナに巧手四櫂たちが魔皇メイジナ様に自己紹介をして、体を得たシュレゴス・ロードとも会話をしていく。


 ヴィーネとキサラを見て<南華魔仙樹>を意識して魔杖槍南華を作り、


「では、骨鰐魔神ベマドーラーの使役を試みる。そして会話中に悪いがシュレゴス・ロードも一緒に来てくれ」

「承知!」

「主ならやるかと思ったぜ」

「後、キサラに――」

「え、これは」


 魔杖槍南華を手渡してから、戦闘型デバイスのアイテムボックスから魔犀花流槍魔仙神譜を出して、


「それは魔杖槍南華、<南華魔仙樹>から作ることが可能な、南華仙院の樹の魔槍。魔神ガンゾウ様から得た魔杖槍犀花と似ているが少し異なる武器で、この〝魔犀花流槍魔仙神譜〟も渡しておく」

「あ、はい! ありがとうございます! 嬉しい……」


 と魔杖槍南華と〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を受け取ったキサラは魔杖槍南華をアイテムボックスに仕舞い、〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を抱きしめながら少し跳躍していた。

「我も見たいぞ!」


 キスマリの発言に頷いた。


「おう、分かったが、キサラは槍使いだからな、でキサラは暇な時にそれを見とくといい。槍スキルは勿論だが、<魔闘術>系統の<無方南華>なども覚えられるかもしれない。そして、<無方南華>を先に覚えたらキスマリやヴィーネたちに〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を渡しておいてくれ。<無方南華>は<魔闘術>系統だからすべての眷属たちが恩恵を得られる」

「はい、魔槍斗宿ラキースの<握吸>と<握式・吸脱着>がまだですが、〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を先に読んでおきます」

「おう、よろしく頼む」


 キサラは拱手。俺も拱手で応えた。

 キサラなら直ぐに<魔仙萼穿>や<魔仙花刃>は覚えられるかもしれない。


 <双豪閃>とはまた異なる軌道を描ける二回攻撃の<杖楽昇堕閃>もいけるかも知れないな、が、俺が読んでいた時の魔犀花流槍魔仙神譜は刺繍の読み物だった。

 今は普通の紙だからスキルの覚えやすさなどが異なる可能性がある。


「では相棒、前方の骨の鰐のところに行ってくる。付いてくるならぶつからないように注意な」

「にゃお~」


 巨大な神獣ロロディーヌの頭部から鼻先に向かう。鼻から跳躍し宙空から大人しい骨鰐魔神ベマドーラーの頭部に近付いていった。


「閣下、わたしも行きます」

「俺も見に行く」

「わたしもです」

「はい」


 とヘルメとアドゥムブラリにヴィーネとキサラも付いてきた――。

 鰐の巨大な頭蓋骨の眼窩には赤黒い炎が灯っている。

 背中側の幅広い剣刃の上には俺たちとベターン大公にミュラン公たちとの戦いの影響でボロボロとなった大広間が見えていた。

 血のオーロラか、血の大海か、光魔ルシヴァルの<霊血の泉>の血の効果が周囲の宙空にまで展開されている。ルシヴァルの紋章樹の幻影があちこちに見えていた銀の万朶が美しい。銀色の落ち葉と月虹の根っこが、幅広い剣刃に絡み付いているような幻影もあった。

 自分で行った結果だが凄まじい光景だ。

 更に、その<霊血の泉>の大量の血が俺たちに襲い掛かってくる勢いで降りかかってくるから全身で吸い取った。アドゥムブラリたちも<血魔力>を吸い取っていく。


 骨鰐魔神ベマドーラーを見ながら、魔虚大鷹クヒランは、


『旧神たちなどの次元魔力を好む骨鰐魔神ベマドーラー』と語っていた。

 それを踏まえてシュレに、


「シュレゴス・ロード、旧神たちの次元魔力が好むと魔虚大鷹クヒランが言っていたんだが、俺と共に、骨鰐魔神ベマドーラーに魔力を送れるか?」

「はい、では主の<シュレゴス・ロードの魔印>の中に戻りまする」

「了解」


 シュレゴス・ロードは体から半透明な蛸の形をした魔力を放出させながら突進、その体にフォースフィールドを纏ったようにも見えた刹那、体が薄らぐと桃色の粒子状に変化し、パパッと、俺の左手の<シュレゴス・ロードの魔印>の中へと吸い込まれて消える。


