千四百三十一話 魔皇メイジナ様と共に地上へ
気合いを入れて鳴いてくれた相棒だったがいきなり黒猫の姿に戻り、魔皇メイジナの右足に甘えてから、
「ンン、にゃ? にゃ~、にゃお~」
と何かを語るように鳴いていた。
意味が分からないが、その
「黒猫にも変身ができるのだな」
「はい、相棒は黒猫で過ごすことが多いんです。そして、ネコ科を基本に様々な動物に変化が可能。体の大きさも伸縮で、巨大なグリフォンやドラゴンにも変身が可能です」
「ほぉ、骨格も変化しているのなら大幻獣などに近いが、戦神や眷属の仙女に戦巫女と戦乙女たちが扱う神獣や聖獣とも近いように見える。だが、魔界と神界の神々の恩恵を得ているようであるからシュウヤと同じ光と闇、光魔ルシヴァルの性質を受け継いでいるのだな」
「はい、素朴なことを聞いても?」
「遠慮せず聞けばいい」
「過去に戦神と戦神の眷属と戦ったことが?」
魔皇メイジナ様は頷いた。
「戦神ヴァイスを中心に戦神と光神教徒ディスオルテと中級神の武王龍神に仙女と戦巫女と戦乙女などの大軍と戦ったことがある」
「それは神界と魔界の大戦でしょうか」
「そうだな、魔界の神々も同盟を結んで押し返したが、その後が問題だった。魔界の神々との争いで、城と砦に街が奪われた。大地ごと沈むような争いで、海岸線に入り江ができた。更に、眷属の裏切りが重なり、己の領地と民たちが犠牲になってしまった……当時は魑魅魍魎の配下が殆どでな、悪神デサロビアを羨んだぐらいの犠牲者が出たのだ」
民を想う気持ちを持つ魔皇メイジナ様か。
――素晴らしい神様だ。
八百万の神々に祈るように俺も信奉したい。
刹那、魔界メイジナ様の魔力が目に見えて分かるほど大幅に増大した。次々に胸と脇と太股の表層に魔法の装甲部が増えていく。
魔皇メイジナ様は、
「おぉ?」
と驚いて己の体を見てはハッとして俺を見る。
その頬と首筋が斑に朱色に染まっていく、少しエロい。
魔皇メイジナ様は、
「ふふ……シュウヤは我を……」
と恥ずかしそうに呟いた。
「はい、魔皇メイジナ様に憧れと僅かな信仰心を抱きました」
「益荒男のシュウヤに信仰されるとは、非常に光栄で嬉しい……が、少し恥ずかしい」
と、六眼の内三眼を揺らしつつ三眼を閉じたまま頬と口を両上腕の手が隠していた。いじらしい空気を醸し出す魔皇メイジナ様が可愛い。
と、キサラとヴィーネの涼しげな空気を感じた。
そんな空気を感じた相棒は巨大な神獣ロロディーヌに変化を遂げる。
橙色の魔力の〝アメロロの猫魔服〟は神獣用にカスタマイズされていた。
「にゃおおお~」
「ロロ殿様――」
「ロロ殿様の触手を我らは避けることが――」
ゼメタスとアドモスは相棒の触手を避けて跳ぶ。
が直ぐに足に引っ掛かったゼメタスとアドモスは、
「ぬぁぁ――」
「ロロ殿様は一枚も二枚も上手でありまする~」
と叫びながら頭部に運ばれていく。
面白いが、二人の足下から月虹の魔力が迸って体勢を直す様は、光魔沸夜叉将軍で格好いい。
俺と魔皇メイジナにも触手が飛来してきたが途中で止まっている。
魔皇メイジナは眼前の黒饅頭のような触手と巨大な神獣ロロディーヌを見上げて驚いている。その魔皇メイジナに、
「俺たちは外に戻ります、良かったら一緒に来ませんか?」
「いいのか? 我は過去の遺物、神格も辛うじて残っている程度、もう昔の我とは異なる。ただのメイジナでしかない……」
「はい、構いません、付いてくれば俺たちから最近の魔界セブドラの情報を得られますよ」
「それはありがたいが、迷惑ではないのか」
「迷惑はないです。正直言いますと、単に仲良くしたい、それだけだったりします」
と少し静まった。
「……」
魔皇メイジナは六眼の眼が少し揺れるが、俺をジッと見てくる。『正直に言いすぎたかな』といった気持ちをヴィーネとキサラに向けるように視線を向けた。
二人は頷いて「「ふふ」」と笑っている。
『閣下らしい言葉です』
『はい』
ヘルメとグイヴァの念話に『たしかに』と頷いた。
すると、魔皇メイジナは、
「ははは、仲良くか、シュウヤは面白い、勿論、此方としても友になってくれるなら嬉しいぞ」
「はい、こちらこそよろしく」