『――主が<シュレゴス・ロードの魔印>に意識したら我も魔力を出す』

『了解した』


 ヴィーネたちに向け、


「骨鰐魔神ベマドーラーにアクセスを試みるから、暴れたら、皆で倒す形となるかも知れない、一応は備えておいてくれ。銀灰猫メトは降りて、待機」

「ンン、にゃァ~」

「「はい」」

「了解した」

「閣下なら大丈夫ですよ!」

「おう」


 骨鰐魔神ベマドーラーに更に接近――。

 骨鰐魔神ベマドーラーの周囲に流れていた魔力の流れに入ると、骨鰐魔神ベマドーラーは反応した。ゆっくりと見上げてくる。

 魔力の流れを突破し、骨鰐魔神ベマドーラーの巨大な鰐の頭蓋骨に手を当てた。


『シュレ、行くぞ』

『承知!』


 骨鰐魔神ベマドーラーの頭蓋骨へと魔力を送り込む。

 同時に左の掌の<シュレゴス・ロードの魔印>からもシュレゴス・ロードの魔力が出て骨鰐魔神ベマドーラーの頭蓋骨に伝搬していく。

 骨鰐魔神ベマドーラから、


「『――ボォォォォォン、ボォォォン、ボボッ、ボボボボボボゥゥン――』」


 と骨鰐魔神ベマドーラから不思議な音が響きまくる。

 骨鰐魔神ベマドーラーの巨大な頭蓋骨の左右と、下のほうからも歪な球体が無数に飛び出てくると、俺の<血魔力>から逃げるように飛翔しては宙空でターンしては俺に向け直進してくる。


『主、あれは敵だ』


 了解――試すか――。

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 ゆっくりと上昇し右を飛翔していくと、歪な球体は俺に引き寄せられるように寄ってきた。


「ご主人様、これは――」

「おう、敵だ。俺が倒そう、自分の周りに近付いてきたら、倒してくれていい」

「はい」

「骨鰐魔神ベマドーラーの中に変なのが棲み着いていたのか――」


 アドゥムブラリの声に同意しつつ――。

 

 <煉霊ノ時雨>を発動させた。

 〝黒衣の王〟の装備の〝煉霊攝の黒衣〟ハルホンクが取り込んだ成果で獲得した<煉霊ノ時雨>――。


 周囲の空域が瞬く間に光と闇を意味するような世界となると天気雨のような魔力の雨が、俺の飛行速度に合わせて降ってきた。


 その直後、魔力の雨の中に淡く幻想的な火の玉のようなものが幾つか出現――。

 その火の玉と、歪な球体が衝突し、歪な球体は溶けながら爆発して散っていく。

 ほぼ一瞬で、殆どの歪な球体を殲滅させた。


 わずかに残っていた歪な球体だった肉と骨が網目状に集結し蠢くと、最終的に四腕の僅かに人型でエイリアン風のモンスターに変化を遂げる。


 そのエイリアン風のモンスターの上半身にヴィーネの翡翠の蛇弓バジュラから放たれた光線の矢とアドゥムブラリの<魔矢魔霊・レームル>が突き刺さる。

 爆発し破損したが意外にタフか。

 ヘルメの<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>がエイリアン風のモンスターの右上腕と下腕に絡み付き、その腕をへし折る。

 グィヴァの無数の<雷雨剣>が下半身に突き刺さるが、雷撃は効かないようだ。

 

『あるじ、我の<旧神ノ暁闇>で吹き飛ばせると思うぞ』

『あぁ、悪いが俺は槍使いだ』

『了解した』

 