「ふふ、宜しくだ。シュウヤの眷属たちも改めて宜しくお願いしよう」
「はい、わたしはヴィーネです。<
「わたしはキサラ、同じく<
魔皇メイジナ様は頷いた。
ヴィーネとキサラは目を合わせて頷き合うと、ヴィーネが、
「光魔ルシヴァルの<
「大所帯の眷属たちか、吸血神ルグナドの
「はい」
続いてキサラが、
「他にも左右の目には、常闇の水精霊ヘルメ様と闇雷精霊グィヴァが棲んでいるのです」
「ほぉ、道理で……」
と感じていたようだ。
「はい、他にもイモリザにミレイヴァルにフィナプルスもいます。その三人は特徴的なアイテムや体の部位になれる眷属、シュウヤ様はアイテムとして携帯可能な眷属も持ち運べる。魔杖槍犀花の
「はい、わたしはサイデイルの空を任せている闇鯨ロターゼを持ちますが、どうしているやらです」
とヴィーネとキサラがザッと簡単に光魔ルシヴァルの戦力を説明してくれた。
まだまだ足らないが、やはり記憶を直ぐに共有できる何かがほしい。そして、そのことではなく、
「俺たちの説明は長くなるので、後回しにして、基本的なことを、外の地名は【メイジナ大平原】です。他にも【メイジナ大街道】と【メイジナの大街】などの名が残っている。【サネハダ街道街】も近くにあります」
「え……我と祖父の名が……」
サネハダは祖父の名なのか。
そこで〝列強魔軍地図〟を出した。
【メイジナ大平原】にある【レン・サキナガの峰閣砦】の北側の西の位置に小さい文字で――。
知能を有した群生旧神の間と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿と旧神の墓場の名が刻まれたように見えたが、旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿を残し、知能を有した群生旧神の間と旧神の墓場の文字は地下に吸い込まれるように消える。
演出が細かい、【メイジナ大平原】の立体的な平原は俺たちが戦った影響で凹んだ地形が多くなっている。
更に、旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿の出入り口が詳細に現れていた。大地が裂けているような崖の下にある。
タクシス大砦も見えた。
塹壕と掘りに虎口などの位置も同じ。
クォータービューの視点だから分かりやすい。
城の模型を現実に見ている気分となった。
〝列強魔軍地図〟の立体地図を動かしたくなったが、魔皇メイジナ様に〝列強魔軍地図〟を手渡した。
「――これは魔地図か」
「はい、〝列強魔軍地図〟に魔力を込めてくれたらメイジナ様が知る地名や地形が、その〝列強魔軍地図〟に新しく刻まれる。ただし、俺たちは最新の【メイジナ大平原】にいますから、メイジナ様の情報が古い場合は、〝列強魔軍地図〟の情報は更新されないはずです」
「分かった、我も同じような魔地図を持つ、魔力を込めよう」
「はい」
メイジナ様は〝列強魔軍地図〟に魔力を送る。
〝列強魔軍地図〟の【メイジナ大平原】の立体地図に特に動きはないが――。
【双月神ウリオウの遺跡】。
【魔族グラスベラの廃墟跡】。
【メイジナの避暑地跡】。
【戦神ササナミの遺跡】。
【戦神ソーンの遺跡】。
【ハジラセの古戦場】。
【戦神サザナミの遺跡】。
【荒神イギラムアの魔精地下堂】。
【覇霊魔牛の零魔荒地】。
【アジトゥ半霊地】。
【ドルベアン大海溝】。
【ガルデン古戦場】。
【陰霊ノ窪地シャロアル】。
【海皇魔山島ナイトラランガ】。
【空霊・大空挺魔城】。
などの地名が出現した。
【荒神イギラムアの魔精地下堂】はここからかなり近いが、
アキサダの宝物庫の位置が丸回りだ。
古の義遊暗行師ミルヴァの一式は回収予定。
【双月神ウリオウの遺跡】と【魔族グラスベラの廃墟跡】は隣接しているが、【メイジナ大平原】の中にある。
魔界騎士グレナダがいたところかな。
【海皇魔山島ナイトラランガ】と【空霊・大空挺魔城】は西のメイジナ海のほうにある。
魔皇メイジナ様から、
「栄枯盛衰……【魔神コナツナの丘墳】の谷間地帯は変わらないが当時は普通の湿原が多い【大平原】だったところが我の名か……」
魔神ガンゾウの遺跡では、魔界セブドラの過去から未来の時の移り変わりを映像で見たが……あの何処かの一時が、魔皇メイジナ様がリアルタイムに活躍していた時代なんだろうか。あの時の映像の中には六本腕の魔英雄のような存在は映っていたような氣がする。
さて、
「はい」
「ふむ、帰そう」
と〝列強魔軍地図〟を帰された。
そのまま魔皇メイジナ様にマセグドの大平原側を指で示し、
「現在、悪神ギュラゼルバンの軍勢を退けた状況ですが、北から北西にかけてのマセグドの大平原側に恐王ノクターの軍勢がいる状況なんです」
「恐王ノクターか……あの恐王ノクターが簡単に悪神ギュラゼルバンの悪知恵に乗るとは思えないが」
「ウォン!!! 主の話はすべて事実、真実だぞ!」
「わ、分かった」
魔皇獣咆ケーゼンベルスは小さい狼だが、歯牙を晒しているから少し怖い。〝列強魔軍地図〟の指先を南に移動させて峰閣砦に向けた。
「そして、ここから南の【レン・サキナガの峰閣砦】では、悪神ギュラゼルバンの大眷属と恐王ノクターの大眷属が合同で破壊工作の任務に就いていた。レンの配下の上草連長という重臣のアキサダとオオノウチは、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターに内応していたんです。オオノウチは成敗し、アキサダはすべてを自供し此方側に付いた。更に、そのアキサダには恐王ノクターと大魔商ドムラチュアとの接触があったことが確認されている」
「大戦の最中だったか」
魔皇メイジナ様の言葉に皆が頷いた。
更に、〝列強魔軍地図〟の【テーバロンテの王婆旧宮】に指を向ける。
「はい、そして、戦いに入る前は、【レン・サキナガの峰閣砦】と同盟を結んでから、百足高魔族ハイデアンホザーたちの本拠地に向かうところでした」
「ほぉ、【テーバロンテの王婆旧宮】にいる百足高魔族ハイデアンホザー共か、魔神テーバロンテなどは、特に厄介な存在だったが」
「その魔界王子テーバロンテは俺が滅しました」
「……そ、そうなのね」
と、少し怯えた魔皇メイジナ様が可愛い。
そして、
「はい、そのテーバロンテを没した後、テーバロンテの王婆衝軍の残党だったペミュラスという名の百足高魔族ハイデアンホザーがいるのですが、その百足高魔族ハイデアンホザーのペミュラスは、俺の仲間となりました、そこから近隣地帯も見に行くことになったんです」
「百足高魔族ハイデアンホザーを仲間だと?」
「はい、ペミュラスは百足高魔族ハイデアンホザーでは、極めて稀な平和の意思を持ちます、そのペミュラスはバビロアの蠱物をテーバロンテに植え付けられていましたが、【テーバロンテの王婆旧宮】を支配している、テーバロンテの祖母、原初ガラヴェロンテにバビロアの蠱物の除去をされていました」
「バビロアの蠱物とは?」
「テーバロンテが相手を意のままに操るための爆弾のような物です」
「テーバロンテも悪神だな」
「はい、その毒物を除去されたペミュラスは、原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテに任務を託されていた」
「任務とは」
「枢密顧問官ト・カシダマの護衛と、【古バーヴァイ族の集落跡】にて、古のバーヴァイ族、古代バーヴァイ族が崇めていた〝黒衣の王〟と〝炎幻の四腕〟の痕跡を探す任務を与えていました。その時に俺の配下の光魔騎士グラドが活躍し、枢密顧問官ト・カシダマを討ち取り、ペミュラスを捕らえた。そこから、まだ色々と話がありますが現在に今に至るわけです」
と、【古バーヴァイ族の集落跡】の【バリィアンの堡砦】と【レン・サキナガの峰閣砦】に指を置いていく。
魔皇メイジナ様は数回頷いていた。
「……ですから、恐王ノクターの手勢が、【テーバロンテの王婆旧宮】などに向かう前に、恐王ノクター側と手を打ちたいところと考えていました。しかし、ギュラゼルバンを滅したい思いが強まった」
「ふむ、我もギュラゼルバンは討ちたい」
「はい、俺も協力します。先ほどの旧神法具ダジランの指具はギュラゼルバンを追えるようですからね」