 左手に断罪槍を召喚し、<滔天内丹術>で魔力を調整。

 <握吸>を実行し柄の握りを確認しながら右手で魔軍夜行ノ槍業を触り、


『イルヴェーヌ師匠、先ほどと同じくお願いします、<魔軍夜行ノ憑依>――』

『ふふ、了解した』


 魔軍夜行ノ槍業から出たイルヴェーヌ師匠と融合――。

 そのまま<無方南華>を意識。

 <闘気玄装>と<武行氣>と<滔天魔経>と<光魔血仙経>を発動し、強めた。

 更に<魔仙神功>を実行――。

 ――丹田と心臓に魔力の〝うねり〟を己の力に変える。


『ふふ、魔界九槍卿の体は凄まじい』


 全身の感覚器官が異常に研ぎ澄まされているからイルヴェーヌ師匠の心身が感じられて切なくなった。が同時に温もりも得る。

 

 戦いとは無縁な――静寂の心のまま前進――。

 一瞬で、エイリアン風のモンスターとの間合いを詰めた――。

 <悪罰歩法>と分かるが、スキル獲得はならず。

 そのまま『行くぞ、弟子、体の動きを一度で覚えられるかはお前の才覚次第――』とイルヴェーヌ師匠の心身と合わせることを心掛けながら左手の断罪槍で<断罪槍・薙螺砕>――が繰り出された。

 <悪罰歩法>の踏み込み加速から、突き上げつつ体ごと螺旋する断罪槍がエイリアン風のモンスターの左腕を切断し、流れるように断罪槍を振り下げて体と断罪槍を独楽のように回しながらエイリアン風のモンスターの胴体を細断していく――更に返す断罪槍の柄が細断にした肉塊をすり潰すように倒した。


 ――よっしゃ、倒した。


 ピコーン※<断罪槍・薙螺砕>※スキル獲得※


『イルヴェーヌ師匠、稽古ありがとうございます』

『ふふ、実に見事だ。素敵な益荒男は罪深いな――』


 とイルヴェーヌ師匠は熱い心を伝えながら魔軍夜行ノ槍業に帰還した。

 すると、真下の骨鰐魔神ベマドーラーが頭を垂れる。

 頭蓋骨の上に円状の窪みがあり、何かがあった。そこに急降下し、着地。窪みの中心には魔法陣と手形がある。

 <シュレゴス・ロードの魔印>にいるシュレゴス・ロードに、


『手形に手を嵌めたら、手が抜けなくなる?』

『契約には必要だ、大丈夫だろう』


 と頷く。頭上から皆も降りてきた。


「シュウヤ様のお見事、そして、使役には手形に魔力をまた注入でしょうか」

「ご主人様、その手形に手を嵌めるのですね」

「窪みには指もはまりそうだが、主が何かに引き込まれるとかあるかもしれねぇぞ」

「未知なことが好きな閣下なら、未知との遭遇は好きだからな? といった気概で挑戦するはずです」

「ふふ、はい、御使い様なら、挑戦しそう」


 皆の言葉に頷いてから、


「おう、挑戦しよう」

 

 と手形に手を押し込み魔力を注入した。

 指もずにゅりと肉に指を突っ込んだように嵌まり込む――。

 すると、俺と皆が乗ったばかりの、円状の頭蓋骨の窪みがエレベーターのように垂直に急降下。音も立てず、不思議な浮遊感を得たところで止まった。


 骨鰐魔神ベマドーラーの内部か。

 

 大厖魔街異獣ボベルファの魔霊脳ボベルファの場のような場所かな。


 左手が嵌まり込んでいた手形が横回転を始めると自然と手が抜ける。

 手形は回転すると、周囲に煌びやかな魔線が幾つも走る。

 手形は上下に拡大したところで、半透明なディスプレイが目の前に出現した。ディスプレイの中央には脳髄のようなモノが出現し、


「――ボォォォォォン」


 と音声が響いてきた。

 大厖魔街異獣ボベルファの〝見通し場〟のような周辺地図かと思ったが、脳髄とは……。

 すると、ピコーン※<骨鰐魔神ベマドーラーの担い手>※恒久スキル獲得※

 

 おぉ、やった、またスキルを獲得!

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る