「……うむ」
「では、地上に向かいましょう、相棒、頼む」
「にゃおぉ~」
と魔皇メイジナの体に触手が絡み付くと「わっ、おぉ~」と
裏側の肉球を押してやろうと思ったが、直ぐに触手はシュッと音を響かせて収斂し頭部に運んでくれた。
その触手を手放しながら
俺を運んでくれた触手は宙空でしなり曲がりながら首下へと戻っていった。触手は掃除機のコードがボタンを押してコードを掃除機の中に引き戻る時と似た機動だ。
ヴィーネとキサラとシュレゴス・ロードとゼメタスとアドモスにケーゼンベルスとアイコンタクトを行う。ヴィーネとキサラがそれぞれの得物を消して、前方を見据える。
相棒の大きい耳はゼメタスとアドモスの頭部を隠すように悪戯していた。
シュレは、
「主、念の為、神獣の前に出ておきまする――」
「了解」
蛸の意匠が渋い片眼鏡を光らせるシュレは
「神獣よ、我が旧神たちの<思念波動>を行う故、暫し我の背中を頼む」
瞼も大きいから面白い。映画の『ネバーエンディングストーリー』のファルコンの瞼を思わせる。可愛い。
「にゃお~」
と鳴いた
シュレは頷いて浮遊し相棒の鼻先から前方を飛翔する。
シュレの背中に相棒が鼻先から発した燕の形をした淡い幻想的な魔力が降りかかっているがシュレは気付いていない。
皆も相棒の頭部に上下の動きに合わせて、足下が揺れるが皆の足には相棒の頭髪と触手が絡んで巻き付いているから転ぶことはない。
と、その足下の頭髪の毛が持ち上がり操縦席のような形に変化――
ヴィーネとキサラと少し会話をした魔皇メイジナは己の体に絡んでいく黒い毛と触手を見て、
「我を優しく包むか……皆のことを考えられる神獣ロロディーヌを使役か、黒豹と黒猫にも変身が可能か、しかし、シュウヤと神獣……お前たちは一体……」
「はは、単なる槍使いと黒猫ですよ、楽にしててください」
「……分かった」
魔皇メイジナ様は何かを言いたげだったが、笑みを浮かべていた。その僅かの間に旧神の墓場の宙空を突き進む。
赤みがかった幻影が宙空に出現――。
天井の壁画の模様が蝋燭の火が風の影響で揺れるように揺れていく。と、前方の天井と地面の空間の一部を裂くような縦縞の空間が幾つか走った――
正直、怖いんだが――。
真下の大空洞のような地下遺跡には、黒い葉がびっしりと茂りまくっている。紫と黄緑の明かりを灯す黒い葉も多い。
一部の黒い葉から桃色の花が咲きながら伸びてきた。
そこの回りにだけ烏賊の形をした魔力も散っている。
旧神シュバス=バッカスの俺たちに向けての挨拶かな。
と、そのエリアはあっという間に過ぎた。
相棒の速度はかなり速い。
旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿の巨大な洞窟を抜けるように円状の出入り口に再突入し、角を曲がる。
ミミズの食道のような通り道を進む――。
「ウォォン――友は速い!」
相棒は魔皇獣咆ケーゼンベルスの言葉に呼応するように「ンン、にゃおおぉ~」と大きな鳴き声を発して来た道を一気に戻るように飛翔していく。
上下左右の凹凸が延々と同じ感覚で続いている。
巨大ミミズの食道の中か、巨人の食道の宙空を進んでいる気分だ。俺たちが微生物にでもなった気分だ。
――数十kmは進んだか。
【旧神の墓場】の道だから距離感に時間の流れが異なるかも知れない――。
と、突如、前方に明かりが見えた。
そして、出入り口が見える、宙空に幽体たちが滑走路の誘導路灯のように並んでいた。
――そこの幽体たちの間を通り抜けるように外に出られた。
皆の魔素を感じ取る。
――骨鰐魔神ベマドーラーが見えた。
点滅もしていないし、魔力の流れが止まって落ち着いている?
アドゥムブラリたちがその真上に飛翔している。
大きい白い蝙蝠に変化しているビュシエに乗っているのはキッカとリサナ。イモリザはサイファに乗っている。
ゾウバチ、イズチ、ズィル、インミミの〝巧手四櫂〟と魔犀花流の人面瘡を鎧に有した兵士たちも一緒だ。
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